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不動産投資を行う際には、いろいろな要素を検討した上で投資を行っているに違いない。中でも、不動産に対する需要や価格の動きは大きな判断材料ではないだろうか。不動産関係では、民間のシンクタンクなどを含め、多くの統計が出ている。

今回は、国土交通省が毎月公表している「既存住宅販売量指数」を中心に統計データの使い方を考えてみたい。

「既存住宅販売量指数」は、建物の売買を原因とした所有権移転登記件数をもとに、個人が購入した既存住宅の移転登記量を加工・指数化したもの。つまり、個人が取得した中古住宅の量の推移を把握することができる。国が公表する統計としては比較的新しく、2020年4月から試験運用が始まっている。

コロナ禍で中古マンション販売量は下落

既存住宅販売量指数の中には、一般的な住宅以外に別荘、セカンドハウス、投資用物件等も含まれている。また、個人による床面積30平米未満のワンルームマンション取得が増えていることから、マンションには床面積30平米未満の数値を含んだものと、除去したものとを併用して公表している。今回は、床面積30平米未満のマンションも含めた統計をみていく。

既存住宅販売量指数の推移をみると、2018年から2019年にかけて上昇した指数が、2020年に大きく低下したことがわかる。新型コロナウイルスの感染拡大が既存住宅の販売にも影響を与えた。なお、統計は季節調整値であり、2010年を100としている。

2019年と2020年を比較すると、戸建住宅が0.9ポイントの低下に対して、マンションは6.3ポイントの低下と大きく低下している。マンション販売量指数の減少が全体の指数を引き下げる要因になったことがわかる。(グラフ1)

戸建て、マンションともに昨年末以降は減少傾向に

では、直近1年間の動きはどうか。月別でみると、戸建住宅、マンションともに2022年9月をピークに低下していることがわかる。

特に、戸建住宅は2022年10月に指数が前月比15.4ポイント低下と100割れ直前まで大きく低下。翌11月には112まで回復したものの、その後は再び低下基調を辿っている。

これに対して、2022年10月のマンションの指数は前月比7.0ポイントの低下と戸建てよりは小幅な低下となったものの、翌11月の回復幅も同0.5ポイントと小幅なものとなった。(グラフ2)

最近の販売量指数のトレンドを見ると、既存住宅における販売量指数は戸建、マンションともに緩やかな減少傾向を辿っていることがわかる。

この背景を探るため、国土交通省の直近1年間の不動産価格指数と既存住宅販売量指数を同時に見比べてみたい。

販売量と価格は連動しない?

不動産価格指数は2012年8月から試験運用を開始し、2015年3月からは不動産住宅分野の指数として本格運用されている。既存住宅販売量指数と同様、指数は季節調整値で、2010年を100としている。

戸建住宅の既存住宅販売量指数と不動産価格指数を合わせて見ると、戸建住宅の価格指数は2022年10月に前月比で2.0ポイント低下しているものの、それを除けば一貫して上昇が続いている。

この2022年10月は販売量指数が前月比15.4ポイントの大幅低下した時だ。その後、販売量指数は前述の通りに緩やかな減少傾向にあるが、価格は上昇が続いている。(グラフ3)

マンション販売量と価格の乖離が鮮明

この傾向は、マンションではより鮮明になる。2022年10月以降、マンションの販売量指数は底這いが続いているが、価格指数は2022年8月に前月比で0.6ポイント低下して以降は、上昇が続いている。これにより、販売量指数と価格指数のトレンドでは、乖離が広がり続けていることがわかる。(グラフ4)

販売量(需要)が低下しているにも関わらず、なぜ価格は上昇を続けるのだろうか。今までは全国の指数を見てきたが、ここで東京に注目してみたい。

東京の中古住宅需要は

東京都の戸建の販売量指数は、2022年8月に前月比20.4ポイントの大幅上昇をした後、翌9月には同12.9ポイント、10月には同14.9ポイントの大幅低下が続いた。一方で、価格指数は2022年9月に前月比4.4ポイント低下した後、10月には販売量指数が低下したにも関わらず、価格指数は同2.8ポイント上昇している。

ただ、その後の動きは2023年に入ると、販売量指数は下げ止まりを見せており、価格指数は頭打ちとなっている。販売量指数と価格指数は連動しているように見える。

全国の販売量指数と価格指数の乖離は広がり続けているのに対して、東京都の戸建では両者の指数の乖離は広がっておらず、むしろ縮まる様相を見せている。(グラフ5)

一方、東京都のマンションでは、販売量指数は2022年9月に141.0を付けた後、3カ月連続で低下を続けた。2023年に入っても総じて弱含みの動きが続いている。半面、価格指数は2022年5月に182.9を付けた後、翌6月には177.4に低下したが、その後は上昇トレンドを辿っている。

ただ、2022年には連動性が薄かった販売指数と価格指数は、2023年に入ると連動性を強めているように見える。(グラフ6)

筆者が思うに、2022年までは新型コロナの影響が不動産市場に色濃く残っていたため、販売量(需要)は減ったものの、価格上昇は続いた。ただ、2023年に入ると、新型コロナによる行動制限が解除に向かい、新型コロナ前の日常に戻ってきたことで、販売量と価格に連動性が戻りつつあるように見える。

不動産投資を行う際の判断材料として、こうしたデータを参考にしていくのも、一つの有効な方法だろう。ただ、その際には数字に惑わされることなく、トレンドを見ていくことが大事だ。

(鷲尾 香一)