「部屋を開けると、そこには死体」

そんな帯が印象的なコミックエッセイ『出ていくか、払うか 家賃保証会社の憂鬱』。家賃保証会社の回収担当者が見た、家賃を払えない人々の生活がリアルに描かれている。

原案協力者の「0207(にがつなのか)」さんは、現役で家賃保証会社に勤めており、家賃の回収担当をしているという。家賃を支払えなかった契約者(入居者)のもとへ行き、会社が立て替えた分の家賃を回収するのが仕事だ。「取り立て屋」と罵られ、孤独死の現場に遭遇することも珍しくない。そんな家賃保証会社社員の苦悩が赤裸々に綴られた作品が、この本である。

今回、そんな0207さんにインタビューを実施。家賃保証会社の裏話や関係者に対して抱いている不満を明かしてもらいつつ、不動産オーナーに伝えたいことなど、さまざまな話を聞いた。

(C)KADOKAWA/0207 , Nakomin Tsuruya

入居者に罵られる、ストレスで溢れた日々

―0207さんは現役で家賃保証会社に勤めているそうですね。そもそも家賃保証会社はどのような仕事をしているのでしょうか?

家賃保証会社は、一言でいえば入居者の家賃支払いを、大家さんに対して保証する仕事をしています。入居者が家賃を延滞した時に、代わりにその家賃を支払い、その立て替え分を入居者に請求するんです。もちろん、これでは利益が出ないので、契約時に入居者から保証料(居住用物件なら賃料の50%程度が相場)をいただくことで収益を得ています。

私はその中でも、家賃を払えなかった入居者に対して、家賃保証会社が立て替えた分を請求する「回収」の担当を11年ほど勤めています。電話やショートメールなどで入金を催促したり、入居者を直接訪ねて約束を取り付けたりしています。他にも、家賃滞納を続けた入居者に対して明渡し訴訟を実施することや、孤独死や夜逃げの部屋の残置物を撤去することも、仕事のうちです。

(C)KADOKAWA/0207 , Nakomin Tsuruya

―コミックエッセイでは「以前は消費者金融に勤めていた」と書いてありましたが、なぜ転職したのですか?

業界でリストラが実施されていて危機感を覚えたことと、消費者金融の環境に飽きを感じていた部分があったからです。「督促なら慣れているし」と思い、家賃保証会社に入社しました。同僚も消費者金融の出身が多いです。

手っ取り早く転職できそうな業種、ということで選びましたが、今思えば完全に早まってしまった。悔やんでも悔やみきれない選択です。年齢的にもリストラ対象ではありませんでしたし、家賃保証会社の仕事がこんなにも苦痛だとは思いませんでした。

―今の仕事は、具体的にどのような点がストレスなのでしょうか?

たとえば、入居者に「滞納した家賃を支払ってください」と伝えると、「取り立て屋」「追い出し屋」といった罵詈雑言が飛んできます。家賃を支払えなかった入居者の代わりに、会社が立て替えたお金を回収しているだけなのに、です。消費者金融は「取り立て屋」と罵られても「追い出し屋」とは呼ばれません。新たな蔑称をもらいました。

ストレスの要因は入居者だけではありません。家賃保証会社の回収業務に協力しない一部の不動産会社、生活保護受給者の管理指導を行わない福祉事務所の職員、支払えるわけがない人の審査を通す会社…。いろいろあります。そうして、これらのせいで家賃滞納がまた発生すれば、すべて回収担当にしわ寄せが来るんです。

―原作は小説サイト「カクヨム」に投稿していたそうですね。活動を始めたきっかけは何ですか?

仕事のストレスで頭がおかしくなりそうだったからです。ED(勃起不全)にもなりました。心身が疲れ果てていたときに、「うつ病予防に日記を書くのが良い」と聞いたんです。うつ病にはなっていませんでしたが、どこかに仕事の辛さを吐き出したくて、休日にお酒を飲みながら投稿を始めました。ありがたいことに、KADOKAWAさんからお話をいただき、コミックエッセイとなった次第です。

収録されている話は、全て私の経験からなる実話です。一部変えている箇所はありますが、仕事での出来事、ほぼそのままです。ただ、全ての家賃保証会社に当てはまることでもないので、その点は頭に入れて読んでくださいね。

入居者の死亡も「何とも思わない」

―ここからは具体的な仕事内容についてお聞きします。一般的に、契約した入居者のうち、どのくらいの人が家賃滞納をするのでしょうか?

会社にもよりますが、およそ10%です。滞納が発生する理由は、お金を使ってしまったから、そもそも収入に見合わない物件に住んでいるから、とさまざまです。私が思うに、最大の理由は「延滞するサイクルになっている」ことでしょう。

たとえば、家賃の支払い日前に、お金を使い切ってしまった人がいるとします。払えない家賃をいったん私たちが立て替え、後日回収に行くと「今月の給料が入ったら支払える」と言うのです。しかしそれではその次の家賃を支払えませんよね。どこかで2カ月分払うか、毎月少し多めに払うかしないと、ずっと延滞を繰り返すことになります。

残念ながら、この延滞のサイクルを抜け出せる人は、延滞をする人の中にほとんどいません。ひどいケースだと、10年以上もそのサイクルから抜け出せない人もいます。

―家賃を滞納している人は、外から見てわかるのでしょうか?

督促を行っているときに、対象者と連絡が取れなくなった場合、部屋の玄関扉の蝶番にテープを貼って、部屋への出入りを確認する手法をよく使います。扉の開閉があれば、剥がれたり捻じ切れたりするので、その人が活動しているのか、すなわち部屋を使用しているのか判断する材料になります。

もし扉の金具にテープが貼ってあれば、家賃の滞納か、他の借金か、督促のために「誰かがその人を追いかけている」可能性がありますね。

あとは、ポストを確認してみてほしいです。投函口からはみ出るほど、手紙でいっぱいになっている人は、各所から督促状が届いているのだと考えて良いでしょう。督促状でなくても、届いている手紙の整理をしない人は、そもそもルーズな性格でしょうから、家賃滞納の可能性も他の人より高いかもしれません。

(C)KADOKAWA/0207 , Nakomin Tsuruya

―家賃を滞納する人にはどんな特徴があるのでしょうか?

もちろん一概に言えることではありませんが、生活保護受給者は滞納しやすい傾向にあります。問題は、生活保護を受けているため、収入が増えないということです。一度延滞のサイクルに入ってしまうと正常に戻すことが困難になります。

また、高齢の単身者に対しては、いろいろな可能性を考えます。年金受給者で、生活保護受給者と同じように延滞のサイクルに陥りやすいこともそうですが、何より孤独死の可能性が他の入居者より圧倒的に高いです。高齢の入居者が久しぶりに家賃滞納、連絡も取れない…となると結構亡くなってしまっている場合が多いです。

(C)KADOKAWA/0207 , Nakomin Tsuruya

―入居者の死亡について「驚かなくなった」と話すシーンが印象的ですが、これは本当ですか?

はい、本当です。もう何とも思いません。警察を呼んで室内から遺体が発見されても、「病死か自殺だろうから事件性はなさそうだな」と冷静に状況を見てしまいます。もっと言えば「事情聴取などで1時間半くらいはその場に拘束される。他にも仕事があるのに…」と思います。

過去には、週に3度も「死体部屋」に遭遇したことがありました。これだけ「死」と「仕事」が近いと、もはや身近な事象になり、余計な感情を抱かなくなりました。いつからこうなってしまったのか、やはりこう考える自分は普通ではないのか、と思ってしまう日もあります。

(C)KADOKAWA/0207 , Nakomin Tsuruya

―大変なお仕事だと思いますが、やりがいはどんなところにあるのでしょうか?

正直、やりがいはないです。会社から課せられた回収金額のノルマを達成したときは嬉しく思いますが、それくらいです。ある1人の延滞を解消し、いったん正常な支払いサイクルに戻すことができても、2カ月も経てばまた滞納が発生するので、その場しのぎの対応をしている感覚です。

誰かに感謝されることも少ない仕事です。もしかしたら、私たちが頑張ることで1番助かるのは不動産オーナーかもしれませんが、会って話す機会はそう多くありません。たまに、孤独死や夜逃げの残置物処理をしたときや、素行の悪い滞納者を交渉や訴訟で退去させたときは、喜んでもらえることはありますが。日々相対する滞納者から感謝されるのは、支払いを待ってあげたときくらいですね(笑)。

―それでも、11年間家賃保証会社に勤め続けているのはなぜですか?

完全に惰性です。同僚の中には、滞納者のエピソードを肴にお酒を飲むくらい、督促を「楽しい」と思ってやっている人もいますが、私はそうではありません。毎日泣き喚きたい気持ちを抱えて出社しています。

滞納者だけじゃない、不満に思うこととは

―日々のストレスの原因は滞納者だけではないと話していましたが、不動産会社にはどのような印象を抱いていますか?

率直に「こちらを下請けとして見ているな」と感じます。本当は対等な関係なんですけどね。効率的に問題を解決するには、家賃保証会社と不動産会社は連携した方が良い。それなのに、対応が手間なのか、不動産会社には蔑ろにされることが多く、非常に困っています。

たとえば、不動産会社が管理をする、ある部屋で家賃の滞納が発生したとしましょう。すると家賃保証会社に、不動産会社から家賃を立て替えるよう請求が来るので、こちらも対応します。

その後、滞納者が不動産会社に家賃を振り込んでくれたのに、不動産会社から我々にその連絡が来ないことがあるんです。その間、我々は家賃を支払った入居者に対して督促を行っていることになります。連絡くらいしろ、とさすがに思います。

―生活保護受給者の管理・指導を行う福祉事務所にも不満があると話していましたね

福祉事務所ごとにかなり方針が違うようで、一概には言えませんが、大半は口先だけの協力で根本的な解決に結びつきません。生活保護には、食費などを支払うための「生活扶助」、家賃を支払うための「住宅扶助」というように項目があります。本来は目的以外のことに使ってはいけないのですが、住宅扶助をどこか別のところで使ってきてしまう人がたくさんいるんです。

生活保護の実施機関は、生活保護法によって、受給者に対して必要な指導や指示をすることができるのですが、家賃保証会社が指導をお願いしても「家賃をきちんと支払うよう言っておきます」と建前のような返事。中には、受給者と一緒に振込対応まで行ってくれる担当者もいますが、そう多くはありません。

(C)KADOKAWA/0207 , Nakomin Tsuruya

そもそも、福祉事務所に「高齢の○○さんは1人で生活するのが困難なので助けてあげてほしい」と相談に行ったところで、「個人情報で答えられない」と門前払いをされることもあります。

福祉事務所が家主や不動産会社、場合によれば家賃保証会社に家賃を直接支払う「代理納付」も、もっと積極的に行ってほしいな、と思います。

大家にアドバイス、審査を「信用しすぎないで」

―不動産オーナーとの関係はどうですか?

主にやり取りをするのは、部屋の明渡し訴訟や残置物の撤去のとき、または部屋の鍵を借りるときで、基本的に協力してもらえることの方が多いので、大家さんに特に不満はありません。

ただ、むやみに滞納者に接触するのは控えてほしいな、と思います。保証会社と契約している場合、滞納者から家賃を回収するのは我々の仕事です。以前私が経験した話だと、滞納が続いて明渡し訴訟までいった入居者に、大家さんが直接コンタクトを取り、暴力沙汰になってしまったことがありました。

滞納者の中には、暴力をふるうとか、何をするかわからないような人も正直います。危険なので、回収のことは家賃保証会社に任せた方が良いと思います。

また、不満というわけではないですが、一般論として「こうなったら良いな」と思うことはあります。保証料の入居者負担を減らしてあげてほしい、ということです。

先ほども述べましたが、家賃を滞納するのは全体の1割ほどの入居者です。大家さんも保証会社を利用して、その恩恵を受けているわけですから、例えば1年以上滞納せず家賃を支払ってくれた人には2年目からの保証料を半分負担する、ということがあっても良いのではないかと考えています。

―不動産オーナーに対して、伝えたいことはありますか?

家賃保証会社によっても、保証の範囲や対応の仕方はさまざまであることをぜひ知ってほしいです。たとえば、独身男性がアパートの一室で亡くなってしまった場合。その会社は、残置物の処理はしてくれますか? 原状回復費はいくら保証してくれますか? 孤独死保険の付帯している契約ですか? 家賃保証の契約といっても、バリエーションがいくつもあるんです。

不動産会社が家賃保証会社を選ぶことも多いかもしれませんが、大家さんも関与したほうが良いと感じます。大家さんにとって一番メリットのある家賃保証会社が選択されていますか? その家賃保証会社のどこが良いのでしょうか? 単なる保証額だけではなくそれ以外の部分まで確認しておいて損はないと思います。

また、入居者を選ぶときに「家賃保証会社の審査を通過した」ことを信用しすぎないでくださいと伝えたいです。家賃保証会社も事業を営んでいるわけですから、多少は利益のために審査を通すということも発生します。

私のような回収担当も、「なんでこの人の審査を通したんだ」と疑問に思うことがあるのですから、大家さんもこの審査を信用しすぎない方が良いのではないかと思います。

―最後に、読者へのメッセージをお願いします

できれば、不動産会社の担当者に、家賃保証会社に対して丁寧に対応しているのか聞いてみていただけないでしょうか。もし、丁寧な対応をしていなければ、「優しくしてあげて」と一声かけてくださると大変嬉しいです。私のような回収担当は、大家さんの賃貸経営がうまく回るように立てられた「人柱」。たいてい壊れかけなので、優しく接してあげてください。

コミックエッセイやこの記事から、回収担当も苦労しているみたいだ、と感じてもらえたら嬉しいです。

(C)KADOKAWA/0207 , Nakomin Tsuruya

0207さんは、コミックエッセイのあとがきで「私の経験はありふれたもの」だと話している。家賃滞納や孤独死が、あなたの住む隣の部屋で、あるいはあなたの所有する物件で、起こっているかもしれない。

コミックエッセイ『出ていくか、払うか 家賃保証会社の憂鬱』は、KADOKAWAより発売中。詳細はこちらから。

○取材協力
0207さん(X:@0207Tw
原作の「出て行くか、払うか ―家賃保証会社の話」も小説サイト「カクヨム」で連載中!

(楽待新聞編集部)