国税局や税務署の人事異動が実施される7月。それが落ち着いてくる今の時期(8月以降)から、税務調査が実施されやすいとされている。
今回は、元税務調査官として30年近く働いていた経歴を持つ不動産投資家、「FIS」さんにインタビュー。気になる「調査対象者の選び方」や、「おみやげ」を持たせるのが良いという噂は本当なのか、聞いてみた。税務調査の裏話や、投資家へのアドバイスも交えて紹介する。
税務調査のスケジュールは調整可能?
―税務調査に27年間携わっていたそうですが、具体的にはどんな業務を担当していたのでしょうか?
個人の所得税に関して税務調査を行う仕事と、広く情報収集を行う「情報事務」という仕事をしていました。兼業・専業の大家さん、法人を持っている大家さんをはじめ、ラーメン店などの飲食店を個人で営む人にも税務調査をした経験があります。退職するまでの数年間は、不動産投資家のような、店舗を持たない「その他所得者」の調査をよく担当していました。
年間およそ10〜15件の税務調査を行っていたと思います。法人の担当者であれば、1年中税務調査を行えるので30件ほど実施できるのですが、個人課税の担当者は確定申告の時期があるのでそうはいきません。1月から4月までは確定申告の対応で忙しく、基本的には税務調査ができないのです。
また、担当した納税者の事業の規模によっては、調査に日数を要し、他の人よりも年間調査件数が少なくなる場合もありました。
―税務調査はどのようなスケジュールで進められるのですか?
個人の所得税調査に限定すると、初日は午前10時から12時、1時間の昼休みを挟んで16時ぐらいまでとなることが多いです。特に希望がなければ、原則納税者の自宅で実施します。
一般的な税務調査は「任意調査」と呼ばれるものですが、納税者には基本的に税務調査を受けなくてはいけないという「受忍義務」があります。正当な理由なく税務調査に応じない場合は、罰則も適用されます。
とはいえ、税務調査に応じたところで、納税者には1円の得にもならないですよね。なので税務署も、実施場所やスケジュールについて納税者から希望があれば、基本的には応じる姿勢をとっています。
不動産や株取引などで利益を得ている人、つまり有店舗の事業者じゃない場合は、資料をすべて持ってきてくれるならどこでもいいと伝えます。「自宅に来てほしくない」という人は結構多いですが、その場合は税務署でも会計事務所でも、貸会議室でもOKです。ただ、喫茶店のような不特定多数の目がある場所ではダメですけどね。
―税務調査の実施時間も変更可能なのでしょうか?
調査を実施する時間に関しても、一応融通は利きます。基本的には税務署の業務時間に従って調査も行われるのですが、納税者の仕事の都合などで調整を行うことも可能です。
ただ、税務署の職員は公務員のため、事前申請なしに残業することができません。規定の時間から変更を行う場合は事前に伝えておく必要があります。
個人の所得税調査の場合、帳簿書類や領収書を税務署に借用を許可してくれれば、納税者と一緒に行う調査は1日で終了します。納税者が書類の借用を認めず、その場での確認を求めた場合は2日目、3日目と、原則連続した日程で調査をお願いすることになります。
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全7話
大家業を営んでいる限り、誰もが当事者になる可能性がある「税務調査」。いざという時に備え、投資家は税務調査に関する理解を事前に深めておく必要がある。
元国税調査官や税務調査を受けた投資家などの取材を通じて、事前に取り得る対応策や、いざ税務調査がやってきたときの心構え、そしてやってはいけないタブーなどを紹介する。
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