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つくばエクスプレスの東京駅までの延伸、多摩都市モノレールの延伸にともなう新駅開設―。首都圏では現在、いくつもの新線・新駅開業が計画されている。

公共交通機関の新線・新駅が開業すると、交通利便性が向上し、生活利便施設の充実が進んでエリアの資産価値が高まる。投資家は新線・新駅計画について知ることで、地価や物件価格が上昇するエリアを先回りして把握することができる。今回は、首都圏における主な新線・新駅計画について見ていこう。

新駅開設で地価・物件価格は急上昇する?

新線や新駅の開設によって、エリアの資産価値はどれくらい高まるのだろうか。まずは、最近の首都圏における新駅と地価の関係を見ていく。

東京メトロ丸の内線は、池袋~荻窪間の運行だが、途中の「中野坂上」駅から分岐して「方南町」駅まで「方南町支線」が通じている。従来、「方南町」駅から「新宿」駅に行くには「中野坂上」駅で乗り換えなければならなかったが、方南町支線が本線と直通になった2019年からは、乗り換えなしで「新宿」駅に出られるようになり、利便性が飛躍的に向上した。

東京メトロによると、「方南町」駅の1日平均乗降者数は2018年度には3万7224人だったが、2019年度には3万9769人に増加した。増加率は4.5%となり、「方南町支線」が本線と直通になったことが影響している可能性も考えられる。

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こうした新線の効果を見込んで、当時の方南町周辺では大規模マンションの開発などが相次ぎ、2019年の方南町2丁目の公示地価は前年比7.3%という上昇率を記録した。

また、2020年にはJR山手線・京浜東北線に「高輪ゲートウェイ」駅が設置された。山手線としては30番目の駅、1971年開設の「西日暮里」駅以来の新駅で、京浜東北線としては2000年に開業した「さいたま新都心」以来の新駅開業だった。

「高輪ゲートウェイ」駅周辺では、新駅に合わせて商業施設やホテル、大規模マンションなどの開発が相次ぎ、周辺の地価や物件価格が急上昇した。駅近くの商業地の地価をみると、2012年から2022年までの10年間におよそ70%も上昇している。

「高輪ゲートウェイ」駅設置の構想が正式発表されたのは2014年だが、発表以降地価が上昇し続けている形となる。この地価上昇を考えれば、今後はマンション価格の上昇も期待できるはずだ。

新駅や新線の開業は、このように非常に大きなインパクトを与えるため、居住先や投資先選びにおいて注目しておきたい。以下では、首都圏で予定されている新線・新駅計画のうち、かなり現実化して具体的な工事が始まっている東京メトロ有楽町線の豊洲~住吉間の延伸計画について見てみよう。

有楽町線の延伸計画が本格的に動き出している

有楽町線は現状「新木場」駅が起点だが、その2つ手前の「豊洲」駅から北側に延伸、東京メトロ東西線の「東陽町」駅を経由して、東京メトロ半蔵門線・都営新宿線の「住吉」駅までつなぐ計画だ。2022年に鉄道事業の許可が下りており、2030年代半ばの開業を目指して事業が動き出している。

図表1 東京メトロ有楽町線の延伸予定(出典:江東区HP)

有楽町線の延伸によって、南北移動の所要時間が短縮化される。現在、「住吉」駅から「豊洲」駅に出るには、半蔵門線で「清澄白河」駅に出て都営大江戸線に乗り換え、さらに「月島」駅で有楽町線に乗り換えなければならない。乗車時間だけで20分かかり、乗り換え時間を考慮すれば、30分以上かかるのではないだろうか。しかし延伸が実現すれば、乗り換えなし・直通9分での移動が可能になる。

また、この延伸によって首都圏のなかでも混雑率の高い路線として知られる東西線の混雑率の緩和が見込まれている。延伸によって有楽町線や半蔵門線、新宿線を利用する人が増え、東西線への利用者集中が緩和されることが期待される。

そして本計画では上記の地図にあるように、「豊洲」駅と「東陽町」駅の間に「(仮称)枝川」駅が開設され、「東陽町」駅と「住吉」駅との間に「(仮称)千石」駅が開設される予定となっている。

予定されている新駅周辺に住んでいる人は、現状「住吉」駅や「東陽町」駅、「豊洲」駅に行くには長い徒歩時間が必要だが、新駅ができれば短時間で地下鉄を利用できるようになる。鉄道空白地帯が解消され、利便性が高まることが期待されている。

東京メトロ有楽町線の電車(PHOTO : mmm / PIXTA)

それを見越して、新設予定の両駅周辺では活発な再開発が進行しつつある。江東区では都市計画の基本的な方針である「江東区都市計画マスタープラン2022」において、「枝川」駅を「水辺に囲まれた回遊の拠点」と位置づけ、オフィスビル・ビジネスホテル・倉庫・店舗などを中心に街づくりを進める方針だ。

一方「千石」駅は「緑連なるゆとり拠点」がコンセプトで、下町情緒や安らぎを感じる良好な住環境を守りつつ、商業や生活利便施設の充実を図ることになっている。スーパーなどの生活利便施設が充実するものと期待され、新築マンションの開発なども盛んになりそうだ。

どちらも「豊洲」駅や「東陽町」駅などに比べると開発余地が多く残されている。エリアの発展とともに、地価や不動産価格の上昇につながるのではないだろうか。

今後、駅への出入り口がどのあたりに建設されるのかなど、新駅の計画が明らかになれば、マンションや各種施設の計画も明確になってくる。将来性を買うのであれば、東京メトロの建設計画や江東区の都市計画などに注目しておくのがいいだろう。

首都圏で今後注目の新線・新駅計画は?

そのほかにも、首都圏ではさまざまな新線・新駅計画がある。ここからは、比較的実現性が高そうな計画をいくつか見ていこう。筆者が注目する新線・新駅計画について、図表2に整理した。

かつて、つくばエクスプレスが「秋葉原」駅から「つくば」駅まで開業したほどの大規模な計画はないものの、そのつくばエクスプレスについて、現状では「秋葉原」駅までのところを「東京」駅までつなげようという計画がある。

図表2 首都圏の主な新線・新駅計画(各種資料から著者作成)

開業予定は未定だが、実現すればつくばエクスプレス沿線に住む人の利便性が飛躍的に向上する。直接東京駅に出ることができ、通勤が便利になるだけではなく、新幹線を利用しての出張や旅行などが容易になることが期待される。沿線の価値が高まり、マンション価格などが上がる要因になるのではないだろうか。

そのほか、都営大江戸線について、放射部分の「光が丘」駅から「大泉学園町」駅や「東所沢」駅方面に延伸する計画がある。なかでも、「光が丘」駅から「大泉学園町」駅までの3.2キロメートルは導入区画となる道路の事業化が実現、その地下に大江戸線が敷設されることになり、計画の実現性が高まっている。その3.2キロメートルの間に「土支田」駅、「大泉町」駅、「大泉学園町」駅の3駅の新設が予定されている。

東京メトロ有楽町線と西武池袋線間の鉄道空白地帯でこれらの駅が新設されれば、エリアの利便性向上が期待される。導入計画道路の沿線などで商業施設やマンション開発の活発化も見込まれるため、地価や不動産価格が上昇するのではないだろうか。

多摩都市モノレールは、「多摩センター」駅から「立川」駅などを経て「上北台」駅までつながる全長16キロメートルの路線だが、その「上北台」駅から「箱根ケ崎」駅まで延伸する計画が動き出している。「箱根ケ崎」駅ではJR八高線と接続することになり、このエリアの交通利便性が飛躍的に向上する。延伸区間は約7キロメートルで、その間に7つの新駅が設けられ、うち5つまでが東京都武蔵村山市内になる予定だ。

武蔵村山市では初の公共交通機関として、モノレールの延伸が悲願となっており、期待は大きい。モノレールは新青梅街道の上に設置されるが、街道筋を中心に商業施設や各種の住宅などの開発が進むのではないだろうか。

多摩都市モノレール(PHOTO : wataru_take / PIXTA)

また、横浜市営地下鉄のブルーラインには、「あざみ野」駅から「新百合ヶ丘」駅までの延伸計画がある。「あざみ野」駅は東急田園都市線に接続、「新百合ヶ丘」駅では小田急小田原線に接続するので、沿線から「渋谷」駅や「新宿」駅方面への利便性が大幅に向上し、利便性が高まる。

延伸区間には4つの駅が新設される予定で、沿線での都市開発が活発化するのは間違いなく、地価やマンションなどの不動産価格の上昇につながるのではないだろうか。

相模原市にはリニア新幹線の新駅が誕生

このほか、首都圏で注目されるのはリニア中央新幹線の開業に伴う新駅開設だ。静岡県の反対もあって、開業が大幅に遅れそうな見込みになっているリニア中央新幹線では、相模原市緑区の橋本に「(仮称)神奈川県駅」が設置される。始発の品川駅を除いて首都圏唯一の駅となり、すでに新駅の工事が半ば以上進んでいて地元の期待は大きい。

開業すれば品川駅との間を10分で行き来できるようになり、都心への通勤・通学などが格段にラクになる。名古屋方面への出張や旅行なども便利になる。料金は新横浜・品川間とほぼ同等レベルになるとみられ、在宅勤務中心で週1や月1の利用なら通勤費用も会社が負担してくれるのではないだろうか。

新駅が予定されている相模原市橋本には京王相模原線・JR横浜線・相模線が乗り入れる「橋本」駅がある。周辺には大規模商業施設や生活利便施設が揃い、超高層マンションも建設されていて、居住地や投資先としての注目度が一段と高まるのは間違いない。インパクトの大きいリニア中央新幹線だけに、開業が近づけば、マンション価格の一段の上昇が期待できるだろう。

コロナ禍前の「橋本」駅の乗降者数は1日約13万人だったが、コロナ禍が発生した2020年には9万人台に減少し、現在では10万人台に回復している。加えて、神奈川県の試算によると、新駅の利用者数は年間1370万人が見込まれており、利用者による便益額は年間約250億円と見積もられている。それに加えて、目に見えない時間短縮効果が大きく、時間価値が評価されて、人口流入につながるのではないかと期待されている。

今回紹介したような新線・新駅計画について、開業が間近になると、周辺の地価や物件価格が急上昇する可能性がある。それまでに先取りして取得、先行投資を考えてみるのもいいのではないだろうか。

(山下和之)