
ここ10年ほど、毎月のように大阪に出張している。トークライブイベントに出演したついでに、大阪や関西の取材をしている。
出張中はもちろんホテルに宿泊。交通費と宿泊費はなるべく安くおさえたい性質なので、西成の「ドヤ」に泊まりがちだ。予約サイトで予約できる所だと、1泊で1500~4000円くらいが相場だ。
コロナになってイベントがなくなり、来阪する回数は減ったが、それでもちょくちょく足を運んだ。「普通の」ホテルの値段はかなり値崩れしていた。安く泊まれるならわざわざドヤに泊まる理由もないから、難波あたりの3000円くらいのホテルに泊まっていた。
「ホテルに泊まるより、借りたほうが安いかも?」
ここの所、コロナの自粛ムードが終わり、大阪は再びにぎやかな街になった。トークライブイベントにも人が入るようになった。それは非常にありがたいのだが、ホテルの値段も急騰している。
コロナ直前、2025年の大阪万博に向けてホテルがどんどん増えていた。コロナになって閉業したり、開業を取りやめたりしたホテルが多かったが、現状ではホテルが不足しているらしくドンドン値上がりしている。これからまたホテルが増えるかもしれない。
全体的な値段が上がると、「ドヤ」も値上がりする。過去には6000円くらい払ってドヤに泊まったことがあるが、「ドヤに6000円は納得がいかん」と思ったものである。
同じく、よく大阪に行くジャーナリストで、YouTuberでもある丸山ゴンザレスさんと会話をしていた時、「これだけよく大阪に行くなら、物件借りたほうが安いんじゃないか?」という話になった。それで、大阪を訪れている時に、不動産屋さんに話を聞きつつ物件を回ってみることになった。
場所は個人的によく使う、西成だ。
不動産屋さんいわく「西成は、実は現在、土地の値段が上がっています。中国の人に買われているみたいですね。西成を買う理由としては『西成の雰囲気が中国と似ていて好き』とよく聞きます。意外と情緒的に買っているみたいですね」。
西成では、近年、ものすごい数の「カラオケスナック」が営業している。中国人のママがいるスナックだ。鉄板にプリントした派手な看板が特徴で、商店街にズラリと並んでいる。中国人が物件を買っているのと、おそらく関係しているのだろう。
なんだ西成の土地は今値上がりしてるのか……とちょっとガッカリしたが、個々の物件の家賃は上がっていないようだ。

西成周辺の街並み
綺麗な12畳ワンルームが4万5000円!?
まずは17号線沿い、西成のランドマーク「あいりん労働福祉センター」から歩いて2~3分くらいのマンションに案内された。
意外にもとてもキレイな物件だった。
1階はオートロックになっているし、しっかりとした管理人室があり、治安は万全。案内された部屋は、キレイにクリーニングされている。ワンルームだが12畳という、かなり広い洋間だった。
窓から外を見ると、確かににぎやかな西成の街が広がっているのだが、室内は別次元のようにキレイだった。
「家賃は4万5000円になります」
と言われて、ビックリしてしまった。
以前、西荻窪に住んでいた8畳のワンルームの物件は7万5000円だった。東京の人なら、「まあ、そんなもんかな?」くらいの値段だと思う。東京で4万円代ではなかなか物件は探せない。
俺が28年前に福岡から上京した時には「東京って家賃高え!」と目を剥いたが、いまだにこうした格差が残っているようだ。ただ、田舎に行けば家賃が安くなるのは分かるのだが、大阪の人口が密集してる場所でも家賃が安い理由はなんだろうか。
「ちょっと都市伝説みたいな話なんですけど、大阪にはすごい大きな地主が3人いて、その3人が『値上げはしないでおこう』って言ってるので、上がらない……という話があります」
不動産屋さんが説明してくれる。すごい地主がどなたかは知らないけど、本当だったらぜひぜひ今後も家賃の値上げは控えめでお願いしたい。
「ここが4万5000円なら、いいですね。僕はホテルを選ぶ時に『部屋が金庫になる』というのを重要視してるんですよ。ここなら十分大丈夫ですね」と丸山ゴンザレスさんはとても満足げだった。確かに良い物件だ。候補の1つだ。
2軒目の物件は、新しくできた「OMO7大阪 by 星野リゾート」の近くにある物件だった。いや、実際にはそこまで近くないのだが、OMO7大阪が巨大なので、すぐ隣にあるように見える。この物件も値段は大体同じ。ただ部屋の形が歪だったり、少し劣っていた。
「この物件はですね、西成区じゃなくて、浪速区なんです! 『西成』に住みたくない人にはオススメですね」と紹介される。
ドヤ街西成の名前が浸透しすぎて、西成という名前のつく場所に住むのは嫌だ、という人がいるということか? 俺はむしろ西成に住みたいので、そこはどうでもいい。
家賃2万円台のシェアハウス、内見の結果
「3軒目はシェアハウスなので……。まあ、ネタとして見てもらえれば」と言われながら、次の場所に移動する。
次の場所は、動物園前駅から徒歩2分。到着したのは、飲食店の廃墟みたいな場所だった。飲食店は閉じているが、建物自体はまだ生きていて、シェアハウスになっているようだ。外から見ると2軒の建物が1つになっているように見える。もしくは無理矢理増築させたのかもしれない。
中に入ると、いきなりでかい米粉の袋がいくつも積まれていた。近くのレストランの物置になっているらしい。
シェアハウスらしく共用ルームがあり、タイ人らしい人たちが座って会話していた。
中に進むと部屋がとても細かく区切ってある。2階へ進む階段はハシゴのように急だった。登ると、いきなりシャワールーム。「使用は20分まで」など注意書きは大体、外国語で書いてある。風呂やトイレはキレイだった。

急な階段
「私物は廊下に置いて良いのですが、名前を書いてください」
私物とはなんだろう? と思ったら、洗濯機や冷蔵庫のことらしい。外国語の名前の書かれた洗濯機や冷蔵庫が置かれていた。
屋上に出るとベンチが置かれていて、居心地良さそうだった。
廊下には壁紙の代わりに、古いスポーツ新聞が貼られていたのだが、30歳前後の桃井かおりが写っていた。桃井かおりは今72歳だから、40年くらい前に貼られたということか……。
空き部屋は施錠されておらず、勝手に中を覗くことができた。もちろん古く、もともとは畳が敷かれていた部屋なのだが、床にはスポンジマットが敷かれ、壁は白いペンキで塗られていた。一見とてもキレイな部屋に見える。ただ、部屋のはじにはちょこちょこと虫が走っていた。
値段は、2万円から3万8000円まで14部屋。3万8000円の部屋は2人入居ができる。
「住んでいるのは外国人だけです。日本人だとちょっとここは住みたがらないですね。結構、空き部屋が多いです」と不動産屋さんが説明した。
「ここめっちゃ住みたいです!」と言って手を上げた。丸山さんを見ると、呆れたような顔でこっちを見ていた。
丸山さんは「いや……。俺は嫌っす。というか、1人で十分借りられますよね。たまに遊びに来ますよ」と言って笑った。
確かに、脆弱な鍵しかなく、とても金庫にはならない。貴重品は常に持ち歩くか、別にロッカーなどにしまって置かなければならないだろう。
それでも、めちゃくちゃ住みたいと思っちゃったんだから仕方がないのである。

共用スペース
◇
数日後、ガチでこの部屋を契約してしまった。一番安い2万円の部屋は借りられていたので、次に安い2万3000円の部屋を借りた。
次回、あらためて西成に住んでみた話を書きたいと思う。

(村田らむ)
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