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中国の不動産大手である中国恒大集団(エバーグランデ、Evergrande)が、米国ニューヨークの裁判所に連邦破産法15条の適用を申請した、と報じられました。

中国の巨大不動産会社が倒産し、いよいよ「中国発のリーマンショック」が来るのではないか? と懸念されている方もいるかもしれません。

中国関連のニュースは、ネガティブなほど人気が高いと言われることがあります。そのため、報道機関などが注目を集めるために誇張している可能性もあります。恒大集団のニュースも、数字を前提としたものがあまり多くない印象です。そこで今回は、恒大集団の現状について、数字を基に確認していきたいと思います。

そもそも「連邦破産法15条」とは?

恒大集団が申請した連邦破産法(Bankruptcy Code)15条について、よくご存じないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

連邦破産法15条は、外国企業がアメリカ以外の国で再建を進める期間において、アメリカの債権者による訴訟から保護され、資産を保護するというものです。

ちなみに米国の破産法は7条と11条が有名です。7条はいわゆる「破産手続き」(完全に清算して会社をなくしてしまうこと)、11条は「再生手続き」(日本の民事再生手続に相当し、事業を継続していく)です。一方の15条は、上記の通り他国で再建手続を進めていくうえでの、「米国内の資産保全手続」と考えればよいでしょう。要するに米国所在の資産を強制的に差し押さえられることを回避することが狙いです。

連邦破産法15条は、直近では「ヴァージンアトランティック航空」が適用を申請したほか、(これはかなり前ですが)仮想通貨の「マウントゴッグス」(日本)もこの連邦破産法15条の適用を申請していました。

したがって、連邦破産法15条を恒大集団が申請したからといって、いわゆる「倒産」したと認識するのは正しくはないと言ってよいでしょう。正確には、恒大集団が海外債権者による差し押さえなどを防いで経営再建につなげるために、再生手続の準備を始めているということであり、恒大集団がなくなるわけではありません

「倒産」というと会社が無くなってしまうイメージがありますが、会社がなくなるのは清算による手続であり、再生手続とは異なります。

恒大集団は2021年に債務不履行に陥り、世界の金融市場に衝撃を与えました。今回のニュースを受けて「まだ存続していたのか」と思った方もいるかもしれません。しかし恒大集団は、そんなに簡単に破綻させられるような企業ではないのです。

約11兆円の債務超過、恒大集団の財務状況

恒大集団の企業業績や財務内容について確認しておきましょう。「世界最大の負債を抱える不動産開発会社」と言われていますが、どの程度のレベルなのでしょうか。

以下は、2022年度の恒大集団のアニュアルレポートの数字です。中国元を1元=19円(2022年12月30日時点、億円未満は切り捨て)として計算しています。

【資産サイド】
・固定資産:3兆2898億円
 うち投資資産:1兆1981億円
 うち資産・工場・設備:1兆719億円
・流動資産:31兆6385億円
 うち開発中資産:21兆5855億円
 うち売掛金及びその他の資産:4兆3493億円
 うち前払資産:2兆4974億円

【負債サイド】
・資格固定負債:1兆6052億円
 うち長期借入:4800億円
・流動負債:44兆7055億円
 うち短期借入:11兆1553億円
 うち買掛金及びその他の債務:19兆430億円
 うち契約負債(顧客から対価を受け取っているもの):13兆6993億円

【資本】
・資本:▲11兆3,824億円(※債務超過)

(出所:恒大集団Webサイト

上記の数字は恒大集団のバランスシートをかなり単純化したものですが、規模が大きすぎて驚かざるを得ません。

恒大集団は、借入が12兆円弱、買掛金等が19兆円、契約負債が14兆円弱、その他1兆円程度の合計で46兆円程度ありますが、資産は35兆円(固定資産+流動資産)しかありません。したがって、11兆円強の債務超過に陥っています。

買掛金等はその大半が建設会社に対する債務でしょう。そして、契約負債の大半はマンションなどの購入者から預かっている契約金でしょう。恒大集団が完全に破産してしまうと、建設会社が連鎖倒産するとともに、マンション購入者もマンションが手に入らずに路頭に迷うことになります。もちろん銀行にも多額の損失が発生します。

それでも、強引に恒大集団を整理するという考え方はあるでしょう。しかし、恒大集団に残された資産の約6割は開発中の物件です。開発が進まなければ何の価値もない不動産であると想定されます。開発を進めるしか、恒大集団の業績・バランスシートを改善させる方策はありません。

しかし、恒大集団が開発を進めたいと主張しても、信用は失われています。誰が恒大集団の開発資金を出すのでしょうか。開発中の物件を資金化するのは無理です。はっきり言えば、関係者を満足させるような清算手続は現状では望めません。

なお、2022年度の恒大集団の損益計算も参考までに確認しておきましょう。

・売上高:4兆3712億円
・粗利益:4747億円

・営業利益:▲1兆2237億円(赤字)
・最終損益:▲2兆3904億円(赤字)

(出所:恒大集団Webサイト

これが恒大集団の業績です。巨額の赤字を計上し、大幅な債務超過に陥り、保有する資産のほとんどは開発中の物件である恒大集団はこれからどうすればよいのでしょうか。

今後の恒大集団はどうなる?

恒大集団は2023年3月、地元の中国広東省政府などの支援を受け、外貨建て債務の再編計画を発表したものの、合意した債権者が一部に限られていました。今回の恒大集団の連邦破産法15条申請は、このことへの対応の一環です。金融機関からの債務の再編は今後も進めていくでしょう。

最も大きな問題は、恒大集団が現状で抜本的な解決を図ろうとすると、中国国内に大きな波紋をもたらすと想定されることです。

銀行の損失はともかくとして、建設会社への買掛金などが19兆円、マンション購入者への契約負債等が14兆円弱あり、合計33兆円弱という損失が発生すると、いくら世界第2位の経済規模を誇る中国だろうとも、大きな影響を受けるでしょう。政府もしくは中国共産党に対する不満が爆発する可能性も捨てきれません。

恒大集団の債務の規模としては、リーマンショック後、中国が打ち出し「世界を救った」とされた景気対策が4兆元(当時のレートで約57兆円)だったことを考えると、やはり大きいことは否定できません。

なお、日本最大の企業であるトヨタ自動車の2023年3月末時点の有利子負債は29兆円、負債合計は45兆円です。日本でトヨタ自動車が「なくなったら」大きな経済混乱が起きるでしょう。中国のGDPは今や日本の4倍以上あるとはいえ、恒大集団の問題は小さくはないはずです。

恒大集団の問題の根本的な原因は、「不動産価格が上昇していくことを前提として中国全体が動いていた」という点にあります。不動産価格が上がるから個人が不動産を買い、個人が不動産を買うから不動産会社が不動産を開発し…といったサイクルを、中国は繰り返してきました。地方政府も土地の売却収入が入るから不動産価格が上昇し、不動産開発が進んでいくことを歓迎してきました。

現在の問題は、「この不動産上昇サイクルが続かないかもしれない」と人々が感じていることです。

再び中国の不動産価格が上昇に転じていくのであれば、恒大集団をしばらくは放置していても、いつかは問題が解決する可能性があります。不動産価格が上がり、恒大集団の中で塩漬けになっている開発中の物件が高く売れるようになるためです。

他の不動産会社、例えば「碧桂園」(カントリー・ガーデン)も債務不履行危機に陥っている中では、中国の政府や共産党は不動産価格を何とか上昇サイクルに戻したいはずです。その試みがどのようになるのかが、今後の中国の景気や治安を大きく左右させる可能性があります。

中国は国として恒大集団の問題に抜本的な対策を取る可能性は低いのではないかと筆者は考えています。それが吉と出るのか凶と出るのか、数年後に分かることになるでしょう。

(旦直土)