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大手銀行は8月31日、9月の住宅ローン金利について、固定型を8月比でそろって引き上げることを発表した。日銀が発表した、YCC(イールドカーブ・コントロール)の運用柔軟化による影響を受けての対応だ。

8月にも、住宅ローン固定金利はいっせいに上昇。固定型の金利は、長期金利(国債金利)に連動する。最近の長期金利上昇に伴い、各銀行が住宅ローンの固定金利の水準を引き上げていた。

7月28日の金融政策決定会合で、日銀がYCCの修正を発表していたが、タイミング的に前回の引き上げには反映されなかった。そのため、日銀の政策方針を転嫁した今回の発表には注目が集まっていた。

大手5行がそろって引き上げ

まずはメガバンクの引き上げ幅を確認しよう。以下、10年固定の最優遇金利で比較する。

■三菱UFJ銀行
年0.78%→年0.88%(+0.10ポイント)

■三井住友銀行
年0.89%→年1.09%(+0.20ポイント)

■みずほ銀行
年1.20%→年1.35%(+0.15ポイント)

中でも三井住友銀行は、0.20ポイントと比較的大きな上昇となり、1%の大台に乗った。他の大手行でも、三井住友信託銀行が0.15%上昇の1.30%、りそな銀行が0.18%上昇の1.57%に設定した。

なお、短期金利と連動する変動型の基準金利については、各行とも2.475%で据え置いた。これは、日銀がマイナス金利政策を継続しており、短期金利が上昇していないことを反映している。

大手行でも戦略差が、今後の見通しは

メガバンク3行は、そろって2カ月連続の住宅ローン固定金利引き上げ。今後も上昇が継続するのか、変動金利や大手行以外への影響はどう出てくるのか、気になる人も多いだろう。ここからは、現役銀行員でブロガーの旦直土さんに解説してもらう。

―今回の動きについてどう受け止めるか

大手行の10年固定の最優遇住宅ローン金利で比べると、各行の戦略差が見て取れます。

三菱UFJ 銀行については、住宅ローンの金利競争に積極的という印象があります。そもそもの金利水準も低いですし、他行と比べ金利上昇を抑制しています。

一方みずほ銀行は、住宅ローンの金利競争から距離を置いており、他のメガバンク2行と比較して高めの金利を設定していることがわかります。

両行の中間に金利水準を設定する三井住友銀行は、基本的に長期金利の上昇分をそのまま転嫁した形の金利上昇幅となっており、ニュートラルな印象です。

─大手行が住宅ローン固定金利引き上げた背景は

長期金利の上昇が要因です。8月23日に一時0.675%の金利を付けましたが、この水準は9年7カ月ぶりの高い金利水準です。

大手行の住宅ローンにおける固定金利は長期金利を参照しているため、大手行は住宅ローンの固定金利を引き上げました。 7月中の長期金利は0.4%台でしたが、8月はYCC運用の柔軟化があり、0.6%台になっています。この金利上昇分を転嫁した形です。

長期金利の推移(財務省 国債金利情報をもとに編集部作成)

─今後の展望をどのように考えるか

日銀がYCC運用柔軟化を超えて、明確な金利引き上げに動くタイミングが来る可能性は相応にあるでしょう。

足元では物価上昇率が3%を超え、日銀が目標としている2%を上回って推移しています。この物価水準が続き、来年の春季闘争で更なる賃上げが見えてくると、さすがに日銀も金利引き上げを行うことになると思います。対外的に表明し、マーケットが認識してきた日銀の方針・考え方を反故にすることになるからです。

また、物価水準に関わらず、円安が急激に進めば、日銀は金利引き上げという選択を取らざるを得なくなる可能性は高いと思います。

いずれにしろ、金利は上昇する要因の方が多く、長期金利が上昇することに伴って住宅ローンの固定金利も上昇していくのがメインシナリオです。

ただし、マイナス金利政策の解除はまだハードルがあり、短期金利は横ばいで推移していく可能性が高いでしょう。住宅ローンは変動金利水準が横ばいのままのため、変動金利を選択する住宅購入者は多いままだと思います。

この場合、将来的には金利上昇リスクを抱えた住宅ローン債務者が増加していくことになり、金利上昇が個人の家計に今まで以上に大きな影響を与えかねません。家計消費にも影響を与えるとなると、今後なおいっそう金利上昇リスクが気になります。

固定金利の上昇が続く中、据え置かれたままの変動金利。今回の引き上げにより、固定型と変動型の金利差がさらに広がる形となった。

これからの各金融機関の動きによっては、不動産投資における融資情勢にも変化が起こるかもしれない。引き続き大手銀行の動向を注視しつつ、自身と付き合いがある金融機関の融資条件について、アンテナを張っておきたいところだ。

(楽待新聞編集部)