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建設業界が、いわゆる「24年問題」に苦悩している。

2024年4月から、建設業界にも「時間外労働の上限規制」が適用される。規制適用までに常態化した長時間労働を是正する必要があるが、いまだ対策は間に合っていない。規制に違反すると、労働基準法違反として6カ月以内の懲役か30万円以下の罰金が課せられることとなる。

恒常的な人手不足の中、時間外労働に厳しい制限が課せられれば、工期の遅れなどを招き、ひいては経営にも大きな影響が出る可能性がある。現に2025年の大阪・関西万博の建設工事では、海外パビリオン建設の遅れをふまえ、規制の適用範囲が再度議論されている。建設業界を巡る労働時間の現状と、制限の影響を改めて確認したい。

約半数が時間外労働「基準超え」

「時間外労働の上限規制」は、働き方改革の一環として導入された。時間外労働時間の上限を原則つき45時間・年360時間に抑えるというもので、大企業は2019年4月から、中小企業は2020年4月から規制が適用されている。

しかし運送業と建設業においては、業界団体からの「長時間労働の是正は段階的に進める必要がある」との要望を受け、一定の猶予期間が定められていた。2024年4月からは猶予期間が終了し、建設業界でも規制が適用されることとなる。

日本建設業連合会(日建連)が7月21日に発表した「2022年度会員企業労働時間調査」では、約半数が上限の年間360時間を上回っている。調査は会員企業140社(対象労働者数14万1408人)に対して実施され、113社から回答を得た。

年間の総実労働時間では、2022年度は管理監督者が前年比1.0%減の2161時間、非管理監督者が同0.6%減の2172時間となっている。ただ、全産業の常用雇用者の平均1954時間と比べると、大きく上まわっている。

管理監督者とは、労働基準法第41条2号内の「監督もしくは管理の地位にある者」を指し、会社内でいう管理職とは違う。管理監督者は業務に対する重大な責任と裁量を持ち、それに見合った待遇を受ける者のこと。具体的にはイメージしづらいが、強いて言うならば役員に近い地位にある人だ。

管理監督者は労働基準法上特別な扱いを受ける。時間外労働や休日出勤における割増賃金の支払いが発生せず、労働時間の制限もない。この点から見ると、管理監督者のほうがそうでない労働者より、労働時間が長くなるように思えるかもしれない。

しかし、建設業界の年間の総実労働時間をみると、一般労働者である非管理監督者の総実労働時間が、労働基準法の制限を受けない管理監督者を10時間以上上回っている状況だ。この点について、筆者は工期を守るために、監督者よりも現場の一般労働者により大きな負担がかかっているためだと推測している。

年間平均の時間外労働を見ると、2022年度は管理監督者が前年度比4.7%減の305時間(月換算25.4時間)でなのに対して、非管理監督者が同3.6%減の351時間(月換算29.3時間)と、やはり非管理監督者が管理監督者を上回っている。

建設業界の動向としては、年間平均の時間外労働は減少傾向にあるものの、全産業の常用雇用者の平均167時間と比べると、建設業の非管理監督者は倍以上の時間外労働となっている。

労働基準法「特例」加味しても厳しい状況

2024年4月からの「時間外労働の上限規制」では、年間360時間以内が上限となるが、非管理監督者では、2022年度の年間時間外労働が360時間以内だったのは52%で、360時間を超えている上限超過者が48%と半数近い状態だ。特に、労働基準法の特例である年間720時間を超える時間外労働の割合が、年々減少しているとは言え、8%もいることは大きな問題だ。

これに対して、管理監督者では、年間時間外労働が360時間以内だったのは62%と、非管理監督者を10%上回っている。年間720時間を超える時間外労働の割合も5%と非管理監督者を下回っている。

しかし、これは年間の時間外労働の360時間、特例の720時間を基準とした割合だ。「時間外労働の上限規制」では年間360時間以外に、「月45時間」も上限としており、これを基準とすると、2022年度の非管理監督者の上限超過者の割合は59.1%と6割近い割合に跳ね上がる。

さらに、労働基準法第36条では、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える時間外労働及び休日勤務などを命じる場合の特例を規定している。具体的には、労働組合などと書面による協定(いわゆる36協定)を結ぶことにより、次の4つの基準を上限とした時間外労働が認められている。

(1)年間720時間以内
(2)2~6カ月それぞれの平均が80時間以内
(3)1カ月100時間未満
(4)月45時間超は年6回まで

年間720時間以内という基準以外を加えると、2022年度の非管理監督者の特例上限の超過者の割合は22.7%と2割を超えている。

こうした事態に対して、日建連は7月21日、「発注者に対し見積書を提出する際に、工事現場の週休2日、週40時間稼働を原則とした適切な工期に基づき見積りを行い、工期・工程を添付するとともに、発注者の理解を得るための説明を徹底する」という「適正工期確保宣言」を行った。

「大工不足」も解消されず

このような状況の中、「大工不足」も課題となっている。

大工不足を表す指標として、国土交通省の建設労働需給調査で算出される「不足率」がある。

7月度の調査結果によれば、型わく工(土木)、型わく工(建築)、左官、とび工、鉄筋工(土木)、鉄筋工(建築)の6職種の不足率(原数値)は1.8%、これに電工、配管工を加えた8職種では1.6%となっている。6職種では2021年8月、8職種では同年6月から、労働需給の不足が続いている。建設業の労働者不足は深刻だ。

国土交通省発表の2023年7月度「建設労働需給調査」より著者作成

前出の知人の工務店経営者は、「特に、時間外労働が発生するのは、現場の職人たち。彼らが時間外労働を制限されれば、間違いなく工期が延びる。それでも、工期に間に合わせようとすれば、人員を確保するために賃金を引き上げる、あるいは、時間外労働の賃金を引き上げるなどが必要だろう」という。

国土交通省も建設業の賃上げによる人手不足の解消を目指し、賃金のもとになる労務費の目安を設ける方針で、ゼネコンなどが下請け企業に著しく低い単価を設定している場合に国が勧告など行政指導する仕組みも検討している。

24年問題への対応は、建設業にとって大きな負担となりつつある。一部には、「時間外労働の上限規制が強化されることで、マンションや戸建て住宅の供給量が減少すれば、不動産価格の上昇につながる可能性もある」との指摘も聞かれる。規制の適用まで、残り半年あまりとなった。建設業界を取り巻く労働環境について、引き続き動向を注視したい。

(鷲尾香一)