PHOTO:白熊/PIXTA(ピクスタ)

いま、中古マンションの売却に有利な環境となっている可能性がある。

最近はもっぱら新築マンションの価格上昇について取り上げられることが多いが、実は新築よりも中古マンションの方が、10年間の価格上昇率が高いことをご存じだろうか。物件の売却にあたっては経済環境や不動産市況などを踏まえて有利なタイミングを見極める必要があるわけだが、現在はその点で恵まれた環境にあると考えられる。

中古マンションの成約価格の推移や新築マンションとの比較から、中古住宅市場の現状を把握し、所有物件の売却タイミングについて検討してみてほしい。

新築より中古マンションの価格上昇率のほうが高い!

現在、首都圏の中古マンション価格が上がり続けている。民間調査機関の不動産経済研究所によると、2012年度の首都圏新築マンション発売価格の平均は2012年度が4563万円。それに対して2022年度は6907万円と、10年間の上昇率は51.4%になった。

一方、公益財団法人の東日本不動産流通機構(東日本レインズ)によれば、2012年度の首都圏中古マンションの成約価格の平均は2515万円。2022年度には4343万に上がっており、この10年間の上昇率は72.7%に達する。新築マンションより中古マンションの方が、10年間の上昇率では21.3ポイントも高くなっている。

最近は新築マンション価格が高くなりすぎていることや、人気エリアの新築物件が減少していることもあって、新築マンションがなかなか買えなくなっている。それに代わるようにして中古マンションに注目する人が増加し、中古マンション相場を大きく押し上げているのではないかと言われている。

価格の「逆転現象」で売り手市場に?

仲介市場では売主と買主の間で交渉が行われ、一定の値引きの上で契約が成立することがある。物件の購入希望者が多く、売却希望者優位の「売り手市場」であれば、値引き率は小さくなり、場合によっては値引きなしで売出価格のまま契約が成立することになる。反対に、売却希望者が多く、購入希望者が少ないと「買い手市場」となり、値引き率を大きくしないと契約は成立しなくなるものだ。

東日本レインズの集計から、新規登録価格(売出価格)と成約価格の推移をみてみると、図表1のようになっている。2023年1月には、売出価格の1平米単価は74.31万円、成約価格は68.31万円と、売出価格に対して成約価格が8.1%低かった。

それが、2023年7月には売出価格が71.61万円、成約価格が71.92万円と、わずか0.4%ではあるが成約価格が売出価格を上回る逆転現象が発生しているのだ。売却希望者が優位となる「売り手市場」になっていることがこのデータから推測される。

図表1 首都圏中古マンションの平米単位新規登録価格と成約価格(単位:万円)(東日本不動産流通機構「月例マーケットウォッチ」をもとに著者作成)

ただし、同じ物件の売出価格と成約価格を比較したものではないため、単純に「売出価格以上の価格で成約している」ことを示しているわけではないことをお断りしておかなければならない。売出時の新規登録物件と、成約物件には大きな違いがあり、それが価格に反映されているのだ。

まず、2023年7月の売出物件の築年数の平均は29.63年で、成約物件の築年数の平均は23.91年という違いがある。また、専有面積をみても、売出物件の平均は56.63平米で、成約物件の平均は63.44平米。売出物件は築年数が長く専有面積も狭い、成約物件は築年数が短く専有面積が広い、となれば、成約物件のほうが平均価格が高くなってもおかしくはない。

ただ、通常は成約価格が上がっても、ぎりぎり売出価格のほうが高い状態になるため、今回のように成約価格が売出価格を上回る逆転現象は珍しい。2023年7月についに発生した逆転現象は、それだけ需要が強い「売り手市場」になっていることを示しているのではないだろうか。

その意味では、いまは、中古マンションを売却する絶好のタイミングかもしれない。図表2にあるように、2023年7月の首都圏中古マンションの成約価格の平均は4563万円で、前年同月比4.9%の上昇だった。集計に当たっている東日本レインズによると、2020年6月から38か月連続して上がり続けていることになるそうだ。

図表2 首都圏中古マンションの成約価格と前年比の推移(東日本不動産流通機構「月例マーケットウォッチ」をもとに著者作成)

ただ、前年同月比での上昇率のみに着目すると、2022年11月までは2桁台だったのが、12月には6.2%と一桁台に低下している。その後も一桁台が続いており、上昇の勢いは弱くなっているようにも見受けられる。新築マンションと同様に、中古マンション価格も上がり過ぎており、そろそろピークを打ってもいい時期に差し掛かっているのではないだろうか。

薄れつつある中古マンションの「割安感」

先述の通り、2012年度には新築マンションの発売価格の平均が4563万円、中古マンションの成約価格の平均は2515万円と、新築の55.1%の価格で中古マンションが買えた。しかし2022年度は新築マンションの売出価格平均が6907万円で、中古マンションの成約価格の平均が4343万円と、中古の価格は新築の62.9%にまで上がっている。中古マンションの新築に対する割安感が、かなり薄れつつあると言っていいだろう。

しかも、新築マンションを買う層と、中古マンションを買う層では、年収などにかなりの違いがある。国土交通省が毎年実施している「住宅市場動向調査」の最新版によると、新築マンション購入者の平均世帯年収は960万円なのに対して、中古マンションは657万円と、300万円以上の差がある。

この差額分、中古マンション購入者の購入可能額が低くなってしまうということで、割安感の低下は購入意欲の減退につながりかねない。高くなり過ぎた中古マンションの価格もそろそろ限度に達しつつあるのではないかという見方が出てきてもおかしくないわけだ。

では、新築マンションを買う層と中古マンションを買う層とでは、ローンの借入限度額にどれくらいの差が生じるのだろうか。それぞれの平均世帯年収別に、借入限度額がどれくらいになるかを計算してみよう。

住宅ローンの借入限度額は、一般的に『(年間返済可能額÷12カ月)÷(審査金利で100万円を借り入れたときの毎月の返済額)×100万円』の計算式で求められる。なお、審査金利で100万円を借り入れたときの返済月額は、金利や返済期間によって決まる。

住宅ローンの返済負担率(年収に占める年間返済額の割合)を、より安全な範囲とされる「25%」に設定した場合、新築マンション購入者の平均世帯年収960万円であれば借入限度額は以下の通りになる。(設定条件:金利1%、35年元利均等、ボーナス返済なし)

960万円×0.25(25%)÷12(カ月)÷2822円(100万円当たり返済月額)×100万円
約7080万円

一方、中古マンション購入者の平均世帯年収657万円で同等の条件に当てはめた場合、借入限度額は以下の通りだ。

657万円×0.25(25%)÷12(か月)÷2822円(100万円あたり返済月額)×100万円
約4850万円

両者の借入限度額には2000万円以上の差が生じている。また、中古マンション購入者の借入限度額が4850万円なのに対し、2023年8月の東日本レインズによる中古マンションの成約価格の平均は4563万円。この点からも、中古マンションの価格上昇はそろそろ限度に近く、価格の高騰によって中古マンションの購入意欲が減退している可能性がうかがえるだろう。

中古マンション価格のピークアウトは近い?

いまひとつ、中古マンションの購入意欲の減退を示唆するようなデータとして、売買物件の「新規登録から成約に至るまでの日数」の変化を挙げることができる。

購入希望者の需要が旺盛であれば、需給バランスが逼迫して成約に至る日数が短くなる。逆に、需要が減退して需給バランスが緩んでくると、成約までにかかる日数が長くなる。2020年度には、成約まで87.0日かかっていたのが、2021年度には72.1日にまで短縮され、需要の高まりにより需給バランスが逼迫していることをうかがわせる動きとなった。

それが、2022年度は73.0日と、わずかではあるが日数が長くなっている。需給バランスが緩んできたとまでは言えないだろうが、タイト感が弱まっていると言ってもいいかもしれない。

首都圏4 首都圏中古マンションの登録から成約に至る日数(単位:日)(東日本不動産流通機構「首都圏不動産流通市場の動向(2022年度)をもとに著者作成)

現在の中古住宅市場の動向をみて、「まだまだ上がり続ける」から売却は待った方がいいと考えるのか、「そろそろピークが近い」から値下がりする前に売ってしまった方が得策とみるのか、判断が分かれるところだろう。

中古マンション市場が動きだすときには、かなりのスピードで変化が生じるものだ。上がるときも下がるときもそうで、気がついたときには想定以上に高くなっていて買えなくなってしまった、思いのほか早く下がってしまって売却のタイミングを逃して損をしてしまった―ということになりかねない。

その意味ではあまりのんびりしている猶予はなく、売却を考えるのであればそろそろタイミングを見極める時期に入っているのではないだろうか。

(山下和之)