不動産投資歴20年の不動産投資家「テリー隊長」の全面協力をいただき、不動産投資の初心者の「楽太君」が大家デビューを目指す連載第15話となりました。
晴れて大家デビューを果たし、数カ月が経った楽太君。「大変です」とテリーさんに三度相談してきました。室内で水漏れが発生してしまったようで…? そんな時、オーナーはどんなことを確認したらよいのでしょうか? 知っておきたい「契約不適合責任」とは?
<登場人物紹介>
テリーさん
50代半ばの不動産投資家。IT企業A社の元社員。20年前に不動産投資を始めた。50歳で会社を早期退社し、不動産賃貸経営を行いながら、悠々自適の生活を送っている。
楽太君
30歳のサラリーマン。A社に勤務し、以前テリーさんの下で働いていた。素直で好奇心旺盛な性格。不動産投資を始めるべく、テリーさんに教えを請う。
楽太くんはいつも大変だね。この前は退去に原状回復…今度は何があったんだい?
水漏れなんです。101号室の天井から、水がポタポタ漏れてくるみたいなんです!
なるほど。まず、水漏れっていうのは原因がいろいろ可能性があるんだよね
単に雨漏りとか、水を出しっぱなしとかってことじゃないってことですか?
そう。天井裏か2階のどこかで水が漏れていて、それが天井の中を伝わって、1階の洋室の上でポタポタ漏れ出した可能性もある
水漏れ箇所を確かめるには、最終的に天井の中を見ないといけないだろうね。水道や排水の配管からの漏れかもしれないし
それって、結構、工事にお金がかかるんじゃないですか?
それは仕方ないよ。雨漏りが起これば、天井の石膏ボードやクロスも傷むから、どちらにしろ天井に穴を開けて修理をしないといけないね。そうそう、大家さんの入っている火災保険が使えるかもしれないから、これもチェックしてみてね
保険が使えるなら良かった! それなら高い修繕費がかかっても安心です。火災保険って本当に便利ですね
いやいや、勘違いしちゃいけないよ? 火災保険が使えると言っても、入居者さんの所有物の損害が「施設賠償特約」で補償される可能性があるだけで、建物自体や給排水設備の修理に火災保険が使えるというわけではないんだよ
火災保険の基本的な考え方は、自然災害やめったに起こらないような偶発的なトラブルに対して損害額の負担を少なくするための補償をするということなんだ
もちろんそうだけど、問題は水漏れの原因なんだ。建物の経年劣化が原因の水漏れは、火災保険が使えないんだよ。逆に使えるのは、自然災害、例えば台風などで、屋根や外壁が損傷してそこから水が侵入したような場合に限るんだ
そう言えば、売買契約書の契約不適合責任ってどうなっていたの?
おいおい、大家さんなんだからそれぐらいのことは知っておかないと。契約不適合責任とは、こういうことだよ
○契約不適合責任とは
種類、品質または数量に関し、契約に適合しないことによって生ずる責任のこと。
民法562条第1項で「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。」と定められている。
わかりやすく言えば、購入したアパートに関して、数量、品質などが契約内容と一致しない場合には、買主は売り主に対して契約解除や損害賠償ができるということだよ
そう言えば、契約の時に仲介管理会社のミノルさんからそんな説明を受けたような気がします。水漏れとか雨漏りの場合も該当するんですか?
契約書のコピーがクラウドに保管されているから、スマホで見てみます! えーっと…
これって…「できない」ってかいてありますけど、だめってことですか?
えー!なんでですか!? 責任があるのに追及できないなんて、これ、法律違反じゃないんですか?
違うよ、楽太くん。民法で規定されている契約不適合責任の免除特約は、当事者同士で決める任意規定だから免除としても問題ないんだ。中古物件などを売買する場合は、よく使われる特約なんだよ。ただ、売主が宅建業者である場合や売主が不具合を知っていた場合は、この特約は無効になるんだけどね
テリーさん、もしこの特約がなかったら、水漏れの修理代は、法律的に売主さんが負担してくれるはずだったんですか?
そこもやはり火災保険と同様で、経年劣化の場合は対象外なんだよ。ともかく管理をしてくれているミノルさんに頼んで、業者さんを手配してもらって、原因を特定することが最優先だね
なんか、今は止まっているみたいです。でも、原因がわかるまで心配で夜も眠れません。101号室の入居者さんにも迷惑かけちゃっているし…。とにかく、まずは早急に動きます。ありがとうございます!
~~~後日~~~
テリーさん!この間の水漏れ事故ですけど、無事解決しました
業者さんに天井を見てもらったら、2階の202号室の洗面所から水が流れてきた跡があったみたいなんです。それで、202号室の入居者さんに聞いてみたら、少し前に、熱帯魚の水槽の掃除をする時に大量の水をこぼしてしまったらしくて…
はい! 入居者さんの火災保険(借家人賠償保険)が使えることになりました!
ただ、1つ付け加えるなら、何度も言うけれど、給排水管が経年劣化して発生した水漏れは、火災保険の補償の対象にならないからね。そういった意味では、物件の設備の老朽化には常に目を配っておき、定期的なメンテナンスを怠らないことが重要だからね
◇
「契約不適合責任」は、売主と買主の重要な契約事項であり、詳細については必ず「売買契約書」に記載があります。
ただし、
・免責(売主は責任を追わない)
・期間や告知の時期を定めて保証する
などいくつかのパターンがあり、それによって売主が建物の品質などを保証しないといけないかがわかります。
もし、「免責」であれば売主に修理代を請求することはできません(売主自身が宅建業者であれば、全くの免責にすることは法律上できません)。そうでない場合(契約上、売主が責任を取る必要がある場合)は、交渉の余地はありますが、「不適合(契約通りでない)」の判定が難しいです。
問題は、その不具合が、売買のときに保証された建物の品質が契約書通りでないと売主が認めることが必要であることです。売主に無理やり修理させるものではありません。つまり、建物は契約書の品質通り売却されたが、買った方の建物管理がよくなかった、あるいは自然災害など売主の責任のない原因で起きたと反論されたときに、どのように証明するかがポイントになります。
まずは、「契約不適合責任」が有効であれば、売買のときに担当してくれた不動産会社に相談して、売主との交渉をお願いしてみることを検討してみてください。
(次回へ続く)
(テリー隊長/楽待新聞編集部)
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