「夢のマイホーム」が気づいたら「悪夢のマイホーム」に変わっていた ―。これは日本の話ではなく隣国中国の話です。
8月17日、同国の不動産大手「恒大集団」が破産を申請しました。負債総額は日本円で約48兆円。建設途中で工事が止まってしまったマンションも多く残され、社会問題化しています。
これにより苦境に立たされたのがマイホームの購入者です。中国では物件の引き渡し前からローン返済が始まる仕組みになっているからです。マンションの完成時期が見通せない中、購入者がローン返済を「ボイコット」(返済拒否)する動きが各所で散見されました。中国メディアによると、300カ所を超える案件で返済拒否が確認されたそうです。
前置きが長くなりましたが、今回はローン保証制度の問題点について考えてみたいと思います。保証料を負担するのはローンの「借り手」ですが、返済が滞った場合に保証の恩恵を受けるのは「貸し手」です。貸し手の理論を一方的に押し付ける、このような仕組みには疑問を感じます。
代位弁済とは何か?
中国で起きているように、借り手がローン返済を拒否し続けたら、購入者はどうなってしまうのでしょうか?
日本では、保証会社が残債を代位弁済してくれる仕組みがあります。借り手が支払いを滞納し始め、規定の遅延期間を過ぎると、ローン債権は金融機関から保証会社へ移管されます。この時点で保証会社が残債を金融機関へ支払います。
住宅ローンであれアパートローンであれ、金銭消費貸借契約(ローン契約)を締結する際、ローンの利用者は同時に保証会社と保証委託契約も締結するからです。融資条件の1つになっているのが一般的です。
これを「代位弁済」というのですが、借り手側からすると「保証会社が銀行に残債を代位弁済してくれた」 となります。一見すると、ひと安心しそうですが、はたして借り手は本当に安心していいのでしょうか?
ローン保証会社は誰のため?
さて、ここからが本題です。本稿で私が問題提起したいのは、ローン保証会社は誰のためにあるのか?
保証料を支払っているのは「借り手」です。その保証料の負担効果は誰に帰属するのか考えてみましょう。
まずは復習を兼ねて、そもそもローン保証料とは何なのか、基本的な説明から始めることにします。
前提条件として、ここでは保証会社が保証人になることを想定して話を進めます。保証料とは保証会社に保証人になってもらうための「お願い料」です。よって、たとえば両親や兄弟などに保証人になってもらう場合には保証料はかかりません。
なぜ、保証料が必要になるかというと、もしも支払いが滞った場合、返済計画が予定と異なることで金融機関は債務が履行されないリスクを負います。そのため、こうした貸し倒れリスクを回避しようと保証会社にリスクヘッジ(債務保証)をお願いします。要は「取りっぱぐれ」を防ぐための予防線というわけです。
実際、一定期間返済が滞ると、ローン債権は保証会社へと移管されます。ローン債権を保証会社に引き継いでもらうことで、貸し主が金融機関から保証会社に変更。その結果、金融機関は未回収の不安から解放される仕組みです。
ただ、借り手側からすると支払先が保証会社に変わっただけで、支払いそのものは今まで通り継続します。保証料を支払っているのは「借り手」であるにもかかわらず、返済義務からは解放されません。
「受益」と「負担」のアンバランス
こんな不合理が生じるのは「受益」と「負担」のバランスがちぐはぐだからに他なりません。保証料によって利益を享受しているのは金融機関と保証会社のみ。借りる側に直接的な便益はありません。受益者負担の考え方に照らし合わせれば、どう考えても理不尽な話です。
では一体、いくらぐらいの保証料を住宅ローンの利用者は支払っているのか、みずほ銀行の場合で試算してみました。
下表は借入額と借入期間別に保証料を一括前払いした場合のシミュレーションです。たとえば4000万円を35年返済で借りると保証料は82万円余り、1億円を35年返済で借りると200万円を超える保証料を保証会社に支払わなければなりません。かなりの負担になっているのが、お分かりいただけることでしょう。繰り返しになりますが、この保証料は金融機関が貸し倒れリスクを回避するために利用されます。
誤解が生じないよう補足しておきますと、今回は一例としてみずほ銀行の返済額シミュレーションを利用しているだけで、同行を糾弾する意図はまったくありません。また、フラット35のように保証料を不要としている融資機関がある点も付言しておきます。
「保証」と「保険」を混同していませんか?
上段では受益と負担のアンバランスを指摘しましたが、その一方、理解が不十分なまま保証料を支払っている借り主側にも問題がないわけではないと個人的には感じています。なぜなら「保証」と「保険」を混同しているきらいがあるからです。
繰り返し、保証料を支払ってもローン返済はなくならない点を強調してきましたが、ローン利用者の中には「保証」を「保険」と勘違いしている人がいて、自分(=借り主側)に代位弁済されることで、移管後の返済が免責されると思っているのです。
確かに、債務者が死亡または高度障害になると、生命保険(団信)の場合、その後の返済は免除されます。しかし、保証委託契約では借り主は免責されません。団信と債務保証は似て非なるものです。「保証」と「保険」は目的を異にした仕組みであり、代位弁済の受け手(効果の帰属先)がまったく異なることを忘れてはいけません(下記参照)。
あくまで私、個人の印象ですが、一般の人にとって住宅ローンは「難しい」「よく分からない」というのが本音のようです。無理もないかもしれません。ただ、このように保証の仕組み1つ取っても、金融機関に優位にできているのが現在の融資制度です。
思い出してください。金融機関は資金実行時に土地・建物(=融資対象物)に抵当権を設定します。これにより債務不履行となった場合には抵当権を実行し、強制売却(競売)によって抵当不動産を換価処分し、当然に債権(未回収の住宅ローン)を回収します。
そのうえに債務保証という予防線を張り、リスクヘッジを図っているのです。「担保の二重取り」と言われても仕方ないのではないでしょうか。借り主に保証料を負担させるのは、もう止めるべきと個人的には考えています。
(平賀功一)
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