マンションを初めとする不動産価格が上がり続けている。地価の上昇や建築費の高騰などの影響と言われるが、いまひとつ海外投資家によるインバウンド需要が価格を押し上げている面も大きいだろう。
なぜ、いま海外投資家が日本の不動産に関心を高めているのか。インバウンド需要は今後も続くのだろうか―。海外投資家の動向について知ることが、今後のマンション市場動向を把握することに繋がるかもしれない。
「投資先として魅力的な都市」1位の東京
アメリカ最大の事業用不動産サービス会社CBRE(シービーアールイー)によると、2022年の日本の不動産投資額は3兆8440億円。そのうち海外投資家による不動産取得は1.3兆円で、前年比12%の増加となっている。円安メリットもあって、わが国への海外投資家の投資意欲は依然として高いものがある。
今後の投資動向に関しては、日銀の金融政策の一部変更により、金利が上昇しつつある点がマイナスに作用するのではないかという面がある。だがCBREでは多少の金利上昇は織り込んだうえで、海外投資家の日本不動産への投資意欲は強い状態が続くのではないかとしている。
なにしろ、2023年に海外投資家が選んだ「アジア太平洋地域の投資先として魅力のある都市」のランキングでは、4年連続で東京が1位になり、シンガポール、ホーチミン、シドニーなど諸都市を上回っている。
CBREの調査では、2023年の投資額についても「前年と同じか増やす」と回答した海外投資家の割合が全体の75%に達している。前年の83%に比べるとやや数値は低くなっているものの、CBREでは2023年のインバウンド需要が後退する可能性は低いのではないだろうかとしている。
日本、東京は安心できる投資先
なぜ、わが国のマンションを中心とした不動産が海外の投資家から注目されているのだろうか。それは「日本が安心して投資できる先だから」に他ならないだろう。海外の投資家からみれば日本のマンション価格はまだ安い水準である上に、価格の上昇が続いており、かつ日本は社会・経済や治安が安定している。
国内市場、特に首都圏のマンション市場だけを見ていると、「高すぎてとても手が出せない」と思われがちだが、海外の投資家から見れば決してそんなことはない。むしろ、まだまだ安い。実際のデータをみてみよう。
日本不動産研究所の「第20回国際不動産価格賃料指数(2023年4月現在)」によると、マンション(高級住宅ハイエンドクラス)の価格水準は図表1のようになっている。
これは、東京都港区・元麻布のマンション価格(1戸の専有面積あたりの分譲単価)を100とした指数だ。大阪は64.6、ソウルは81.5と東京のほうが高めになっているが、北京は124.2で、上海は155.8、香港は242.7、台北は156.9、シンガポールは129.8などとなっている。香港に比べれば東京のマンションは半分以下のお買い得エリアということになり、台北や上海よりも5割方安い投資先ということだ。
東京の元麻布という庶民にはなかなか手が出せないような高級住宅地で分譲されるマンションでも、アジアの諸都市と比較するとまだまだ割安感があり、「買い」ということになるのだろう。
しかも、アジアだけではなく世界的にみても、同じことがあてはまる。東京の100に対してロンドンは181.7、ニューヨークは132.1となっている。欧米に比べて東京は割安感があり、やはり「買い」ということになるのではないだろうか。
東京や大阪のマンション価格上昇率が高い
また、先述の「国際不動産価格賃料指数」では、東京や大阪のマンション価格上昇率が海外諸国より高くなっているということも示されている。変動率は「10月~4月」の集計から算出されており、東京のマンションは2022年10月、2023年4月ともに前回比1.3%の上昇。大阪のマンションは2022年10月が4.3%、2023年4月が3.1%の上昇率だった。
それに対して、ソウルは2022年10月が前回比1.8%のダウン、2023年4月が5.5%のダウンだった。香港も2022年10月は1.3%のダウンで、2023年4月が0.2%の上昇。上昇しているといっても、東京や大阪に比べると上昇率は低い。
北京や上海はわずかに上がっているものの、東京や大阪に比べると上昇率は低い水準にとどまっている。これらを踏まえると、わが国のマンションは安定的に資産価値を高めていると言えそうだ。
経済的には他の先進国に比べるとやや停滞感があるものの、経済基盤は安定しており、治安などの面でも安心して投資できる。その点において日本は海外投資家からの評価が高く、投資につながっているのではないだろうか。
円安が海外投資家を後押ししている?
また、円安による購入のしやすさなどが日本への投資ブームに拍車をかけていると考えられる。日本国内ではマンション価格が急速に上がってとても手を出せないような状態になっているが、海外の投資家からみれば、円安によってむしろ日本のマンション価格は下がっているのだ。
円安が海外投資家を後押ししている可能性を示唆するデータとして、図表3をご覧いただきたい。ここでは首都圏新築マンションの平均価格(円)と、当時のドル円レートで換算したマンションの平均価格(ドル)の推移を示している。
この10年間の首都圏新築マンションの平均価格をみると、2012年度は4563万円だったのが、2022年度には6907万円に上がっている。10年間で51.4%のアップであり、1.5倍の価格水準になっている。
日本人としては賃金がさほど上がらず、むしろ実質賃金は下がっている中での価格上昇のため、たいへん買いにくくなっている。しかし、これに為替レートの動きを加味するとどうなるのか、考えてみよう。
2012年度、首都圏新築マンションの平均価格が4563万円のときの為替レートは1ドル79.79円。マンションの平均価格をドル換算にすると、57万1876ドルという計算だ。それに対して、2022年度は6907万円だが、1ドルは135.62円と円安・ドル高が進んでいるため、ドル換算では50万9291ドルになる。2012年度の57万1876ドルからすれば、10.9%下がっていることになる。
国内の日本円を基準に考えるとマンション価格が10年間で1.5倍に上がっているといっても、ドル換算で考えると、むしろ10年前に比べて1割安くなっている。海外投資家からすれば、これほど魅力的な買い物はないのではないだろうか。
円安は今後どこまで進行するのか
もちろん、さらに円安が進んでいけば、せっかく買った物件の価値がドル換算では低下してしまうことになる。しかし果たして、これ以上にどこまで円安が進むのかといえば、これまでの10年間のようなことにはならないだろうという見方が強い。
2012年度の1ドル=79.79円が、2022年度は1ドル=135.62円になり、ドルに対して円が10年間で7割ほど下がったが、今後については1ドル=140~150円前後で推移するのではないかとする専門家が多い。
なかには1ドル=150円を超えて、さらに円安が進むとする識者もいるが、1ドル=180円、190円、そして200円にまで下がる可能性は低いのではないだろうか。そんなことが起きるとすれば、それは日本経済破綻のときであり、不動産投資どころではなくなるだろう。そのような事態は考えづらく、為替レートをみても、そろそろ円安が落ち着きそうな地点が近づいているのではないだろうか。
逆にいえば、昨今のような円安の環境が変わらなければ、海外投資家にとって日本のマンションを初めとする不動産への投資は恵まれた状態が継続することになる。その場合、今後もしばらくはインバウンド需要が続き、マンションなどの不動産価格を下支えすることになるのではないだろうか。
(山下和之)
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