RC打ち放しの住宅(PHOTO:わったか/PIXTA)

一級建築士である私が、現場を知る「実務者の視点」で、建築にまつわるさまざまな疑問を解決していく本連載。読んで楽しい建築の雑学や、いまこれがアツい! というトレンドを紹介していきたいと思います。

今回のテーマは「うちっぱなし」です。

「ゴルフの練習場ね」「そっ、なかなか飛距離が伸びないんだよなぁー」…と、ノリツッコミをしている場合ではありません。

ここで言う「うちっぱなし(打ち放し)」は、鉄筋コンクリート造(RC造)建物の外壁の一種である「コンクリート打ち放し仕上げ」のことです。

この「打ち放し」の外壁は、タイルも何も張っていないのだから、工事が簡単なんだし、みんな採用すればいいのでは? と思ったことはないでしょうか。ところが、打ち放しはけっこうメンドウで、なかなかそうもいかないのです。

なぜ打ち放しはメンドウなの? そもそも打ち放しってどういうもの? 今回は、みなさんのそんなギモンに回答したいと思います。

「外壁」の役割って?

コンクリート打ち放しの外壁について学ぶ前に、そもそも外壁って何だっけ? というお話を少しさせてください。

「外壁」は、建物の骨格である構造材を守るために存在しています。構造材とは、木造なら木、鉄骨造なら鉄、RC造ならコンクリートのことです。これらの構造材は建物を支える重要なものですから、そのまま風雨に晒して劣化させるわけにはいきませんよね。

例えば鉄骨造の構造材は、このような鉄。最終的には外壁を張って保護しなければならない(PHOTO:極楽蟷螂/PIXTA)

これらの構造材に覆い被せるようにラッピングをして美観を保つと同時に、外部の環境(雨・風・熱・寒・粉塵など)から構造材および室内を守る、というのが外壁の役割です。

そのため外壁には高い耐久力が求められ、使用できる材料の種類も案外多くありません。外壁にどんなものが使われているのかについては、私が解説しているこちらの動画も参考にしてください。

RC造建物の場合、外壁もコンクリートで作るのが一般的です。というよりは、構造材としてのコンクリート(の一部)が、そのまま外壁と一体化している、と言った方が正確かもしれません。

コンクリートは木や鉄と違って流動性を持ち、現地で固まる素材です。そのため、構造材であるコンクリートの柱や梁をつくる際、ほぼ同時に外壁もつくることができます。これなら工種が少なくて経済的です。

またコンクリートは音を通しにくく、水にも火にも強い素材なので、外壁として使うメリットも多いのです。

RC造の場合、構造や外壁はこのように木製のパネルなどで型枠を組み、そこにコンクリートを流し込んでつくられる(PHOTO:papilio/PIXTA)

このような理由から、構造がRCであれば外壁も必然的にコンクリートとなります(例外といえば外壁をガラスで覆ったカーテンウォールの高層ビルぐらいでしょうか)。

そんなわけで、RC造の外壁はコンクリートで作り、欠陥部をモルタルなどで補修した上にタイルや石を張って仕上げるか、または吹付け塗装をして「お化粧」することが一般的です。

マンションなどに見られる一般的なタイル張りの外壁(PHOTO:撮るねっと/PIXTA)

しかし、建築工事にはトラブル等で「途中で予算が足りなくなる」という事態はつきものです。

あるとき、どこかの現場で、「コンクリートって耐久性もあるんだから…このまま(素地のまま)外壁にしちゃっていいんじゃね?」ということで、仕上げを省略したコンクリート打ち放しが誕生したのだと思われます。

しかも、打ち放しのコンクリート面は均一ではなく、コンクリートそのものが持つ素材感や、奥行きのある表情など、人工製品には出せない魅力があります。そのため「ストイックでかっこいい!」となったのでしょう。

外壁に張るタイルなどを「お化粧」に例えるなら、打ち放しは「すっぴん」ということが言えそうです。ただ、すっぴんの状態が綺麗であるためには、日々の手入れが欠かせないので、とても大変なのです。これについては後述します。

打ち放しの外壁はこうやってつくる

では、コンクリート打ち放しの外壁はどのように作られるのでしょうか? 基本的には、先ほど説明したように、鉄筋を組み合板で型枠を作ってそこにコンクリートを流し込んで固めて作られます。

このときに使う打ち放し向けの型枠は、表面に塗装が施された「パネコート」と呼ばれる、オレンジ色の合板が一般的です。

型枠に使われる「パネコート」。合板に塗装をすることで平滑な面をつくり、コンクリートの表面をきれいに仕上げるとともに、コンクリートが固まったあとに剥離しやすくしている。合板に取り付いている棒のようなものは、セパレータ(Pコン)と呼ばれる部材で、型枠を組み立てる際に使用する。コンクリートの表面に丸い孔が残っているのは、このPコンの跡を補修したもの(PHOTO:90s Bantan/PIXTA)

最終的に「化粧」としてタイルを張るのであれば、コンクリートの表面については、綺麗に仕上がっていなくても問題ありませんでした。

しかし、素地をそのまま見せる打ち放しとなるとそうはいきません。凹凸が多いと凹部には水や汚れがたまってしまいますし、Pコン(コンクリートの型枠を一定距離に保つためのスペーサー、上記写真参照)の配置も目に見えるわけですから、一定の間隔で計画的に配置しなければなりません。

さらに、コンクリートの打設がうまくいかないと、「ジャンカ」(骨材が一部に固まって隙間が生じている状態)や、「コールドジョイント」(先に打ったコンクリートと、後に打ったコンクリートの継ぎ目)といった不具合がそのまま表面に見えてしまうことになります。

「コールドジョイント」(左)と「ジャンカ」(右)。どちらもコンクリートの不具合としてよく見られる(PHOTO:90 Bantan/PIXT)

きれいな打ち放しを完成させるためには、合板やPコンの配置を事前に綿密に検討し、型枠の精度を高め、上記のような欠陥ができないような打設計画が必要となります。

「素地だから安い」がスタートだったのに、いつのまにか「手間がかかって大変」となってしまうのです。

さらに、万全な準備をし、いざ打ち放し外壁をきれいに打設するぞ! と意気込んでも、最後は人間による工事ですから、当然ミスも起こります。

ベストを尽くしても、型枠を剥がすまではきれいに仕上がっているかを調べる術はありません。祈るような気持ちで型枠をはずしていくと…部分的に残念な仕上がりとなっている、ということも少なくありません。

これをやり直すには一度解体するしかなく、そうなればお金も時間も、さらにはゴミが増えるという悲しいことになってしまいます。

打ち放し「風」塗装の登場!

このように、本当の打ち放しには時間と手間がかかります。そこで、「打ち放し”風”塗装」が誕生しました。

例えるなら、コンクリートのための「ファンデーション」のようなものです。見た目は打ち放しに近いのに、実はうっすらコーティングがされているような状態ですね。

先に紹介した不具合であるジャンカなどは、状況によっては小石を掻き出してエポキシ樹脂モルタルなどで詰めて補修する事があります。

ただし、こうなると他の打ち放し面と大きく表情が違って目立ってしまいます。そんな場合に打ち放し風塗装が利用されます。

打ち放し風塗装の場合、補修部に薄く塗装を施して周囲に溶け込ませるようにできるのです。

このような塗装にはかなりの技術が必要で、絵描きのような専門の職人が作業をします。他の打ち放し部分の不均一な表情や色を現場で調色しながら、スプレーや筆、スポンジなどを用いてキャンバスに絵を描くように補修するのです。

補修方法はそれぞれ独自のテクニックがあります。中には門外不出の技術が盗まれないよう、シートで囲って手元を誰にも見せないようにする職人さんもいました。

腕が良い職人さんはトラック1つで日本中を回りながら稼ぎまくるとか、時には「あの有名建築家、安藤忠雄を唸らせた職人がどこどこにいるらしい」というような都市伝説が生まれることもありました。

通常、以下の写真のようにPコン部分は少し凹んでいますし、合板の継ぎ目はすこし段差があるのですが、これらを職人技で真っ平らな面なのに濃淡で凹みを感じさせるなど、まさにトリックアートのように絵を描く職人さんがいるのです。

一般的な打ち放しの外壁の例。Pコンの孔や合板の継ぎ目が目立つ(PHOTO:90 Bantan/PIXTA)

 

しかし、補修後すぐは他の部分と同化している状態でも、数年経過すると経年変化によって他の部分と補修部分が違って見えて来てしまうのです。マジックは長くは続かないというわけですね。

経年変化で補修箇所が目立ってくることもあり、現在よく用いられているのは打ち放し風全面塗装です。

これは厳密には打ち放しとは言えないのですが、全面塗装ですので欠陥部補修をしても他の部分と同じように見せることが可能です。さらに大規模修繕時にまた上塗り塗装をすれば、新品同様に復活するというわkです。

しかも、外壁であるコンクリートを塗膜が保護してくれる役割も持つので、いまではこの打ち放し風全面塗装が全盛期を迎えている状況で、いたるところでこれが採用されています。

ちなみに、「本当の打ち放し」といえど、完全な無塗装は少ないです。表面に塗膜をつくるタイプか、コンクリートに塗料が浸透するタイプかで違いはありますがクリア塗装(フッ素などさまざま)がされており、汚れがつきにくくなっています。

(上)素地の上に透明のクリア塗装が施された、打ち放しの外壁。本当の打ち放しに最も近い (中)コンクリートの素地はそのままで、部分的に色付き塗装を行って補修したあとクリア塗装した外壁。コンクリート独特の質感が、人の手によって再現されている。スタンプのような繰り返されるまだら模様が人工的であることがわかる (下)素地をモルタルなどで補修したうえで、全面に色付き塗装しその上にまだら模様をつけた外壁。これが打ち放し”風”の塗装で、町で見かける打ち放しのほとんどがこれ(著者撮影)

しかし色がついていないので補修はできませんし、自然の色斑、凸凹、個性はそのまま見えてきます。よって、本物のコンクリートらしさは健在なので、経年変化での汚れが馴染み、味と感じさせてくれる魅力は残ります。

なお、「打ち放し風全面塗装」は補修後に全面塗装し、人工的に濃淡をつくるので、どことなく既製の商品のような雰囲気が感じられます。

建築家によっては、このような全面化粧を嫌がり、その場で固まったコンクリートが持つ表情を残したいと考えるのです。

個人的にも、「部分補修」は許容できても「打ち放し風全面塗装」は避けたい、と思っています。「打ち放し風全面塗装」に生じた汚れは味にはならないからです。

結局、タイルと打ち放しはどっちがいいの?

最後に、RC造の外壁は「タイル張り」と「打ち放し(打ち放し風塗装)」どっちが良いかを比較しながら、私なりにお答えします。

まず、新築時点でのコストは「タイル張り」のほうが高額です。タイルそのものの価格がある分、「打ち放し」よりも高くなります。初期費用で言うと、だいたい2倍ぐらいタイルの方が高くなると思われます。

ただし、タイルは汚れに強く、メンテナンス費用があまりかかりません。最近のタイルは接着剤の性能が上がり、浮きや剥離が起きにくくなって張り替えの費用もかからなくなってきています。

その点、「打ち放し」の方は、これまでご説明したようにいろいろと手間がかかり、塗装も必要なので、長い目で見ればそれなりのコストがかかります。

塗膜は紫外線等で劣化するので、15年に一度は足場をかけて、外壁部を高圧洗浄、全面再塗装が必要となります。したがって、メンテナンス費用は「タイル張り」よりも高くなります。

最後に、それぞれの「見た目」の違いについてです。

タイルは経年変化が少なく、汚れに強いので美観が保たれるメリットがありますが、どのようなタイルを選ぶかで、外観の印象は大きく変わってきます。

タイルの色は途中で変えることができませんので、一時的な流行に乗ったようなものを選ぶと、後々古臭く感じられるようになってしまうかもしれません。

一方「打ち放し風全面塗装」はいまどこにでもあり、一見「デザイナーズマンション」的な雰囲気はしますが、汚れも目立ちますし、のっぺりとした奥行きのない表情は(好みの問題ですが)個人的にはあまり好きではありません。

「打ち放し」はさまざまな部分を隠すことができないので設計者も施工者も時間と手間をかけて挑み、想いのこもった建築になっていると思います。また、大気の汚れをコンクリートに取り込み、ゆっくりと環境に馴染んでいく感じが個人的には好きですね。

なお、一般的には「打ち放し」用型枠としては冒頭で触れた「パネコート」が使われますが、あえて荒々しい表情にするために、針葉樹合板やラワン合板などを使用している物件もあります。

また、あえてスギの型枠を使って、「微細な木目の凹凸を転写する」という方法もあります。これは、高級な物件でよく見られます。

スギの板を使った型枠で「打ち放し」にして、このような表情を出すことも。ただ、木目の凹凸が極端に出ているものは、工場で作られた杉板”風”を使っているケースもある(PHOTO:kker/PIXTA)

表面を保護するために塗るクリア塗装も、光沢感のあるものやマット感のあるもの、また薄く白や黒の色味を入れたものがあります。こうした設計者の「こだわり」が感じられると、また面白いと思います。

ぜひ、近所を歩きながら「打ち放し」を見つけていただき、あなた自身の好みの「打ち放し」を見つけていただけると嬉しいです。そうなると、もうあなたは「建築マニア」の仲間入りですよ。

(一級建築士・岡村裕次)