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10月10日、「全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)」が運営する「全国銀行データ通信システム(全銀システム)」に障害が発生しました。

全銀システムは、ひと言で言うと「銀行間の送金システム」です。この件はニュースなどで大きく取り上げられたので、皆様の記憶に新しいでしょう。

三菱UFJ銀行、りそな銀行などの金融機関で、他行宛ての振り込みができなくなり、影響を受けた方もいるのではないでしょうか。

この障害により、銀行業が社会の重要なインフラであることが改めて認識されたとともに、全銀システムが古いシステムであることもクローズアップされました。

不動産投資においても、例えば決済の当日にこのような障害が発生すれば、問題となるはずです。そこで今回は、この全銀システムの障害について確認していこうと思います。

そもそも「全銀システム」とは?

全銀システムは、金融機関間の振込を中継する資金決済システムです。1973年に稼動して以降、概ね8年ごとにシステム更改を行っています。

これまでに6度の更改を経て、現行システムは、2019年11月に稼動した第7次全銀システムです。

全銀システムは、銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、農業協同組合など、日本のほとんどの預金取扱金融機関が参加しているネットワークです。

(出典:全銀ネット「システム障害に係る対応状況について」)

全銀システムは、平日日中(8時30分~15時30分)の振込に対応する「コアタイムシステム」と、平日夜間(15時30分~8時30分)および休日の振込に対応する「モアタイムシステム」を通じて、24時間365日稼動しています。

全銀システムは、東京および大阪の2か所のセンターで並行運転しています。これにより、大規模な災害等で一方のセンターがダウンしても、もう一方のセンターでほぼ通常と同様の運用を継続することができます。

また、電源、記憶装置、各種制御装置や通信回線も二重化し、世界にも類を見ない極めて高い安全性・安定性を有すると説明されてきました。

24時間365日、常時運用状況を監視しており、「1973年に稼動して以来、オンラインを停止する事故・障害は一度も発生していない」と全銀ネットの説明文には誇らしげに記載されていました。

今回は、この銀行業界が誇るシステムで、ついに大きな障害が発生したことになります。

全銀ネットは信頼性に定評がある一方で、管理や維持費用の高さから、加盟金融機関が負担する利用料は年3500万〜2億円弱にのぼるとされています。

新興勢が参入するときの障壁にもなっていると指摘されており、富士通がメインフレームの製造・販売や既存顧客向けの保守から撤退する方針を表明したこともあり、2027年にはより廉価なオープン系システムへと刷新する予定とされています。

全銀システムの仕組み

全銀システムは、平日日中の処理を行う「コアタイムシステム」と、平日夜間および休日の処理を行う「モアタイムシステム」、および各金融機関をつなぐ「中継コンピュータ(Relay Computer:RC)」からなっています。

以下はその概要を図示したものです。

(出典:全銀ネット「システム障害に係る対応状況について」)

各金融機関は、自社に設置した2セット以上のRCを通じて、全銀センターと電文(コンピュータ間でやりとりされるデータ・情報のこと)の発受信を行っています。

私たち銀行利用者が振込というサービスを使う場合、私たちの銀行口座から相手先の銀行口座に直接送金されるわけではありません。銀行同士が直接繋がっているということではないのです。

上図の通り、まずA銀行からRCを通じて、全銀システムに通じ、その全銀システムからB銀行は電文を受け取って口座への入金処理を行います。

各金融機関は、それぞれ独自のシステムを構築しており、この全銀システムと接続するためには、伝送制御手順、電文形式などを揃える必要があります。

そこで、RCは、伝送制御手順等を変換するなどしてデータを送信するほか、自行システムが障害となった場合には、直接中継コンピュータで発受信を行うことにより、全銀センター・自行センター間の通信を継続するというバックアップ機能を果たすものです。

なぜ障害が起きたのか?

では、今回、どのような障害が、なぜ障害が発生してしまったのかについて簡単に見ておきましょう。少々専門的な内容も含みますが、要点を絞ってご説明したいと思います。

まず、今回の全銀システムの障害は、RCが要因とされています。

10月7日(土)~9日(月・祝)において、RCの新機種(23シリーズ)への更改を、14の金融機関で実施しました。

しかしながら10月10日(火)のコアタイムシステムの通信開始(8時30分)後、10行において、更改したRC(黄色部分)で電文の送受信ができなくなるトラブルが発生しました。

(出典:全銀ネット「システム障害に係る対応状況について」)

このトラブルが生じた10行とは、三菱UFJ銀行、りそな銀行、埼玉りそな銀行、関西みらい銀行、山口銀行、北九州銀行、三菱UFJ信託銀行、日本カストディ銀行、もみじ銀行、商工組合中央金庫です。

障害の原因の説明については、全銀ネットが以下の図を基に説明をしています。


(出典:全銀ネット「システム障害に係る対応状況について」)

・電文1件ごとに、仕向機関が被仕向機関に支払う「内国為替制度運営費」(金額は種目により異なる)については、「①金融機関が予め電文に金額を入力してRCに送信」、「②予めRCに設定されたテーブルを参照して、RCが電文に金額を入力」、のいずれかの方法がある。

・今回、②の方法を採用している10行において、「予めRCに設定されたテーブルをRCが参照する処理」でエラーが発生し、RCが異常終了した。


また記者会見では「RCに使用される金融機関のインデックスが並べられた参照テーブルが、事前準備の段階から壊れていた」との発言があったとされています。

障害が発生した際の復旧対応としては、「あらかじめRCに設定されたテーブルを、RCが参照する処理」においてエラーが発生したことを踏まえ、RCに対して、 以下のプログラム修正を実施しています。

この対応は暫定対処であり、根本的な復旧策ではありません。この点はもちろん課題として残っています。

今回の障害は、当初は上図のアプリケーションにあるような報道がされていましたが、実際には参照テーブルに問題があったということになります。

当初は日経新聞が、RCのメモリ不足が原因である、という報道もしていましたが、現時点ではこれが正しいか確定されていません。では、参照テーブルが壊れるような事象が発生するのはどのような事態なのか? これが今後検証されていくことになるものと思われます。

全銀ネットは金融庁から報告徴求命令を受けています。11月末までには障害の原因につ言えては報告されることになるでしょう。

懸念点と今後の展望

今回、RCを2台同時に交換したことが疑問視されています。

「なぜ2台同時に交換したのか。片系を残す施策は検討しなかったのか?」と記者会見で質問された全銀ネットは以下のように回答しています。


片系ずつの移行はリスクの低減につながる手段だと分かっていた。しかし、システム定義上の問題などもあるため、移行の難易度が高くなる側面もある。そのためRCは両系移行を前提に行った


RCを1台ずつ交換すれば、リスク低減となることを認識しつつも、総合的に判断して一気に交換したところ、問題が発生してしまったと想定されます。

全銀システムは、東京および大阪の2か所のセンターでの並行運転に加え、電源、記憶装置、各種制御装置や通信回線も二重化し、世界にも類を見ない極めて高い安全性・安定性を有するとされてきました。

せっかくの2重化を捨ててまでRCを2台とも交換したことが正しかったのか、今後検証されていくでしょう。

1973年の稼働以来、50年もの間、オンラインを停止する事故・障害は一度も発生していなかった全銀システムが障害を起こしたことは、大きな驚きをもって受け止められています。

システムであったとしても完璧はあり得ません。人が作ったものである以上、どこかに問題は潜んでいます。そして、素晴らしいシステムであっても、人のミスによってトラブルが起きることは過去の事例が証明しています。

今回の全銀システムの障害理由が判明した際には、銀行業界への信頼が揺らぐ可能性もあります。まだ記憶に新しいみずほ銀行のシステム障害もありました。

システムを更新していくうえで何が大事なのか、そして人手不足の中で本当にシステム維持ができるのか、今回は改めて「人材」という問題がクローズアップされるかもしれません。

我々の日常は、人手によって支えられています。物流・建設しかりです。今は当たり前に享受できているものが、少子高齢化に伴い享受できなくなる可能性は十分にあります。

銀行の機能は社会のインフラであり、止まると今回のように大きな混乱が起きます。物流が止まれば、大混乱が起きるのと同じです。

今回の送金障害時には、不動産購入の決済日だった方もいらっしゃったはずです。入金が確認できず、引き渡しが延びたり、引き渡しが中止になったりした方も存在するでしょう。

不動産の決済日に、送金・入金が安定して行われなければ、大きな問題になります。契約・決済の前提が崩れるためです。

銀行業界の信頼性を維持していくために、全銀ネットは徹底した対応をしていく必要があるでしょう。

(旦直土)