国土交通省は2023年8月10日、「今後のマンション政策のあり方に関する検討会」(以下、検討会)のとりまとめを公表した。
試算によれば、2022年末時点でマンションに住んでいる人の数は約1500万人。国民の約1割が分譲マンションに居住していると推計される。
2000年以降に急増したタワーマンションも、築年数が増えるにつれてメンテナンス費用の増加が見込まれる。
永住目的で住む人は増加傾向にある中で、マンションは区分所有者の高齢化と建物の高経年化、修繕積立金や管理組合の役員不足など様々な問題に直面している。
こうした状況に対応すべく、管理・修繕の適正化や再生の円滑化の観点から、今後進めるべき政策を有識者が幅広く検討するため、2022年10月に設置されたのが検討会だ。
過去9回の開催を経て、この8月にとりまとめの公表に至った。内容をご紹介する。
マンションが直面する「2つの老い」
マンションは、主に都市部において主要な居住形態として国民に定着しており、総ストック数は700万戸に到達しようとしている。
先述の通り、国民のおよそ1割が分譲マンションに居住していると推計されるほか、「永住するつもり」の回答率は増加の一途を辿っている。
しかし、マンションは居住者と建物という「2つの老い」に直面している。
建築着工統計によると、築40年以上を経過した高経年のマンションは2022年末時点で約125万7000戸存在する。2032年には約2.1倍の約260万8000戸、2042年には約3.5倍の約445万戸と急増する見込みだ。
区分所有者の高齢化も進んでいる。高経年のマンションほど、世帯主の年齢が70歳以上の割合は高い。
さらに、空室や賃貸といった非居住化、管理組合の担い手や修繕積立金の不足のような問題も発生している。
検討会ではさらに、適切な長寿命化工事、性能工事、マンションの大規模化などを鑑み、今後のマンションのあり方について、様々な観点で有識者が対応を話し合った。
管理組合役員の担い手不足が深刻
そもそも、マンション管理では区分所有者が管理組合の一員として責務を果たすことが重要となる。
このため、「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」(以下、マンション管理適正化法)などの見直し議論も見据えた検討を行っていくこととした。
ただ、区分所有者の高齢化などにより、管理組合役員の担い手不足が顕在化している。
こうした中、管理業務を受託している管理業者が、当該マンションの管理者として選任される事例が増加している。
しかし、マンション管理適正化法には、法の適用に関する具体的なケースやガイドラインがない。
マンション管理業協会による「マンション管理トレンド調査」によれば、2023年4〜5月時点で管理者業務を「受託している」、もしくは「今後受託を検討している」と回答した管理業者は167社に上り、2020年と比べて約3割増加した。
理事会を設置しない方式を採用している管理業者も約7割いる。住民は管理組合の活動に参加せずにすむため負担は軽くなるが、良いことばかりではない。
「管理」と「工事」の利益相反が発生
国交省が2023年2月~3月に実施した調査によると、管理業者が管理者に選任されているケースのうち、51%の管理業者が「管理者としての契約を結んでいない」と答えている。
また、76%が「管理組合保管口座の通帳と印鑑を管理会社で保管している」という。
管理者となっている管理業者が自社に工事部門を持っている場合、大規模修繕工事を受注して自社に発注することは、利益相反となる可能性がある。
工事部門はできるだけ高額での受注を望む一方で、管理部門はできるだけ管理手数料を下げたいと思っているためだ。
国交省の調査では7%の管理会社が「受注している」、38%が「受注することがある」と答えている。
これらの問題については、管理業者が管理者となる場合に適用される、マンション管理適正化法に係る解釈・運用について明確化し、周知徹底することが好ましい。
加えて、管理業者等が管理者となる場合の実態等の把握を進め、マンション管理業の所管部署とも連携する形で、留意事項等を示したガイドラインの整備や、監事の設置など望ましい体制整備についてマンション標準管理規約等における手当ての検討を行うことも求められる。
長期修繕積立金が「不足」は3割
マンションの長寿命化を図るには、適切な長期修繕計画を作成するだけでなく、修繕履歴などを踏まえ、適切に見直しを行い、修繕積立金を安定的に確保することが必要となる。
国交省の2018年度の「マンション総合調査」によれば、長期修繕計画を定めて修繕積立金を積み立てているマンションのうち、「現在の修繕積立額の残高が、長期修繕計画の予定積立残高に対して不足している」と回答したマンションが34.8%に上る。
長期修繕計画について、たとえば5年ごとのように定期的な見直しがされているマンションは約56%だった。
修繕積立金の積立方式には、2種類ある。
ひとつは、総額を長期修繕計画の期間で割り、一定額を徴収していく「均等積立方式」。もうひとつは、最初は金額を低く設定し、段階的に増額していく「段階増額積立方式」だ。
国交省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」では、将来にわたって安定的な修繕積立金を確保する観点から、「均等積立方式」が望ましいとしている。
しかし、近年分譲されるマンションのほとんどが「段階増額積立方式」を採用している。予備認定マンションでは98%が「段階増額積立方式」を取り入れている。
「段階増額積立方式」では最大10倍に
国交省は「段階増額積立方式」の249事例を分析。長期修繕計画において、計画当初から最終計画年までのすべての事例の平均増額幅は約3.58倍だった。そのうち、42事例の平均増額幅は約5.30倍。中には10倍を超えるケースもある。
このため、検討会ではマンションの長寿命化の実現に必要な修繕積立金を確保するため、適切な長期修繕計画のあり方について検討を行う方針を固めた。
また、長期修繕計画の計画期間を通じた修繕積立金の上昇率等について計画と実績の把握を進め、管理計画認定基準やガイドライン等における手当てを視野に、適切な修繕積立金の引き上げ幅等についても検討する。
「段階増額積立方式」から「均等積立方式」への変更の支援を継続して実施するとした。
大規模修繕工事の発注をめぐる問題
管理組合は、大規模修繕工事の発注者となる場合がある。
大規模修繕工事の発注額は非常に高額となるにも関わらず、管理組合は必ずしも発注や工事監理に係るノウハウを有していない。
大規模修繕工事の発注・業者選定のルールを定めていない管理組合は48.0%に上る。
大規模修繕工事の発注方式は、「責任施工方式」と「設計監理方式」に大別される。
国交省の調査によると、近年は「設計監理方式」の割合が80.1%を占めている。同方式では、設計コンサルタント等が診断や設計、工事監理を行う者として管理組合をサポートする体制を取る。しかし、設計コンサルタントによる不適切な対応が問題視されることがある。
これについては、管理組合が大規模修繕工事を発注する際の相談窓口の設置など、引き続き管理組合のサポート環境の整備を行う。
並行して、設計コンサルタントが実施する業務実態や、管理組合による設計コンサルタントの選定プロセス等の実態把握を進め、管理組合が適切な設計コンサルタントを判別しやすくする仕組みのあり方について検討を行う。
国交省の調査によると、マンションの2023年3月末時点での建て替え実績は累計で282件、約2万3000戸に及ぶ。
ただ、多くの管理組合ではマンションの将来の解体等までを見据えた議論が行われておらず、解体費用も認識されていない。
加えて近年、建て替えにあたっての区分所有者の費用負担は上昇傾向にある。区分所有者の平均負担額は、2017~21年では1941万円にまで増加している。
マンションの寿命を見据えた通常の長期修繕計画よりも超長期の修繕計画のあり方について検討を行うとともに、実態調査によって必要な解体費の相場の把握を進め、各種ガイドラインなどへの反映を検討する。
また、他の制度を参考にしつつ、積立方式や保険制度を含む解体費用の確保手法のあり方について検討を行う。
超高層マンションのメンテナンス費用は高額化
高さ60メートル、20階以上の「超高層マンション」は、2000年代以降に建設が急増し、2021年末の累積棟数は全国で約1400棟に上る。
国交省の調査によると、超高層マンションでは、マンションの管理に係る区分所有者の合意形成について、管理を受託する管理業者の35%が「困難性がある」と回答している。
区分所有者の属性の差があるほか、一般マンションと比べて管理組合への参加意識が低い傾向があるといった特有の課題があると指摘している。
また、超高層マンションは非常用エレベーター、タワーパーキング、内廊下内の空調設備、セントラルヒーティング、スプリンクラー、非常用発電設備、エスカレーターといった特有の設備を有している。こうした設備のメンテナンス等には高額な費用を要する場合もある。
そのうえ、超高層マンションのような大規模マンションでは、管理費や修繕積立金など管理組合が取り扱う金額も大きくなり、業務が複雑化する。一方で、会計監査や業務監査の体制が整っていない点も指摘されている。
そこで、超高層マンションの実態調査を実施し、その結果を踏まえて、必要に応じて超高層マンションの管理等に係るガイドラインの整備などを検討する。
会計・業務監査のあり方については、専門家の活用を念頭に置く。超高層マンション特有の修繕項目及び工事費用の実態の把握を進め、必要に応じて長期修繕計画の作成に関するガイドラインへ反映する。
国交省は、今回のとりまとめをマンション政策全般に係る大綱とした。
2023年秋頃を目途に検討会の下にワーキンググループを設置し、「管理業者が管理者となる場合を含めた外部専門家の活用のあり方」をはじめ、主にマンションの管理面についての検討を進める方針だ。
(鷲尾香一)
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