WeWork公式サイトより

今年9月、オフィス・スペースレンタル大手の米WeWorkについて、以下の記事で筆者は、「破綻する可能性が高い」と述べました。

砕かれた幻想…経営危機の「WeWork」がもう復活できそうもない理由 

そして11月6日、WeWorkは事業の「包括的再編」の一環として、連邦破産法第11条の適用を申請し、倒産しました。日本で言うところの会社更生法の申請です。

今回は、WeWorkの倒産劇はどのようなものだったのか、改めて振り返ってみたいと思います。

賃料が払えず連邦破産法申請

11月6日、WeWorkは米ニュージャージー州で連邦破産法第11条の適用を申請しました。これについて、まずはWeWorkのWebサイトに掲載された内容を紹介しておきましょう。


■主な内容
・タイトルは「WeWorkはバランスシートを大幅に強化し、不動産占有面積をさらに合理化するための戦略的な行動を取る」というもの

・WeWorkのスペースは引き続きオープンしており、メンバーへ体験を提供し続けている(事業は継続している)

・WeWorkは主要な財務関係者からのサポートを得て再建支援契約を締結し、既存の債務を大幅に削減する

・破綻申請したのは米国およびカナダにおける事業であり、それ以外のWeWorkの拠点は対象外

・WeWorkはリース(貸借)の拒否計画を持っている

・今こそ(負の)遺産となっているリース(貸借契約)に取り組み、バランスシートを改善することで未来を前進させる時である


WeWorkは本年9月、ビルオーナーに対して賃借契約の再交渉を開始し、特定の拠点からは撤退すると発表していました。

WeWorkのWebサイトには37カ国、660の拠点が掲載されていますが、このうちどの程度が対象となるかは分かりません。

米国での報道によれば、WeWorkは本年6月時点で米国の他のどの企業よりも多い2000万平方フィート(約600万平米)近くのオフィススペースを借りていたとされています。

前回の記事でも触れた通り、破綻したということは、WeWorkが「簡単には黒字化できなかった」ことを意味します。個々のビルオーナーに賃借料の削減を交渉していったのでしょうが、コストの削減が手元キャッシュの流出スピードに追い付かず、資金繰り破綻となりました。

WeWorkのコストの大半は、ビルオーナーに支払う賃料ですので、この過大なリース(賃借)負担を破産法の申請によって整理していくために、今回は連邦破産法を申請したのです。

時代の寵児はなぜ凋落したのか

WeWorkの株価は年初から98%以上下落しており、11月3日時点での評価額は4500万ドル未満となっていました。

非上場ながらも高い評価を受けていた2019年のピーク時には、WeWorkの価値は約470億ドル(約7兆円)と見積もられていましたから、まさに凋落です。時代の寵児として名を馳せたWeWorkの歴史を、少しおさらいしておきましょう。

WeWorkは2010年にCEOのアダム・ニューマン氏やミゲル・マッケルビー氏らによって設立されました。

両氏は、それまで運営していたシェアオフィス事業を売却した資金を元手に創業しています。企業理念として「ただ生きるためではなく、豊かな人生を送るために働ける世界を創造する」を掲げ、後にオフィス・スペースレンタル大手に上り詰めていきます。

WeWorkに「新規性」があると思われていた理由は、シェアオフィスにコミュニティや企業向けサービスのプラットフォームを追加したり、データを活用したりすることでオフィス環境に変化をもたらすと、投資家を中心とした関係者に期待させたことです。

不動産テックの旗手として、そしてプラットフォーマーになり得る存在として、WeWorkは順調に資金調達を重ねていきました。

2017年には、あのソフトバンクグループが運営する「ソフトバンク・ピジョンファンド」が初めて出資し、その後も最大のスポンサーとしてWeWorkを支えます。

そして2019年、WeWorkは絶頂を迎えます。上場申請を行い、ユニコーン企業の超大型上場、歴史的なサクセスストーリーとなるはずでしたが、上場申請の際に開示された業績があまりにも悪すぎ、かつアダム・ニューマン氏が資金を私物化していたことも判明、上場申請撤回に追い込まれました。

その後、ソフトバンクグループ主導の下にリストラを実施、黒字化を目指していましたが、2021年には特別買収目的会社(SPAC)との合併を活用しニューヨーク証券取引所に上場しました。

ただ、その後も赤字体質は変わらず2023年8月には「企業存続に疑義が存在する」と発表、最終的には今回の破綻に至りました。

WeWorkは、結果としては単なるシェアオフィスの運営事業者だったにもかかわらず、投資家に夢を見させて巨額の資金調達を行い、その資金で企業規模を急拡大させ、中身がついて来ずに赤字で破綻したという「期待だけで終わった企業の典型例」です。

別に珍しいことではありませんが、集めた資金額が巨額だったことから注目を集めたのでしょう。

WeWorkが残した教訓

コワーキングの代名詞となったWeWorkは、フリーランスで仕事をしたり、スタートアップ文化に夢中になったりするミレニアル世代に受け入れられるトレンドでした。

飲み放題のクラフトビールを通じて、オフィスワークの未来に革命を起こすと約束し、大いに称賛されたハイテクユニコーン、それがWeWorkでした。

ただ、収益から見る実態は、単なるレンタルオフィススペース企業であり、稼働率を高めても黒字化しないほど高い賃料でビルを長期間の契約で借り、安く小分けにして短期でも解約出来る会員に賃貸しているビル賃貸業(シェアオフィス業)でした。

プラットフォーマーになることができるビジネスモデルでもなかったことが、今となっては明らかになっています。

そんなWeWorkが残した教訓は、投資家にとっては「ビジネスモデルを信じるには数字の裏付けが必要」ということです。

急成長しているから赤字であっても許容するのではなく、「赤字の要因がどのようなものかをきちんと把握したうえで対象企業を評価すべき」という基本がないがしろにされていた可能性があるのです。

また、不動産投資家にとっての教訓は、「収入とコストのコントロールを計画段階からきちんとしておく」「長期で借りて、短期で貸すことの危険性」ということでしょう。

この教訓は当たり前すぎるのですが、WeWorkは収入とコストのコントロールが全くできていなかったことになります。高く・長く借りて、安く・短く貸していただけなのです。

今後、WeWorkは、連邦破産法の手続きの中で、裁判所の力を借りて賃借料を削減していくことを目指します。ビルオーナーを泣かせることで再生を果たそうとしています。規模は大幅に縮小せざるを得ないでしょう。

ただ、それ以上にWeWorkの破綻法申請は米国のオフィスマーケットに悪影響を与える可能性があります。改めてオフィスの苦境がクローズアップされることになるでしょう。

コロナ禍で空室率が上昇した米国のオフィスにとどめ刺したのは、時代の寵児だったWeWorkだった…と、未来では記憶されているのかもしれません。WeWorkは破綻してもしばらくは目を離せそうにありません。

(旦直土)