こうしたディズニー日本誘致のサクセスストーリーの裏で、辛酸を舐めたのが三菱地所だった。

ディズニーの日本誘致は京成・三井・朝日の3社連合だけが進めていたわけではなく、三菱地所も同様に日本誘致を働きかけていた。

しかし、プレゼンで三菱は京成・三井・朝日の3社連合に敗北する。

財閥解体によって、三菱財閥を形成していた企業は戦後に独立しなければならなかった。離散したことで各社の弱体化も懸念されたが、三菱の組織力は揺るがなかった。

グループ企業は歳月とともに再結集していき、強大な企業グループを形成していく。そして、1960年代には三菱の組織力を象徴する「BUY」が起こった。

「BUY三菱」とは、三菱グループの製品を三菱グループの全社員が購入するという社内スローガンのことで、「BUY三菱」を実践すれば、それだけで三菱グループの経営ひいては日本経済が成り立つという運動理論でもあった。

つまり、1960年代には実質的に三菱財閥が再結成されている状態で、その三菱財閥が日本経済を陰で支えているということを「BUY三菱」は示唆していた。

そんな日本の経済界において向かうところ敵なしだった三菱が、ディズニー誘致で敗北を喫したことは三菱にとって屈辱的な黒歴史になったことだろう。

約半世紀の歳月が経過しているとはいえ、KAMISEYA PARKは絶対に失敗できないビッグプロジェクトであり、リベンジマッチでもある。

IR断念の横浜市、KAMISEYA PARKは成功なるか

KAMISEYA PARKをリベンジマッチと受け止めているのは、三菱だけではない。

横浜市も大規模集客施設の誘致で右往左往した苦い経験を有している。横浜市の苦い経験とは、ハード面で言えば、横浜港に開設予定で進められていた統合型リゾート(IR)の白紙撤回のことを指す。

IRとは、国際会議場・展示施設・ホテル・ショッピングモール・レストラン・劇場・映画館などを一体化した複合観光集客施設のことで、その目玉は何と言ってもカジノの開設にある。

カジノを核にしたIRの開設は、安倍晋三首相(当時)が目指していた観光立国に欠かせないコンテンツでもあった。

安倍政権はカジノを目玉に、世界各国から外国人観光客を日本に迎え入れようとしたが、だからと言ってIRを全国各地に開設するわけにはいかない。

IRを全国各地にオープンすれば、どこでもカジノが楽しめる環境が生まれてしまう。それはカジノの目新しさを喪失させ、ひいては経済活性化や地域振興という威力を薄めてしまう。

そうした事情から、政府はIRを国内の2~3か所に絞る予定にしていた。

他方、IRが開設されれば経済活性化や地域振興の起爆剤になると考えた自治体は少なくない。

失われた30年により、地方都市は経済的に疲弊している。雇用もなく、このまま手をこまねいていれば若者は東京・大阪といった大都市に流出してしまう。若者が流出すれば、ますます地方都市は再生できなくなる。

目立った産業がない地方都市にとって、IRは経済活性化・地域振興を果たすための救いの神と映ったことだろう。

こうしたカジノを欲する都市によって、激しい誘致合戦が展開された。その結果、横浜市と大阪府大阪市の2都市にIRを開設するという空気が支配的になる。

地元・横浜にIRを誘致しようと取り組んでいた菅義偉前首相(筆者撮影)

横浜市は菅義偉前首相の地盤でもあり、菅前首相はIR整備推進法にも熱心に取り組んでいた。そうした菅前首相の政治力が物を言い、横浜市にIRの開設は既定路線になっていた。

大阪市は橋下徹元市長や松井一郎前市長、吉村洋文知事が積極的にIR誘致を働きかけた成果とされている。

大阪府の吉村洋文知事(右)と大阪市の松井一郎市長は、大阪万博を開催し、その跡地にIRを整備することを全面的に打ち出していた(筆者撮影)

結局のところ、IRは地方都市に開設されることはなく、大都市に開設されることが決まりつつあった。

しかし、横浜市ではカジノによる経済活性化や地域振興に懐疑的な市民は多かった。2021年の横浜市長選では、カジノ反対を掲げる山中竹春候補が当選。山中新市長は就任早々にカジノを白紙撤回した。

IR反対を掲げて、2021年に横浜市長に就任した山中竹春氏(筆者撮影)

IRの目玉はカジノだが、IRは必ずしもカジノだけを意味するものではない。

統合型リゾートと称されるように、観光客を呼び込む大規模集客施設を建設することが前提にある。それでも横浜市民はカジノを不要と考えてIRに「NO」を突きつけ、反対派の市長を誕生させた。

横浜市には地域活性化のためなら何でも受け入れるという考えはない。それらを踏まえると、KAMISEYA PARKの整備も順風満帆に進むとは考えづらい。

来街者「1500万人」見込むも

また、KAMISEYA PARKの建設前に予定されている「GREEN×EXPO 2027」という国際イベントにも暗雲が立ち込めている。

今のところGREEN×EXPO 2027の開催機運は横浜市内でも盛り上がっていない。GREEN×EXPO 2027で一定の成果を出さなければ、その跡地に整備されるKAMISEYA PARKにも反対が噴出するだろう。

そうなれば、整備計画に大きな狂いが生じてしまう。そうした事情から、横浜市は積極的の広報活動に取り組む。

だが、近年になって大規模イベントの開催を地域開発につなげる政治手法は通用しにくくなっている。

その好例ともいえるのが、2021年に開催された東京五輪と、2025年に大阪市で開催を予定している日本国際博覧会(大阪・関西万博)だろう。

東京五輪も大阪・関西万博も、整備費用が当初の想定から膨れ上がった。その膨れ上がった整備費用は税金で賄われる。これには都民・府民のみならず、多くの有権者・納税者から反感を買うことになった。

IRがハード面における横浜市の苦い経験だが、ソフト面における苦い経験として語り継がれるのは、横浜市が2009年に開港150年を記念して開催した「開国博Y150」だ。これが大コケという失敗を経験した。

それだけに、GREEN×EXPO 2027は絶対に失敗できない。「まあまあ成功」でも満足してもらえる話ではない。それでも、すでに計画は走り始めている。

横浜市からは、2031年にKAMISEYA PARKをオープンさせるとの予定が発表された。

次世代型テーマパークの駅前ゾーンのイメージ図(出典:横浜市記者発表資料)

また、横浜市の計画では約1200万人の来街者を見込み、驚くべきことに、横浜市は段階的に来街者を1500万人まで引き上げることを目標に掲げている。

こうした多くの来街者を見込むため、横浜市と三菱地所は鉄道駅や主要ターミナル駅、空港からのシャトルバス等を受け入れる駅前広場やバスターミナルや4500台規模の駐車場と450台の駐輪場も整備計画を打ち出している。

それでも、年間1500万人の来街者は無謀な目標にしか見えない。例えば、2022年における東京ディズニーランドとシーを合わせた来園者数は約2200万人。

来街者と来園者といった相違点はあるが、この数字から考えると、KAMISEYA PARKの年間1500万人は簡単に達成できる数字ではない。

まだ整備計画の全容は明らかになっていないが、KAMISEYA PARKの計画を見ると、ディズニーと伍するほどの集客力や魅力を持ち合わせているとは思えない。

まだ開業前の段階で言及するのは気がひけるが、ディズニーに対抗できるようなテーマパークをつくるには、そうとうな資本力と熱意、歳月、そして運も必要になるだろう。

KAMISEYA PARK「建設前」にもう暗雲?

これまで筆者は何度も横浜市内を取材で歩いてきた。特に、前述した2019年の相鉄・JR直通線の開業前後と2023年の相鉄・東急直通線の開業前後は沿線に通い詰めている。

当時から上瀬谷通信施設の跡地問題は話題になっていたので、瀬谷駅から予定地とされている一帯を歩いたことも、一度や二度ではない。

そのとき脳裏に浮かんだのは、「ここに大規模テーマパークをつくったとして、果たして多くの人が足を運ぶだろうか?」という疑問だった。

このほど三菱地所が事業者に選定されたことを受け、筆者は再びKAMISEYA PARKの予定地を訪れてみることにした。

横浜市はKAMISEYA PARKの整備と並行して、瀬谷駅北口から新交通システムを上瀬谷地区まで建設する方針を固めた。

これは、上瀬谷エリアに路線バス以外の公共交通が整備されていないことが理由だ。

先述したように、横浜ドリームランドは鉄道によるアクセスを確保しなかった。それが致命傷になり、結果的に客足が鈍った。

それを鑑みれば、新交通システムの整備は必然であり、急がなければならない課題だろう。

新交通システムは瀬谷駅からまっすぐに北へと延びる海軍道路の上に建設されることが想定されているようだが、海軍道路の周辺地盤工事や橋脚工事をしている様子は見られない。

ただ、道路拡幅のために沿道の桜並木は伐採が進められていた。この桜並木の伐採が周辺住民の反発を招いている。

瀬谷駅から北へと上瀬谷エリアへと延びる海軍道路。桜並木は伐採が進められている(筆者撮影)

テーマパークのオープン前に予定されているのがGREEN×EXPO 2027という園芸博なのだから、その趣旨と矛盾するような桜並木の伐採は周辺住民にとって簡単に容認できるものではないだろう。

そうした反発もあり、GREEN×EXPO 2027に向けた整備工事は計画通りに進んでいない。

GREEN×EXPO 2027は広大な上瀬谷エリアの空地を会場に活用して開催を予定している(筆者撮影)

横浜市はGREEN×EXPO 2027までに新交通システムを開業させる計画を断念。しかし、2031年のKAMISEYA PARKオープンまでに新交通システムを開業させることは諦めていない。

それも近年の建設費高騰や人手不足なども重なって、雲行きは怪しくなっている。

このような状況を踏まえると、2031年のKAMISEYA PARKオープンまでに新交通システムを開業させることは微妙なところだろう。それどころか、新交通システム計画そのものが不透明になりつつある。

また、KAMISEYA PARKの整備では、先に触れた桜並木のほかにも多くの木々が伐採される可能性を否定できない。

瀬谷駅の周辺は、数年前から少しずつ商業施設が集積して駅前がにぎやかになっているが、5分も歩くと農地と上瀬谷通信施設が撤去された空地が入り混じる荒涼とした風景に変わる。

近隣には鬱蒼とした森もあり、それらは市民緑地として地域住民の憩いの場になっている。

これらの木々を残しながらテーマパークへと生まれ変わらせることは、決して不可能ではないだろうが、それには地域住民との対話を重ねるといった相当な時間が必要になる。

2031年までに実現するのが不可能のようにも見える巨大プロジェクトだが、その裏で政治力が動く可能性があることも指摘しておきたい。

これはKAMISEYA PARKに限った話ではなく、巨大開発プロジェクト全般に言えることだが、そうした巨大プロジェクトの裏では必ず政治力が蠢いている。

見えない政治力によって計画が二転三転することは珍しくなく、逆に長らく停滞していたものが一気に進んでしまうこともある。

それだけに、KAMISEYA PARKや瀬谷駅周辺の開発計画も予断を許さない。

(小川裕夫)