資材価格の上昇と円安の進行により、建築費の上昇が続いている。加えて、新型コロナウイルスやウクライナ危機の影響もあり、建築資材のひっ迫や納期遅延も起こっている。
さらに、2024年4月からは、建築業界に「時間外労働の上限規制」が適用される。いわゆる「2024年問題」だ。物価上昇に対する賃上げ措置も相まって、人件費の上昇はもはや避けられない状況だ。
新型コロナウイルス流行前と比べて、建築費はどれほど上昇しているのだろうか。建設物価調査会が公表している建設資材物価指数および建築費指数を用いて分析する。
建設資材物価指数、RC・SRCで顕著に上昇
建設資材物価指数は、建設工事で使用される資材の総合的な価格動向を明らかにしたもので、2015年の数値を100として価格の推移を示している。
電気代やガス代といった燃料費、機械賃貸や機械修理といったサービス費を除外しているため、建設工事に使用される直接資材の物価変動の観察や分析のほか、建設工事における直接使用資材のコスト変動の分析などに利用できる。
対象は、住宅の木造(W)、鉄筋コンクリート造(RC)、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC)の他に、事務所と工場がある。今回は住宅に限定し、東京都における指数の推移を見ていく。
東京都の建設資材物価指数を年ベースで見ると、2018年~2020年までは、木造、RC・SRCともに101〜105を推移したものの、2021年には113に上昇。
さらに、2022年には130台前半まで上昇した。2021年から急激に上がったことがわかる。(グラフ1)
コロナ禍以前の2019年と2022年を比較すると、住宅(W)は指数で31.8ポイントプラスになり、上昇率は31.1%となっている。
同様に、住宅(RC、SRC)は指数で24.9ポイントプラス、上昇率は23.6%となっている。
では、ここ1年間の月別の指数はどのように推移しているのか。
2022年9月〜2023年9月までの1年間の動きを見ると、住宅(W)は2022年10月の136.9をピークに徐々に低下してはいるものの、指数130台で高止まりしている。
一方、住宅(RC、SRC)は上昇を続け、2023年9月には140.0に達した。(グラフ2)
今年6月以降、建築費上昇傾向強まる
建設資材価格だけでなく、建築費も上昇が続いている。次は、建築費指数の状況を見てみよう。
同指数には、建築工事費と電気、水道などの設備工事費を合わせた純工事指数と、これに人件費のような現場経費を加えた工事原価指数がある。
今回は、代表4建物(集合住宅(RC)、事務所、工場、住宅(W))のうち、東京都における住宅(W)と集合住宅(RC)の純工事指数と工事原価指数を取り上げる。
まず、住宅(W)の建築費指数の年ベースでは純工事指数、工事原価指数ともに上昇が続いている。
純工事費指数は、コロナ禍以前の2019年と2022年を比較すると、指数で23.6ポイントプラス、上昇率は22.7%に上る。
一方、工事原価指数も同様に2019年と2022年を比較すると、指数で22.3ポイントプラス、上昇率は21.5%だった。(グラフ3)
次に、住宅(W)の建築費指数の月別推移を見ていこう。
先述の通り、住宅(W)における直近1年間の建設資材物価指数は、高止まり傾向はあるものの、徐々に低下していた。
しかし、建築費指数の純工事指数、工事原価指数では上昇が続いており、特に、2023年6月以降は上げ幅が広がっていることがわかる。(グラフ4)
では、集合住宅(RC)の建築費指数はどうか。
年ベースの指数を見ると、純工事指数、工事原価指数ともに上昇が続いている。2019年と2022年を比較すると、純工事費指数は12.6ポイントプラス、上昇率は12.1%となっている。
一方、工事原価指数も同様に、2019年と2022年を比較すると、指数で12.0ポイントプラス、上昇率は11.5%という結果だった。(グラフ5)
また、集合住宅(RC)の建築費指数について、直近1年間の月別の動きを見ると、純工事指数、工事原価指数ともに上昇を続けていた。
住宅(RC、SRC)における建設資材物価指数は、2023年8月から上昇幅が増している。これに対し、純工事指数、工事原価指数を見ると、2023年6月以降に上昇幅が広がっている。
この結果、東京都における建築費は、9月に過去最高を更新する形となった。(グラフ6)
国交省が建築費の値上げ認める
国土交通省が定める民間建設工事標準請負契約約款(建設工事の請負契約当事者間の具体的な権利義務の内容を定める)では、請負代金額の変更について、次のような場合に限り、「必要と認められる請負代金額の変更を求めることができる」と定められている。
・経済事情の激変等によって、請負代金額が明らかに適当でないと認められるとき
・物価、賃金等の変動によって、契約を締結した時から一年を経過した後の工事部分に対する請負代金相当額が適当でないと認められるとき
また、2022年4月に公表された国交省の通達によれば、「既に締結された契約についても、現下の原材料費等の高騰・品薄の状況を踏まえ、請負代金や工期につき適切な対応に努める」ことが要請されている。
これらを背景に、建築資材価格の上昇は建築費の上昇という形で転嫁され、建築費は上昇を続けているわけだ。
「2024年問題」受け、人件費上昇続くか
さらに、人件費の高騰も影響している。物価上昇を受けて、各業種で賃金の引き上げが相次いだが、それは建設業においても同様だ。
物価上昇に加えて、いわゆる「2024年問題」の影響を受け、賃金引上げの波が押し寄せている。
2019年、働き方改革の一環として労働基準法が改正され、時間外労働の上限が設けられた。これにより、大企業は2019年4月、中小企業は2020年4月から段階的に「残業の上限規制」が適用されてきた。
しかし、業務の特性や取引慣行を鑑み、建設業は5年間の猶予期間が与えられていた。その猶予期間が終わりを迎え、2024年4月から建設業で残業の上限規制が本格的に適用される。
建設業ではもともと深刻な人手不足が問題だ。人材を確保するためにも待遇を良くする必要があり、それが人件費の高騰につながる。建築費が上がるのは、もはや避けられない状況にあるだろう。
それが現れている指標の1つとして、国交省が決定している公共工事設計労務単価を挙げる。
これは、公共事業における建設労働者の賃金単価を示したもので、47都道府県・51職種別に労務単価が設定されている。
2023年3月からの適用単価は、全国全業種平均で前年度比5.2%引き上げられた。全国全業種の伸び率が5%を超えたのは9年ぶりで、引き上げ自体は11年連続となっている。
公共工事において広く一般的に従事している職種である(特殊作業員、大工、左官など)主要12業種では、前年度比5.0%の引き上げとなっている。(グラフ7)
◇
今後の建築費はどのように変化していくのだろうか。
まず木造住宅に関して、建設資材物価はピークを過ぎていることから、建築費も近いうちにピークを迎える可能性があるかもしれない。
一方、鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造の建設資材物価は上昇を続けている。これに伴って、建築費の上昇はなお続くものと予想される。建築費の動向を引き続き注視したいところだ。
(鷲尾香一)
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