
今年秋に開催された「岸和田だんじり祭」(筆者撮影)
どうにも生まれつきハレの日が苦手で、今まで祭と言えばドヤ街・西成の夏祭りくらいにしか顔を出したことがない。
だが、今年は2つの祭を見に出かけた。ほぼプライベートの観光旅行である。
足を運んだ理由は「喧嘩や事故を見れたらいいなあ」という、非常に不謹慎なものだった。
「なんでそんなモノが見たいのか!」
こう言われるかもしれないが、見たいものは見たいのだから仕方がない。ただ結果的には、喧嘩も事故も見られなかった。
ゴンザレスさんといざ、だんじり祭へ
1つ目の祭は「岸和田だんじり祭」だ。岸和田出身の知人に案内をしてもらった。
祭は9月と10月に開催されるが、どちらも訪れた。実は、海側と山側で2回開催されるということも知らなかった。
9月の祭は非常に観光客が多く、とても盛り上がっていた。気候もまだ暑く、だくだくと汗をかきながら見物した。だんじりが通る時は道路を渡れなくなる場合も多く、なかなか思った方向に進めない。
裏社会ジャーナリストの丸山ゴンザレスさんと一緒に訪れたので、「ゴンザレスさん!!」「ゴンザレス!!」「写真撮っちゃお!!」などと声をかけられまくって、ますます徘徊するのが大変になった。
だんじりに関しては、「だんじりで延々と街を全速力で走り続け、たまに家や壁にぶつかって破壊したり、人が亡くなったりする」という極めて雑なイメージしか持っていなかった。
見学してすぐ、「だんじりが走るのはカーブの時だけ」という事実を知った。百聞は一見にしかずである。
つまり岸和田だんじり祭とは「いかに綺麗にカーブを曲がるか」を突き詰めていく祭なのだ。

ケンカ祭りとして知られる岸和田だんじり祭
街角を直角に曲がる事を「やりまわし」という。やはり、やりまわしを間近で見たい。だが人が混んでいてなかなか場所取りができなかった。
なんとか良い場所を取ったが、案内人に「あ、そこワンチャン死にますよ! だんじりが突っ込んできたら!」と注意されておののく。
ボケっと立っていると挟まれて死ぬ可能性のある場所には(電柱など)赤いテープが貼ってある。観客も気を抜けない祭なのだ。
1つのやりまわしが終わると、「今のは良かった(悪かった)」と観客が品評している。しばらく観覧していると、たしかに良し悪しが分かってくる。曲がり終えた後、だんじりがぐらついたり、おっとっととなるのはあまり良くないやりまわし。
キレキレでキチッと曲がると歓声が上がる。
「今はちょっとダレてる時間ですね。逆に朝は力が余っているから、スピードが出すぎて事故になることが多いですね」とのこと。じゃあ朝くればよかった。
祭りで活躍した男性はモテるらしい
10月のだんじりは、9月ほど混雑していなかった。地元の人達にまざって見学することができた。賑やかな祭を楽しみたい人は9月、やりまわしをじっくり見たい人は10月がおすすめだ。
実は、だんじりの1カ月ほど前に岸和田を訪れ、地元の政治家、青年団の方たち、だんじりの練習をしている若者たちに話を聞いた。
だんじりは「事故上等の荒っぽい祭」のイメージがあった。だんじりの事故のシーンだけを集めたビデオも売られてるくらいだ。
ただ、だんじりを挽いている人たちにとって事故は恥だ。それに、もし人が亡くなった場合、「翌年、その町が祭に参加できない」など相応のペナルティがあるそうだ。

5トン以上もあるだんじりを引き回す岸和田だんじり祭
「わざと事故る」ことはないという。
5トン以上もあるだんじり。曳航にはきっちりとした役割がある。
綱を引く人たちだけでも綱先・綱中・綱元に別れる。
大太鼓、小太鼓、笛、鉦を鳴らす、鳴り物。大屋根や小屋根の上で団扇を手に舞う大工方。
中でも、やりまわしに最も重要であり、最も危険なのが前梃子(まえてこ)だと言う。
「だんじりの車輪にはステアリング機構はなく固定されています。前輪の角度を変えることはできません。やりまわしの時には、前輪にヒノキの棒を差し込んで、回転をおさえ無理やり曲がります。その棒を差し込むのが前梃子です」
練習中の前梃子の人にお会いしたが、ものすごい体格の良い人だった。とにかくきれいなやりまわしに命をかけている、という気迫が伝わってきた。
だんじりの後ろにある、後梃子は30人くらいで方向を操作する。
全員で息を合わせてやらないと上手くいかない。1カ月前に訪れた時は練習している様子が見えた。海沿いで軽トラをだんじりに見立ててひいている様子も真剣そのものだった。

岸和田だんじり祭でだんじりをひく男性
「だんじりで活躍している男性はモテますよ。終わった後に告白があって……というのがパターンでした。その時期の妊娠が多いと、実際、知り合いの産婦人科医が言ってましたね(笑)」
祭で男を魅せて、女を抱くとはまさに「ハレ」な感じである。「ケ」で地虫のように生きてきた私のような者にとっては、羨ましくもあり、疎ましくもある。
もちろんだんじりに対する力の入れ具合は人によって異なり、好きな人はだんじりのために1年を費やすという。現役を退いた後も、若頭、世話人として、生涯だんじりに関わり続ける人も少なくない。
会社選びも、だんじりの日に休みを取れる会社を優先して選ぶ。ただそもそも岸和田の会社の多くはだんじりの日は休みになるという。一致団結で物事に当たる経験は、その後の人生を豊かにする可能性は高いだろう。
ただ、だんじりを望まない人がいるのも確かだ。岸和田市の政治家いわく「僕もだんじりをやってきたので、だんじりを推していきたいんですが、だんじりを推すことがそのまま票につながるか?というと疑問です。それくらい反対派も多いです」とのこと。
これは、観光したもうひとつの祭でも同じ話を聞いた。
チェーンソーでケガ人も
10月には四国の愛媛県新居浜市の「新居浜太鼓祭り」に足を運んだ。
太鼓台と呼ばれる巨大な山車を「かき夫」と呼ばれる男たちが担ぎ上げる、迫力のある祭りだ。
「かきくらべ」という観客に披露する形で、担ぎ上げ続けたり、回転させたりというパフォーマンスを見せ合う。

巨大なだしを回転させるパフォーマンスが披露された
山根グラウンドで見たがすごい迫力だった。
ただ、「喧嘩祭り」という側面も大きい。
というか、新居浜市の知り合いに聞いた。
「新居浜太鼓祭りの喧嘩はすごい。鉢合わせ(太鼓台をぶつけあう)で死者が出ることも多いし。仲の悪い地区の太鼓台の担ぎ棒(丸太)にロープをかけてへし折るのっていうのがあったんだけど、最近ではチェーンソー使う人もいて……。それで指が飛んだ、何が飛んだだのってさわぎがあった」
さらに喧嘩は、当事者以外も加わる場合があるらしい。
「自分たちのグループの中で喧嘩をするとルール違反だから、外部の人を雇う場合がある。そういう人たち外人部隊って呼ばれるんだけど、暴力団とか暴走族とか。彼らを雇って襲わせる」
そんな「仁義なき戦い」的なエピソードを聞かされたら、どうしたって見たくなる。

巨大なだしが大勢で担ぎ上げられる
今年は祭2日目に足を運んだのだが、喧嘩は初日に起きてしまったらしい。それで警戒が強くなってしまった。
去年、あまりに喧嘩が多かったので、仲の悪い町同士は近づけないように配慮もなされたようだ。見ている範囲では特に何事もなく祭りは終わった。
岸和田のだんじりと同じく、新居浜太鼓祭りも地元の人には愛されている。
「盆や正月に帰らなくても、祭りには帰るって言う人多いです。祭が正月みたいなものなんで、祭が終わったら1年が終わりって感じですね。次の祭までの1年が始まったという感じです」という参加者の声を耳にした。
祭りのある地域は自治会費が高い?
多くの人に愛されている祭だが、やはり祭を嫌う人もいる。新居浜も岸和田と同じく、祭の間は会社などが休みになる。
以前、話を聞いた女性は新居浜出身だが、もう何年も祭は見てないという。
「祭だからって、いきがって喧嘩売ったりする人ら本当に嫌いで。祭の休みの間はずっと海外旅行してるんです」
普通に数日間休日になるというのは嬉しい。祭関係ないなら、気候の良い10月だし、たしかに旅に出るのにちょうどいい。

大勢の観客が訪れる「新居浜太鼓祭り」
岸和田だんじり祭も、新居浜太鼓祭りも、運営するには非常にお金がかかる。
だんじりも太鼓台も新調するには億単位のお金がかかるし、喧嘩や事故で破損した場合は修理代も多額のお金がかかる。
そもそも自治会費も他の地域に比べると高めに設定されていることが多いし、それだけではなく「お花代」「花寄せ」として寄付をつのる。
「寄付なんだから、払いたくない人は払わなくて良いはずなのに、半強制的なんですよね。すごい偉そうに来る人も多い。代わりにタオルと団扇をもらえるんですけど、いらないし(笑)。ただ、お金を集める人もノルマがあるらしくて大変そうですから、断りづらくもあります」と不満も耳にした。
正直1000円~2000円ならばいいが、それでも何町にも知り合いがいたらそれなりの額になる。
「岸和田にもだんじりがない町はあります。だから仕事などで岸和田に引っ越す際には、だんじりがない町を選んで引っ越す人もいます」
どちらの祭もニュータウンでのお神輿を引いたり、盆踊りをしたりするようなものとは、次元が違う。血湧き肉躍るような興奮を味わえるが、その代わりそれなりに面倒なことも発生する。
◇
大人になった今、観光として盛大な祭を見ると、「すごい迫力だ! 一致団結していてすごいなあ」などと思う。
ただ、思春期の頃に自分の街で盛大な祭が開催されていたら「ああ、大の大人が祭とか馬鹿みたい。こんな街早く出たい。ああ東京に行きたい。東京に行ったら二度と帰ってくるもんか」と思ったに違いない。
引っ越した先が祭が盛んな地域だったら、トラブルが起こる可能性もある。
まあ、それほど多くの地域で問題になるわけではないが、引っ越しの際は、その地域でも祭もちょっと調べたほうが良いと思った。
(村田らむ)
プロフィール画像を登録