11月21日、2023年度の宅地建物取引士資格試験(以下、宅建試験)の合格発表がありました。合格点は50問中36点以上(5問免除者は31点以上)でした。
受験者数は23万3276人、合格者数は4万25人 、合格率は17.2%で、合格者の平均年齢は35.6歳という結果となりました。
楽待新聞の読者の方の中にも、宅建試験を受験された方がいらっしゃることでしょう。
本記事では、今回の試験の内容をデータを使いながら振り返りつつ、来年度の試験の傾向についても考えてみたいと思います。
受験者数、合格者数ともに増加傾向
2000年度試験以降のデータをみると、多少の上下はあるものの、受験者数は増加傾向にあります。2000年頃には16万人程度だった受験者数が今では23万人を超えていることから、宅建は人気資格となっていることが分かります。
また、合格者数も2000年頃には2万5000人程度だったものが、現在は4万人を超えるようになっています。これは、合格率を一定に保った結果と思われます。
2023年度試験の難易度は?
宅建試験の合格点は一律ではなく、毎年変動します。そして2023年度の宅建試験の合格点は、冒頭で申し上げたとおり36点でした。
一方、昨年2022年度の合格点も今回と同じ36点でしたので、試験の内容に変化がないように思われるかもしれません。
しかし実際は、今後受験する方にとって非常に重要な出題傾向の変化がありました。これについて、2022年度と2023年度の出題内容および正答率を基に分析していきます。
なお、表中の数字は私が経営するKenビジネススクールの受講者、および試験当日にインターネット上で入力していただいた一般の受験者、合計約300名程度の集計データです。
宅建試験の各出題分野ごとに見て行きましょう。
■権利関係(民法等)の傾向
2022年度
2023年度
民法を中心に出題される「権利関係」の分野は、宅建試験全50問中14問を占めます。昨年度の試験では、この権利関係の難易度が急に上がったと言われました。
一方、上記のデータを分析すると、今回の試験では、権利関係において昨年度よりもさらに難しくなっていることが分かります。
70%以上の方が正解する「やさしい」問題は14問中5問から2問へと減り、逆に、正答率が50%未満である「難しい」問題は14問中3問から5問へと増えています。
さらに特徴的なのは、「難しい」問題となっていのは、借地借家法などのいわゆる特別法に関する問題ではなく、より出題範囲が広く、難易度も高い傾向にある民法に関する問題である点です。
あとで触れますが、「法令上の制限/税その他」および「宅地建物取引業法」の各分野は、例年と同様または例年よりやさしくなっている傾向にありました。
それにも関わらず、合格点が昨年度と変わらないということは、この権利関係で高得点を狙えなければ合格できないことを意味します。
これまでの宅建試験においては、宅建業法の分野で満点を狙い、権利関係は14問中5割取れればよい、という見方もありましたが、こうした定説が変化していくことになるかもしれません。
■法令上の制限/税その他
2022年度
2023年度
続いては、50問中8問が出題される「法令上の制限」と、50問中3問が出題される「税その他」の分野です。
上記のデータを分析すると、2022年度まで例年1問出題されていた建築基準法の「超難しい」問題は出題されず、正答率50%を下回る「難しい」問題は1問も出題されませんでした。
もしこの傾向が続くのであれば、この分野では他の(特に合格者レベルの)受験者とは差が付かないことを意味します。ケアレスミスが命取りとなる、よりシビアな分野となるでしょう。
■宅建業法
2022年度
2023年度
50問中20問が出題される「宅建業法」の分野について見てみましょう。
上記のデータを分析すると、正答率が70%を超える「やさしい」問題は1問減ってはいますが、正答率が30%を下回る「超難しい」問題はなく、昨年同様の難易度ともいえる状況です。
つまり、宅建業法は、これまで同様に満点を狙いに行ける分野であり、(特に合格者レベルの)他の受験者とは差が付きにくい、ケアレスミスが命取りになる分野といえます。
■免除科目
2022年度
2023年度
50問中5問を占める免除科目。この分野は、宅建業に従事し、登録講習を受講した方を対象に、全50問のうち46問目~50問目までの5問が免除となります。
上記のデータを分析すると、正答率が70%を超える「やさしい」問題だけだった2022年度に比べ、2023年度は「超難しい」が1問、50%から70%未満の「普通」が1問となり、満点が狙えない分野となっています。
この分野の問題が難しくなるということは、不動産会社に勤務し、登録講習を受講した受験者が得をすることを意味します。
実際に、一般の受験者の合格率が17.2%(男 16.5%、女 18.3%)であるのに対して、登録講習修了者は24.1%(男 22.7%、女 26.5%)となっており、7%近く合格率が上がっています。昨年度に比べ、不動産業の合格者数も増えています。
不動産業者に勤務する方は必ず登録講習は受講すべきでしょう。
過去問学習が基本、は変わらない
宅建試験は、過去問学習が基本であるとよく言われます。
実際、過去に出題された問題と類似の問題は、以下の表(2023年度の出題と同じ条文をベースに作られた問題)にあるとおり多数出題されています。
この点、過去問は完璧に解けるが、本試験では点数が伸び悩む方が多数おります。そういった方は、「過去問が解ける」だけの話で、過去問の背景にある法律の条文を理解して覚えていません。
以下の表にあるとおり、出題の9割以上が過去に出題された問題の背景にある「条文」から作られているので、過去問の学習は、問題を解くだけでなく、解説に書かれている実際の条文、加えて、テキストに戻りその関連知識も読み込むようにすれば、必ず合格できるはずです。
今年の試験は、宅建業法と法令上の制限・税法の分野において過去によく問われている基本事項を正確に暗記していたかどうか、民法の解釈について法的思考能力(リーガルマインド)を有していたかどうか、が問われたものと思われます。
このような傾向は今後も続くと思われます。来年受験する方は、まずは宅建の「権利関係」ではなく「民法」について、薄めの本でよいので全体像を意識しつつ、事例を条文で解決することを意識して読み込んでおきましょう。
また、法令上の制限については、建築基準法の改正、宅地造成等規制法の改正(名称は「宅地造成及び特定盛土等規制法」に変わりました)があります。改正に対応したテキストと問題集で学習して下さい。
最後に、宅建業法についてはこれまで同様に「とにかく正確に暗記する」ことが必須条件となります。
(田中嵩二)
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