2018年、大阪府北部地震で通学路にあったブロック塀が倒壊し、小学4年生の女児が亡くなるという痛ましい事故があった。
事故から5年が経ち、地域によっては対策が進んでいるものの、危険なブロック塀は現在も各地に残っている。
2023年9月には、福井県鯖江市で小学6年生の男児が住宅街の6段ブロック塀に触れたところ、上2段が崩れて足をはさまれ、大怪我を負う事故が発生した。
所有する物件のブロック塀が倒壊して被害が発生した場合、オーナーが責任を問われることもあり得る。
今回は、危険なブロック塀がなくならない理由や、ブロック塀を備えた物件の所有者が対応すべきこと、注意すべきポイントなどについて改めて解説する。
なぜブロック塀の倒壊は起きるのか
2018年の大阪府北部地震の際に起こった倒壊事故により、ブロック塀に大きな危険が潜むことが広く知れ渡った。
ブロック塀倒壊事故が起こった大阪府高槻市では、すぐに第三者委員会による原因究明調査が行われ、「設計・施工不良と腐食が主因だった」とする最終報告書が提出されている。
地震によって倒壊したブロック塀の高さは約3.5メートル。建築基準法施行令第62条の8に定められている高さ制限(2.2メートル以下)を超えていた。
さらに、高さ1.2メートルを超す場合に必要な、補強用の「控え壁」も存在せず、違法状態であることが確認できる状態だったという。
また、ブロックと基礎を接合する鉄筋が抜けていたり、腐食して破断していたりするなど、塀内部の不具合も確認されている。
2015年に外部の防災アドバイザーによって、ブロック塀の危険性を指摘されていたにもかかわらず対策を行わなかったこと、また2017年に行われた法定点検(3年に1度の実施)で特に指摘がなかったことなど、管理体制がずさんであったことも指摘された。
国や自治体が対策に乗り出す
大阪府北部地震の後、国はブロック塀の安全対策に乗り出した。
文部科学省は学校施設の敷地内にあるブロック塀の安全点検を実施し、通学路の安全性の確認などを行うように、全国の都道府県に通知している。
国土交通省も(学校に限らず)ブロック塀のすべての所有者に対し、安全点検を実施するよう注意喚起。それとともに、国や自治体の補助制度を利用して危険なブロック塀の撤去や改修を進めることを促した。
また、ホームページ上にブロック塀点検のチェックポイントを掲載し、周知徹底することで再発防止に取り組んでいる。
こうした国の要請を受けて、各自治体も調査に動き出した。
事故のあった大阪府では、小中学校の通学路にあるブロック塀の点検が一斉に行われ、約8800箇所が危険であると判定された。
しかしNHKの報道によれば、危険箇所の把握はできたものの、撤去や改修といった対策が確認されているのは1割程度で、今なお危険なブロック塀が多く残されている状況だという。
地元住民に積極的に呼びかけ
危険なブロック塀の撤去や改修を進めるためには、各自治体の取り組みだけでなく、塀の所有者をはじめとする地元住民の協力が必要だ。
例えば、冒頭で紹介した福井県鯖江市では、通学路にあるブロック塀を教職員が、通学路外は保護者や地元住民が点検していた。危険なブロック塀があった場合は、専門家に調査を依頼するといった手順だ。
ところが、9月には通学路外にあったブロック塀に男児が触れて倒壊し、大怪我を負うという事故が起きてしまった。この塀に関して、保護者などから危険性を指摘する連絡はなかったという。
この事故に対して、鯖江市は「非常に重く受け止めている」とコメント。実際に倒壊が起こった場所は、通学路外とはいえ、児童の集合場所のすぐ近くだったという。
鯖江市は今後の対応について、「通学路や災害時の避難路を中心に、危険なブロック塀の除却を推進していく」と話した。
担当者によれば、事故後、市へのブロック塀に関する問い合わせは80件を上回ったという。
予想以上の連絡があったことで、市は11月下旬に、ブロック塀の撤去などの補助金として、新たに200万円を盛り込んだ補正予算案を提出。引き続き、所有者に補修や撤去などを検討するよう求めている。
他にも、積極的にブロック塀の安全対策を行っている自治体がある。
宮城県石巻市では、ブロック塀の点検対象を、市内にある高さ1メートルを超えるブロック塀「すべて」とし、約1万6700箇所もの塀を約2年かけて点検した。
さらに、専門知識を持った業者がすべての点検を実施し、外観だけではなく内部の鉄筋の状態まで調査しているという。最終的には、専門知識を有する市の職員が危険性を判断している。
また、愛知県でも、ブロック塀所有者の自己点検を推進している。
国交省の示しているチェックポイント(後述)について、愛知県建築物地震対策推進協議会とともにイラスト付きパンフレットを作成。自己点検をしやすくするために周知を進めている。
高槻市や鯖江市のような事故が以後起こることがないよう、ブロック塀の所有者も積極的に「危険なブロック塀は撤去・改修する」という意識を持つ必要がある。
自治体の補助金制度もより広く周知され、安全な環境づくりが促進されていくことが望ましい。
危険なブロック塀はどう見抜く?
では、ブロック塀の存在する不動産の所有者はどのように点検すれば良いのだろうか。
国土交通省ではブロック塀のチェックポイントを取りまとめ、1つでも適合しない箇所や不明点があった場合は、専門家に相談することを推奨している。
外観上から確認できるチェックポイントは次の5つ。
(1)塀の高さは地盤から2.2メートル以下か
(2)塀の厚さは10センチメートル以上あるか
※塀の高さが2メートル超2.2メートル以下の場合は15センチメートル以上
(3)控え壁はあるか(塀の高さが1.2m超の場合)
(4)コンクリートの基礎があるか
(5)塀に傾きやひび割れはないか
ただし、上記に加えて6つ目の項目として「塀に鉄筋は入っているか」が挙げられている。鉄筋の調査は外観上では判断できないため、専門家へ相談する必要がある。
なお国交省は「ブロック塀等の安全確保に対する支援」として、耐震診断や除却、改修などについては、1平米あたり8万円を上限に、各費用の3分の1の補助金を交付するとしている。
ブロック塀内部の鉄筋の調査はどのように行なうのか、実際にブロック塀点検を請け負っている専門業者へ問い合わせたところ、鉄筋探知機を使用して調査するのが一般的とのことだった。
ただし、調査時に探知機が正確に反応しないケースなどもあるため、ブロック塀を部分的に壊して調べる場合もあるそうだ。
◇
今年10月、防災科学技術研究所はコンクリート製ブロック塀に地震動を加え、耐震性や安全性を調べる実証実験を行った。
実験の結果、建築基準法に適合しないブロック塀は、震度6弱程度の揺れで倒壊することが判明し、早期の改修が重要であると明らかになった。
日本に住んでいる限り、地震はいつ起こっても不思議ではない。事故の当事者にならないように、ブロック塀のある物件の所有者は危険性を認識して、定期的な点検や修繕を怠らないことが大切だ。
自治体が取り組んでいるブロック塀の対策方法や、身の回りに危険なブロック塀がないかどうかなどを確認するようにしよう。
(伊野文明/楽待新聞編集部)
伊野 文明
宅建・FP2級等の知識を活かし、不動産ライターとして活動。
賃貸経営・土地活用に関する記事執筆・監修を多数手掛けている。ビル管理会社で10年以上の勤務経験があり、建物の設備管理や清掃に関する知識が豊富。
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