PHOTO : トリトン / PIXTA

「学生が去った後の町は、アパートはどうなるんでしょうか。こんなに簡単に決まってしまうなんて信じられません」

北海道の当別町で、そう嘆く賃貸物件オーナーの声が上がっている。

今年9月、当別町にある北海道医療大学の移転方針が決定された。大学の移転で町から学生が去ることにより、町内で学生向けの物件を運営するオーナーへの影響が懸念されている。

大学の移転を受けて、町は今後どうなっていくのだろうか。町内にある「当別アパート組合」に話を聞いた。

大学の移転方針が決定、空室大量発生の恐れ

北海道の当別町にある北海道医療大学。1974年に学校法人東日本学園大学として設立され、来年で設立から50年という節目を迎える。

当別町の人口は約1.5万人で、北海道医療大学の学生数は約3400人(2023年5月時点)。当別町は「学生のまち」とも言えるほど、大学とともにこれまでの町づくりを行ってきた。

そんな北海道医療大学について、9月28日、理事長から当別町の町長へと移転の方針が伝えられた。

現在当別町にある大学を、2028年4月に北広島市へと移転する方針だ。移転の理由としては、少子化による学生数減少への懸念などが挙げられる。

株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント代表取締役社長、北海道医療大学理事長、北広島市長の「三者基本合意」締結の様子(北海道医療大学HPより引用

町側からは、移転方針決定まで大学側からの説明がなかったことが指摘された。大学の理事長は、事前に伝えれば条件闘争になる恐れがあるため、それを避ける目的で事前説明ができなかったと釈明。

大学の移転による影響は、町内の賃貸物件オーナーにも広く及ぶ。当別町には900室ほど学生向けのアパートがあり、町から学生がいなくなることで大量の空室が発生する可能性が考えられる。

年間家賃2億4000万円が減少の見込み

「大学が移転した場合、募集したとしても単身者が当別で入居するとは思えない。売却しようと思っても大学が移転する事を知って購入される方が居るなら教えてほしい」

北海道医療大学の学生向け物件を所有するオーナーで構成される「当別アパート組合」が組合員を対象に行ったアンケート調査では、そんな意見も寄せられた。

大学の移転方針の決定を受け、町内における賃貸物件の経営者への影響を測るため行われた調査。実施期間は10月18日~11月1日で、アパートやマンションを経営する組合員59人のうち50人が回答した。

当別アパート組合「北海道医療大学移転に係るアンケートまとめ」より

大学移転について、最も多い回答は「やむを得ない」の24件。次いで「移設に反対」が16件、「どちらとも言えない」が9件だった。

大学の事業経営としては仕方のないことだという声もある一方、公表のタイミングについては疑念を覚える意見も見られた。

当別アパート組合「北海道医療大学移転に係るアンケートまとめ」より

大学の移転により、町内の賃貸住宅の家賃収入にはどれほどの影響が出るのか。

アンケートでは、年間合計で約2億4000万円の家賃が減少すると予想されている。「101~500万円」の影響額があると予想する組合員がもっとも多かった。

当別アパート組合「北海道医療大学移転に係るアンケートまとめ」より

大学移転後の運営予定については、「経営継続」の回答が27件ともっとも多く、「検討中・未定」が22件と続いた。

中には「間取りや立地条件が良いため生き残れるのではないか」という意見もあった。自身が所有する物件の条件により、今後とるべき方針も変わってくるだろう。

当別アパート組合「北海道医療大学移転に係るアンケートまとめ」より

町や商工会に対する要望では、町での活用・借り上げや事業の継承先の斡旋を望む声が多く見られた。

学生がいなくなることにより町に生じる経済的なダメージは大きい。「学生のまち」からどのように方向転換していくのか、町全体として策を講じることが求められそうだ。

当別アパート組合の今後の方針は

大学の移転について、当別アパート組合はどう受け止めているのか。副組合長の辻野氏に話を聞いた。

当別アパート組合・副組合長の辻野氏

「移転について知ったときは非常に危機感を覚えました。大学の経営判断として仕方のない部分はあると思いますが…。今後の見通しはまだつきませんが、新しい需要を生むような努力は必要になってくると思います」

組合として賃貸オーナー向けの勉強会を開催するなどの活動は考えているが、今後具体的にどうしていくべきかという点は模索中だという。

募集ターゲットの変更で入居付けに成功した事例を紹介することや、町営住宅として物件を町で借り上げてもらうことはできないかの検討を行うなど、オーナーの今後の手助けになるような活動を考案していく。

当別アパート組合「北海道医療大学移転に係るアンケートまとめ」より

まだ実際に学生の退去が発生しているわけではないため、現時点で経営転換に動き出しているオーナーはほとんどいないと語る辻野氏。

来年の春、6年制の学部に入学する学生がどのくらい当別町の物件に入居するかにより、今後の入居者減少の傾向も予測できるのではないかという。

学生需要に依存した物件では、大学移転による空室リスクが生じる可能性がある。今回のように町と大学間の話し合いを経ずに方針が決定されることは稀かもしれないが、ひとつの事例として投資家が学ぶべき点は大きいだろう。

アンケートでは、「大学移転後は、移転を後悔させるくらいに素晴らしい町づくりを関係者でしていきたい」と前向きな意見も見られた。当別町の新たな町づくりはどうなっていくのか、今後の動向が注目される。

(楽待新聞編集部)