
当別町の学生向け物件の室内(松岡さん提供)
北海道当別町にある「北海道医療大学」が北広島市へ移転する方針を決めたことで、同町の物件オーナーが苦境に立たされている。同大学には3000人超の学生がおり、当別町は「学生のまち」の側面も大きいエリア。大学移転による経済的ダメージが大きいことは、既報の通りだ。
実際、当別町に学生向け物件を所有するオーナーは「不安はかなり大きい」と吐露する。オーナーの実情を聞いた。
入居は学生が8割、移転後の需要に「不安」
北海道内で複数物件を所有する松岡宏尚さんは、当別町でも学生向けマンションを1棟運営している。全47室のほとんどに学生が入居している物件だ。大学の移転が実施されれば「年間1400万円程度が減収になる」と嘆く。

松岡さんが所有する学生向けのマンション
「インパクトはかなり大きいですね。キャッシュフローにも影響するので、なんとかしないといけないという意識はかなり強く持っています」
松岡さんによれば、入居者の8割が北海道医療大学の学生。卒業後もそのまま入居し続けている人もいるものの、「大学が移転した時、8割を埋められる需要があるかというと、なかなか難しい。不安は大きいです」と本音を明かす。
大学の移転は、2028年に予定。戦略を立てる猶予はあるように見えるが、松岡さんはその猶予も、実際はもっと短いと指摘する。
「移転は4年後ですが、今から2年後くらいには、『1、2年生は当別だけど、3、4年制は北広島だから、最初から札幌に住もう』という考え方の学生は当然出てくる。影響は、遅くとも2年後、早ければ来年には出てくるのではないでしょうか」

インタビューに答える松岡さん
松岡さんの物件は父の代から法人で運営してきたもの。ローンは完済している。だが、ここ最近で物件を購入したオーナーは、かなりの苦境に立たされることになる。築浅物件を中心に、売却を検討するオーナーも少なからずいるだろうと松岡さんは見ている。
町は「残留求めてきたが、大変残念」
大学移転に関し、当別町政策広報課の担当者は、「大学移転の方針が明らかになって以降、町としても残留を求めてきたが、大学側からは『難しい』という回答だった。大変残念に受け止めている」と話す。
こうした状況に、当別町の物件オーナーらで作るアパート組合は、町に対して「学生の町だけでなく、町おこしなどで人を呼び込んでほしい」「物件を町営として借り上げてほしい」などを要望する。

当別アパート組合「北海道医療大学移転に係るアンケートまとめ」より
これらの声に対して町は、大学側から詳細な移転スケジュールは示されていないことなどから、現段階では具体的な対策などは打ち出せないとしつつ、「いろいろな皆さんの意見も聞きながら、何ができるか、今後検討していきたい」と述べた。
依存物件のリスク目の当たりに…
大学や企業などの特定の需要に頼る「依存物件」は、移転や閉業などによる需要激減のリスクをはらんでいる。
都内で学生向け物件を所有する坂田浩一さん(仮名)も、こうしたリスクを目の当たりにした1人。以前、満室の学生向けアパートを購入したところ、わずか数カ月後に、近くの大学が移転を発表したという。
「大学内で、一番人気の高い学部が都内に移転することになったと発表されたんです。移転後は、学生数が3分の1程度になってしまうという話でした」
それまで、大学生協とも連携し入居付けなども行ってきたという坂田さん。関係性を築いてきたつもりだったが、移転の一報はニュースで知った。

取材に回答する坂田さん
その後、大学は計画通りに移転。坂田さんは単身社会人もターゲットに含め入居付けに勤しんだ。
「大掛かりなリフォームも考えたのですが、計1000万円くらいかかってしまう見積もりになってしまい、断念しました。3点ユニットだったので『ビジネスホテルタイプ』というイメージで賃貸に出しました」
だが、そもそも学生向けの小ぶりな造りは社会人のニーズになかなかマッチせず、賃貸仲介会社も「学生向け」という認識が強かったことで、入居付けには苦労した。坂田も図面を手に多数の仲介会社に営業活動を行い、3カ月ほどで満室を実現させた。
こうした経験をもとに、坂田さんは「学生向け物件だから買ってはいけない、ということはないと思います。ですが、そこからどうカスタムするか、どれだけコストがかかるのかはしっかり考えて買うのが良いと思います」と語る。
◇
当別町のアパート組合のアンケートによれば、年間の合計で約2億4000万円もの家賃が減少するとされている。
オーナーのみならず、町にとっても大打撃になることは間違いない。今後の動きにも注目が集まる。
一方、当別町の北海道医療大学に限らず、今後も大学や企業が移転したり、閉業したりといったことはいつでも、どこでも起こりうる。こうした需要に依存した物件を購入することはリスクのあることを十分に認識し、「万が一」の際にはどう行動するか、あらかじめ検討しておくことも重要だろう。
(楽待新聞編集部)
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