千葉県山武市の住宅地(著者撮影)

私が千葉県北東部、主に成田空港周辺と九十九里平野に散在する「限界ニュータウン」「限界分譲地」の調査ブログを開設して、今年の12月で6年になります。

元々は、あくまで個人的に使うために物件を探し始めたのがきっかけでした。物件探しの時期から起算すれば、7年以上にわたって同じエリアの不動産市場を観察し続けていることになります。

単なる物件の価格推移であれば、地元仲介業者のほうがより精細なデータを蓄積しているでしょう。ただ私の場合、投資やビジネスに不向きな物件(資産性が低い物件)ばかり観察し続けていたという固有の事情があります

今回は私がこの7年間で見てきた情報を元に、いわゆる限界ニュータウンにおける物件価格の推移について、お話したいと思います。

まだ新しい「空き家」に驚愕

ブログを開設した2017年当時、まず最初に衝撃を受けたのは、各地の分譲地に残された膨大な数の空き地、そして築30年前後程度の(いわゆるバブル期に建築された)家屋が、空き家として多数放置されているという現状でした。

「空き家」について、古くからの住宅地や集落などに残る、築50年は経過しているであろう古家を漠然とイメージしていた私にとって、住宅ローンの返済期間を過ぎていないであろう築年数の家屋が多数放置されている状況は想像もできなかったのです。

移住用の物件を探していた時期に撮影した、八街市郊外の分譲地の写真。画像奥の家屋が見学目的の売物件だったが、その隣の家が空き家として放置されていた。(千葉県八街市・2016年7月撮影)

その時点ですでに、バブル時代の格安の中古住宅は多数販売されていましたが、そのような物件は、言ってしまえば「安かろう悪かろう」の典型でした。

立地条件が悪い、敷地が狭いため駐車スペースが狭い、などの難点を抱えていて、決して万人向けと言えるものではありません。その条件に納得できる買い手が現れるまで辛抱強く広告に出され続けているのが常でした。だからこその格安物件であったとも言えます。

2016年頃に見学した八街市郊外の売家の広告。外装のリフォームを行った中古住宅でさえこのような価格で、それでも決して売れ筋の商品ではなかった

そして、そんな格安物件のすぐ真横で、どう見ても同時期に建てられたはずの家屋が、なぜか売りに出されることもなく、空き家として放置されていたのです。その光景そのものは、全体としては今でもあまり変わっていないかもしれません。

私がブログを開設したのとほぼ同時期に、知人が成田市の郊外でそういった格安戸建を別荘利用の目的で購入しました。その物件は私もサイトで目にしていて、数か月間にわたって掲載され続けていたものでした。

廉価物件は常に何かしらの媒体に掲載されているもので、「格安」とは言っても、一般の不動産サイトでは100万~300万円程度で広告が出されるのが普通ですし、それが取引相場になっていました。

一方、更地の市場価格は、私が初めて「限界分譲地」に足を踏み入れた時点ですでに破綻していました。

膨大な数の空き地の多くは、事実上の市場価格はゼロ(あるいはマイナス)にまで落ちていましたが、今ほど「0円物件」が一般的でなかったこともあり、どんなに安くても数十万円の価格が付けられていました。

もちろん、その価格分の価値が見いだせないものが大半ですので、取引が活発に行われている模様は見られませんでした。それを初めて目にした時の衝撃や疑問が、ブログの開設の原動力となったわけです。

千葉県富里市にて著者撮影

地価は「下落」でも、物件価格は「上昇」

はっきりと市場が変化してきたと感じられたのは、2019年以降、新型コロナウイルスの猛威によって、全国的に行動制限が行われた時期に入ってからです。

格安物件がまったく出なくなったわけではないのですが、物件サイトに出てもすぐに申し込みが入るのか、100万~300万円という価格帯の物件は、掲載後すぐにお気に入り登録者数が激増し、数日で情報が取り下げられるという状況が常態化するようになりました。

やがて、同じバブル期の典型的な戸建物件でありながらも(むしろ築年数は経過している)、広告に登場する時点で、以前と比較してはっきりと相場が上がるようになりました。

これは私個人の先入観ということではなく、地元で仲介業務を行う事業者も、おおむね同様の見解でした。

そのころ、業者の1人がしきりに「八街は以前は250万円ぐらいで中古が買えたのに、最近は本当に見ない」とよくこぼしていました。

本記事の執筆時点でも、コロナ前の価格水準よりもかなり高めの相場が維持されていると感じます。

交通不便な千葉県北東部の分譲地でも、中古住宅の価格は上昇傾向にあった(千葉県山武市、著者撮影)

しかし奇妙なことに、多くの自治体では、公示地価はその間も下がり続けていました。

千葉県北東部は、駅前や商業地付近など条件の良い立地でも長年下落が続いています。好立地のエリアであれば、その後横ばいに転じたところもあるとはいえ、少なくとも私が調査の対象としていた、バブル期以前の投機型分譲地が点在するような地域は、一貫して公示地価の下落が続いています。

下落どころか今となっては、著名な0円物件専門の売買サイトにおいては、千葉の限界分譲地は恒常的に出品される常連のような存在となっています。

八街ブームとは何だったのか

ちょうどこの頃、ある物件サイトの調査によって、千葉県八街市の賃貸物件の問い合わせ数の増加率が、千葉県内で1位に躍り出たと報じられました。

その調査は、最寄り駅別に集計を行ったもので、事実上、自家用車による移動で経済が成り立っている千葉県北東部においてどれだけ実態を反映したデータなのかはわかりません。

ただ、決して都心部へのアクセスが優れているとは言えない八街市の物件が大きく注目を集めたという調査結果について、当時は地元紙や一部週刊誌でも報じられていました。

コロナ流行による「巣ごもり需要」などがもてはやされたこの当時、千葉県北東部に限らず、各地の別荘地もまた物件への問い合わせが増加していると報じられました。

その現象は「リモートワークの普及」に連動するものであると指摘する声が一般的でしたので、八街の事例もまた同様に、テレワークに結び付けて語るメディアもありました。

八街市の賃貸物件の問い合わせ増加率の上昇を報じる記事(千葉日報2020年9月21日付/サンデー毎日2020年10月25日号)

しかし、例えば長野県の軽井沢のような著名な別荘地であればともかく、いくらリモートワークが普及したからと言って、果たして突然、八街や成田などへ移住を決断する人が急増するものなのか、私には疑問でした。

私が調査していた限界分譲地は、リゾート地として名が知られているわけでもない、ごく平凡な農村エリアの片隅に位置するものばかりです。元々田舎町での生活に慣れている人でなければ、なかなか活用の用途を見いだせるような立地条件ではありません。

これらの地域の「格安住宅」というものは、基本的には地元在住者の住み替え需要として取引されているものです。私の周辺を見ても、リモートへの切り替えを機会に移住してきた世帯は見かけません。移住者のほとんどはコロナとは関係なく、自身の趣向や事情を優先しての決断です。

価格上昇の背景に「戸建て投資」の過熱

しかし、現実に中古物件の価格は上昇し、明らかに引き合いが強くなっているわけです。

そこで私は、仲介業者の方や地元の不動産事情に通じている方などとのお話を通じ、価格上昇について以下のような推測を立てました。


1. 不動産投資が注目を集める一方、不動産投資に対する銀行融資が以前より厳しくなり、現金で買いやすい価格帯の物件が注目を集める

2.資材価格の高騰や、都市部のマンション価格の上昇などに引っ張られる形で、中古物件の引き合いが強くなっている

3.買取再販のビジネスモデルが広がり、リフォーム済みの中古住宅の流通が一般的となり、収益物件への注目度の増大と相まって、未リフォームの現況販売物件が市場に出にくくなっている

4.賃貸物件の問い合わせ上昇に関しては、コロナ禍による収入減の影響も相まって、より安い賃料の物件への注目度が高まった


現在も物件の価格上昇が収まっているわけではないので、実際にはこれらのうちどれか1つが決定的な要因というのではなく、複合的な遠因に左右されているとしても、まったくの見当違いの推論ではないだろうと考えています。

価格上昇そのものは都市部では普通に見られる現象で、すでに周知の事実ですから、特に意外性もない話であるとは思います。

限界分譲地なのに「新築戸建」が増えるワケ

しかしいびつだと思わざるを得ないのは、すでに述べた通り、価格が上昇しているのはあくまで「住宅」であって「地価」ではないという点です。

コロナ前後に関わらず公示地価は下がり、限界分譲地に残る膨大な空き地も、一切値上がりしている気配もなく、取引が活発になっている気配も見られません。

1つだけ例外なのは、たとえ駅から遠く離れた、事実上自家用車しか移動手段がない地域の分譲地でも、道幅が広く、1区画当たりの面積が比較的広い(80坪以上くらい)、つまり現代の新築住宅のニーズを満たしている特定の分譲地では、今も新築家屋が少しずつ増加しています。

もちろん、その分譲地だけ劇的に交通事情や利便性が改善されたという事実は全くありません。周囲には今も、そのニーズを満たさないために一向に再利用が進まない古い分譲地が残されています。

その一方、近年になって開発された新しい分譲地は、どうしてもその販売価格に工事費用などが上乗せされ、供給も限られているために高額になりがちです。

そのため、比較的安価に購入できる20~30年前の分譲地までもが、今頃になって新築用地として利用されているのです。

千葉県富里市にて著者撮影

しかし、これはコロナ前の時点から少しずつ進行していた現象なので、物件価格の上昇によって引き起こされたものとは一概には言えないかもしれません。

ただ、コロナ以降、新築も含めた住宅価格が上昇していった中で、そういった旧分譲地の新築家屋はさらに増加しています。資材価格の上昇が続く中、以前と同じ予算で住宅の新築を行うとなれば、土地の価格を減らすほかはありません。

高度成長期やバブル期の投機目的の宅地分譲と異なり、元々現在の千葉県北東部の住宅市場は、基本的に地元在住者向けの市場です。都市部の基準で考えるほど、駅から遠いことはマイナス要因として働きにくい事情があります。

多くの自治体で人口が減少し、若年層の子育て世帯の誘致に躍起になっているとはいえ、そうしたへき地の分譲地に今から新築住宅が増加することは、都市計画やまちづくり、あるいは住民自身の老後の生活などの視点から考えれば必ずしも歓迎すべき話でもないとは思います。

ただ、予算も限られ、良質な住宅地の供給も限られている中では選択の余地もなく、同一エリアの中で、放置と再利用が混在して同時に進行しています。

千葉県多古町にて著者撮影

ブログ開設当初、私は今後の限界分譲地について、少子高齢化が進み、利用されなくなった土地は荒れ、空き家はさらに値崩れを起こしていくものなのだろう、と漠然と考えていました。

だからこそ、「大ハズレ」を掴まないためにも下調べが必要と感じてブログを立ち上げたのです。

ところが現時点での状況を見る限り、その予測は大きく外れていたと言わざるを得ません。むしろ当時と比較しても、インターネット上での不動産の取引手法も多様化しています。

その他、さまざまな社会情勢や就労環境などの急激な変化によって、逆にへき地の分譲地の流動性が高まる(価格は下落していても)過程に、私は身を置いていたのかもしれないと思いました。

(吉川祐介)