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「30年家賃保証」に「一括借り上げ」―。どちらもサブリース物件のメリットとして挙げられることが多く、不動産オーナーの心が揺れ動くフレーズではないでしょうか。

「空室リスクがゼロ」というのは魅力的でしょう。建物の維持管理を業者に一任できるのは合理的です。こうした収益の安定性と経営の簡素化は、投資家にとってはありがたい要素とも言えるでしょう。

しかし、5年前に起こった女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」騒動を契機に、サブリース事業のイメージは大きく暗転した印象をぬぐい去れません。

一連のトラブルで、不動産投資家はサブリース契約が「良薬」にも「毒薬」にもなることを知りました。

契約の締結に際しては自己責任を自認し、リスク情報を中心とした正確な知識の習得が求められます。搾取されないためにも、各自、知識武装する必要があるのです。

そこで、今回は法的な側面から不動産オーナーに知っておいてほしいサブリース契約の基本知識をまとめました。投資家の立場に立ち、Q&A形式で紹介します。

Q1:そもそも「サブリース」とは?

そもそもサブリースとは「転貸」の意味で、賃借人が賃借物を第三者に使用収益させる行為を指します。「また貸し」と換言するとイメージしやすいかもしれません。

民法では賃借人が賃借物を転貸する場合、賃貸人の承諾を得ることを大原則としており、その規定に反して無断で使用収益させると、契約を解除できることとなっています(民法612条)。

契約というのは当事者間の「信頼」に基づき成り立っており、無断転貸は背信的行為(信頼関係の破壊)とみなされるからです。

Q2:サブリース契約とマスターリース契約の違いは?

賃貸住宅の管理には「管理受託方式」と「サブリース方式」の2つの経営手法があるのは周知の通りです。

ただ、残念なことに「かぼちゃの馬車」騒動を契機として、サブリース事業が悪徳商法のごとく扇動されたのは疑う余地もありません。

家賃保証に伴う契約条件の誤認を原因とするトラブルが多発するなど、社会問題に発展しました。

その余波は行政を動かすほどのインパクトとなり、2020年6月、国民生活の基盤としての賃貸住宅の役割の重要性にかんがみ、「賃貸住宅管理業法」が制定されました。国を挙げて、サブリース事業における紛争の未然防止を図ろうというわけです。

創設された賃貸住宅管理業法では、サブリース事業の適正化のための措置として、不動産オーナーとサブリース業者との間の契約を「特定賃貸借契約」(マスターリース契約)と定義しました(第2条4項)。これまで混同(ごちゃまぜ)して使われていた「サブリース契約」という言葉の使い方を整理した格好です。


 【マスターリース契約】特定賃貸借契約

不動産オーナー(原賃貸人)とサブリース業者(賃借人)との間の賃貸借契約 

【サブリース契約】転貸借契約

サブリース業者(転貸人)と賃貸住宅の入居者(転借人)との間の賃貸借契約


これにより不動産オーナーの承諾を得て転貸がなされた場合、その賃貸住宅にはマスターリース契約とサブリース契約の「二重の賃貸借」が存在することになります。両者は別契約であり、権利も義務も及ぼし合いません。

たとえ転貸借契約が成立したからといって、不動産オーナーとサブリース業者との元々の契約関係に何ら影響はないのです。もちろん、不動産オーナーと入居者との間の関係も変更ありません。両者の間に契約関係は生じないのです。繰り返しになりますが、それぞれが独立した契約だからです。

Q3:業者が家賃滞納したらオーナーは契約解除できる?

では、各契約の関係性が理解できたところで、ここからは家賃の滞納と契約解除に関する法律知識に話を移しましょう。

サブリース契約の最大の魅力は空室リスクがないことです。家賃が保証されているわけですから、本来、その滞納を心配する必要はないはずです。

ところが、「かぼちゃの馬車」騒動では、サブリース業者の「スマートデイズ」がサブリース賃料を滞納するようになり、シェアハウスのオーナーを苦しめました。最終的にスマートデイズは破産を余儀なくされました。

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そこで、スルガ銀行から多額の融資を受けていたシェアハウスの一部のオーナーは被害者の団体を結成し、所有不動産を代物弁済(買い取ってもらう)することで借入債務を精算(相殺)しました。

未収分のサブリース賃料は回収できませんでしたが、アパートローンの返済債務からは完全に解放されることとなりました。必然的にマスターリース契約は消滅です。

転貸借において、家賃の滞納(債務不履行)は契約解除事由に相当します。不動産オーナーとサブリース業者が契約を締結する際の“ひな形”となる「特定賃貸借標準契約書」では、次のように規定しています。


甲(不動産オーナー)が相当の期間を定めて(乙=サブリース業者に)当該義務の履行を催告したにもかかわらず、その期間内に当該義務が履行されないときは、本契約を解除することができる(第18条)


そのうえ「家賃支払義務を3か月分以上怠った場合」と具体的な猶予期限まで明示しており、家賃の滞納がマスターリース契約の解除事由であることを明確に示しています。

以上によりQ3の回答として、サブリース業者が家賃を3カ月以上滞納した場合、まずは督促しましょう。それでも支払わないときは債務不履行を理由に契約解除するのも一案です。

ご存じのように、契約期間の満了に伴う不動産オーナーからの更新拒絶に関しては「甲(不動産オーナー)による更新拒絶通知は、借地借家法 第 28 条に規定する『正当の事由』がなければすることができない」(特定賃貸借標準契約書 第2条3項ただし書き)のです。

しかし、債務不履行を理由とした契約解除の場合には話が異なってきます。不動産オーナーが優勢になるのです。サブリース事業における紛争の防止を未然に図ろうという思いが強く感じられます。

Q4:マスターリース契約を解除したらサブリース契約は?

ところで、マスターリース契約は解除したものの、その後はどうしたらいいのでしょうか―。

特定賃貸借標準契約書は「本契約(マスターリース契約)が終了した場合、甲(不動産オーナー)は転貸借契約における乙(サブリース業者)の転貸人の地位を当然に承継する」(第21条)と規定しています。

これまで、三者の合意により「承認の特約」を設けて地位の移転を担保する例はありましたが、標準契約書では「当然に」承継するとしています。マスターリース契約の解除によってサブリース業者は退場を余儀なくされるわけですが、その地位を不動産オーナーが自ら引き継げる(オーナーと入居者の直接契約)ようになっています。

Q5:契約解除に伴い、既存の入居者は退去させるべきか?

その際、現に居住している入居者をどう取り扱うかも併せて検討するようにしましょう。

というのも、消費者庁などから「サブリース住宅の入居者は、建物の所有者と貸主間の賃貸借契約(マスターリース契約)終了により不利益を受ける場合がある」との注意喚起が発せられているからです。

転貸借は賃貸借を基礎として、その上に成立しています。そこで入居者を追い出すために、賃貸人と賃借人がわざと賃貸借関係を消滅させるおそれが想起されるのです。

民法では適法な転貸借がなされている賃貸住宅において、マスターリース契約がサブリース業者の債務不履行を理由とする解除により終了した場合、不動産オーナーはその解除を入居者に対抗することができるとしています(第613条3項 ただし書き)。

何ら落ち度がない入居者に対して「賃貸住宅から出ていけ!」と主張できるのです。

Q2で、マスターリース契約とサブリース契約はそれぞれ独立していると申し上げました。別契約のため、マスターリース契約が終了してもサブリース契約は当然に終了しないのが原則です。

しかし、最高裁判所は「サブリース業者の債務不履行を理由にマスターリース契約が解除された場合、不動産オーナーが入居者に目的物の返還を請求(退去要請)した時点で転貸借関係は終了する」(最高裁 平成9年2月25日)と判示しています。

別の判例では「特段の事情がない限り、入居者に通知をして賃料の支払いの機会を与える必要はない」(最高裁 平成6年7月18日)との判断を示しています。

もし、入居者が契約解除される前に家賃を支払うことができれば、入居者は解除を回避できます。不利益を免れる(住み続けられる)のですが、司法はその機会の必要性を排除しています。入居者より不動産オーナーの地位の保持を優先している証左と解されます。

入居者への退去要請は任意です。入居者の退去は不動産オーナーが「目的物の返還を請求した場合」に効力を発します。返還を要求しなければ、入居者は出ていく必要ありません。すべて不動産オーナーの裁量でシナリオは描かれていきます。

不動産オーナーがサブリース業者との契約を解除するには、以下の4つの方法があります。


(1)不動産オーナーからの解約の申し入れ
(2)契約期間の満了に伴う更新の拒絶
(3)賃借人の債務不履行による解除
(4)合意(話し合い)による解除 


しかし、(1)(2)は借地借家法に規定する「正当の事由」が求められ、司法の判断を仰がなければなりません。

そこで、「サブリース業者からの契約解除」という建前で、オーナーがサブリース業者に解約手数料を支払い、(4)両者の話し合いにより契約関係を解消する例が散見されます。この場合、「(形式上)サブリース業者の都合」ですので、正当の事由は必要ありません。訴訟の提起は不要となります。

今回、取り上げた(3)債務不履行による解除は「サブリース業者の家賃滞納」が必須条件となるため、不動産オーナーの裁量でシナリオは描けません。先方頼みとなります。

しかし、知識として知っておくのは極めて有効です。冒頭で触れたように、サブリース契約は「良薬」にも「毒薬」にもなります。正しい知識とその活用が不動産経営の安定に資するのです。

(平賀功一)