千葉県千葉市、東京から見て奥の方に、バブル期に開発分譲された高級住宅街があることをご存じでしょうか?

正式名称は「ワンハンドレッドヒルズ」。ロサンゼルスにある有名な高級住宅街「ビバリーヒルズ」をもじって「チバリーヒルズ」などと呼ばれています。

具体的には、千葉市緑区あずみが丘6丁目、すなわち、千葉から房総半島太平洋側の安房鴨川に向かって伸びるJR外房線で、隣の大網白里市との境界の手前の土気(とけ)駅から徒歩20分程度の位置にあります。

東京に住む身としてはなかなか行く機会がないな、と思っていたのですが、先日、ちょうど付近に用事ができたこともあり、ついでに立ち寄ってみることにしました。

現地の雰囲気は…

この日は曇り空で、冬の訪れを感じさせる寒い日でした。十分に防寒着を着込んで、15時過ぎに土気駅に着きました。

現地へは歩いて20分程度、バスもありましたが、地域の環境を肌で感じるためにも、徒歩で訪れることにしました。

土気駅は、平成初頭に整備されたのであろう、いかにもニュータウンという印象の、スーパーマーケットと数件の店舗が整然と建ち並ぶ駅でした。

土気駅前の店舗群(著者撮影)

日曜日の午後でしたが、寒い気候も手伝ってか、歩いている人は筆者と同じ列車から降りた数人と、バスを待つ数人程度です。

そのスーパーマーケットと数件の店舗のゾーンを足早に通り過ぎると、坂道が多いことに気がつきます。この点は、住宅地としてはちょっと気になるところです。

そのまま歩き続けると、やがて幹線道路が現れました。事前に写真で検索していたために見覚えのあった「ワンハンドレッドヒルズ」の入口が現れました。

ワンハンドレッドヒルズの入り口(著者撮影)

入り口にはゲートがあって、部外者お断り、といった雰囲気があります。「中には入れないのか…」と諦めかけましたが、私道や私有地に立ち入らずに撮影、見学をすれば問題もなさそうです。

そこで、千葉市の建築基準法上の道路網のサイトを見てみました。すると、ゲート部分だけは建築基準法上の道路指定が外れていますが、それ以外のワンハンドレッドヒルズの内部の道路も建築基準法42条1項1号道路、すなわち、市道となっています。

ということで、ゲートを通らず迂回する形で、市道からワンハンドレッドヒルズを見学することにしました。

「見学ご遠慮ください」の看板も

迂回したところ、ものすごく広大な遊休地がありました。遊休地は芝生が植え込まれていたのですけれど、おそらくは分譲しそこねたのだろうなぁという印象でした。

ワンハンドレッドヒルズ周辺の遊休地(著者撮影)

ただ、もう少し歩くと、(失礼ながら)千葉市の郊外にしては場違いとも個人的には感じる豪邸群が現れました。

防犯カメラが整備されているようで、これに加えて「家の見学等はお断り」との注意書きがあちこちにあります。

あちこちに見られた注意書き(著者撮影)

ワンハンドレッドヒルズの内部を見る限りでは、バブル期の頃、ビバリーヒルズのような高級住宅街に憧れる人向けに東急不動産が開発したのだろうな…ということは感じ取れました。

ただ、駅からは少々距離があります。周囲には商店がちょこちょこ整備されているので、車があれば支障はないとは思いますが、高齢者が車を変に運転して事故を起こすことが社会問題となっている昨今、生活利便性はお世辞にも優れるとは言いにくい状況でしょう。

なお、ワンハンドレッドヒルズの駅とは反対側方向はまた様子が大きく異なります。

ワンハンドレッドヒルズを通り過ぎると、昔ながらの農村と小さな山という風景が広がっており、高級住宅街との落差を感じます。

公示価格や不動産取引価格情報を見てみた

ワンハンドレッドヒルズには公示地はありません。そこで今回は、最も近隣の公示地、あずみヶ丘7丁目に公示地「千葉緑-1」という地点を見ていきます。

当該地点は平成5年から公示地として機能しているのですが、平成5年1月1日時点で19万円/平米であったところ、30年経過した令和5年1月1日時点で7万2400円/平米まで下落しています。

東京23区内の住宅地の公示地でも、30年前はバブル期の残り香が漂って地価がまだ高いままであった傾向があるため、平成5年との比較で令和5年の価格が若干下がっている地点は多いですが、4割未満の地点というのは見受けられません。

つまり、千葉の郊外で利便性が劣るがために、より派手に地価が下がったと言えそうです。そして現地を見ても、感覚的に納得できる面もあるように感じられました。

なお、売り物件の情報などを総合すると、ワンハンドレッドヒルズ内の物件価格は7000万円程度以上から、高値で1億円程度が目線かなぁという印象です。

公示地「千葉緑-1」の令和5年度の鑑定評価書を見ると、新築戸建住宅で3000万円台程度、といった旨の記述があります。もちろん、ワンハンドレッドヒルズは敷地面積がより広いので総額も大きくなると思いますが、7000万円程度以上から、高値で1億円程度というのは、感覚的にも均衡を得ていると思いました。

これから不動産を買うなら

最後に、公示価格の鑑定評価も担当させていただいている不動産鑑定士としての意見を述べさせていただきます。

千葉市に限らず、多摩ニュータウンなど多摩郊外の住宅地でも、駅から遠いなど不便な立地では地価が弱っているケースを耳にします。昭和時代に若手だった世代が高齢化して、足腰が弱くなったというのもあるようです。言い換えれば、利便性の問題があるからこその地価下落と言えるでしょう。

これからは人口減少が危惧される時代です。ということは、不動産市場において、利便性がよりシビアに見られる時代になるとも考えられます。

すなわち、不動産の価値は、現在だけでなく、将来動向も可能な限りで予測して判断する必要があります。

その際に、利便性についてよりシビアに考察する必要性を、今回、このワンハンドレッドヒルズを拝見して、改めて感じました。

(不動産鑑定士・冨田建)