「2024年、不動産投資の旬は終焉に向かう」―。
100億円超の資産を運用する不動産投資家の玉川陽介氏は「終わりの始まりを察知して、投資家は避難経路を確保しておく必要がある」と警告する。
米国が利下げに向かう中、日本ではマイナス金利解除のタイミングに注目が集まる。マクロ経済に精通する専門家らは「世界経済のけん引役が不在の年」(末廣徹氏)、「日本は失われた30年のデフレから脱却へ」(馬渕磨理子氏)と予測する。
不動産投資を取り巻く環境は2024年、大きな転換点を迎える可能性がある。
日銀のマイナス金利解除に伴い、融資の金利はどのくらいまで上がる可能性があるのか―。不動産価格に影響を与える日本経済や世界経済は、どこへ向かうのか―。
マクロ経済の分析を専門とする著名エコノミストをはじめ、不動産や金融の最前線で活躍するプロなど15人が2024年を占う。
【目次】(敬称略)
1. 【世界経済】末廣徹
2. 【日本経済】馬渕磨理子
3. 【為替】唐鎌大輔
4. 【日銀金融政策】田渕直也
5. 【中国経済】高口康太
6. 【政治】青山和弘
7. 【不動産投資】玉川陽介
8. 【地銀】野崎浩成
9. 【地域金融】佐々木城夛
10. 【マンション価格】牧野知弘
11. 【オフィス需要】吉田資
12. 【建設業界】内藤修
13. 【戸建住宅】高幡和也
14. 【相続登記義務化】吉川祐介
15. 【ローン金利】旦直土
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2024年の世界経済の成長率は23年のプラス3.0パーセントからプラス2パーセント台に鈍化し、停滞感が意識されるだろう。
リセッションは想定されないが、米国経済の息切れ、中国および欧州経済の停滞、日本経済の回復一巡、などで「けん引役」が不在となりそうだ。
成長鈍化によってインフレ率も鈍化するだろう。 名目GDPは伸び悩むことが予想される。企業業績は名目GDPと連動することを考慮すると、市場のセンチメントも高まりにくい。
欧米を中心に 金融緩和余地が大きいことは安心感だが、アップサイドは期待しにくい 。
過去の利上げの影響が注目される米国はそれほど悲観する必要はないものの 、明るい状況でもない。高齢化を背景とした慢性的な人手不足問題によって失業率の大幅上昇は避けられる可能性が高いため、「レイオフ大量発生からの景気急落」という流れは生じないだろう。
逆に言えば、停滞色が強まりやすい。市場は右往左往しても、冷静にみる必要がありそうだ。
末廣 徹(すえひろ・とおる)
2009年にみずほ証券に入社し、債券ストラテジストや債券ディーラー、エコノミスト業務に従事。2020年12月に大和証券に移籍、エクイティ調査部所属。マクロ経済指標の計量分析や市場分析、将来予測に関する定量分析に強み。債券と株式の両方で分析経験。民間エコノミスト約40名が参画する経済予測「ESPフォーキャスト調査」で19、21年度の優秀フォーキャスターに選出。
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2024年の日本経済は飛躍の年になりそうです。失われた30年のデフレから脱却しつつある日本を実感できる年だと期待しています。
賃金上昇が伴うマイルドなインフレ社会に移行するならば、体温を持った経済への移行が期待できます。
米国は金融政策を転換し、利下げに向かう中で株式市場は堅調な動きになり、日経平均は3万8000円をトライする局面があると予想します。
国内の金利が上昇する可能性がありますが、日銀の立場として景気を冷やしたいわけではありません。
その点から考えると、不動産市況にマイナスのダメージが出るほどの金利の引き上げに至ることは現状では考えにくいです。
むしろ、日本経済が温度を持つとするならば、不動産市況が冷え込む可能性は低いと見ています。いずれにしても、インフレ社会に入るのであれば、現金で保有していると資産が目減りします。
2024年は、これまで投資に馴染みのなかった人達にも投資が当たり前の年になるでしょう。
馬渕磨理子(まぶち・まりこ)
京都大学公共政策大学院の修士課程修了後、トレーダーとして法人の資産運用を担う。2018年から株式会社日本クラウドキャピタル(現株式会社FUNDINNO)のECFアナリスト(現任)として政策提言に関わる。2022年1月から一般社団法人日本金融経済研究所代表理事(現任)。
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2024年のドル円相場に関しては「FRBは利下げ、日銀は利上げが注目される年。だから円高になる」というストーリーを支持する向きが多い。
現在のFRBの説明を踏まえる限り、このストーリーの蓋然性は高い。だが、米金利低下に応じて、どの程度円高が進むのかは需給構造次第だ。
この点で近年の日本は脆弱性を抱える。実は日本は「貿易赤字国としての(FRBによる)利下げ」をほとんど経験したことがない。変動為替相場である以上、米利下げに応じてドル以外の通貨が上昇するのは自然だが、貿易赤字国通貨の上昇幅は当然限定される。
過去、日本が円高を経験してきた背景には貿易黒字国だったという事実もある。しかし、日本は約10年前から貿易赤字国であり、その頃から円高があまり起きていない。
かかる状況下、FRBが利下げに転じるとしても、「過度な円安」が「穏当な円安」になる程度の認識で良いと考える。ドル/円相場の主戦場は「100~120円」から「125~145円」などにシフトしている可能性もある。
米国の利下げを経験する2024年はそうしたパラダイムシフトを実際に確かめる1年にもなる。
唐鎌大輔(からかま・だいすけ)
2004年慶應義塾大学経済学部卒業後、JETRO入構、貿易投資白書の執筆などを務める。2006年からは日本経済研究センターへ出向し、日本経済の短期予測などを担当。その後、2007年からは欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、年2回公表されるEU経済見通しの作成などに携わった。2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。
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日銀にとって2024年は、非常に「チャレンジング」な年になるに違いない。
まずは、来年春の賃金交渉での堅調さをある程度確認したうえで、1月か3月にはマイナス金利政策の解除を行う可能性が高い。
解除後には、無担保コール翌日物という市場金利に0~0.1%の誘導目標を設定する案が有力だが、そうなれば実質的に0.1%の小幅利上げになる。
だが、問題はその後である。現在、市場では、2024年末から2025年初頭にかけて0.25%幅による最初の利上げが行われるとの予想が織り込まれている。現在の日本の物価動向を見れば、これは妥当な予測だ。
だが2024年には米欧英各国で利下げへの転換が見込まれており、その中で日本だけが利上げをすると急激な円高を招きかねない。とくにアメリカが景気後退に陥るような事態になれば、日銀の利上げはさらに難しくなるだろう。
最大のリスクシナリオとしては、逆に海外の景気が予想外に回復するか、何らかのイベントリスク、例えば中東での戦争拡大によるエネルギー危機などによって世界的にインフレ懸念が再燃し、日本に波及してくるケースである。
その場合、日銀は早期の利上げを迫られることになり、市場に混乱が広がることは避けられなくなるだろう。
田渕直也(たぶち・なおや)
日本長期信用銀行に入行後、海外証券子会社のLTCB International Ltdを経て、UFJパートナーズ投信(現・三菱UFJ国際投信)でチーフファンドマネージャーを務める。現在はミリタス・フィナンシャル・コンサルティング代表取締役。
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2023年の中国経済は不動産市場の低迷、輸出不振、若年層の就職難、物価低迷などネガティブなニュースが続いた。
一方で5%前後という政府の成長目標は達成される見通しだ。失業率の安定や堅調な消費などを踏まえると、底割れは防いだと評価できる。
では2024年の中国経済はどのように推移するのか。最大のリスク要因である不動産市場については大きく反発することは期待できない。
地方や郊外など、そもそもたいした需要がない地域に大量の住宅在庫が積み上がっていること、加えて中国政府は不動産バブル再燃への慎重姿勢を崩していないためだ。
2024年の経済政策を決定する中央経済工作会議ではあらたなめて「クロスシクリカルな調整」が強調された。
足元の経済危機に対応するだけではなく、中長期的な視点からの安定を目指すという意味で、底抜けを防ぐための措置は執りつつも、強力なカンフル剤は打たないとの姿勢を明確にした。
国際通貨基金(IMF)は今年10月の世界経済見通しで、中国の成長率は2024年に4.2%に減速するとの見方を示しているが、中国政府の姿勢が転換しないかぎり成長率は今後、年々緩やかに減速していく傾向は続くだろう。
世界経済を牽引してきた中国の失速は、輸出の減少など日本にとってもネガティブな影響をもたらすことになる。
高口康太(たかぐち・こうた)
中国経済・企業、中国企業の日本進出と在日中国人社会をテーマに取材を続けている。著書に『幸福な監視国家・中国』(NHK出版、梶谷懐氏との共著)『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)。ニュースサイト「KINBRICKS NOW」、個人ブログ「高口康太のチャイナ・ウォッチング」を運営。
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2024年の政治は、自民党の裏金問題によって大荒れとなるだろう。
野党が攻勢を強め、岸田総理は早ければ3月末の来年度予算成立と引き換えに、退陣する可能性もある。そこは乗り越えても、岸田総理が9月の自民党総裁選で再選される可能性は極めて低くなった。
焦点は支持率の推移と、辞職した議員の後任を決める4月の補欠選挙の行方だ。岸田総理の進退には拠り所としている麻生副総裁の判断が大きな影響を与えるだろう。
ポスト岸田の条件は「自民党が生まれ変わった」とのイメージを打ち出せること。となると党ナンバー2の茂木幹事長よりも、非主流派の石破元幹事長や、女性初の総理として上川外相などが浮上して来る可能性がある。
新総理を選出した暁には、遠からず政治改革を掲げて国民に信を問う形になるだろう。
政治の混乱により、アベノミクスの出口を探る日銀の金融政策は制約される可能性が高い。来年は岸田政権が掲げる政策全般が停滞するのは避けられない。
青山和弘(あおやま・かずひろ)
政治ジャーナリスト。星槎大学非常勤講師。元日本テレビ政治部次長兼解説委員。1968年千葉県生まれ。1992年、東京大学文学部社会心理学科卒業、日本テレビ入社。政治部では野党キャップ、自民党キャップを歴任した後、国会官邸キャップは2回(通算6年)。与野党を問わない幅広い人脈と分かりやすい解説には定評がある。
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不動産投資の旬は終焉に向かうと確信しており、当社は不動産投資を卒業する。
バブル期には東京に入りきらなくなった投資資金が時間差で地方に向かった。現在でも東京から大阪、名古屋、札幌と投資資金が順に巡っている。
最も早く不動産を卒業したのは金融機関であった。現在は、不動産投資の最大唯一の利点ともいえる高いレバレッジは禁じ手となった。
結果、都心の投資物件の購入は、宅建業者5割、中華系3割、初心者や資産家2割、そして、当社のような投資家はほぼゼロとなっている。
業者筋はタワーマンション短期転売など「空中戦」に参加したり、薄利多売でしのぐなど無理が出始めている。値上がり必至であるはずの戸建て実需市況においても、郊外では売れ残りが出るという。
デベロッパー側の材料高騰の論理にはほころびが見られ楽観視できない。渋谷スタートアップも不動産も同じ。バブルは数年で終わる。投資家は終わりの始まりを察知して避難経路を確保しておく必要がある。
玉川陽介(たまがわ・ようすけ)
コアプラス・アンド・アーキテクチャーズ株式会社代表取締役。1978年神奈川県大和市生まれ。学習院大学卒。幼少期にITに慣れ親しんだ経験から、大学在学中に統計データ分析受託の会社を創業。同社を順調に成長させたあと2006年に株式売却。その後は、国内外の株式、債券、不動産など多様な取引をする個人投資家となる。現在は100億円を超える資産を運用中。
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