1月1日に発生し、甚大な被害をもたらした「能登半島地震」。こうした大規模な災害の発生時、決まって起こるのが、災害に便乗した悪質商法だ。
中には「保険が使える」と勧誘して不正に保険金を請求し、成功報酬を得ようとする手口や、被災地への義援金と偽り、金を集めるような詐欺もあるという。
石川県知事の馳浩氏も、X(旧Twitter)で「保険が使えるとする手口は要注意」と呼びかけ。リポスト数は1.8万を越えた。
人々の不幸や混乱に乗じた、決して許されない行為であるが、その実態とはどんなものなのか。過去の災害時に行われた手口や、その謳い文句について、専門家に聞いてみた。
災害に便乗した悪質な手口とは
2011年の東日本大震災から10年以上、災害時の詐欺・悪質商法の実態を取材してきたジャーナリストの多田文明氏は「災害直後は、通報などがしづらい状況を狙った悪質な犯罪が多発する」と話す。
被災地ではすでに、空き巣や窃盗のような犯罪が発生しているという報道もある。これは、避難によって人がいなくなった家をターゲットとしたものだ。
一方で、避難所から住人が戻ったタイミング、あるいは被害が比較的小さかった地域においては、高額な点検料・修理代金をせしめようとするリフォーム業者や、保険金を不正に請求することを手伝おうという業者もいるという。
「たとえば、損害箇所にブルーシートをかけただけで10万円以上の請求をされた、という事例です。彼らは、まるで無料で対応してくれるかのような口ぶりで家主に近づき、施工後に高額な請求を行う悪質業者です」
中には、公的機関の職員を騙り、家屋の損害状況について点検や応急処置をするとして訪問し、高額な請求を行うといった業者もいるのだという。
「『市役所のほうから来ました』と言って、ただ市役所の方角から来ただけの業者という事例もありました。善意で対応しているのだという雰囲気を出しておきながら、強引に家に上がり込んであれもこれもと直し、最後に高額な請求書をポンと出す、といった手口です」
多田氏によれば、断ることができなさそうな温厚そうな人や単身の高齢者は、特にこのような業者のターゲットにされてしまう事が多いという。
強引に契約をさせられることになってしまわぬよう、まずは怪しい業者を家に入れないことが重要だと話す。
「このような悪質な業者は、その場で現金を手に入れることを目的にする場合が多いです。そのために契約を迫ったり、急かしたり、強引な手段を取ることも少なくありません。目の前にいる業者が優良な会社かどうか不安に思ったときは、『相見積もりを取りたい』と伝えてください。悪質な業者だった場合は、契約を先送りにされることを嫌がると思います」
さらに、もし悪質な業者から請求を受けることにまでなってしまった場合は、支払いの意思を表明しつつも、その場でお金を渡してはいけないという。
業者が名乗った法人に実態がなかったり、法人名や個人名が虚偽である可能性もあるためだ。支払いを済ませた後に被害を訴えても、それを追及する先がわからず、泣き寝入りしてしまうケースも多いという。
「場合によっては、契約そのものを取り消せる可能性もありますので、支払い前に消費者ホットラインあるいは近くの消費者センターに相談するのが良いと思います」
「地震保険の請求サポート」謳う業者も
不動産オーナーが特に注意したいのが、「損傷部分を保険で直せる」「保険金の申請を手伝う」という言葉をかけてくる業者の存在だ。
「『地震保険コンサルタント』や『保険請求サポート』を名乗り、支払われた保険金額の3~4割を成功報酬として請求する業者には特に注意が必要です」
こう指摘するのは、保険代理店「保険ヴィレッジ」の斎藤慎治氏だ。
斎藤氏によると、過去には台風被害を受けた地域などでも、火災保険がおりると持ち掛けて高額な修理費用を請求する悪徳業者が出没している。
斎藤氏は、保険金が支払われる範囲が地震保険と火災保険とでは異なる点にも注意を呼びかける。
「地震保険は実費がいくらかかったかにかかわらず、定額払いである点が火災保険との大きなちがいです。全損、大半損、小半損、一部損という4つの区分しかなく、火災保険の半分である地震保険金額に対してそれぞれ支払い割合が100%、60%、30%、5%となっています。この区分に該当しなければ保険金は出ません」
また地震保険は、給湯器やエアコン室外機などの付属物は一切対象にならない。
この点についても「悪徳業者はセールストークで近づいてきますが、こうした知識を身につけておき、悪質な業者の口車には乗らないことだと思います」と斎藤氏は注意を呼び掛ける。
さらに斉藤氏は、地震保険は被災者の生活再建を目的としており、保険金の半分は公費でまかなわれている点にも言及。
「悪質な業者を通した不正請求によって、一刻も早く保険金が欲しい人が後回しになるようなことはあってはならない」と語気を強めた。
過去に勧誘を受けた大家も
今回、実際に保険金の不正請求と疑われる勧誘を受けたことがあるという、不動産投資家のAさんにも話を聞いた。
2022年3月16日に発生した福島県沖地震の数日後、収益物件の売買も行う会社から、保険金の申請をサポートするといった趣旨のメールが届いていたという。
メールの中には「早いもの勝ち」との文言も含まれており、率直に「これは怪しいな」と感じ、連絡を取ることはしなかった。
「この会社には以前、資料請求をしたことがありましたので、私のことを不動産投資家だとわかってメールしてきたんだと思います」
Aさんは、「この業者がどうかはわからないが、被災者の不安に付け入るような行為は、人としてやるべきではない。許せない」と怒りを露わにした。
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自然災害はいつ、誰のもとで発生するかわからない。決して他人事ではない、このような悪徳商法についても知っておき、災害時の「二次被害」を受けることがないように注意したい。
(楽待新聞編集部)
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