日銀の金融政策が転換点を迎えつつある。日銀は1999年2月にゼロ金利政策を採用し、以来20年以上にわたって同政策を続けてきた。
しかし、昨今の物価上昇やインフレを機に、金利上昇への圧力がかかっている状況だ。
今回は、金融政策の変化が不動産に与える影響を探ってみた。
2022年以降マンション価格の値上がりが顕著
インフレを背景に、世界中の中央銀行が金融緩和政策から引き締め政策(利上げ)に転換し、日銀も遅ればせながら、約25年続けてきたゼロ金利政策を終了させる方向にある。
すでに長期金利には上昇圧力がかかっており、金利はジリジリと上昇している。低金利は住宅価格にどのように影響を与えてきたのだろうか?
ここで、国土交通省の不動産価格指数を見てみよう。
全国の不動産価格指数(2010年=100)のうち、住宅総合指数は2012年3月の99.7から2023年8月には134.9と、35.2ポイント上昇していた。
戸建住宅指数も同様に、98.8から115.3に16.5ポイント上昇、マンション指数に至っては102.0から192.1に大幅に上昇した。差は90.1ポイントに及んでいる。
黒田東彦氏が日銀総裁に就任し、「異次元の金融緩和」を開始したのは2013年4月以降のため、金融緩和政策が住宅価格の押し上げに働いたことは間違いないだろう。
黒田前総裁は、量的・質的緩和といった金融緩和策を段階的に実施していったが、それらに同調するように、マンション価格は顕著に上昇した。
さらに、インフレが強まった2022年以降には、マンション価格は一段と上昇した。
加えて、金利上昇圧力が強まり始めた2023年8月以降には、先行きの住宅ローン金利上昇を懸念して購入意識が高まった。
このことが、マンション価格の上昇に拍車をかけたと推測される。
金利上昇が住宅の買い控えにつながる?
こうした状況を鑑みれば、今後訪れるであろう金利上昇は不動産価格にとって決して好材料ではなく、むしろ「逆風」となりかねない。住宅ローン金利の上昇は住宅購入意欲を低下させる可能性が高いためだ。
国土交通省の「令和4年度住宅市場動向調査」によると、住宅を新規取得した人(一次取得)における、住宅ローンの借入れ平均額は土地付き注文住宅で3772万円、建売住宅で3205万円、分譲マンションで3610万円だった。
年間の返済額はそれぞれ174.0万円、126.6万円、148.1万円となっている。
住宅ローンの返済は、ボーナス払い併用の有無、ボーナスでの返済割合など個人差があるため、ここでは年間返済額を単純に12で割って月々の返済額を算出する。
これによると、土地付き注文住宅は14.5万円、建売住宅が10.6万円、分譲マンションが12.3万円となる。
同調査によると、住宅ローンの78.6%が「変動金利型」で組まれているという。ここで、金利上昇と返済額の相関をみてみよう。分譲マンションを例に挙げ、変動金利が年0.5%で年間の返済額の上限を148万円と想定する。
住宅ローンの借入期間にもよるものの、借入額を先に示した3610万円程度として試算すると、変動金利が年0.5%上昇するごとに、購入できるマンションの価格はおよそ300万円ずつ下がる。
住宅ローン金利が上がると、消費者は購入可能な住宅価格を引き下げなければならないのだ。このことは、住宅の買い控えをを引き起こし、住宅需要の低下を通して価格が下落する可能性を示していると言える。
住宅ローン金利上昇が住宅価格に与える影響
高度経済成長期真っ只中の1957~1960年、1980年代後半から1990年代初頭のバブル経済などでは金利が上昇したにもかかわらず、住宅価格も上昇した。好景気によって賃金が上がり、所得が大きく増加したためだ。
つまり、住宅ローン金利が上昇しても、好景気で所得が増加していけば、住宅需要は後退しづらいと考えられる。
前述のように、2023年に入ってから特にマンション価格が上昇した背景には、住宅ローン金利上昇を懸念して購入意識が高まったことに加え、インフレ対策として多くの企業が賃上げを実施したことも大きいと推測できる。
しかし、今後好景気が到来し、順調に所得が増加するとは予想しがたく、金利の上昇は住宅価格にとっては「逆風」であると考えておく方が良さそうだ。
消費者物価に対し「硬直的」な家賃の指数
不動産運用に当たって、金融政策の転換以外に掴んでおくべき重要な点がある。マンションやアパート経営で重要なのは家賃収入だが、日本は家賃収入が非常に「硬直的」なのだ。
総務省統計局が発表する消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数)が前年同月比でプラスに転じたのは、2021年9月のこと。
それ以降、物価は上昇を続け、2023年1月には前年同月比で4.2%の上昇と目先のピークを付けた。同年9月に2.8%となるまで、指数は12カ月の間3.0%を上回って推移した。
2021年9月以降、2023年10月まで消費者物価が26カ月連続で前年同月比を上回ったのに対し、家賃の指数は前年同月比0.1%上昇した月が17カ月あっただけで、それ以上に上がった月はなかった。
もちろん、都心部など一部地域では家賃が上昇しているとの話も聞くが、消費者物価指数から見ると、全国的には、物価上昇に対して家賃はなかなか上昇していないと言っていいだろう。
物価や金利が上昇しているにもかかわらず家賃が上がらない状況は、不動産運用の利回りが実質的に低下していることを意味する。
今後の不動産運用については、物価と金利上昇に対して、運用利回りの低下をカバーできる家賃収入の増加が行えるかが焦点となりそうだ。
(鷲尾香一)
プロフィール画像を登録