不動産投資歴20年の不動産投資家「テリー隊長」の全面協力をいただき、不動産投資の初心者の「楽太君」が大家デビューを目指す連載第17話となりました。

楽太君が大家となって、1年が経ちました。それでもまだまだ初心者の楽太君。さまざまな疑問が湧いて出てくるようです。

今回テリーさんに聞くのは、「大規模修繕」と「法人化」。大規模修繕はどのくらいの時期に行うべき? 法人化はしたほうがいい? 果たして、テリーさんの答えは…?

<登場人物紹介>

 テリーさん
50代半ばの不動産投資家。IT企業A社の元社員。20年前に不動産投資を始めた。50歳で会社を早期退社し、不動産賃貸経営を行いながら、悠々自適の生活を送っている。

 楽太君
30歳のサラリーマン。A社に勤務し、以前テリーさんの下で働いていた。素直で好奇心旺盛な性格。不動産投資を始めるべく、テリーさんに教えを請う。

大規模修繕に備える

楽太が中古アパートを買って1年が経とうとしていました。会社の同僚だった楽美さんと結婚した楽太は、青色申告の申請を行い、楽美さんに青色専従者として帳簿の作成と定期清掃をしてもらっています。

もちろん、定期清掃は楽太も一緒に行い、また、複式帳簿の勉強をして、簿記3級の資格取得を目指しています。

そんなふうに大家業をしていると、次から次へと疑問が湧いてくるものです。そんな時は、いつでもテリーさんへ質問に行く楽太なのでした。

テリーさん、今、アパートの大規模修繕について考えているんですけど、いつ頃やったらいいですかね?
大規模修繕か…。ちなみに、楽太君の物件はこんなスペックだったよね

・木造
・2LDK×4戸
・築10年(購入当時)

はい。今は築11 年ですね
なるほどね。じゃあ、今日は大規模修繕について説明しよう
お願いします!
まず、覚えておきたいことは、アパートも人と同じように、年をとっていけば、少しずつ調子の悪いところが出てくるんということ。だから、アパートも定期的な検診を受けて、治療…つまりメンテナンスをうけないといけないんだよ
定期的な検診って? 建物の大規模修繕って、ちょっと調べた感じだと15年とか20年に一遍に全部交換するものだって見ましたけど、そうじゃないんですか?
それも人間と全く同じで、毎年の定期検診が大切なんだ。とは言っても、毎年、建築のプロに検査を受けてもらうのは現実的じゃないね。大家さんが日常的に建物をチェックして不具合がないか確認することが基本だよ
うーん。定期的に掃除には行っているけど…どこをどう見たらいいかよくわからないです
そういうときは3つの視点でみるといいよ
3つの視点?
大家と入居者と近隣住民の視点だよ
どういうことですか?
まずは、大家の視点。まず、大家さんとしては建物が正常に稼働しているかをチェックしてほしいね。とは言っても入居者さんがいる室内は見れないから、建物の外回りや共用部の外観チェックや共用設備の点検だね。タイルの剥がれ、塗装の汚れやチョーキングなどは注意してみないと見逃しやすいよ
(メモメモ)
給排水ポンプなどは異音が出ていないか普段から音を聞いておくといいね。建物や設備の不具合は問題が発生してからではなく、事前に修理や交換をしておくと費用的にも安く上がることも多いよ
なるほど。じゃあ入居者目線ってなんですか?
たとえば照明器具、オートロック、自動ドアなどの不具合があると入居者さんの大きなストレスになるよ。照明もセンサーで日没後に点灯するものは、センサーを布で覆ったりして電球が切れていないか確認したいね。また、門扉や塀に不具合がないかもチェックしてた方がいい。ガタついていたり、開閉時に音が出たりすることを入居者は意外と気にするんだ
なるほど
それと、通路やエントランスに私物を置く人がいることがあるけど、早め、早めに注意したほうがいいよ
大家さんって、住宅を快適に使うコーチのような役目もあるんですね
最後に近隣住民の目だよ。近隣の人たちは、集合住宅からの騒音や不法投棄されたゴミなどに意外と敏感なんだ。よく近隣から不法な自転車の投棄や粗大ごみの置きっぱなしとかで連絡を受けることがあるよ。その度毎に回収に行くけど、できれば連絡を受ける前に片付けをしたいね。植木がきれいに剪定されていないのもご近所さんからの印象は良くないね
自分の家じゃないのにゴミがあると連絡してくるんですか?
近隣で自宅に住んでいる人たちは、町の美化に対して意識が高い傾向にあるかもね。一方、賃貸住宅に住む人は、そういった意識が低い場合もあるから少し警戒されていることもあるんだよ
こんなにいっぱい、チェックすることがあったら、全部覚えられない…
最初は項目が多いから紙に書いてチェックするのがいいね
はい!
大規模修繕についてまとめてみると、おおまかにはこんな感じかな

こんなにあるんですね。でも、よく見ると定期的にやらないといけないのは、主に建物本体ということですね
そうだね。いわゆる定期的な大規模修繕とは、建物本体の塗装・防水工事のことを指すよ。他の物は故障時や必要に応じて対応することがほとんどだね。大規模修繕だからといって、設備まで全て必ず交換するということではないよ
ふむふむ
建物本体について定期的な大規模修繕が必要な理由は、大きくは雨漏りによる建物本体への水分の浸入防止と安全対策だよ。屋根・外壁・雨樋・バルコニー・階段廊下などは、日々、雨にあたっているから少しずつ表面や接合部が劣化して来るんだ。そうすると知らないうちに雨が建物本体の内部に浸入して、建物の寿命を短くしてしまうんだ。場合によっては人命にかかわるところもあるから重要だよ
確かにそうですね。でもそれって、見た目でわからないんですか?
わかるところもあるけど、わからないところ、見えないところが劣化することが特に怖いんだ
だから、定期的に塗装や防水をするんですね
それが、建物に足場をかけてやるような、いわゆる大規模修繕と言うやつだ
なるほど。じゃあ、他の設備とかは定期的に修繕をしなくていいんですか?
設備の場合は、不具合が生じたら修理で対応。部品もなくなり修理もできなくなったら交換というやり方が一般的だね
よく、外壁にチョーキングが出てきたら大規模修繕をした方がいいといいますけど本当ですか?

チョーキング。外壁を触ると白い粉が付く状態。外壁の防水効果が低下している兆候(※写真はイメージ PHOTO: Yamaさん T/PIXTA)

確かにチョーキングは外壁が傷んでいる証拠だけど、それが建物本体に水が浸入している証拠ではないよ。むしろ、接合部のコーキングがひび割れしたりしていたら危険だと思ったほうがいいよ
物件を探していると、こういう状態の物件もたまに見ますね…

劣化したコーキング(※写真はイメージ PHOTO: nouvelle /PIXTA)

そうだね。いずれにしても、大規模修繕のタイミングは、チョーキングだけで判断するのではなく、時期も見ながら定期的に行う方がいいと思うよ
理解できました。でも、大規模修繕となると、結構な費用がかかりますよね。ぼくも数年経ったらやらなきゃいけないと思うんですけど、お金が心配だなぁ…
オススメは、毎年、建物価格の0.5%ぐらいを積み立てておくことかな。君のアパートは、建物価格が約2000万円だったよね。つまり年間10万円ぐらい貯めておくんだ
修繕積立金ってことですか?
そうそう。そうすれば、仮に20年とすると200万円貯まる。それを使えば、大体の大規模修繕はできると思うよ
そうですね! えーっと、年間10万円ということは毎月8000円ちょっとか…
君の物件はいま築約10年だから、あと10年ちょっとで大規模修繕をすることになりそうだね
毎月2万円弱くらいは必要になりそうかな。わかりました。毎月頑張って積み立てます!
その意気だ。頑張ってね

法人化はすべき?

~~また別の日~~

 

テリーさん、テリーさん。法人化ってしたほうがいいんですか?
不動産投資を法人でやろうってことだね。ところで、なんで法人化に興味を持ったの?
ネットで、個人の所得税は累進課税だから、所得が大きければ大きいほど、高い税率で課税されるって見たんです。最高税率45%になるけど、法人は税率法人税、法人住民税、法人事業税を合わせて24%~36%だから、法人の方が絶対にお得だと書いてありました
ん? それは昔、このグラフを使って説明したじゃないか

個人の所得税は、累進課税だけど階段状になっているから、実際の実効税率は、所得1800万円でも約24%だよ
あー! そうでした!すみません、すっかり忘れてました…
まあ、説明したのも結構昔だけど…。このへんはおさらいしておいてね

○参考:
所得税はどうやって算出する? 不動産投資と税金の基礎

こうしてみると、法人とあまり変わらないですね。ぼくの今の所得を考えると、あと3、4棟アパートを買わないとサラリーマンと不動産の所得合計が1800万にはいかないです
その上、法人で不動産投資を行うことのデメリットもあるんだ。例えば税理士報酬とかね

○デメリットの例

・税理士報酬が必要
法人の会計は個人の確定申告より複雑なため税理士に申告をお願いすることになり、報酬として30-40万円が必要

・所得均等割が必要
事業が黒字でも赤字でも年約7万円が必要(東京都の場合)

そして、何より最大のデメリットは、法人で不動産投資もしても、法人のお金は個人では使えないということだよ
え? だって、自分の会社なんだから、法人税を払えば、残りは自由に使ってもいいんじゃないんですか?
おいおい。法人のお金は法人のもの。だから、社長であっても個人的に使ったら法律違反になるんだよ
えー!
だけど、楽太くんだって、不動産投資で得た税引き後のお金は教育費や自宅の購入に少しは使いたいだろ?
もちろんです! だって、これから子供ができたりするかもしれないし…
そうだよね。そうじゃないと、何のために不動産投資をしているかわからなくなってしまうよ。法人にはそういう問題があるんだ
なるほど…。じゃあ、法人で不動産投資をしている人は、どうしているんですか?
会社から役員報酬をもらうか、退職金をもらうかなどが考えられるね
あれ? 役員報酬って、もらったら、またそこに所得税や住民税がかかるんじゃないんですか?
もちろん。それだけじゃないよ。役員報酬をもらえば、社会保険料(健康保険料と厚生年金)も払わないといけないんだ
それじゃ、法人で不動産投資する意味ないじゃないですか!
いや、メリットもあるんだ。例えば、金融機関から融資が受けやすい、融資の年齢上限が甘い、家族に報酬をはらって所得を分散する、相続税対策がしやすいなどだよ
そっか…。あ、そう言えば、楽美さんのお父さんが法人で不動産をやっているんですけど、楽美さんのお姉さんが役員になっていました。それって、相続対策でもあったんですね
そうだね。だから、僕自身は、個人の所得税の税率も考えて、課税所得が1800万円までは個人事業主でやり、それを超えたときに法人にしたんだ
うーん。ぼくには法人での不動産投資はまだ早いと言うことがわかりました

ところで楽太くん、もう1年が経つけど、実際に大家さんになってみた感想は?
なんか変な気分です。自分が思い描いていた大家さんとか地主さんて、もっと違うタイプの人たちだったから
確かに不動産投資と言えば、古くからの地主さんとが相続税対策でやるイメージがあったよね。どちらかというと年配者のイメージかな?
そうなんですよ
実際はそうとも限らないんだけどね。自分の祖父も戦後、東京の城南で農家から土地を借りて、信用金庫で融資を受けて、戸建てやアパートを建てて賃貸業を始めたんだ。要は、チャンスについて常に日頃から考えて行動を起こすことが大切ってことかな?
テリーさんのおじいさんってすごい人だったんですね。ぼくもチャンスについて考え続けるぞ!

196X年:テリー隊長1歳、祖父60歳と自宅前で撮影

(いよいよ最終回! 次回へ続く)

(テリー隊長/楽待新聞編集部)