1月1日に発生した能登半島地震。被災地では多くの家屋が倒壊したほか、液状化による被害も多数報告されている。
こうした地震による被害に大きく影響するのが「地盤」だ。建物の耐震性能だけを高めても、地盤に問題があれば被害は大きくなってしまう。
そんな「地盤」の強弱は、どのように決まるのか。地震で揺れやすい地盤、液状化が起きやすい地盤の特徴とは?
熊本地震・能登半島地震など、現場の最前線で調査を行っている地盤のプロ、だいち災害リスク研究所・所長の横山芳春さんに、危ない地盤の見分け方から地盤改良の方法まで、徹底解説してもらった。
「沈みにくい地盤」と「液状化しにくい地盤」は別物
―よく「このあたりは地盤が良い(悪い)」などという言い方をします。そもそも地盤の良い・悪いというのはどのように決まるのでしょうか
建物の重さで沈下しない、液状化が起きにくい、地震の揺れを増幅させない、地滑りや崩落が起きにくい…などが、一般的には「良い地盤」の条件と言えるでしょう。
ただ、地盤の良し悪しはさまざまで、一言で「これが良い地盤だ」とは言えません。
例えば先ほど挙げた「建物の重さで沈下しない地盤」と「液状化が起きにくい地盤」は、実は真逆の特徴を持っています。
具体的には、「建物の重さで沈下しない地盤」は、砂(砂質土)の地盤であるケースが多いです(下図右)。砂質土の地盤は、建物の重さによって沈下しにくい一方、地下の水位が高ければ地震時に液状化しやすい、という特徴があります。
一方、「液状化が起きにくい地盤」は、粘土質(粘性土)の地盤が多いです(上図左)。粘土質の地盤は、建物の重さが長い期間加わると沈下しやすいという性質があります。粘土を上からぐっと押すと徐々にへこんでいくようなイメージです。ただしこの粘性土の地盤は、液状化はしにくい、という特徴も持っています。
沈下しにくい地盤と液状化しにくい地盤はどちらも「強い地盤」と言えそうですが、その特性は異なり、ある意味トレードオフのような関係です。ですから、どちらかに強ければそれだけでよし、というわけにはいきません。
1つの問題をクリアしたら、じゃあ他の問題はどうなのか? と順番に確かめていくことが必要になります。
―砂質土の地盤が液状化しやすのはなぜでしょうか
液状化は、3つの条件が重なった場合に起きる可能性が高まります。
条件の1つ目は先ほど説明したような「緩い砂の地盤」であること、2つ目は地下水の水位が浅いこと、そして3つ目は、こうした地盤に大きな地震が起きる、ということです。ちなみに沼や池などを埋め立てて作られた地盤など低い土地は、地下水位が浅い傾向があります。
ではなぜこうした地盤が液状化しやすいのか、それをモデル化したのがこちらの図です。
地震が起きていない通常時、地下水位が高く緩い砂の地盤では、このように砂の粒同士が結合した状態を保っています。砂の粒がぎゅうぎゅうに詰まっているわけではなく、隙間に水がある状態です。
ここに強い地震が発生すると砂の結合が崩れて、砂が水の中で浮遊するような状態になります。これが、液状化です。
この状態では地下水の水圧が高くなり、地表面の割れ目などの隙間から、砂や水が吹き出ます。今回の能登半島地震でも、液状化が起きて地面から砂と水が噴き出している映像が報道されていました。

能登半島地震では、地震の直後、液状化によって砂と水が地表に噴き出していた(提供:株式会社宮前建設)
―液状化による建物への被害としては、具体的にどのようなものが挙げられるのでしょうか
地震が発生して液状化が起きているときは、液状化した地盤の砂や水が、地上に噴砂(ふんさ)として吹き出します。それが収まると、地下で液状化した層が締まった分と噴砂として地上に流出した分、地盤が沈むことになります。
これによって、建物が片側に沈下する「不同沈下」が起こります。
また、固い地盤まで杭が打たれている建物では、建物は杭で支持されているので沈まないのですが、周りの地盤は沈んでしまう、ということが起こります。そうなれば地中に埋設された配管などが破断し、ライフラインに大きなダメージが生じます。

液状化の被害。建物と周囲の地盤に大きな段差が生じている(PHOTO: ペイレスイメージズ1/PIXTA)
ちなみに、一度液状化が起こった地盤は、締め固まって液状化しなくなる、ということはありません。再び大地震が起きれば「再液状化」するリスクがあるということも覚えておいていただきたいです。
―いま住んでいる場所、あるいはこれから買おうとしている土地の液状化リスクを調べる方法を教えてください
まず、自治体が提供している液状化ハザードマップがあります。自治体によりますが、液状化の可能性が高い場所、中くらいの場所、低い場所などが色で区分されているので分かりやすいです。
また、地形を確認できる国土地理院の「地理院地図」も参考になります。

国土地理院 地理院地図より
液状化の起きやすさには「地形」が大きく影響します。例えば以前川だった場所や、沼や池を埋め立てたような場所は、地下水位の浅い砂の地盤であることが多く、液状化しやすいと言えます。地理院地図では、そのような地形によるリスク情報をワンクリックで確認することができます。
こうして地形を見ることで、高台などで砂がなく地下水位が深く液状化しにくい地盤、低地で緩い砂があり地下水が浅く液状化しやすい地盤などの傾向を把握できます。
ただし、ハザードマップや地理院地図というのは、あくまでその地形の「傾向」を示したものに過ぎません。やはり最終的には「地盤調査」が必要になってきます。
意外と知らない、「地盤調査」の方法
―地盤調査は、一般的にどのような方法で行われているのでしょうか
住宅の地盤調査で代表的なのは、「スクリューウェイト貫入試験」と呼ばれる調査方法です。2020年10月までは「スウェーデン式サウンディング試験」と呼ばれていました。
これは主に、「建物の重さで沈下しない地盤」であるかどうかを調べる試験です。
詳しく解説すると専門的になりすぎてしまいますので、仕組みをごく簡単にご説明しますと、「ロッド」と呼ばれる鋼製の細い棒の先端に、「スクリューポイント」というドリルを取り付け、徐々におもりを取り付けていき、「何キロの重りを乗せたときに、どのぐらい沈んだか」を調査するという方法です。
より少ない重りで沈む(自沈)地盤ほど軟弱で、建物の重さによる沈下が起きやすい地盤ということになります。
重りは最終的には約100kg(1kN)まで増やしていきますが、それでも自沈しなかった場合は、重さを加えながら回転させて地盤に貫入していきます。
このようにして、今度は25㎝入るのにどのぐらいの回転数であったかを調査します。回転数が多いほど、入っていくのに時間がかかる良好な地盤である、ということになります。
この調査は、以前は人間が手動で行っていましたが、現在は多くの作業が自動化されており、機械で行っている部分が多くなっています。

スクリューウェイト貫入試験の調査機(PHOTO:東北の山親父/PIXTA)
この調査は2階建てまでの木造住宅など、小規模建築物を建てる現場で主に行われていて、費用が4~8万円程度と安価なことから、広く普及しています。
―アパートやマンションなど、より重量のある建物ではどのような調査を行うのでしょうか
鉄骨造やRC造、3階建て以上の建物など、より規模の大きな建物の場合、「ボーリング調査」を行います。細いパイプを地中深くまで打ち込み、土を直接採取する方法です。

ボーリング調査の様子(PHOTO:hamahiro/PIXTA)
先ほどご説明したスクリューウェイト貫入試験は、重りを乗せたり回転させたりして「どのぐらい沈むか」を調査する方法ですから、基本的に土の採取はしません。ロッドを貫入させるときに、どのような感触・音がしたかという情報から、土質を「推測」することしかできません。
一方、ボーリング調査は土を採取するので、実際の土を見られるという点がポイントです。採取した土を観察し、実際に手で触って、土質を判断したり、砂が含まれる量を分析できたりします。
「液状化に弱い砂質土かどうか」ということも判断ができるわけです。住宅地で調査を行う場合、地域や調査をする深さによりますが、調査費用はだいたい20万~30万円前後です。
なお厳密には、ボーリング調査と同時に「標準貫入試験」という試験も行われます。これは「N値(えぬち)」という地盤の強度を表す数値を調査する方法なのですが、ここでは詳細は割愛します。
先ほどボーリング調査は土を採取すると説明しましたが、採取した土を観察するのは人間(技術者)です。これはつまり、技術者の技量によって、調査の精度が左右されるといことを意味します。
一概には言えませんが、調査費用が安すぎる調査会社などの場合、技術者の質が低い可能性も考えられるでしょう。
「地震時に揺れやすい地盤」の特徴は
―地震が起きた際に、建物が揺れやすい地盤と揺れにくい地盤というのはあるのでしょうか
地盤によって揺れが増幅される、ということは実際にあります。例えば同じ地震でも、揺れにくい地盤だと震度5強、揺れやすい地盤だと震度6弱~6強、というような差が出ることもあります。地盤によって建物に生じる被害も変わるでしょう。
あくまで1つの傾向ではありますが、柔らかい粘性土の地盤は、比較的揺れが大きくなりやすいと言えます。
よくプリンとようかんに例えられるのですが、プリンとようかんを並べて揺らした場合、より柔らかいプリンの方が大きく揺れるのはイメージできると思います。同じ粘性土でも、プリンのように柔らかい地盤の方が揺れが大きくなりやすい、ということです。
―地震で揺れやすい地盤なのかどうかも、「スクリューウェイト貫入試験」や「ボーリング調査」で分かるのでしょうか
地震で揺れやすい地盤かどうかを調べるには、まったく別の調査が必要になります。「微動探査」という方法です。
地盤は通常、地震が起きなくても、自動車の通行や川の流れ、潮の満ち引きなどでわずかに振動しています。その振動を計測して、地震時にどれほど地盤が揺れるかを調査するというものです。

微動探査に用いる微動計(提供:横山芳春氏)
この調査方法が住宅向けに登場したのは2010年代後半と歴史が浅いため、住宅で微動探査が行われている例はまだ多くないかもしれません。ただ、一般の住宅においても有用な調査だと思います。地域や事業者によりますが、費用は8~10万円前後ぐらいです。
調査結果に合わせて選ぶ「地盤改良」の工法
―地盤調査の結果、地盤が軟弱であることが分かった場合、どのような方法で対応することになるのでしょうか
地盤改良の工法には、大きく分けて3つの種類があります。地盤調査で軟弱な地盤がどのぐらいの深さまであるのかを調べ、その深さに応じて以下の中から工法を使い分ける形になります。

主な地盤改良の工法(提供:横山芳春氏)
●表層改良(費用目安:30万~60万円程度)
1つ目が、軟弱な地盤が表層から2メートルぐらいまでの場合に選択できる「表層改良」です。
土を掘り返して、セメント系の固化剤と土を混ぜ合わせ、ローラーで押し固める、これを何度も繰り返して地盤を固くする方法です。ただし、地中に水脈があったり、ガラ(産業廃棄物や建設廃材など)が多く埋まっていたりした場合は、採用できないこともあります。

「表層改良」工法では、バックホーで土を掘り返し、固化剤と土を混ぜ合わせて地盤を固める(PHOTO:MediaFOTO/PIXTA)
●柱状改良(費用目安:40万~100万円程度)
軟弱な地盤が概ね8メートルぐらいまでの場合は、「柱状改良」という工法を選択することができます。
土をドリルで掘りながら、セメントの固化剤を混ぜた溶液を土と混ぜ合わせて、直径50センチメートル~1メートル程度の「改良体」と呼ばれる柱を地中にたくさん立てていきます。地面の中に複数の電信柱を立てるようなイメージです。

柱状改良を行っているようす(PHOTO:MediaFOTO/PIXTA)
固い地盤までの深さが浅い場合は、改良体をそこまで届かせることで支持力を得ることができます。そうでない場合でも、そこそこよい地盤まで届くことができれば、改良体と地盤との摩擦力で支持力を得ることができます。
●小口径鋼管杭(費用目安:80万~250万円程度)
軟弱な地盤までの距離がさらに深い場合は、「小口径鋼管杭」の工法を選択することになります。直径10センチ~20センチメートル程度の細い鉄製の杭を地面に打ち込む工法です。
柱状改良と違って杭の径が細いですから、地盤との摩擦による支持ではなく、固い地盤(支持層)まで届かせて支持力を得ます。

小口径鋼管杭を打設しているようす(PHOTO:MediaFOTO/PIXTA)
支持層まで杭が届いていれば、仮に液状化しても建物は沈下せずに残っていることが一般的です。
しかし先に述べた通り、周りの地盤は沈下してしまいますから、地中の配管などは被害を受けます。また、地下の土が流動して杭自体が損傷することもありますから、支持層まで杭を打っておけば安心、というわけではありません。
―土地を買う前に、軟弱地盤の深さを知る方法はあるのでしょうか
民間の地盤会社がマップとして公開しているケースがあります。あとは国がボーリング調査の結果データを一部公開したりしていますが、ボーリングデータの判読にはやや専門知識が必要です。
地震時の揺れやすさについては、防災科学技術研究所が提供している「J-SHIS Map」というものが役に立ちます。

防災科学技術研究所が提供するJ-SHISマップ
J-SHISマップでは、「表層地盤増幅率」という、その場所の揺れやすさの倍率を知ることができます。一般に、表層地盤増幅率が1.6を超えれば要注意、2.0以上の場合は強い揺れに対する備えが必要、とされます。
まずは「地盤」に関心を
―今回の震災で関心を持った人もいると思いますが、地盤に注目して不動産を選ぶ人はまだ少ないのが現状です
沈下や液状化など、地盤にはリスクが潜んでいるということ自体があまり知られていないのが最大の課題です。
液状化マップや地理院地図も、知っていれば活用できますが、存在自体を知られていなければ使いようがありません。地盤のリスクに関する情報やツールを、広く周知するための仕組みづくりが求められていると思います。
―これから不動産の購入をするという方に知っておいてほしいことはありますか
まずは地盤に関心を持っていただきたいと思います。不動産を選ぶ際、どうしても利便性や資産性などが重視されがちですが、地盤はあとから変えることができません。
地盤も建物と同様に、家族の命や財産を守るために重要な要素です。いまは今回ご紹介したようなさまざまなツールがありますので、できる限り事前に調査をして、購入の判断をしていただきたいです。
(聞き手 楽待新聞編集部)
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