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2023年12月26日、賃貸不動産経営管理士資格試験(以下、賃貸管理士試験)の合格発表がありました。合格ラインは50問中36点以上(5問免除者は31点以上)でした。

受験者数は2万8299人、合格者数は7894人 、合格率は27.9%で、合格者の平均年齢は43.3歳という結果となりました。

賃貸管理士は、賃貸住宅管理業務を行う上で設置が義務付けられている「業務管理者」の要件とされた国家資格です。

楽待新聞の読者の方の中にも、賃貸管理士試験を受験された方がいらっしゃるかもしれません。本記事では、今回の試験内容をデータを使いながら振り返りつつ、今後の試験の傾向についても考えてみたいと思います。

受験者数は増加も、合格率は低下傾向

2013年度の試験以降のデータをベースにみると、2021年度までは年々受験者数が右肩上がりでしたが、ここ2年間は減少傾向にあります。

スタート時は受験者数が4000人程度だったことから考えれば、今では約3万人が受験する人気資格となっていると言えます。

ただ、合格者数は、2016年に受験者が1万人を超えてからは7000〜9000人程度と、合格率は低下しているようです。

※講習免除者(指定の講習を受講して5点免除を受けている者)を含む

※講習免除者(指定の講習を受講して5点免除を受けている者)を含む

なお、合格割合とは、出題数に対する合格点の割合をいいます。2019年度の試験までは出題数が40問、それ以降は50問となっているため、比較をする際は単なる合格点ではなく合格割合も見ると良いでしょう。

2023年度試験の難易度は?

今年度の賃貸不動産経営管理士試験は、合格率をみると28%弱であり、昨年度とほぼ変わりません。難易度も大きくは変わらないと言えます。

下記表は、今年度の試験問題を分析したものです。出題分野1は、一般社団法人賃貸不動産経営管理士協議会が出している公式テキストの「編」、出題分野2は「章」をもとに作成しました。

問番は、今年度の試験の問の何番に出題されたのかを示す数字です。出題内容の欄には、より具体的な出題内容を示しています。

難易度は正答率に照らして、70%を超えると「やさしい」、50%以上70%以下で「普通」、25%以上50%未満で「難しい」、25%未満で「超難しい」としました。

※第2編の第5章「賃貸不動産経営管理士」は公式テキストでは第8編に分類されていますが、賃貸住宅管理業法における業務管理者との関連性を意識するため第2編の最後に書いています

■難易度

下記表は、試験問題の難易度について前年度と今年度を比較したものです。

「やさしい」問題は6問増えている一方、「難しい」問題も7問増えています。「普通」の問題は10問、「超難しい」問題は3問減りました。

これほど昨年度と傾向が異なる国家試験も珍しいですが、「やさしい」問題が大幅に増え、「超難しい」問題が1問だけとなったことが、合格点が2点アップした要因と言えます。

※2022年度試験で没問となった問32は「やさしい」に分類

■出題数

出題分野と出題数についても比較してみました。

これも、それぞれの分野からの出題数が年度によって異なり、国家試験では珍しいものといえます。ただ、そろそろ固定していくような気もしています。

個人的に気になる点は、第4編「賃貸借契約」からの出題数が2問増えたことです。

2021年度以前は賃貸者契約からの出題が多めだったのですが、2022年度で減っており、私が経営するスクールでも講義等のカリキュラムを少し圧縮しておりました。

しかし今年度また増やしたということは、出題者側が賃貸借契約の法律知識について重要視したと見て良いと思われます。

今年度の試験問題を一言でいえば「やさしい問題で確実に得点できないと、難易度の高い問題が多いため、合格点を取れない」ということになるでしょう。

この傾向が続くかどうかはわかりませんが、やさしい問題と難しい問題の両方が増えたということは、今後次のような傾向になると予想されます。

(1)ケアレスミスが命取りとなること
やさしい問題でケアレスミスをすると、他の問題で挽回が難しくなるでしょう。

(2)難易度の高い問題が多く出題されると翌年以降の難易度が上がる
多くの受験者が直近の過去問で学習方針を決めるため、受験者のレベルが上がると思われます。

特徴的な問題にチャレンジ

ではここで、今年度の試験に出題された問題3問に挑戦してみましょう。

【問7】次の記述のうち、居住用賃貸借契約に定める約定として不適切なものはいくつあるか。

ア:賃借人が支払を怠った賃料の合計額が賃料3か月分以上に達したとき、賃貸人は無催告にて賃貸借契約を解除し、賃借人の残置物がある場合はこれを任意に処分することができる。

イ:賃借人が支払を怠った賃料の合計額が賃料3か月分以上に達したとき、連帯保証人は、無催告にて賃貸借契約を解除し、賃借人の残置物がある場合はこれを任意に処分することができる。

ウ:賃借人が契約期間満了日に貸室を明け渡さなかった場合、賃借人は契約期間満了日の翌日から明渡しが完了するまでの間、賃料相当額の損害金を賃貸人に支払うものとする。

エ:賃借人が契約期間満了日に貸室を明け渡さなかった場合、賃借人は契約期間満了日の翌日から明渡しが完了するまでの間、賃料の2倍相当額の使用損害金を賃貸人に支払うものとする。

1.1つ
2.2つ
3.3つ
4.4つ

この問題は、正答率15%という今年度の試験問題の中で唯一「超難しい」に分類された問題です。内容は、ご存じの方も多い2022年12月12日の最高裁判決に関連したものです。

同判決は、居住用建物の賃貸借の保証契約に関して、いわゆる「みなし明渡し条項」は「消費者契約法10条に規定する消費者契約の条項に当たる」と判示したものです(令和4年12月12日民集第76巻7号1696頁)。

「みなし明渡し条項」とは、賃借人が支払を怠った賃料等の合計額が賃料3カ月分以上に達したときに、無催告で賃貸借契約を解除することができるなどと定めた条項を指します。

これを無効とした、不動産の賃貸管理においてとても重要な最高裁判例です。そのため、個人的には、本件についてしっかり勉強した人は解けるように出題すべきだったのでは、と思います。

個数問題にしたことで難易度が極端に上がり、この判例をしっかりと勉強した人も、そうでない人も得点できず、差が付きにくい残念な問題となってしまったと言えます。

それぞれの記述について、解説しておきましょう。

【ア】不適切。公序良俗に反して無効である可能性が高いです(東京地判平成18年5月30日等)。

【イ】不適切。消費者契約法10条に違反し、無効となる可能性が高いです(最判令和4年12月12日)。

【ウ】適切。不当利得返還請求として許容されうる内容です(民法703条等)。

【エ】適切。賃貸借契約終了後における賃借物件の円滑な明渡しを促進し、また、明渡しの遅延によって賃貸人に発生する損害を一定の限度で補填する機能を有するもので、賠償予定額がこの目的等に照らして均衡を失するほどに高額なものでない限り、特に不合理な特約とは言えません(東京高判平成25年3月28日)。

したがって、不適切な特約はアとイの2つです。正解できましたか?

では、次の問題に移りましょう。

【問12】建物の構造に関する次の記述のうち、最も不適切なものはどれか。

1.1968年の十勝沖地震の被害を踏まえ、1971年に鉄筋コンクリート造の柱のせん断設計法を変更する等の建築基準法施行令改正があった。

2.1978年の宮城県沖地震の被害を踏まえ、1981年に建築基準法の耐震基準が改正され、この法改正の内容に基づく設計法が、いわゆる新耐震設計法である。

3.2013年に建築物の耐震改修の促進に関する法律が改正され、一部の建物について耐震診断が義務付けられた。

4.共同住宅である賃貸住宅においても、耐震診断と耐震改修を行うことが義務付けられている。

ここまで真正面から制度趣旨を問う問題は初めて見ました。

当然、法律は制度趣旨がとても重要です。なぜその法律が作られたのかがわからないと、各条文の解釈もできないからです。

もちろん、公式テキストにも記載があるので、今後はより一層、出題範囲となる法令の制度趣旨もしっかり暗記しておく必要があります。

ただ、4の内容が明らかに不適切だと一目でわかるので、正答率は75%と高めでした。さすがに「耐震改修」まで法的義務であるというのは変ですよね。

各選択肢についても簡単に解説します。

【1】記載の通り。この時の建築基準法施行令改正では、帯筋の間隔が30センチメートル以内から10~15センチメートル以内に改正されました。

帯筋とは柱に入る鉄筋のことで、主筋(縦に入るもの)のまわりに巻かれているものを指します。

【2】記載の通り。なお、新耐震設計法は建築物自体の変形、部分破壊によって地震エネルギーを緩衝することで耐える、という理論を取り入れた設計法となっています。

【3】記載の通り。大規模な地震の発生に備えて、建築物の地震に対する安全性の向上を一層促進するため、地震に対する安全性が明らかでない建築物の耐震診断の実施を義務付けたものです。

【4】改修は努力義務です。

階数3及び床面積の合計1000平米以上の既存耐震不適格建築物(1981年5月31日以前に新築の工事に着手した建築物等)に該当する共同住宅である賃貸住宅(要安全確認計画記載建築物であるものを除く)の所有者は、当該建築物について耐震診断を行い、その結果、地震に対する安全性の向上を図る必要があると認められるときは、当該建築物について耐震改修を行うよう努めなければなりません(建築物の耐震改修の促進に関する法律14条1項1号、同施行令6条)。

よって、正解は4となります。

では、最後の問題です。

【問22】3人が共有している賃貸住宅について、全員の合意は必要ないが、共有者の持分の価格に従い、その過半数で決することを要するものの組合せとして、正しいものはどれか。

ア:賃貸住宅の窓ガラスが台風により破損した場合の、窓ガラスの交換

イ:賃貸住宅につき、契約期間を3年とする定期建物賃貸借契約の締結

ウ:賃貸住宅につき、契約期間を5年とする定期建物賃貸借契約の締結

エ:賃貸住宅の賃貸借契約に関し、賃借人の債務不履行を理由とする契約の解除

1.ア、イ
2.ア、ウ
3.イ、エ
4.ウ、エ

以前の公式テキストには項目すらなかった分野からの出題でした。ご承知の通り、これは直近の民法改正点でもあります。

ただ、これまで民法物権法からの出題は、対抗関係(物権変動を主張するには登記が必要ということ)以外ではあまりなかったので、私は受験会場で少し驚きました。

法改正点で、公式テキストに新たに掲載された内容は要注意ということですね。改正点だからということもあってか、正答率は40%であり、合否を分けた問題の1つと言えます。

こちらについても簡単な解説を以下に記載します。

【ア】誤り。共有物の変更について「各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない」とされています(民法251条)。

共有物の管理については「共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する」とされています(同法252条)。

また、共有者は単独で共有物の保存行為を行うことができます。ガラスの交換は保存行為に該当するため、単独で行うことができます。

【イ】正しい。契約期間を3年とする定期建物賃貸借契約は管理行為として、過半数で決することができます(同法252条4項)。

【ウ】誤り。契約期間を5年とする定期建物賃貸借契約締結は処分行為となり、全員の同意が必要とされます。

【エ】正しい。賃借人の債務不履行による解除は管理行為であり、過半数で決することができます。

イとエの2つが正しいので、正解は3の組み合わせです。

今後の学習方法

「賃貸不動産経営管理士」は、国家資格になって3年目となります。問題の質も難易度も年々上がっており、「甘く見ると落ちる」試験になったと言えます。

合格する方法は、他の国家資格と同様、まずは過去問やテキスト等を利用して頻出箇所をしっかり暗記することです。

その際、昔の過去問だからといってスルーせずに、基本事項の確認のつもりで学習しておきましょう。というのは、問題の難易度が上がっても、出題される分野はだいたい同じところだからです。

したがって、古い問題から解くことで基礎知識を固め、最近の問題をやることで応用力を身に着ける方法がとても効率的です。

また、公式テキストは必ず購入しておきましょう。分厚くて全部を暗記することは不可能ですが、この公式テキストから出題されていることは過去問を見ると明らかです。

そのため、常に手元に置いておく必要はあります。ただ、テキストを頭から読み込む学習方法は効率的ではないので、過去問を解きながらテキストで確認する方法がベストです。

公式テキストに準拠した「まとめ本」を購入しておくこともおすすめです。よく出題されている箇所について、わかりやすく図や表でまとめていると勉強時間の短縮に役立ち、限られた時間で学習する人に効果的です。

賃貸管理士試験は独学でも十分合格できますし、YouTubeなどの無料の情報で理解も深まります。

ただ独学では、何が重要な部分で、どこが今年出題されやすく、改正点や新判例はどこか、その情報が信用のおけるものなのか、といった作業や判断に時間を費やす可能性もあります。

それならば、信用のおける講師の講義やテキストで、短期間で合格レベルまで引き上げてもらう方がコスパが良いとも言えるでしょう。

(田中嵩二)