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私は家賃保証会社の管理(回収)担当者。もう10年以上続けている。

延滞客に「(延滞した家賃を)支払ってもらうか」「(部屋から)出ていってもらうか」──極言すればそれだけの仕事だ。

今回は、普通あまり経験することのない(そもそもそんな必要すらない)「初期督促」について書いてみる。

作り物ではない。私は自身の経験を、直接見て聞いたことを書いている。

賢者は他人の経験や失敗から学ぶらしいが、私が書くものから学ぶものはなかろう。

だけど「ああ、俺はコイツに比べたら充実した良い職業に就いている」と、あなたの居場所の価値を再確認する一助になれば私は嬉しい。

毎月恒例の「業務」

初期督促とは、文字通り延滞の初期段階──延滞1カ月目の入居者に対して支払いを促す業務だ。

督促は電話やSMS(SNSではない。念のため)から始める。全ての延滞客の部屋を訪問するのは非効率的だし、件数的に不可能だ。直接訪問するのは、7~10日間程度連絡し続けてそれでも応答がない入居者のみ。

もちろん、1~2週間家賃を延滞しただけで部屋を出ていってくれとまでは言わない。それくらいでは、退去してくれと言う材料にならない。

相手や状況にもよるが、延滞が2カ月を超えそうだと確信できるころに、「回収より退去を優先させよう」と判断する。

家賃の支払日は前月27日~月末であることが多い。例えば、12月分の賃料(11月末が支払日)の初期督促なら、12月10~15日くらいから動き始める。2週間ほど延滞している状況だ。

もっと早く督促を始めないのかって?

会社にもよるが、月の前半は、前月中に回収や退去交渉ができなかった案件の対応をしなければならない。それが一応一区切りとなって、初期督促に向かえるのが15日くらいなのだ。

今回は、そんな初期督促の現場を紹介する。なんら特別ではない、なんでもないある日の午前の話だ。家賃保証会社の管理担当者の一業務を覗くつもりで読んでいただけたら幸いだ。

CASE1:住宅扶助を使ってしまった

朝9時15分。

「支払いを待ってほしい」という電話を受けた。

相手は40代前半の独身女性。生活保護を受給している。

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延滞の理由は「支給された住宅扶助を、別居の母親の医療費に使ったから」だそうだ。

相手の希望は「来月支給される扶助を受けてから支払いたい」ということ。

毎月毎月、老若男女を問わず、生活保護受給者から、「住宅扶助を**に使った」と申告される。人によってその用途はさまざまだ。

決して「住宅扶助を**に使いたいんだけど良いでしょうか?」と、事前に尋ねられることはない。

どうして、使った後で言ってくるの?

住宅扶助は家賃を支払うために支給されているものだ。母親の医療費に使ったといっても、それは道理が通らない。

そもそも、本当に医療費に使ったかどうかなど私にはわからない。

この女性は次回の生活保護費支給日に賃料2カ月分を払えるのか?

生活費のために支給される「生活扶助」は7万数千円のはず。彼女の場合、そこから1カ月分の家賃を支払うとすれば、1カ月間を2万円程度で生活する必要がある。大抵そんなことはできない。

女性は「生活保護費が少なすぎる」と延々私に主張してきた。

そこで私は提案する。「来月の支給日に家賃1.5カ月分を支払ってはどうでしょう? それを2回繰り返せば延滞は一旦ゼロになりますよ」

女性は声を荒げる。

「取立て屋取り立て屋取り立て屋取り立て屋!」

まるで呪詛のように繰り返す。生活保護費が少なすぎる。1000円ですら生活扶助から支払うことはできないとの大演説だ。

そんなに元気ならバイトでもしてくれ…。胸中で呟いて、相手に聞こえないよう嘆息する。

「そうですか。しかしそれでは延滞は解消しませんね。私がお伝えしたことを検討してください。また1週間後、状況を聞かせてください」

単なる時間延ばし。なぜならその場で結論を出すことはできないから。まずはこんな感じでとにかく数を捌いていく。1週間後、どう着地させるか考えよう。

念のために書いておくが、私は生活保護制度には全く反対ではない。偏見も無い。

特にシングルマザーに対してはセーフティネットが根本的に不足していると考えている。そもそも私自身がいつ生活保護を受給するのかわからないのだから、制度に反対する理由がない。

ただ、住宅扶助を別のものに使うのは「それはダメだよ。私の仕事上の数字が悪化するから」と思っている。

CASE2:給料日が変更になった

9時30分。

相手は50代前半、建築業に従事する独身男性。

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「毎月15日の給料日が月末に変わった。それまで支払いを待ってほしい」とのことだ。

例えば1月15日が給料日だとする。1月12日に社長から「今月から給料日は月末になりました。従って次の給料日は1月31日になります」とお達しが来ることなど、そう頻繁にあるのだろうか?

彼はこのパターンを何度も繰り返している。

「月末なら次の家賃も発生しますからね、なんとかもう少し早く払えませんか?」

「日雇いのバイトにも行っています」

「1週間はお待ちします。それまでにお支払いできませんか? できなければ改めてお電話ください」

1週間後に支払えることは絶対に無いとわかっている。彼はもう何年も28日~月末に支払ってきているから、おそらく月末までには支払ってくると思うが…。これもまた先延ばしだ。

CASE3:インフルエンザに罹っていた

9時50分。

相手は30代前半、日雇い派遣の独身男性。

「インフルエンザにかかって仕事を休んでいた。家賃を支払うカネが貯まるのにあと2週間かかる」とのこと。

ここ数年、延滞理由はコロナの独壇場だったが、2023年の半ばごろから、インフルエンザが復活した。まるで旧友に会えたような、懐かしい気持ちになる。

それはともかく、彼は一体1年に何度インフルエンザやコロナに罹患するのだ。そんなに年がら年中かかる病気か?

「そうですか。お大事になさってください。ただ、月末になるとまた次の家賃も発生します。そうなるとお部屋の契約が解除になりかねませんからね──また1週間後に話しましょう。なんとか頑張ってください」

CASE4:財布を落としてしまった

9時55分。

相手は20代後半、会社員の独身女性。

PHOTO:beauty-box / PIXTA

「支払いに行く途中でお金の入った財布を落としてしまったんです…。だから来月の給料日まで家賃の支払いを待ってください」

今どき現金をそれほど財布には入れない。少なくとも私は。20代ならよりその傾向が強いのでは?

財布を落としたことの真偽はわからない。彼女がこの「支払えない理由」を使うのは初めてではないからだ。どうでもいい。

現時点でカネが無い、それだけが真実だ。そこから話を組み立てるのが私の仕事だ。不条理な作劇。貧困のフリースタイル。

「大変でしたね。しかし契約は事務的なものなので、延滞が2カ月も溜まってしまうとお部屋の契約が解除される可能性があるんです…。ところで、お仕事先は以前と変わらないんですか?」

「いえ、今月から職場が変わっていまして」

「直近のお給料日はいつだったんですか?」

「3カ月前に辞めて…財布を落として」

単に先月は収入がない。だから支払えない。

もっとも、もし本当に彼女が年に何度も財布を落とすのなら、どれだけ働いてもどうしようもないだろうが。むしろ先月分の家賃は遅れながらも支払っていることが驚きだ。

「状況は理解しました。ただ、先ほどもお話したように契約は事務的なものですからね。なんとか家賃2カ月分は滞納することはないように──また1週間後にお話を聞かせてくださいね」

CASE5:仕事の出張に行く

10時5分。

相手は40代後半の会社員。既婚男性で、子供が1人いる。

「出張で帰宅するのが25日になる。それまでは支払えない」との主張だ。

「奥さんに頼むなり、出張先から振り込むなり、といった対応は?」

「できない。カネはいま手元にないし、キャッシュカードは自宅にあり、自分しか引き出せない」──どんな家庭だよ。家賃だぞ?

単に給料日が25日で、それまで支払えないだけだろう。

「ああそうですか。では25日に入金お願いしますね」

彼は3年前に入居して以来、ずっと「毎月出張」だ。同じことの繰り返しだから、たぶん25日には払ってくる。そしてまたすぐに延滞が発生する。

延々延々延々延々と際限なく。明日も太陽が東から昇るように。

誤解している人がいるかもしれないが、ある日突然、延滞客になるわけではない。少なくとも延滞の常連は、そうではない。

延滞の常連はそもそも入居前から延滞している。既に他の物件で延滞を繰り返すサイクルに入っており、解消できないまま転居してくる。だから、入居後の初回から延滞する。

私の働く会社にとって「初滞納のお客様」であったとしても、彼らはとうの昔からクレジットカードや家賃、その他の延滞サイクルの渦中にいる。

「初滞納のお客様」が支払いできない理由が「前の部屋の原状回復費の支払いがあるから」というのはよく耳にすることだ。

なんで延滞している人の審査が通るのかって?

家賃保証会社の審査は会社や商品によって差がある。そもそも信用情報機関のデータを用いた審査をしない場合もあるということだ。

そして、信用情報機関のデータもあくまで参考情報。ネガティブ情報があれば審査が通らないというわけではないのだ。

CASE6:雨の日が多くて働けなかった

10時15分。

相手は50代後半、日雇い派遣の独身男性。

PHOTO:ワンセブン / PIXTA

彼の言い分は、「雨が多くてあまり働きに出られず、収入が少なかった。あと2週間くらいで家賃が払えると思うから、それまで待ってくれ」とのこと。

晴れなら晴れで「風邪で寝込んでいた」、雪ならもちろん「仕事に行けなかった」と言う。彼はこのループを3年続けている。

その日、雨が降ったから思いついた「言い訳」なのだろうか。

当社と契約して──すなわち今の部屋に居住して3年。当初からずっと延滞を繰り返している。その前に住んでいた部屋は今の部屋の近所。たぶん、払えなくなって退去させられたのだろう。このパターンは多い。

「2週間といきなりいわれても、また雨が降るかもしれないでしょう?1週間後、また状況を連絡ください」

……さて、そろそろやめよう。業務時間外に仕事を思い出すのは辛い。

このように、延滞は発生し続ける。十年一日。毎月毎月。まずはこのように電話で捌いていく。まさにルーティンワークだ。

訪問による督促のイメージが強いかもしれないが、家賃管理会社の管理(回収)担当者の業務のほとんどは電話なのである。

「よくもこんなつまらない仕事を続けているな」と思うだろう。同感だ。

前職の消費者金融から数えるなら20数年、督促の仕事をしている。業務の幅や関係者の多さから、家賃保証会社の方がストレスは大きい。

「何にお金を使って払えなかったのか?」なんてことは最初はいちいち聞かない。それができないほど対象者が多いからだ。

支払いの約束が履行されなかったり、ずっと連絡がつかなくて2カ月目の延滞に入ってやっとコンタクトが取れたりした際には聞きもするが。

延滞客が何にお金を使ったのか。重要なようでそうでもない。聞いたところで本当のことを話すとは限らないし、確かめる術もない。

前述したように、やるべきはお金がないことだけが確かな状態から話を組み立てることだ。

社用スマホから聞こえる怒号

十数年前に私が家賃保証会社で働き始めたころや、前職の消費者金融時代にはあまり聞かなかった「支払いに行けない」理由がある。

うつ病だ。

強調しておくが私はうつ病を揶揄したいわけではない。この病気を軽く考えてもいない。詐病と言いたい訳でもない。私は医者ではないから、そんなことはわからない。

ただ、7~8年くらい前からどんどん耳にするようになった……というだけ。

こんな延滞客もいた。

「俺はうつ病なんだよ! ストレスを受けると発作で自殺するかもしれねえんだよ! 医者にもそう言われてる! 今だって心臓がおかしくなってる! 俺が死んだら責任取れんのか!?」

社用スマホから聞こえる男の怒号。元気なうつ病患者。「コイツはダメだ」と思った。

彼は26歳の独身男性。生活保護受給者。入居後の初回から延滞している。

のちに福祉事務所職員に確認したが、住宅扶助はちゃんと支給されている。

彼は延滞分と今月末に発生する家賃を「来月末」までに支払うと言った。

次回の生活保護支給日よりさらに先の、来月末。意味がわからない。その点を指摘した直後に彼は豹変した。絶叫だ。

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「どんどん心臓がヤバくなってる! 頭痛もひどくなってる! どうすんだよ! 来いよ! 文句あるなら来いよ! いま来い!」

「18時なら伺えますが?」

私は督促で強い言葉は使わない。最初の交渉では特に。相手のキャラクターが掴めないから。それにも関わらずこうなった。コイツはダメだ。

無駄かもしれないが、直接会えば何か変わるかもしれない。相手を怒らせた際、面と向かって相手の話を聞くことでこちらの有利に働く場合も往々にしてある。

相対すれば普通、電話口のような乱暴な言葉は使えない。

それなりに真剣な態度で話を聞けば、大抵は相手の怒りも収まる。うまく進めば信頼関係を──所詮は管理(回収)担当者と延滞客、仮初のそれだが──築けることもある。

とはいえ、「じゃあ会いましょう」とはならない。何となくそんな予感もした。

「オマエの都合で喋るな! 夜11時に来い!」

「23時は無理ですね。さすがに業務時間外です。明日の朝10時はいかがですか?」

「だから上から目線でモノ言うなって言ってんだろ! どんどん心拍数があがってる。ヤバい! 俺、死ぬかもしれねえ! どうやって責任取るんだって聞いてんだよ! ああ!? 答えろよ!」

どの辺が上から目線なのか聞こうとしたが、やめた。火に油を注ぐだけなのはわかっている。そもそも督促をかわすために怒鳴り続けているだけとも理解している。

今までそうして生きてきたのだろう。いつまでそうやって生きていけるのかは知らないが。

「私と話すと体調がおかしくなるんですよね? それなら電話を切ろうと思います」

「オイ! 電話切んなよ! どうやって責任取るのかって聞いてんだよ!」

「◯◯さんが亡くなったらですか? 責任なんて取れませんよ。だから電話を切ります」

とうに私は判断を終えていた。彼は、支払わない。通常の交渉では退去もしないだろう。

正直に言えば、通話を終了させるタイミングを計っていた。

「また改めてご連絡します」──絶叫が聞こえるスマホに向かって私はそう口にした。

延滞客と向き合う毎日

彼が支払いに応じるときは、こちらが彼の言い分を全て呑んだ時だろう。

彼の手元にお金がある時に支払う、そんな気まぐれのような形では、いつまで経っても延滞は解消しない。

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そして──単なる会社員の私にとって更に重要な点が1つ。

彼が私の担当顧客である限り、ストレスが発生し続けるということだ。

我々を下請け扱いする一部の不動産会社。管理(回収)現場の意見など聞かずにバカな審査を通して延滞を発生させ、それを解消できなければ管理(回収)担当者の力量不足と断じる会社。他の延滞客。その他もろもろ。私はストレスをもう充分に抱えている。

しかし生憎と言うべきか、幸いと言うべきか、彼の家賃は私の数字(回収担当としてのノルマ)にそれほど影響が無い金額だ。ある程度の期間であれば数字的には延滞を許容できる。

「延滞分を支払ってくれ」という交渉を続けても私のストレスは増大していくだけ。だから明渡訴訟を提訴して、そこから改めて「部屋を出て行ってくれ。どうせ判決出るから」という交渉を始めよう、と考えた。

明渡訴訟の提起は、基本的には3カ月分以上の延滞が必要だ(条件次第だが2カ月分でもできなくはない)。

まずは部屋の契約が解除となった時点で福祉事務所へ連絡し、住宅扶助の支給は止めさせる。つまりそもそもの支払い原資を無くすのだ。

そうすれば払いたくても払えない。それで構わない。彼が住むA市は家賃保証会社に対して比較的協力的。住宅扶助の停止はほぼ確実に行える。

彼とはあの電話でしか話していない。それでもそう決めたのだ。時間やコストの面からもその判断は妥当なはず。何より私のストレスが増えずに済む。他にも面倒臭い案件を抱えているんだ。もうたくさんだ。

あなただったらどうするだろう?

単に支払えと言い続ける?

催告兼契約解除通知書(着後◯日までに支払わないと契約解除になります、という手紙)を送付した後に支払いあるいは退去の交渉をする? 

私のように明渡訴訟提起後に退去交渉をする?

管理(回収)担当者になったつもりで、ぜひ考えてみてほしい。

(現役家賃保証会社勤務・0207)