昨今、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻などの影響を受け、資材価格や建築費の高騰が話題となっていた。最近は全国的な物価上昇も起きており、この痛手を受けたオーナーもいるかもしれない。
ところが、一部では資材価格の上昇に歯止めが掛かり始めている。特に、木材については価格上昇がピークアウトし、価格が低下している。
今後、他の資材価格や建築費も同様の動きを見せるのか。データを元に分析していこう。
木材価格の上昇は2022年夏がピーク
まずは日本全体の物価の動きを把握しよう。
日本銀行が公表している2020年基準の国内企業物価指数(旧卸売物価)を見ると、2021年3月に前年比で1%上昇し、2022年12月に同10.6%まで上がってピークを付けた。
その後、12カ月連続で伸び率は低下を続け、2023年12月には横ばいとなった。
この間、為替円安の進行に伴って、輸入物価指数(円ベース)は2022年7月に前年比プラス49.5%と大幅に上昇。その後は低下を続け、2023年4月からは減少に転じ、同年12月まで9カ月連続で下がり続けた。
ではこのうち、建築資材価格に限った動きはどうなっているか。国内企業物価指数と輸入物価指数の「材木・木製品」(2020年基準)を見ていく。
国内企業物価指数は2021年1月時点で100.6だったが、2022年6月には178.3にまで上昇し、ピークを付けた。その差は77.7ポイント。
輸入物価指数は2021年1月時点で99.3だったが、2022年7月には210.2にまで上昇してピークに。その差は110.9ポイントとなった。
国内企業物価指数はピークを付けた後、2023年8月まで14カ月連続で低下を続け、135.5で下げ止まった。
一方、輸入物価指数においてもピーク後は低下を続け、2023年1月に152.2となった。どちらの指数も、以降は横ばいで推移している。
SRC造・RC造の資材価格は上昇中
では、SRC(鉄骨鉄筋コンクリート)とRC(鉄筋コンクリート)はどうか。
国内企業物価指数には、建築資材のうちSRC関連に該当する項目がないため、建設物価調査会が公表する建設資材物価指数を参考とする。同指数は2015年を100として価格変動を指数化したものだ。
東京の住宅のうち、木造、RC造・SRC造の年別の動きを見ると、木造は2023年に低下に転じた一方で、RC造・SRC造は上昇が続いていることがわかる。
月別の動きを見ると、木造住宅は2023年1月(136.5)から7月(130.6)まで6カ月連続で低下を続け、その後は横ばいで推移している。
RC造・SRC造については、2023年1月(138.5)から5月(137.4)にかけてわずかに低下したものの、同年8月から再び上昇に転じ、12月には141.4を記録した。
このように、日銀の企業物価指数と建設物価調査会の建設資材物価指数のどちらを見ても、木材・木造の資材価格の上昇はピークを脱したように見える。
しかし、今後継続して価格が低下するかと言えば、そうとも言い切れない。需要増などの状況が変化すれば、再び価格が上がる可能性はある。
もっとも、消費者物価の動向にも表れているように、すでに物価は低下基調に転じており、木材・木造の資材価格が2022年夏のように高騰することは考えにくい。
一方で、RC造・SRC造の建築資材については、いったん低下を見せたものの再び上昇に転じており、今後も動向を注視する必要がありそうだ。
変動幅が大きいSRC造の工事予定額
建築資材の中でも、木材については価格上昇のピークを脱していることがわかった。
では、これが新築の工事予定額へどのように反映されるのだろうか。国土交通省が発表している建築着工統計調査における木造の工事費予定額(全国ベース)を見ていこう。
2023年3月までは1900万円台前半から半ばで推移していたが、同年4月に2000万円台へと跳ね上がった。その後も上昇を続け、9月に2264万円とピークを付けた。以降は2200万円台半ばで推移している。
最も工事予定額が低かった2022年1月(1889万円)とピーク時の2023年9月(2264万円)を比べると、2年足らずで375万円上昇していることがわかる。
SRC造、RC造については、共同住宅1戸当たりの工事予定額を取り上げる。
SRC造の工事予定額の変動は非常に大きい。2021年9月は2813万円であったのに対し、2023年1月には1067万円を記録。その差は1746万円にもおよぶ。
一方、RC造はSRC造よりも比較的安定して推移している。ここ3年間で最も低かったのは2021年10月の1357万円で、最も高かったのは2021年2月の1956万円となっており、その差は599万円にとどまっている。
SRC造やRC造の工事予定額は、アパートやマンションの需要の影響を受けやすい。特にSRC造では、この傾向が強いのではないかと推察される。
建築費は今後どう推移する?
一般的に、国内企業物価(旧卸売物価)の影響が消費者物価に波及するスピードは、石油やガソリン価格などには速いとされる一方で、食料品や生活必需品などには3~6カ月のタイムラグがあるとされている。
木材・木製品価格の上昇がピークを付けたのは、2022年夏場のこと。それに対し、新築木造戸建ての工事予定額が跳ね上がったのが2023年3月であることから、木材・木製品の価格に影響が及ぶまでには6カ月程度のタイムラグがある推測される。
その点では、木造に関しては、建築資材価格の上昇は終わり、今後建築費は低下傾向になると予想できる。一方、SRC造、RC造については、資材価格が未だに上昇傾向にあるため、今後も建築費上昇の懸念がありそうだ。
もっとも、木造についても、建築業界の残業時間の規制に伴う「2024年問題」や人手不足による賃金の上昇が続くと見られ、建築費が大きく低下することは考えづらい。
引き続き、資材価格や建築費の動向には注目していきたいところだ。
(鷲尾香一)
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