
PHOTO:yukkee / PIXTA
自分で住むにしろ、投資目的にしろ、不動産を取得する際には、所有中に資産価値が高まりそうなエリアを選びたいもの。
そんなエリアの将来性を予測する物差しの1つが人口増加率だ。都市としての魅力が高まれば人や企業が集まり、不動産の価値にも影響が及ぶ可能性がある。
今回は、国立社会保障・人口問題研究所が発表している推計人口をもとに、人口増加が見込まれている地域に注目してみる。
その中でも高い増加率をつけたのが、千葉県の「流山市」と「印西市」。両市にはどんな魅力があるのか、紐解いていこう。
東京都以外の全地域で人口減少
日本で「人口減少社会」と広く言われるようになったのは、2005年のこと。同年12月に総務省統計局が「1年前の推計人口に比べ2万人の減少、わが国の人口は減少局面に入りつつある」と発表したためだ。
実際に人口減少が始まるまでには少しタイムラグがあったものの、2008年に約7万9000人の減少が見られたのを皮切りに、その後は減少の一途を辿っている。
では、今後どれほど人口は減少してしまうのだろうか。国立社会保障・人口問題研究所が2023年12月に発表した「日本の地域別将来推計人口(2023年推計)」を見ていこう。
2020年における日本の総人口は約1億2614万6000人。しかし、2035年には約1億1663万9000人(2020年基準の92.5%)に、2050年には約1億468万6000人(同83.0%)にまで減少すると予測されている。
2050年時点でかろうじて1億人規模を維持しているものの、将来的に日本の人口が1億人を割り込むのはほぼ間違いないだろう。
都道府県別に見ると、2050年時点で人口が増えると予測されているのは東京都のみ。
都の人口は、2020年時点で約1404万8000人で、2040年に約1450万7000人に増加してピークに達するとされている。その後は減少するものの、2050年時点でも約1440万人規模となり、2020年時点を上回る見込みだ。
神奈川県、千葉県、埼玉県のいずれも、2050年時点の人口推計は減少となっている。
それでも、2020年比で90%台を維持することが予想され、同50〜60%台をつける地域もあることを勘案すると、首都圏に人が集まる動きが続くと考えて良いだろう。
人口増加率トップは東京都中央区
もちろん、首都圏の全ての地域で人口が増えるわけではない。
先述の統計から、2020年に対する2050年の人口増加率が高い市区町村を調べてみると、下記のようになる。

国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(2023年推計)」より著者作成
トップは東京都中央区の124.7%で、上位には港区(120%、3位)、千代田区(119.7%、4位)など、東京23区の名前が並ぶ。都心の圧倒的な経済規模を背景とした若者人口の流入が多いのだろう。
一方で、23区以外の都市もランクインしている。千葉県流山市(120.9%)が2位、千葉県印西市(116.8%)が6位、埼玉県さいたま市緑区(113.2%)が8位、茨城県つくばみらい市(113.0%)が10位だ。
このような都市は、中長期的に人口が増えるため、商業施設や生活利便施設の充実が図られる可能性もある。エリアとして賑わいがあれば、不動産価格の上昇も見られるだろう。
若者にも人気のまち「流山市」
人口増加率が高い市区町村のうち、トップ10には東京23区が多い中、千葉県から「流山市」と「印西市」の2つがランクインしている。
ここからは、それぞれの市の特徴や、人口増加の背景にあると推察できる魅力について考えていく。
千葉県流山市は、県北西部にあり、柏市や松戸市、江戸川を挟んで埼玉県三郷市と吉川市などに接している。現在の人口は約20万人だ。
「都心から1番近い森のまち」が謳い文句で、子育てしやすい街として注目度が高く、若い世代の流入が増えているエリアだ。
ポータルサイトの「住みたい街(駅)ランキング」(2023年)では、つくばエクスプレス沿線の「流山おおたかの森駅」が16位にランクイン。千葉県の主要駅である「柏駅」(25位)を抑え、県内の駅では最上位についた。
流山おおたかの森駅からは、快速を利用すれば秋葉原駅まで約25分でアクセスできる。途中駅の北千住駅で東京メトロ千代田線に乗り換えれば、大手町駅や日比谷駅にも40分ほどで行くことが可能だ。

流山おおたかの森駅前のようす(PHOTO:ドミニオンズ / PIXTA)
駅から徒歩10分ほどの距離にある「市野谷の森」には、準絶滅危惧種に指定されているオオタカが生息しているという。「都心から一番近い森のまち」というだけあって、街に緑が多い印象だ。
駅前には高島屋グループの大型ショッピングセンターがあり、スーパーや雑貨店、シネコンなどが入っている。
こうした住環境の良さ、利便性の高さなどから、住宅地として人気の高い東京都世田谷区の二子玉川駅にも負けない魅力があるとして、「千葉の二子玉川」と呼ばれることもあるという。
また、流山おおたかの森駅の隣、柏の葉キャンパス駅周辺には東京大学の柏キャンパス、千葉大学の柏の葉キャンパスがあり、流山市には教育熱心な家庭が集まりやすいとの声もある。
流山市に住む人は、都内に通勤する人だけでなく、周辺市内の教育機関や研究機関に勤める人も多い。比較的年収の高い人をターゲットとしたハイグレード物件が増えているという。
強固な地盤を持つ「印西市」
もう一方の印西市は、千葉県北部に位置し、我孫子市や柏市、成田市などに接しており、人口は約11万人のエリア。
流山市に比べて都心から離れており、首都圏の主要駅へアクセスする際も1時間ほどかかってしまう場合が多い。

印西牧の原駅(PHOTO:koro / PIXTA)
それでも人口増加が予測されているのはなぜだろうか。
理由は印西市の「地盤の強さ」にある。長い時間を経て土壌が堆積・凝固してできた下総台地に位置する印西市には、活断層がなく、地震に強い強固な地盤が形成されていることで知られている。
こうした土地柄から、同市にはより高度な安全性が求められる金融機関の事務センター、日本郵政の事務計算センターなどが軒を連ねている。
国内企業だけではなく、世界中の企業から安全な立地を評価してデータセンターが集まり、「情報城下町」と呼ばれているのだ。
また、都心と成田空港の中間に位置することに加え、安全性の高さや広い敷地を取得しやすいこともあって、大規模で先進的な物流倉庫が存在する「物流城下町」ともいわれている。
同様に住宅地としての適性も高く、以前から「千葉ニュータウン」として開発が進められてきた場所でもある。千葉ニュータウン中央駅や、印西牧の原駅などの周辺では、マンションの開発、宅地造成が盛んに行われてきた。

PHOTO:よっちゃん必撮仕事人 / PIXTA
昨今の人口増加に伴い、印西市内にはイオンモール、ジョイフルホンダなどの大規模な商業施設も次々と開業。生活に便利な施設が増えている。
今後も同じ動きが続くのだとすると、不動産価格も上昇していくことが予想される。
人口減少地域の懸念
東京23区に限らず、千葉県などでも人口増加が見込まれる地域があることがわかった。
一方、下記グラフのように、2050年の人口が2020年比で30%以下に減少すると予測されている市町村もある。

国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(2023年推計)」より著者作成
東京都やその周辺の地域では、極端に人口が減少するとは考えづらい。
しかし、神奈川県、千葉県、埼玉県の市町村の中には、2020年比で人口が半減すると予測される場所があるのも事実だ。
人口が減少すれば、飲食店など商業施設が撤退・閉鎖して地域の活力低下に直結する。また、税収の減少といった観点で言えば、自治体の財力低下も予想され、さらに人が集まりづらくなってしまう。
日本全体としては人口減少の流れにある中で、不動産を購入する際はエリアの見極めが非常に重要だ。
本記事で参照した推計人口はあくまで予測であるため、今後の経済状況や都市開発などによっては変わる可能性もある。エリアの最新情報については常にアンテナを張っておきたいところだ。
(山下和之)
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