道路と敷地内の段差を解消し、自動車や自転車を乗り入れやすくするために設置される「段差解消スロープ」。街中で見かけたことがある人も多いだろう。
実は、これを設置することは「違法」だということをご存じだろうか。交通の妨げになるとして、道路法や道路交通法の違反にあたり、実際に起訴された事例もある。
段差解消スロープが原因で事故が起きてしまうこともある一方で、スロープがないと生活に支障をきたすとの声も聞かれる。
このスロープを巡ってどのような問題が起きているのだろうか? 実際にスロープを設置しているオーナーや、弁護士に話を聞いた。
違法と知っていながらも設置するワケ
「入居者さんからの強い要望により、仕方なく設置することにしました」
このように話すのは、所有するアパートの駐車場前にスロープを設置している田淵さん(仮名)だ。
田淵さんは、このアパートを2023年5月に購入。敷地内と道路の段差が12〜13センチメートルほどある物件だった。
このため、前所有者は駐車場前に段差解消スロープを設置していたという。
しかし、物件の引き渡しの際には前所有者がスロープを全て撤去。入居者は、突如として現れた段差に強く不便を感じていた。
田淵さんは、入居者から「段差を車で乗り上げるのに非常に抵抗がある」、「強くアクセルを踏み込むと建物にぶつかってしまうかも」と、スロープがないことで事故につながりやすくなる危険性を訴えられたと話す。
段差解消スロープの設置が違法であることは認識しつつも、やむなく設置をすることにしたという。
過去には死亡事故も
では、具体的にどのような罪に問われるのか。
不動産法制に詳しい関口郷思弁護士によると、道路法や道路交通法の規定より通行の妨げになるものを置くことは違法行為となり、罰則が適用されるという。
道路法43条2号
何人も道路に関し、左に掲げる行為をしてはならない。
みだりに道路に土石、竹木等の物件をたい積し、その他道路の構造又は交通に支障を及ぼす虞のある行為をすること。
道路交通法76条3項
何人も、交通の妨害となるような方法で物件をみだりに道路に置いてはならない。
過去には、段差解消スロープにぶつかってバイクが転倒し、死亡事故につながってしまったことも。スロープを設置していた土地の所有者は、道路交通法違反により書類送検、略式起訴されたという。
上記のケースは、死亡事故をきっかけに捜査が行われ、物件所有者が罪に問われた。しかし、犯罪はスロープを道路に置いた時点で成立する。
「事故が起きなければ問題ないということではない」と関口弁護士は警鐘を鳴らした。
また、このような段差解消スロープは、公道に限らず、私道や私有地に設置されることもあるだろう。
関口弁護士によれば、私道への設置も道路交通法違反に当たるという。私有地であっても、第三者の出入りが想定されるような場所であれば、同じく道路交通法違反となる可能性があるようだ。
段差解消スロープの設置によって通行人が転んでしまい、怪我を負うようなことが発生してしまえば、刑事責任だけでなく民事上の損害賠償責任を負うこともある。
関口弁護士は「通行人の安全を保障することが必要だ」と注意を促した。
解決の道のりは遠い
このような状況を踏まえ、段差解消スロープ設置の危険性や違法性をホームページなどで訴える自治体が増加している。
秋田県の由利本荘市で道路の管理をする担当者は、このような周知活動をするきっかけについて、市内で発生した事故の存在があったと話す。
2021年、道路の側溝に設置されていた、道路用ではないグレーチング(未固定の溝蓋)に乗り上げた車両が損傷してしまう事故が、2件立て続けに発生。
そこで市としても一般の方に注意を促すため、グレーチングや段差解消スロープを設置しないよう、ホームページなどで呼びかけを行うようになった。
しかし、ホームページを見て段差を解消するための工事を申請した、という人は現れなかった。担当者は「以前と状況はほぼ変わっていない」と嘆息した。
段差を解消するためには、切り下げ工事が必要になる。道路と敷地内の段差を解消し、縁石をスロープ状に変える工事だ。状況にもよるが、60万円程度がかかることが多い。
現状、この工事費用は全額所有者の負担となる。決して小さな負担ではないため、自治体としても強制力を持って工事させることはできないのが現状だという。
担当者は、段差解消スロープの危険性について、歩行者がつまずいて怪我をする可能性だけでなく、大雨の際に道路排水の妨げになる点、除雪の支障になる点も指摘する。
道路の冠水が起きてしまえば、道路の通行人にとどまらず公共の安全性を損なう可能性がある。設置の違法性を認識し、適切な対応を取る所有者が増えていくことが望まれている。
◇
アパートに段差解消スロープを設置している田淵さんは、切り下げ工事に関して、費用負担の大きさや工事中の入居者の不便を考えると「現実的ではない」と考えているようだ。
段差解消スロープの設置をしないよう呼びかける自治体と、生活上の必要性を考慮して設置を続ける所有者。双方が納得する制度が設けられない限りは、問題解決に時間を要することとなるだろう。
(楽待新聞編集部)
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