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金融機関に融資を申し込んだ結果、謝絶を返答されれば、誰しも落胆することでしょう。

真面目な事業者ほど、「計画や見通しが甘かったのか?」「自分には信用がないのか?」と疑心暗鬼になる向きもみられるようです。

普段は「公的な性格」をアピールすることも多い金融機関ですが、その実態は収益を求める民間企業に他なりません。人員などの経営資源に応じて、取引にも優先順位を付けざるを得ないのです。不動産事業者向け融資の多寡だけでなく、他にも様々な事情があります。

今回は、具体的なディスクロージャー誌を材料に、不動産投資家が注目すべき箇所をいくつか抽出して簡単に解説します。少しだけ専門的ですが、お付き合いいただければ幸いです。

無作為に、信用組合の金融機関コードで一番若い、北海道札幌市に本店のある北央信用組合を例に取り扱います。店舗や同組合のホームページでも参照が可能です。

「人数」が示す経営事情

北央信用組合のディスクロージャー誌は全40ページで比較的コンパクトで要点を絞り込んだ装本(つくり)となっています。

内容に目を移してみましょう。筆者が最初に注目したのは「組合員の推移」です。2019(令和元)年度から4期の実数が掲載されていますが、3期連続で前年度末より合計が減少して続けています。

第1回で述べたように、信用組合の預金は原則として組合員を対象としており、それ以外からの預金は総額の20%までという制限があります。内訳では、法人が増えている一方で、個人が減少しています。

過疎化に悩む北海道を地盤としているため、個人組合員減の主要因は、死亡による資格喪失(脱退)などが主要因と見込みます。また、後述するように北央信用組合の健全性について、特段に憂慮すべき数値は見当たりません。

その一方で、融資に代表されるように、預金取扱金融機関が取り扱う商品・サービスの多くは、「仕入」に当たる預金を活用して提供されます。その預金を預け入れる候補者が減少していますので、経営側も課題として認識していることでしょう。

場合によっては、店舗や担当者に目標を課す形で、「既存取引先との融資取引の積み増し」よりも「新規組合員」の獲得を優先して実施しているかもしれません。

あくまでも一般論であり北央信用組合のことではないですが、そんな場合にすでに取引のある組合員が収益物件の融資を申し込んでも、あまり積極的に対応しない可能性があります。

金融機関のPL/BSからわかること

法人で不動産投資を行っている方に馴染みのある財務諸表。金融機関の貸借対照表や損益計算書はどのような内容になっているのでしょうか。

まずは、貸借対照表(BS)から確認していきます。

最初に左側の資産の部の合計欄を参照すると、2021(令和3)年度よりも2022(令和4)年度の方が小さいことに気づかされます。

事業の規模を示す数値なのですが、内訳では、貸出金が増えている一方で、預け金(=日本銀行や他の金融機関への預金)と有価証券が減少しています。有価証券の内訳では、地方債と社債が減少しています。

次に右側の負債の部を参照すると、預金積金が減少しています。こうした数値の動きから、以下のような仮説が成り立ちます。


(a)新型コロナ感染拡大の影響を受けた事業者支援などを優先した結果、貸出金の残高は増えたものの、(b)預金や定期積金の獲得などが後手に回ってこれらの取引残高を減少させ、(c)資金が不足した分は預け金を減らすと共に地方債や社債への投資を控えて調整した。


抱えた課題に対する解決策では、預金の受入れを増やして調達を安定化させ、さらに業績を伸ばすことなどが考えられます。

もちろん売上に当たる融資は不可欠ですが、限りある経営資源の中では、「(今は)融資よりも預金を獲得したい」という経営判断がなされても不思議ではありません。こうした場合に収益物件の融資を申し込まれても、あまり気乗りしない可能性もあるでしょう。

続いて、損益計算書(PL)を見ていきます。

経常利益、当期純利益とも2022年度が2021年度を上回り、その金額も経費の減少分を上回っていますので、収益を順調に伸ばしている様子がうかがえます。

金融機関が重視している指標は?

次に、主要な経営指標等の推移を見てみましょう。この表は、金融機関自身が「どの経営指標を重視しているか」を示すものです。従って、投資家や取引相手にとっても自ずと重要になります。

先に挙げた幾つかの数値とも重複しますが、上から2段目の「経常利益(又は経常損失)」と3段目の「当期純利益(又は当期純損失)」に目を移すと、2期前の2020(令和2)年度がいずれも赤字なことに気づかされます。

その下の4段目の預金積金残高に目を移すと、2020年度の残高をピークに、2期連続で減少していることが読み取れます。

貸出金残高は、2019(令和元)年度を底に3期連続で伸張させています。対照的に、有価証券残高は、2018(平成30)年度を底に4期連続で減少させています。資産の中身が有価証券から貸出に移行していった様子が確認できるわけです。

下から5段目には、金融機関の健全性を推し量る指標として最も一般的な自己資本比率が表示されていますが、5期間いずれも8%を超えた健全な数字で、ほぼ横這いです。

一番下の職員数は、2019年度の266人をピークに3期連続で減少し続けて2022年度は220人まで減少しています。

2022年度の職員数220人は、ピーク時に比べて約17.3%減の人数ですので、事務手順やサービス提供方法などの合理化が求められる減少率でしょう。事前審査や事後管理など、一般的に貸出金にまつわる事務対応は、有価証券投資よりも人手を必要とします。

その貸出金への対応に職員を充当するためにも、店舗における昼食休憩時間の設定・ATMやインターネットバンキングへの移行などが図られたことでしょう。金融実務上では、それでも事務対応がこなし切れず、申し込まれた融資を謝絶することもあります。

不動産融資に積極的か?

次に、貸出金業種別残高・構成比に着目しました。
一番下の合計欄の差額は64億7800万円であり、1年にそれだけ増えたことを意味します。

構成比で一番多くを占めるのは不動産業で、1年に103億8100万円増やしています。下段には収益物件を意味する不動産賃貸業を内訳表示していますが、そこで55億1200万円増やしており、不動産業全体の増加分の過半数を占めています。

不動産業以外で1割以上の構成比となっているのは2022年度に11.5%となった建設業だけですが、その建設業も1年間で6億3200万円減少させています。

数字上は、不動産業向けの融資の積み増しがなければ、全体の融資残高を減少させていたわけで、不動産業に積極的に向き合い、それゆえに事情にも明るい金融機関と見込みます。

見方を変えれば、少ない人手で融資に取り組まざるを得ない中で、1口当たりの残高が相対的に大きな不動産業に注力した可能性もあります。

 不良債権の処理状況は?

次に、「協金法開示債権(リスク管理債権)及び金融再生法開示債権の保全・引当状況」に注目しました。ちなみに、協金法は、「協同組合による金融事業に関する法律」の略称です。

この中間部分の小計(A)を一番下の総与信残高(A)+(F)欄で割った比率が、不良債権比率です。小数第三位を四捨五入した比率は、2021(令和3)年度が3.26%、2022(令和4)年度が4.24%と1ポイント弱上昇しています。

小計(A)欄の内訳は、上段に行くほど業況が悪化して不良化した状況を意味します。

2021年度の「要管理債権」の金額は1億7700万円、2022年度は3100万円で差額が1億4600万円に過ぎない一方で、さらにリスクの高い「危険債権」は1年間に19億3100万円増えています。前年に「要管理債権」であった分がすべて「危険債権」に移行したとしても、さらに18億円弱が足りないのです。

よって一般論で言えば、「業況が徐々に悪くなっていった」わけではなく「短い時間に急激に悪くなった」先や、悪化した業況に気づくのが遅れた先などがあった可能性があります。

そうした中で既往取引先の事後管理などに人手が取られ、新規融資の審査などに人手が割けなくなり、一般的なスキームから外れた融資の申込みを謝絶する意向がもたらされることもあります。

先に挙げた主要な経営指標で北央信用組合が「どの経営指標を重視しているか」を選択・抽出して開示していましたが、その中にこの不良債権比率は含まれていません。

実のところ、業態を問わず、この不良債権比率についてはディスクロージャー誌でも直接の数値として開示していない先が少なくありません。もちろん軽視しているわけではなく、誰が見てもすぐに分かるため、あまり開示したくないという意向が働いたものと見込みます。

短期的に不良債権比率を引き下げるためには、債権を外部に売却する手段が活用されています。諦めて、損失として計上するわけです。そのためには、損失分を充当できる収益が必要となります。

それゆえに、金融実務者の間では、どちらかと言えば、この不良債権比率は「即座に処理できないためやむなく残している比率」と受け止められています。ちなみに、地方銀行・第二地方銀行99行の2023年3月決算で、最もこの比率が高かったのは、唯一10%を超えたスルガ銀行でした。

地方銀行・第二地方銀行や信用金庫・信用組合の場合、一般的には本社や物件などの所在地を所管する店舗がなければ収益物件への融資に取り組むことは例外的です。

それゆえに、全ての金融機関のディスクロージャー誌を参照するのではなく、金融機関の担当者が物件を見に行ける範囲に店舗のある金融機関のディスクロージャー誌を参照することが現実的でしょう。

繰り返しになりますが、その上で、主だった数値としてディスクロージャー誌から(1)貸出金に占める不動産比率(2)不良債権比率の絶対値と動きだけでも参照すると、金融機関側の対応余力を窺い知ることができると考えます。

(佐々木城夛)