高層ビルがひしめくニューヨーク・マンハッタンのオフィス街(佐久間氏提供)

米国商業用不動産の不調が新たな金融危機をもたらすのではとの懸念が広がっている。

特にオフィス向け不動産価格の下落が著しい。日本でもこれらへの融資を積極的に行っていたあおぞら銀行が赤字決算になるなど、影響が表れている。オフィス不調の背景にあるのは、利上げとコロナ禍からのオフィス回帰の鈍化だ。

米国商業用不動産の実態はどうなっているのか―。世界経済に与えるインパクトは―。

不動産投資ファンドでの勤務経験があり、商業用不動産市場に詳しいニッセイ基礎研究所の佐久間誠・主任研究員に聞いた。

日本人が知らない米国商業用不動産のヤバさ

米国商業用不動産の現状は

アメリカの商業用不動産価格は、2022年の半ばぐらいからピークアウトして、足元では全体で見るとピークから2割ぐらい下がっている状況にあります。これは結構深刻な状況と言えますが、日本では肌感覚としてどのくらい深刻な状況なのかがあまり認識されていないと思います。

ただ、商業用不動産の中のセクター別にみると、好調な部門と不調な部門の二極化がみられます。

ホテルや物流倉庫、データセンターなどは好調な一方で、オフィスは厳しい状況です。オフィスは直近のピーク対比35%ぐらい下がっていて、予断を許さない状況になってきたというのが現状です。

賃貸住宅も今は逆風に直面していますが、あと数年すればまた上昇トレンドに戻るとみられています。

オフィス価格下落の背景

商業用不動産の中でオフィス価格だけが不調な理由は

オフィス市場はコロナ禍前から過熱感を指摘されるようなマーケットでしたが、2つの大きな要因が出てきました。

1つは米国では政策金利の引上げがかなり早いペースで進められたということもあって、それが1つのピークアウトの要因になった。もう1つは、コロナ禍以降続いているオフィスを中心とした賃貸マーケットの悪化です。

商業用不動産の中でオフィスの不調が目立つ

利上げによって不動産価格にどのような影響が出ているのか

2つの大きな影響があります。

1つは、金利の上昇が不動産投資利回りの上昇を通じて不動産価格に直接与える影響です。もう1つは、賃貸事業を行う上での収支を考えた場合に、借り入れコストが上がることです。

不動産業は基本的に借り入れをベースとした事業活動です。そのため、金利が上昇すると、収益の悪化につながります。

また、不動産価格を左右する要素として、国債利回りの影響があります。例えば、アメリカの10年債利回りが1.5%から4.3%まで上昇した場合、不動産の投資利回りが以前と同じままでよいかというとそうではない。

最もリスクの低い国債利回りなどを基準とした場合、よりリスクが伴う不動産の利回りはより高い水準であることが求められるため、不動産の利回りが上昇=価格の下落につながります。

三井不動産が事業参画するマンハッタンのオフィスビル「ハドソン・ヤード」(佐久間氏提供)

米国のオフィス賃貸マーケットの現状は

サンフランシスコやニューヨークを中心に特に東西の沿岸部の大都市がかなり傷んでいる状況です。例えば、サンフランシスコのオフィス空室率で言うと、コロナ禍前の2019年第4四半期が3.7%だったのが、去年の第4四半期の時点で35.6%まで上昇しています。

アメリカの場合はもともとコロナ禍前からオフィスの供給過剰が指摘されていたところに、コロナ禍におけるテレワークシフトというのがあって、今壊滅的な状況に陥っているという状況です。

日本でもオフィス市況は確かにコロナ禍で悪化しましたが、想定以上に底堅いというのが現状です。例えば、三鬼商事が公表した2024年1月の最新データで、都心5区の空室率は5.83%となっています。

日米でオフィス空室率の差があるのはなぜか

背景として、出社率の違いなどがよく挙げられます。

米国ではテレワークの代名詞であるZoomが、週2日の出社方針を打ち出すなどオフィス回帰の動きはあります。ただ、毎日出社している人はごく一部にとどまっているのが現状です。

マンハッタンの朝の通勤風景(佐久間氏提供)

例えば、ニューヨーク・マンハッタンの出社傾向を見てみると、フルリモートの人はコロナ禍で28%くらいいたのが足元6%くらいまで低下しています。一方で、フル出社の人がどのくらい増えたかというと、8%から12%にしか増えていません。出社は週3日ぐらいが主流になっています。

アメリカでオフィス回帰が進まない背景は

アメリカも人手不足で人を雇うのが結構厳しいので、(社員に対して出社するように)あまり強く言えない状況にあります。特にIT企業などでは、望まない働き方になってしまった場合には転職しますということが起こりやすいので、そういった傾向になっていると思います。

金融危機の火種に?

商業用不動産の不調であおぞら銀行が赤字になった。金融機関への影響は

商業用不動産への融資割合が多い銀行のポートフォリオが傷んでいます。代表的なのが、NYCB(ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ)やドイチェ・ファンドブリーフバンク、あおぞら銀行などです。ただし、これらの金融機関はそれぞれに特殊な事情を抱えている点も考慮する必要があります。

先ほど、米国の中でも特に東海岸や西海岸が傷んでいるという話をしましたが、ニューヨークを地盤とするNYCBはその典型例です。

NYCBの融資先で傷んでいる商業用不動産は主に2つです。1つはオフィス、もう1つはアパートメントとかマルチファミリーと呼ばれる集合賃貸住宅です。特にニューヨークの賃貸住宅は近年かなりやられました。米国全体でもオフィスの次にやられているのが賃貸住宅と言えます。

もともと賃貸住宅はディフェンシブな(景気動向に業績が左右されにくい)セクターです。日本では安定した良いアセットなのですが、米国においてはもともと利回りが低かったので、利上げの影響を受けやすかったという事情があります。

今年に入って賃料は下落するだろうという見通しになっている中で、価格が3割ぐらいピークから下落しているというところです。

また、マンハッタンなどでは近年家賃が高くなりすぎて普通の人が住めなくなってしまいました。そのため各都市では賃料が上がりすぎないように規制を強化してきた経緯があり、こうした局地的な事情も重なってNYCBは厳しい状況に陥っています。

ドイチェ・ファンドブリーフバンクとあおぞら銀行は、米国外の銀行ですが米国オフィスなど特定のセクターに強く傾斜していたため、特に影響が大きかったと言えます。

商業用不動産向け融資が多い金融機関は要注意か

連邦預金保険公社(FDIC)が公表している統計で、総資産に占める商業用不動産向け融資の割合をみると、米国の中小規模の銀行では平均して3割前後ぐらいあるんです。決して小さくない割合を中小銀行が保有していることから、商業用不動産が今後さらに混迷を極めるような事態になれば、影響が広がる恐れはあると思います。

昨年3月にはシリコンバレー銀行(SVB)の破綻で、金融危機のリスクが高まった。商業用不動産の問題が今後の金融危機を招く可能性は

商業用不動産の不調がすぐに金融危機を引き起こすことをメインシナリオに描くレベルではないと思います。

まず、SVBショック時と今回は背景が異なります。SVBは金利上昇で国債の含み損を抱えていた最中に、大口預金が流出したことで行き詰まってしまった。銀行業界全体の問題に加えて、SVB特有の特殊な事情がありました。

一方で今回の問題は、金利上昇の影響が波及して商業用不動産そのものの評価が毀損されたことです。

ただし、米国では商業用不動産に占めるオフィスセクターの割合は大体1割から2割ぐらいです。さらに、先ほども述べた通り商業用不動産の中でもオフィス以外のセクターは比較的堅調です。

また、オフィスの中でも二極化傾向がみられます。築年数の浅いビルや「トロフィーオフィス」と呼ばれる最上位のビルは高稼働を維持していますが、老朽化、陳腐化したオフィスビルは苦戦しており、回復の兆しがまだ見られないのが現状です。

マンハッタンで注目の新築ビルであるJPモルガン新本社(佐久間氏提供)

オフィスが不調と言っても、全体に占めるパイはそれほど大きくありません。加えて、先ほど触れたように商業用不動産の不調により業績が悪化しているNYCBなどの個別事情を見ていくと、特殊な事例ということが分かります。

このように、商業用不動産の不調が即、金融危機につながるある状況とは言えませんが、リーマンショックなど過去の金融危機でもそうであったように、売りが売りを呼ぶような展開になることもありえます。

それまで経済合理性を中心に動いていた市場から、信用や信頼が毀損されて、誰も信じられなくなるような疑心暗鬼が支配する状況に変遷すると、銀行間のお金の借り入れが滞って、金融危機に至るということもあるので油断は禁物だと思います。

いずれにしても、商業用不動産の問題は根深いと考えた方がよいでしょう。業界関係者の間では、米国のオフィス市場が反発するのは当分先だと見る向きが強いです。

「利下げ」なら好転も

今後のシナリオは

オフィスの賃貸市場が早々にプラスに転じることはないので難しいというのが現在の見方ですが、好転材料としては「利下げ」が挙げられます。

商業用不動産ローンの融資期間は一般的に数年ですが、金利が高い状況で借り替えをした場合、収支が回らずデフォルト(債務不履行)リスクが高まります。

またアメリカの中小銀行にしても、預金を集めるのに預金金利を引上げると収支が厳しくなっている状況です。金融機関と不動産オーナーともに、「利下げ」という雨を心待ちにしている状況と言えます。

今のところ、銀行側が返済期限を延長で対応しているため、不動産オーナーが資金繰りに窮して不動産の投げ売りを強いられるケースはまだ多くありません。

商業用不動産の不調が叫ばれ始めた2023年を起点とすると、再び期限延長が俎上にのる2025年くらいにある程度明るい兆しが見えるかどうかを注視していく必要がありそうです。

いずれにせよ、オフィスについては、かなり不確実で不透明感が高い状況です。

地方政府に飛び火か

さらなる「利上げ」が実施されるとなると、かなりリスクが高まるのか

商業用不動産の不調は金融機関への影響ばかりがフォーカスされていますが、実は地方政府への影響もささやかれています。

一例として、「シカゴが財政破綻するのでは」とまことしやかに言われています。商業用不動産の評価が目減りしたことによって固定資産税が急減し、財政悪化の原因になっているといわれています。

リーマンショック時などは、小さな地方公共団体が破綻したりはしていましたが、今回はシカゴのような大都市が話題になっている点は注視しています。

(楽待新聞編集部)