物件価値

ここでちょっと寄り道です。
物件の「価格」と「価値」とは違うこと。
そして、「価値」とは何であるかを、ご一緒に検討してみましょう。

物件概要で、この物件の評価額は、市区町村の「課税評価証明」により250万円と分かりました。内訳は、土地比率持分が100万円程度。建物の区分所有分が150万円程度です。

これから比較すると、売買価格の470万円はかけ離れて高い価格ですね。
そして、課税評価額からの表面利回りは、賃料6万円×12ヶ月÷250万円=28.8%と凄い利回になります。

しかし、もし、これが1棟物件でしたら、桁を読み替えて、土地+建物の評価額=2500万円の戸建またはアパートを4700万円で買う投資家は、まずいないでしょう。
(一棟物件の土地は、路線価で計算されますが、大差はありません)

それでは、この評価額自体についても、更に、建物部分について掘り下げて検討してみましょう。
(土地分は、単純に課税評価額の面積を持分比率で按分しただけですので)
このRC建物の新築時坪単価が50万円だったと仮定します。専有部16m2なので、50万円÷3.3m2×16m2で、新築時の専有部分建物価格は約242万円と試算できます。
築18年が経過しているので、RCの減価償却率(1÷47年間=0.0213)で単純に18年間分を償却すると、現在価値は149.6万円となります。
新築時、RC建物の坪単価が50万円というのは、ごく当たり前の定価か、賃貸物件としては高めの価格です。それが単純に築年相当減価償却された価格が、現在の建物評価額150万円に相当します。つまり、評価額で買えても、それは「定価」に過ぎず、バーゲン価格ではないのです。

欧米では、売買の度に、減価償却年数がリセットされるルールなので、築100年を超えるアパートなども、特に欧州では普通です。しかし、日本のルールは、上記のようになっており、古いものは壊して、新しく建替えることを、国家が奨励しているので、仕方ありません。

この当りが、先月申上げた、
「区分物件の価値は、便利な都市空間の利用価値。一棟物件の価値は、担保価値」
という数値例です。
区分物件は、それ自体の価格は割高なのです。

しかし、それでは、この物件を250万円で指値をすれば、買えたかといえば、それは市場一般の利用価値判断から、いくらなんでも、売主はOKしないはずです。

物件個別事情

上記情報を予め入手して、例によって、その日の夜、就業後に現地調査へ向いました。
ご存知のとおり、この程度の条件の区分は、足が速く、情報が公開されると翌日までには買付けが入ってしまう場合が多いのです。Yさんだけで止めて貰えると良いですが、同僚の営業マンも馴染顧客へ紹介するため、1晩で決まってしまう場合も多いわけです。
つまり、私と付き合いの深いYさんのテリトリー内では、物件を止めてくれますが、他の営業マンに対しては、残念ながらYさんのコントロールは効きません。

京浜地区が生活圏である私は、情報が入ったその日に現地調査で先んじれる点もリスクコントロールの一つです。

連絡を貰った直後にネットで物件調査し、Google地図とストリートビューで現地を下見し、調査価値があることを予習しておいたことは言うまでもありません。

現地へ行ってみると、駅の物件側周辺はあまり店舗などがなく、駅徒歩10分でも、むしろこの物件周辺にフランチャイズの飲食チェーン店や、新規の商店、仲介不動産店舗等が集まっている立地です。これらの店舗から、極地的に人口増加傾向にあり、賃貸需要も強い雰囲気を感じ取れます。この更に奥に、大きな団地などができているので、奥へ奥へと開けている様子です。

このような様子は、Google地図や、ストリートビューでも、分からなくはないですが、「街の活気・雰囲気」というのは、なかなかその場に肌で感じなければ、ピンとこないものです。

1階のオーナー店舗は綺麗で、ご商売は繁盛している様子です。部屋を借りてくれている隣接地の法人も、非常に硬いビジネスで、倒産や、解約は今後、ほぼ永久にないだろうという事情が良く分かりました。

物件のエントランスから中に入り共用部も、大変綺麗です。3年前に大規模修繕が完了していますが、修繕積立金の残高は、既に1,000万円程度に達しています。この規模のRC物件でしたら、総額1,500万円もかければ、かなり綺麗に大規模修繕ができます。つまり、今後の大規模修繕も、臨時持出しなしで、積立金の範囲内で施工できることは、ほぼ間違いないことが分かりました。

管理組合の積立金が潤沢なのは、ファミリー区分と、店舗の分、それと店舗で使用している敷地内駐車場の賃料が積立金に毎月入っている為です。小規模な物件ですが、5階建てで維持費のかかるエレベータが無いことも幸いしています。

ゴミ置き場、自転車置き場も非常に綺麗に整備されており、「整理整頓」「分別と曜日を守ろう」とポスターも貼られています。

この物件は管理人・巡回なので、これは明らかに、元地主の在住オーナーが自主的にやってくれているものです。

つまり、

管理人≒元地主の実需オーナー≒住込み管理のようなもの
と判断できます。

しかも、これを無償ボランティアでやってくださっているわけです。
管理組合の過去の議事録を見ても、その方が積極的に発言して、いろいろな管理上の改善提案をしています。

やはり、元地主としては、自分の住まいと職場をそこに所有している物件ですと、永遠に愛着があり、大切にするのが人情です。

この状況を自分の目で実感し、この晩のうちに、僅か10万円の指値で買付けの連絡を入れました。

売主事情

一方、売買対象区分のオーナーさんは、’90年当時(ちょうどバブルのピーク)2,000万円程度で新築を購入しておられ、このたび、公務員のお仕事を定年退職なさるので、退職金と売却代金で借金を清算したい。というのが、売却の理由でした。そのため、早く確実に成約できる価格ということで、Yさんと相談の上、売出し価格を決めたとのことです。それを真っ先に私へ連絡を頂いたわけです。

売り手のこのようなニーズも重要な物件個別事情です。
ローン残債は1,000万円弱とのことで、ご自分の退職金+私の支払い代金で返済されます。学校の先生と伺いましたので、ご退職金は、この借入返済に充当しても十分余裕がおありのはずです。公務員教員の皆様の共済年金は、民間の年金ほど痛んでいないはずですから、御退職後は、生活には十分な年金が保証されていると推察できます。

つまり、物件の買値からの損失などは、今は問題でなく、物件を処分できれば、肩の荷が下りて、安心の年金生活にお入りになれるのです。
その目的のために、私の資金がお役に立てば、双方ハッピーというストーリーが成り立ちます。