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先日、日銀が金融政策の見直しを決めました。マイナス金利政策を解除し、イールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利操作)の枠組みを止めます。

これにより、短期金利は「無担保コール翌日物」を政策金利として、金利を0%~0.1%程度で推移するように誘導、長期金利は誘導する目標を撤廃することになりました。ETF(上場投資信託)やJ-REITの購入も取り止めとなります。

日本銀行による利上げは17年振りです。ということは、日本は17年間も金利が低く、そして金利が上がらない時代が続いて来たのです。

これから金利のある世界が到来することで、一体何が変わるのでしょうか。金利が上がるということは経済に悪影響を及ぼすのではないでしょうか。今年から開始した新NISAで投資を始めた方は心配にならないでしょうか。

今回は、金利のある世界での資産運用について皆さんと考えてみたいと思います。

※本記事は、特定の投資商品などについての投資勧誘を目的としたものではありません。投資判断の最終的な決定は、ご自身の責任と判断において行ってください。

日銀の金融政策変更をおさらいしておこう

まずは今回の日銀の政策変更について、概要を掴んでおきましょう。

報道を斜め読みすると「マイナス金利解除」や「YCC撤廃」ということは読み取れるのですが、どのような政策変更がなされたかを正確に理解できていないという方もいるかもしれません。

以下は、日本銀行が解説用に作成した図です。この図を見ながら、少しご説明しましょう。

■マイナス金利政策とは?
そもそもマイナス金利政策とは、簡単に言えば「民間銀行が日本銀行に預けるお金(政策金利残高)の一部にマイナス0.1%の金利を適用」する政策です。

この政策の下では、日本銀行におカネを預けるとおカネを取られる(マイナス金利を適用される)ことになります。そのため、民間の銀行は日本銀行におカネを預けず、企業などに貸出を行うようになる、という効果が期待されていました。

そして、短期金利を低く抑えることで企業や家計がお金を借りやすくなっていますので、世の中におカネが回るようになり、景気向上・資産価格上昇などの効果が見込まれていました。実際にマイナス金利政策導入後、株式や不動産といった資産価格は上昇しています。

■マイナス金利が「解除」されるとどうなる?
「マイナス金利の解除」とは、民間の銀行が日本銀行におカネを預けた際に、今までのようにペナルティ(マイナス金利)が取られなくなる、ということを意味します。

民間の銀行は、日本銀行に預ければ0.1%の金利が得られることが確実となるため、今までと違って「積極的に預金を集めたい」というスタンスに転換することになるでしょう。

実際、3メガバンク(三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行)は、普通預金金利を20倍に引き上げたと報道されています。とはいえ、実態としては0.001%の預金金利を0.02%へ引き上げただけであり、まだまだ預金金利は低水準のままですが。

それでも、銀行は預金集めに動き出します。普通預金を集めれば、預金者に0.02%を支払ったとしても、日本銀行から0.1%の金利がもらえるのですから、リスクなしで儲けることができるのです。

無リスクの資金運用先があるのですから、民間の銀行は企業や家計に無理して貸し出す必要はなくなってきます。

マイナス金利の解除とは、このように、民間銀行が企業や家計におカネを貸す動機を減少させるとともに、企業・家計も金利上昇でおカネを借りづらくなる(コストが増加する)効果を生みます。世の中からおカネを減らす(日本銀行に集中させる)方向に働くのです。

■YCCの撤廃で何が起きる?
YCCは、長期金利の上限を決めて低水準に保つために、日本銀行が日本の長期国債を大量に購入して国債価格を上げていた(国債価格が上がると、支払われる金利は一定なので金利が低下する)政策でした。

このYCCの撤廃により、長期金利の誘導目標がなくなるため、長期金利が上がりやすくなります。

ただし日銀は「これまでと概ね同程度の金額で長期国債の買入れを継続する」と説明していますので、長期金利の水準を急上昇させる意図はないことが分かります。

そして日本銀行は、今や東証上場企業の大株主となってしまったため、ETFやJ-REITの購入も取りやめとなりました。

日本銀行がこのような政策変更を行った理由については、以下のように説明されています。


最近のデータやヒアリング情報から、賃金と物価の好循環の強まりが確認されてきており、先行き、「展望レポート」の見通し期間終盤にかけて、2%の「物価安定の目標」が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至ったと判断。マイナス金利政策やイールドカーブ・コントロールなどの大規模な金融緩和は、その役割を果たしたと考えている。

引き続き「物価安定の目標」のもとで、その持続的・安定的な実現という観点から、短期金利の操作を主たる政策手段として、経済・物価・金融情勢に応じて適切に金融政策を運営する。現時点の経済・物価見通しを前提にすれば、当面、緩和的な金融環境が継続すると考えている。

(出典 日本銀行「金融政策の枠組みの見直し(2024年3月)」)


この説明によれば、日本銀行が政策変更を行った理由は、賃金が上がりそれが物価に反映するという流れが確認できるようになってきたこと、そしてそれに伴い、日本銀行が目指していた2%の物価上昇が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況になったことです。

ここまでが、先日の日銀の政策変更の概要です。

金利上昇時の一般的な投資戦略は?

これからは、いよいよ金利がある世界へと突入していくことになりますが、皆さんは金利ある世界で、どんなものに投資をしますか? 以降で、1つずつ見て行きましょう。

■不動産
楽待新聞をご覧の方は、やはり不動産投資を実際に行っているか、興味を持っていらっしゃるでしょう。

ただ、金利が上昇したらキャップレートが上昇して不動産価格が下落するかもしれませんし、借り入れコスト上昇によって収益性も低下してしまうかもしれません。現在のような金利上昇局面では、不動産への投資を回避したい、と考える投資家も一定数存在すると思われます。

■銀行株
では、金利上昇で恩恵を受ける投資先にはどのようなものがあるでしょうか? 代表的なものの1つは「銀行株」です。

株式投資の教科書には「金利が上昇すると株価は下落する」と書かれていることが多いと思います。これは全体で見ると正しいかもしれませんが、すべての業種に当てはまるわけではありません。

実際、金利上昇への期待で、ここしばらくの間にメガバンクの株価は急上昇しています。

三菱UFJフィナンシャルグループの過去5年間の株価推移(出典:TradingView)

銀行は、マイナス金利の解除だけでも利益が改善しますが、さらに金利が上昇していく局面では、「預金金利」(銀行にとっての調達コスト)よりも「貸出金利」(銀行にとっての収益)の方が先に上昇するために利益が改善する可能性が高くなります。

もちろん、金利の上昇スピードによっては、米国の地方銀行が苦境に陥ったように、債券投資で多額の含み損が発生(債券は金利が上昇すると債券価格自体は下落するため)するリスクはあります。

また、金利上昇とともに貸出先の経営内容が悪化・破綻することで、銀行の収益性が低下することもあるでしょう。ただ、全体的に見れば金利上昇は銀行にとって良い効果をもたらします。

日本ではほとんど投資対象とはなっていませんが、バンクローン(銀行の融資を金融商品化したもの)も、金利上昇局面では投資対象として検討に値します(主に米国です)。金利が上昇していけば収益が拡大するためです。

■株式(輸入企業)
また、金利上昇によって今後、円安から円高に転換していけば、輸入企業の株価が上昇していくことも考えられますから、そのような企業の株式への投資も視野に入るかもしれません。

ただし、現在の日本の株式市場は、日経平均株価が4万円を超え、34年振りに高値を更新している状況にあります。多くの企業の株式は、業績との対比で高過ぎるとも言えます。これから購入しても金利上昇の恩恵を受けられるかは、不透明でしょう。

■国債
なお、金利上昇期には国債に代表されるような債券投資も厳しい状況にあります。

債券は金利が上昇すれば価格は下落するからです。金利上昇期には、金利変化に対する感応度が低い満期までの期間の短い債券に投資することが一般的な鉄則です。金利が上昇していく中で徐々に金利の高い債券に乗り換えていくイメージです。

■ゴールド、暗号資産
同様にゴールド(金)に代表されるコモディティ(商品)も、金利上昇期には回避される可能性が高いと言えます。

金利が付かないのがコモディティであり、金利が上昇していくなら金利の付くような商品の方が好まれるからです。ビットコインのような仮想通貨(暗号資産)も同様です。

■外貨
最後に通貨ですが、金利上昇局面にある通貨は相対的に買われる可能性はあります。米ドルの金利が上昇し日本円の金利が低位だった間に円安が進行したことをご記憶の方は多いでしょう。

だからこそ、日本円が他通貨と相対的に金利上昇局面にある場合には日本円で投資を行うことには一定の合理性はあります。ただし、日本円ベースで「何に」投資するかは難しいかもしれません。強いて言えば、FXで「米ドルの売り」で収益を狙いに行くというのはあり得るでしょう。

筆者なら何に投資するか?

改めてお聞きしたいと思いますが、金利が上昇していく局面で、皆さんは何に投資しようと考えていらっしゃるでしょうか?

筆者は、基本的には今の日本における局面で「投資すべきものはほとんどない」と考えています。具体的には、投資できるものが現れるまで、少し金利が付くような商品で待機する、です。

そして、金利上昇に伴って立地が良い収益物件が売り出されたら、それに投資するのはアリだと考えています。

日本銀行は今回の政策変更について、賃金が上がりそれが物価に反映されるという流れが確認できるようになってきたこと、それに伴い、日本銀行が目指していた2%の物価上昇が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況になったことを理由にしています。

つまり、今は金利が上昇する局面ですが、それは「物価が上昇する」局面でもあるということです。

賃金が上がっている以上、家賃も上昇してもおかしくありません。不動産は金利上昇下においては逆風を受けますが、一方でインフレに比較的強いとも言えます。

金利上昇時に不動産投資に不安を覚える投資家が存在するのは、「収入が変わらない」ことを前提にコストが上昇することを懸念するからです。収入が上昇するならば、対象となる不動産の収益性には問題がなく金利上昇局面だったとしても問題ない投資となるでしょう。

もし金利上昇に伴い、立地が良く賃料がアップできるような収益物件が手に入るならば投資としては狙い目と筆者は考えています。

ただし、とにかく収益物件は立地が重要です。人口が減少し空き家が増加していく日本において、中長期的に不動産投資は難しさを増していくと想定していますので、物件選択は本当に慎重にすべきでしょう。それでも良い物件ならば、インフレ時代において投資すべきであることは間違いないと考えています。

ただ、なかなか個人では良い物件を手に入れることが難しいことも事実です。そこで、例えば上場REITが金利上昇局面で売り込まれるならば、価格が下がってある程度利回りが上昇したところに反発を狙って投資するのもありだとは思います。

実際、筆者は確定拠出年金の運用では、日本銀行の政策変更前に相応の割合をJ-REITのインデックスファンドに振り替えました。すでにある程度まで東証REIT指数が戻ってしまいましたので、これから投資すべきとお勧めすることはしませんが、1つの選択肢ではあると思います。

また、セオリーとは逆ですが、日本の国力低下と米国の経済の強さを鑑みるに、運用資産の一定割合は米ドルベースの資産へ投資すべきだと筆者は考えています。

米国の株式が上昇しすぎていますので、筆者は米ドルのMMF(マネーマーケットファンド=短期国債や地方債などで運用される投資信託)に一定額を置いていますが、利回りは4%台後半ですので悪くはないでしょう。米国の株式市場が調整局面に入ったら、ETFなどを買うための待機資金として位置付けています。

日本は金利上昇局面であり、米国は利下げ局面に入っていきますので、教科書的には円高となっていく可能性はありますが、中長期的にはやはり日本円が弱くなると想定しているためです。

もちろん、日本の株式市場が暴落でもしたら(バリュエーションが適正になったら)、株式もインフレに強い銘柄はあるので投資したいとは考えています。

皆さんはいかがでしょうか。

 (旦直土)