大家さんが実際に所有する物件を訪問し、購入判断の基準や修繕箇所の選定、今後の運用などについて教えてもらうこの企画。

今回物件を案内してくれたのは、不動産投資歴14年、地方×格安の物件を中心に35棟420戸を所有する広之内友輝さんだ。

「空き家再生人」でおなじみの広之内さんと共に訪れたのは、北海道室蘭市の商業ビル。市内の中心地に立地する一方、空室も多く、漏水事故の影響や残置物もあり、まさに「ガラボロ」商業ビルだ。

だがこの物件、利回りがすでに24%を超えている。これを広之内さんは、利回り50%にまで引き上げる計画を立てている。築40年以上のガラボロ商業ビルを、空き家再生人はどのように生き返らせるのだろうか。

現状と今後のビジョンについて、詳しい話を聞いた。

>>漏水事故から放置されたビル、どう再生する?<<

購入の決め手は「立地・将来性・安さ」

まず、広之内さんが購入した物件について見ていこう。

■物件概要
エリア:北海道室蘭市
種別:商業ビル(RC)、4階建て
築年:1983年
間取り:テナント+10戸(単身者向け、5戸空室)
購入価格:2000万円
利回り:約24%

この商業ビルが立地するのは、JR東室蘭駅から徒歩1分の場所。この東室蘭駅西口エリアは、室蘭市の玄関口として商業施設が多く集まる。広之内さんは、その利便性に魅力を感じて購入を決めたという。

「この辺一帯が商業の中心地になっています。今もちょうど、大規模なショッピングモールの第2期工事が終わるところなんです」

また、「鉄の町」として発展する室蘭市の将来性も、決め手の1つだったという。市内には意外と若者が多いようで、地域経済を支える大企業(日本製鉄や日本製鋼所)の拠点もある。

室蘭市の人口は減少しているところではあるが、街としての機能は維持されるだろうと広之内さんは見ているようだ。

「この物件はインターネットに掲載されていたのですが、2000万円という安さも魅力でしたね。今はガラガラで半分以上が空きですが、それでも利回りは24%を超えているんですよ」

購入したビルは4階建て。テナントだけでなく、4階と3階の一部はレジデンスにあたる。現在テナントは入っていないものの、レジデンス部分は5戸入居中の状態だ。

月々のキャッシュフローは30万円超、年間で400万円ほどになる(税引き前)。今後の3年間で1000万円以上が集まるため、それを原資に物件の再生を進めていく計画だ。

購入したビルの一帯は、もともと駅西口の中心エリアとして再開発される予定だった。当時ビル内には飲食店も入り賑わっていたが、ビル運営企業の経営が傾いたことでビルの運営に手が回らなくなってしまった。

テナントとして入っていた飲食店は移転、ビル自体は維持管理もされず、ほったらかしの状態になってしまったのだという。

「物件に修繕費を稼いでもらう」構想

この物件の再生について、広之内さんはどのような計画を立てているのだろうか?

まずは、入居者がいないレジデンス5戸から再生し、その家賃収入を原資としてテナント部分の再生を目指すという。

物件外観からは築年数相応の古さが感じられる。しかし広之内さんは収益を生み出すレジデンスの再生が最優先と考えており、外観については部分補修に留めるという。

「設備の配管が問題なければ、レジデンス5戸は300万円ほどで再生できるんじゃないかと。修繕を施して入居してもらえれば、月の家賃収入は50万円を超え、年間キャッシュフローも約600万円にまで増える計算です」

テナント部分も含めたビル全体を再生するには、物件自身に修繕費を稼いでもらう必要があるのだ。

「もちろん外観も綺麗にしたいです。でも全てを修繕するくらいなら、ビルを取り壊して新しく建てたほうが良いんですよ。ですので、あるものをどう活かすか、どのように優先順位をつけるか考えています」

家賃収入から修繕費を捻出し、徐々に再生の範囲を広げていく算段だ。

2階と3階は教育系のテナントに

ここからは、実際にビルの中を案内をしてもらう。

1階のテナント部分はシャッターが閉まっていた。昔は多くの店が入っていたようだが、今では全てのテナントが空いている。

広之内さんにとって、現時点で1階部分の再生優先度は低い。計画にも1階の再生を組み込んでおらず、より収益性の高いフロアを先に手掛ける予定だ。

続いて、2階のテナント部分を見ていこう。

この空間はかつて、収容人数60名ほどのスナックやパブに使われていた。大きな収益を見込めそうなフロアだが、屋上防水が破れて大規模な漏水事故が起き、壁紙がボロボロになってしまったという。

「ここは最後に再生しようと思っているんですよ。60平米あって、残置物の撤去だけで軽く100万円を超える費用がかかります。エアコン設置なども全部含めたら、400万円ほどかかりそうです」

2階部分と同様、3階部分も漏水事故の影響を大きく受けていた。すでに屋上防水の修繕は済んでいるそうだが、建物の内部に問題を抱えている可能性がある。

「雨漏りは直っています。ただ、設備部分が傷んでいる可能性もあるので、配管を確認しなければいけませんね」

4階のレジデンスには入居者がいるため、配管は機能していると考えられる。もし完全に水道が止まっており、全体の水回りに問題を抱えているのであれば、広之内さんは「この物件を買わなかった」と語っている。

広之内さんによると、ビルのある東室蘭駅西口エリアはアルバイトに通う学生が多いという。この特性を考慮し、2階と3階部分には学習塾や資格学校、予備校といった教育系のテナントが入ることを想定しているようだ。

「とりあえずは4階のレジデンスを満室にして、その家賃収入で3階の再生をする流れです。理想としては、2階と3階をいっぺんに使ってもらいたいです」

内装リフォームは外観とのバランス

続いて、3階のレジデンス部分に案内をしてもらった。

「ここは少し前まで(入居者が)住んでいましたね。タバコのヤニもないので、最低限の修繕をして安く貸し出す方法がいいかなと考えています」

古い物件の再生では、修繕費を抑えて家賃も安くすることがポイントになると広之内さん話す。

この部屋には和室もあり、物件力を高めるためには洋室化するのも1つだ。しかし、外観とのバランスが取れない内装リフォームは、かえって入居付けに逆効果となってしまうことがある。

「ビルの外観が綺麗になれば、洋室にすることも考えます。現状では外観に傷みが見られるので、そこで内装を高級志向にしてもダメですね」

冒頭でも触れたように、広之内さんはこの物件の魅力を「立地」と考えている。徒歩圏内にスーパーやコンビニ、大きな病院、東室蘭駅があるため、見た目ではなく利便性で勝負をしているのだろう。

「日本製鉄の大きな工場が、すぐそばにあるんですよ。そういった従業員の方も入居できるかなと思いますね」

プロに頼って正しい見極めを

4階部分はレジデンスのみとなっており、今は7戸中3戸が空室。相場の家賃は4万円相当だが、現在の収支計画では3万5000円に設定しているという。

部屋全体を見渡すと、ところどころに昭和らしい古さが漂っているが、どこから手をつけるべきだろうか?

「まずは玄関のたたきや、劣化したクッションフロアの張り替え。温水洗浄便座は新品交換をしますし、漏水があった部分もチェックしないとダメですね」

室内を回りながら、トイレやキッチンについても修繕すべきか考えを巡らせていた。2部屋50万円の修繕で見積もりを取っている広之内さん。一方の部屋が20万円で済めば、もう一方の部屋には30万円をかけられる。

もし修繕後、入居を検討する人が現れたら、広之内さんはさらに予算をかけて修繕することも視野に入れるという。経験豊富な空き家再生人も「入居者が決まる安心感は大きい」ようだ。

一方で、テナントについては入居者側が修繕費を出すケースもあるとのこと。

「苫小牧で物件再生を考えていたときに、入居予定の全国チェーンの居酒屋さんが修繕費として1000万円出すと言ってくれたことがありました。結局はコロナ禍の影響を受けて、入居もなし、私も物件購入自体しないことになったんですけどね」

レジデンスとは違い、テナント部分は居住スペースではない。入居する主体が違うことで、オーナー側がどれほど修繕をすべきかの目線も異なる。

ただ、通水試験をするなど設備状況は確認しなければならないという。水回りなどの設備に問題があると、修繕に大きな手間とコストがかかる。

リスクの洗い出しのため、広之内さんは内見時にプロに同行してもらっている。前述の屋上防水についても、その業者から「3年から5年程度は問題ない」とお墨つきをもらっているようだ。

「大前提はプロに頼れということなんです。この物件はプロの目で判断をしてもらって、100万円単位でお金がかかることを織り込んだ上で購入しました」

広之内さんによれば、融資の元本返済が始まっても月々の収益が40万円近くあるという。今の入居者が住み続けてくれるなら、仮にそこから入居者が増えなくても収支が回る。「リスクヘッジはできている」と評価した。

最終的には利回り50%!?

物件見学を終えてから、広之内さんに改めて今後の戦略を聞いた。

「再生計画は2段階で考えています。第1段階はレジデンスを埋めることで、すべてに入居者がつけば利回りが24%から40%近くまで上がります。そこから3年以内に、第2段階として3階の再生を考えています。これによって利回りがプラス10%になるので、仕上がり時は利回り50%になるような計画ですね」

一等地にあるビルだからこそ、再生に成功すれば室蘭市の顔になる可能性を秘めている。もし再生を実現したあかつきには、第3段階としての売却も考えているようだ。

「2階や3階がきちんと稼働すれば、売却はできると思っています。仕上がり時の利回りが相当高いので、価格を倍にしても売れるのではないでしょうか。そこまでの投資資金を踏まえて、大規模修繕前に売却すること1つかもしれません」

今回の物件見学ツアーでは、広之内さんに築40年以上の商業ビルを紹介してもらった。空室や修繕箇所も多く、一見すると「問題だらけ」のこのビルだが、広之内さんの計画通りに行けばいずれ大きな収益を生み出す物件に様変わりする。

内装を細かく確認し「直すところ」と「今は目を瞑るところ」を判断していた広之内さん。立てた計画を実行する上で、今は何を優先すべきなのか見極めることが重要だ。

空き家再生人ならではの考え方やノウハウを参考にして、ぜひ自身の不動産投資に役立ててほしい。

>>広之内さんが修繕ポイントを見極め! 動画はこちら<<

(楽待新聞編集部)