PHOTO:papa88 / PIXTA

若い世代にとっての住まい選びでは、「子育てしやすいエリア」がキーワードの1つになるのではないだろうか。

現在子育て中の世帯だけでなく、プレファミリーと呼ばれる将来的な子育て世帯の流入が増えれば、エリアの活性化が進み、住宅や不動産価格の上昇につながる可能性も見込まれる。

それだけに居住先、投資先として「子育てしやすいエリア」はどこなのか、注目しておきたいところだ。

今回は、大東建託の賃貸未来研究所が実施する「子育て世帯の街の住みここちランキング2023(首都圏版)」から、その傾向を探ってみた。

2年連続「奥沢駅」がトップに

「街の住みここちランキング」は、大東建託の賃貸未来研究所が毎年調査を行い、公表しているものだ。現在居住している駅・行政区について、居住満足度を点数化して回答してもらっている。

回答者数は国内在住の80万6722名(2019~2023年回答者累計、2023年のみでは18万5549名)で、各自治体の人口比を基本に割り付けているという。

今回は、その中でも「子育て世帯」が住み良いと感じている街や駅に焦点を当て、結果を紹介していく。ランキングは各沿線の駅別と自治体別に集計しており、駅のトップ10は下記のようになっている。

大東建託「子育て世帯の街の住みここちランキング2023<首都圏版>」より編集部作成(近接駅は統合されています)

1位となったのは東急目黒線の「奥沢駅」で、2022年に続いて2年連続の首位を記録した。評点は85.7ポイントだ。

2位は「築地・新富町」エリア(近接駅が複数あるため統合)。84.8ポイントをつけている。3位以下には東京メトロ半蔵門線の「清澄白河駅」、東急池上線の「洗足池駅」、東急東横線の「学芸大学駅」などが続く結果となった。

奥沢駅周辺は何が魅力なのか

奥沢駅の属する東京都世田谷区は、本ランキングのデータ算出もとになった「街の住みここちランキング2023<首都圏版>」(自治体)で16位となっている。奥沢駅周辺は、区の中でもより一層子育て環境に恵まれている場所と認識されているのだろう。

「街の住みここちランキング」は、実際にその駅周辺に住んでいる人々に「生活利便性」「交通利便性」「行政サービス」「静かさ治安」「親しみやすさ」「物価家賃」「自然観光」「防災」の8項目について評価してもらっている。

奥沢駅は「静かさ治安」「親しみやすさ」「防災」の項目で満点に近い数字をつけ、高い評価を集めた。「親しみやすさ」は首都圏の調査対象駅の中でも5位、「防災」は7位、「静かさ治安」は8位に評価されている。

反対に、「物価家賃」は順位がつかないほどポイントが低い。住宅地として人気の高い世田谷区だけに物価や家賃が高いものの、そのマイナス要素を補って余りある魅力を感じている人が多いということなのだろう。

奥沢駅前の様子(PHOTO:node / PIXTA)

実際に奥沢駅周辺に住む人の声には、閑静な街並みや治安の良さを評価するものが多く集まった。奥沢駅は、田園調布駅と大岡山駅に挟まれた比較的こぢんまりとした駅ではあるが、それがかえって子育てに適した環境につながっているのかもしれない。

その他にも、「交通の便がよく、自由が丘や渋谷へのアクセスがしやすく、買い物もそこまで不便はない」との声や「ママ友とランチに行く店がたくさんあり、満足している」といった声が集まった。

利便性と静かさの両立

駅別の2位には「築地・新富町エリア」がランクイン。2022年の調査でも2位をつけており、高い評価を得ている場所だとわかる。

項目別の評価を見ると、「親しみやすさ」が4位、「交通利便性」が5位、「生活利便性」と「行政サービス」はともに6位であった。

築地・新富町エリアは、東京メトロ日比谷線の築地駅・東銀座駅、有楽町線の新富町駅、都営大江戸線の築地市場駅を統合したエリアを指している。複数路線利用できる点もあってか、回答者のコメントにも交通アクセスの良さを評価する声が多かった。

また、同じ東京都中央区でも、銀座などと比べて下町の情緒を残している部分もあり、都心においても親しみやすいエリアだと言っていいだろう。飲食店や商業施設が付近に揃っている点も、子育て世帯の暮らしやすさにつながっているようだ。

PHOTO:ぽせ〜どん / PIXTA

そのほか、ランキングを見ていると、東急各線の駅が上位に入っているのが目立つ。首位の奥沢駅のほか、4位に池上線の「洗足池駅」、5位に東横線の「学芸大学駅」、7位に大井町線の「尾山台駅」と、トップ30までに9駅がランクインしている。

東横線の学芸大学駅や祐天寺駅を除き、他の7駅は東急の基幹路線(東横線・田園都市線)ではない路線の駅だ。生活に必要な機能を備えつつも、比較的落ち着いた雰囲気の中で安全な暮らしを送れる場所が好まれる傾向にあるのかもしれない。

自治体別は3年連続で東京都中央区が首位

では次に、自治体別の「子育て世帯の街の住みここちランキング」を見ていこう。トップ10は下記の通りである。

1位となったのは「東京都中央区」。駅別ランキングの2位「築地・新富町エリア」を擁する自治体で、2021年、2022年に続いて3年連続のトップとなった。唯一偏差値70を超え、非常に高い評価を得ている。

2位は「東京都武蔵野市」、3位は「埼玉県さいたま市浦和区」と続く。トップ10には東京都が最も多く5自治体、千葉県・神奈川県から2自治体、埼玉県から1自治体がランクインしている。

「親しみやすさ」や「行政サービス」で高評価

3年連続で首位となる東京都中央区には、子育て世帯にとってどんな魅力があるのだろうか。

項目別の評価を見ると、「交通利便性」「親しみやすさ」で首都圏の自治体中1位を記録していた。また「生活利便性」が5位、「行政サービス」が6位と、多くの項目で高い順位をつけた。

回答者のコメントにも「徒歩圏内で生活に必要なものが揃う」「交通アクセスが良い」「とにかく治安が良い」といった声が集まった。

近年では湾岸エリアの再開発などで高層マンションも増え、居住地としての注目度を高めていると言える。

とはいえ、銀座・日本橋といった日本有数の繁華街や商業地を有するだけあって、街に対して高級感や洗練されたイメージを持つ人も多い。「物価家賃」の面では評価が伸びなかった。

また「防災」についても評価は高くない。荒川水系の大規模氾濫による浸水等が想定されるだけでなく、日本有数のビジネス街として災害時に帰宅困難者を30万人以上抱えることになるという。区としても防災・減災に向けた対策の強化を課題としているようだ。

中央区を流れる亀島川(荒川水系)とタワーマンション(PHOTO:KA-HIRO / PIXTA)

ランキング2位は「東京都武蔵野市」で、2022年の4位から順位を2つ上げた。項目別では「行政サービス」が1位、「親しみやすさ」が2位、「防災」「生活利便性」が3位と、東京都中央区とはまた異なる点で評価されているものと思われる。

特に「行政サービス」としての子育て支援策は、市を挙げて力を入れているようだ。武蔵野市は、国や東京都に先駆けて子どもの医療費助成の拡充に取り組み、18歳までの子どもの医療費助成を「所得制限なし・一部自己負担なし」で実施している。

「交通利便性」にはやや課題もあるようだが、「自転車があれば解決できる」というコメントも寄せられた。

今回紹介したランキングの結果は、その地に住む人々の主観的な印象が集計されたものだ。

物件購入にあたっては、価格や人口動態などの客観的なデータに基づいて適切な判断をすることが求められる。しかし、それに加えて、今回紹介したような住民の主観的評価を参照するのも1つの方法なのかもしれない。

投資するエリアや購入する物件を検討する際は、まず十分な情報収集を心がけたい。

(山下和之)