埼玉県和光市にある「和光市駅」の北口が変貌を遂げようとしている。
東京メトロ副都心線、有楽町線の終着駅で、東京への通勤・通学に便利な駅である和光市駅。その北口に、商業施設と約300戸の住宅棟で構成される駅直結の複合施設が誕生する。
和光市駅南口は商業施設が立ち並び賑わいがある一方、北口は道路が狭く、住宅が密集しており、生活利便性や安心・安全なまちづくりの上で課題となっていた。
再開発が進むことで、和光市駅北口の様相が一変しそうだ。今回は、そんな和光市駅北口の再開発の内容をレポートする。
和光市駅周辺の様相
和光市駅は、東武鉄道の東上本線と、東京メトロの有楽町線・副都心線が乗り入れている。池袋駅へは東武東上線急行で最短13分ほどだ。
埼玉県内唯一の東京メトロの駅で、永田町・有楽町・銀座一丁目などの東京都心方面、新宿三丁目・渋谷などの副都心方面へ乗り換えなしでアクセスできる。
特徴的なのは有楽町線・副都心線の始発列車が終日にわたって多数設定されていることだ。始発のある駅は、座って通勤・通学するのに便利とあって、居住地として一定の人気がある。
外環道のインターチェンジも近く、車での交通の便も申し分ない。
和光市駅周辺はこのような都心へのアクセスの良さから、首都圏に就業の場を求める人々、東京方面から持ち家を求めてくる人々によって発展を遂げてきた。
2024年1月1日時点の埼玉県の推計人口によると、和光市駅が位置する和光市の市区町村別人口増加率は県内2位となっている(1位は緑区)。
そして少子高齢化の時代の中、埼玉県内で唯一、出生数から死亡数を差し引いた自然増減がプラスになった市町村でもある。この要因として、若い世帯の流入と定着が挙げられる。
都心への通勤・通学に便利な立地であるにも関わらず、都心に比べると地価が安く、一戸建ての新築物件が多いことなどが、若い世代や子育て世代に人気の理由なのだろう。
また市内には、「和光樹林公園」や大規模遊具のある総合児童センターなど、子育て世代にとって暮らしやすい環境があることも理由の1つだろう。
特に和光市駅の南口は、立派な駅前広場があり、駅ビル、買い物に便利な商業施設、飲食店、ホテルまで揃っている。
他にも、輸送機器メーカーの本田技研工業の関連施設、理化学研究所、最高裁判所が設置する研修機関である司法研修所、国税庁所管の省庁大学校の税務大学校、陸上自衛隊 朝霞駐屯地などがあり、賑わいを見せている。
南口と比較して開発が遅れていた北口
一方北口はと言うと、駅の目の前にはすぐに道路が通り、小さなバス停はあるもののロータリーなどはなく、南口と比べると不便な印象は否めない。
北口側は周辺道路の狭さや住宅の密集などが、生活利便性や安全・安心なまちづくりにおける課題となっていた。
これらの課題を解決するため、市は北口の約11.3ヘクタールの敷地を対象に土地区画整理事業を推進している。
そして、2024年3月に、「和光市駅北口地区第一種市街地再開発事業」が都市計画決定され、区画整理事業区域内の約0.7ヘクタールの敷地に高層タワーマンションが建設されることになった。
低層階には商業施設などのにぎわい施設、高層階には住宅(約300戸)を設ける計画だ。延べ面積は約5.65ヘクタール。敷地北東側には、約280平米の小広場や、屋内の広場空間であるガレリアも設けられる。
歩行者の導線が整備されるだけでなく、広場などの憩いや賑わいの場所も設けられるとあって、快適な駅前空間になりそうだ。
事業協力者として三菱地所レジデンス、三菱地所、大京が参画。2026年度の工事着工、2029年度の竣工をめざしている。
イメージパースを見ると、低層部はガラス張りの開放的な建物で、低層部屋上には緑を配した空間が描かれている。
スタイリッシュな高層部は、建物の階数や高さこそ公表されていないが、和光市内では珍しいタワーマンションとあって、新たなランドマークになるだろう。
また、駅前広場や道路、公園も整備し、駅周辺の安全性や利便性をはかる予定だ。鉄道網と道路網を結ぶ「ハブ機能を有するバスターミナル」が北口にもできることで、和光市北側の駅から離れたエリアの利便性も向上するかもしれない。
和光北インターチェンジでは産業拠点化の動き
さらに、和光市駅から1.6キロメートルほど北にある和光北インターチェンジでも、土地区画整理事業の計画が進んでいる。
現在整備中の外環道の未整備区間が開通し、周辺都市の利便性が向上すれば、都市間競争がさらに激化する可能性はあるかもしれない。
そのような競争にさきがけて、和光北インターチェンジ周辺では、新たな産業の進出を呼び込み、産業の集積を図るプロジェクトが進行中だ。
計画地は、東京都心から20キロメートル圏に位置する。一般国道254号バイパスと東京外環自動車道の延伸計画が進んだことで、これまで以上に東京方面や全国各地へのアクセスがよくなることを活かす狙いだ。
計画的な都市基盤整備を行い、広域的な幹線道路を活用した新産業関連施設や物流関連施設を主体とした工業地としての土地利用を図る。また、公園整備や安全対策のための工事なども行う。
和光市駅北口の開発と合わせて、物流などの新たな産業が集まれば、周辺の不動産市況にも変化が起こるかもしれない。
スーパーシティ構想も
現在は増加傾向である和光市の人口であるが、今後の人口減少や高齢化を見据えたまちづくりの検討も進んでいる。それが「和光市版スーパーシティ構想」だ。
これは、埼玉県が推進する「埼玉版スーパー・シティプロジェクト」の一環の取り組みである。超少子高齢社会に対応するため、ICT(情報通信技術)などを活用した「コンパクトで持続可能なまちづくり」をする市町村を、県がサポートするのだ。
和光市版スーパーシティ構想では、新たに駅北側の交通拠点と和光北インターチェンジ周辺の産業拠点を整備するとともに、和光版MaaS(専門アプリによって最適な移動手段の検索・予約・決済ができるサービス)を構築する。
自動運転バスや、コミュニティーバス、マイクロモビリティ(自動車よりもサイズが小さく、ちょっとした移動に使える乗り物)など複数の交通機関や移動手段を組み合わせたサービスの実現を目指す。
和光市は、南北に長い形をしているが、駅を挟んで南側に市役所や総合児童センターなど市の機能や便利な施設が集まっている。北側の人がこれらを利用するには、南側へ移動しなければならない。
この心理的距離を縮めるべく駅から北へ外環道の側道部分にバス専用の車線を設けて自動運転バスを走らせることを検討している。
和光市版スーパーシティ構想おおむね10年後の実現を目指している。実現すれば、北側から南側に手軽に移動できるようになり、北側の利便性が向上するだろう。
南口ばかりが注目されてきた和光市駅だが、北口の再開発や和光市版スーパーシティ構想の動きなど、今後、変化していく北口エリアにも期待したいところだ。
(福本真紀/楽待新聞編集部)
福本 真紀
不動産・鉄道分野のフリーライター。鉄道会社に10年以上勤務していた経験を活かし、都市開発の最新事情やビジネス関連の記事を執筆する。趣味は鉄道巡り、街歩き。埼玉県出身。
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