建設業などで「物価高倒産」が急増している。
帝国データバンクの調査で、2023年度は837件判明している。全倒産の約1割を占め、前年度(463件)の1.8倍に増加。過去最多を大幅に更新した。
業種別では「建設業」(209件、構成比25.0%)が最も多く、前年度(94件)から2.2倍に急増。今年4月に破産に追い込まれた木造建築工事業者「マイホーム・スタジオ」(横浜市)もその1つだ。
十分な価格転嫁ができず、経営破綻に至った「値上げ難型」の物価高倒産の典型例として紹介する。
リフォーム工事からアパート建築まで
マイホーム・スタジオ(横浜市)は今年3月末の協力業者への支払い(3600万円)が滞ったうえ、4月15日分の支払い(2400万円)の目途も立たなくなり、その3日前の4月12日に約5億円の負債を抱えて横浜地裁へ自己破産を申請し、同日破産手続き開始決定を受けた。
2013年9月に設立した同社は、不動産業界を揺るがした「かぼちゃの馬車」事件を機に債務超過に転落。資金繰りに窮しながらもなんとかやりくりを続けていたが、最近の物価高がとどめとなった形だ。
同社の設立から破産に至るまでの軌跡をたどっていく。
同社は代表が前職時代の経験を活かして独立した。20年以上勤めた前職の会社では、不動産仲介から建築事業部の責任者も歴任し、一般の顧客向けに土地の購入から新築住宅の施工設計まで請け負ってきた。
設立時から社員の多くは代表の前職企業出身者で、当初は不動産仲介とリフォーム工事を手がけていた。
設立3年目に手がけたアパート用地の取得案件を機に、その後は投資用賃貸物件の建築事業にシフト。近年はこれらのほか、戸建ての新築工事やマンションのリノベーション工事も主力事業とし、付随する土地売買や設計、仲介・管理まで一貫して手がけ、他社との差別化を図った。
小規模案件が中心ながら、ロフト付きや浴室暖房機乾燥機付といった住宅の設計・設備にこだわり、建築した賃貸物件では高い入居率を誇ったそうだ。
「かぼちゃの馬車」やコロナ禍生き延びるも
順調に事業を展開していた矢先の2018年、シェアハウス「かぼちゃの馬車」をめぐるスルガ銀行の不正融資問題が発覚。その影響でアパートローン案件に対する金融機関の融資姿勢が一気に厳しくなり、業界環境が急速に悪化した。
投資用賃貸アパート建築を主戦場とする同社も例外ではなく、投資家への融資審査が滞り、アパート物件の売却が進まなかった。
工期の長期化も相まって粗利益率が大きく悪化するなか、2018年8月期には設立以来初の赤字計上を余儀なくされ、債務超過に転落した。
その後は厳しい業況の中で新規案件の獲得に注力して持ち直し、2022年8月期には年売上高7億800万円を上げるなど、コロナ禍でも一定の売り上げを確保した。
6戸アパートの工事原価が4000万から5000万円に
しかし同年秋頃から、原材料の高騰により各種の建築資材の上昇が顕著に。
当社が手がけるアパート建築物件の場合、1棟6世帯での工事原価はそれまで4000万円前後だったものが、一気に5000万円を超えるまでになったという。
利回りにシビアな個人投資家相手に請負価格への転嫁も難しく、ここ1年は毎月のように資金不足の状態が続いた。
この間、つなぎ融資の導入や毎月の借り入れ返済額の引き下げで、当座の資金繰りをつないだ。
しかし肝心の本業が、建築資材や人件費高騰の影響を踏まえ見積価格を上げざるを得ず、その影響もあってか新規契約を受注できない状態が続いた。藁をもつかむ思いで、金融機関、信用保証協会、よろず支援拠点などに駆け込んだものの、時すでに遅かった。
建設業に重くのしかかる「物価高」
同社を倒産に追い込んだ物価高。昨年度に判明した837件の「物価高倒産」のうち、建設業が25%を占め、最も影響の大きい業種であることがわかる。
こうした動きにさらに拍車をかけそうなのが、足元で進行する「急速な円安」だろう。
円安は輸出企業の利益を押し上げる半面、輸入価格の上昇を通じて家計の負担を増やすとともに、多くの企業に仕入れコストのさらなる増加を招く。
すでに賃上げや原材料高の負担が重荷となるなかで、価格転嫁も十分に進まず、事業継続が困難となる瀬戸際まで追い込まれている中小企業も少なくない。日米金利差を背景に円安基調は続くとみられ、今後も物価高倒産は高水準で推移する可能性が高い。
現在の経営環境について、企業はどのように感じているか―。これを可視化したデータを最後に紹介しておきたい。
帝国データバンクが全国約2万7000社を対象に行った4月の『TDB景気動向調査』によると、景況感(景気DI)は2カ月ぶりに悪化した。
50を境にそれより上であれば「良い」、下であれば「悪い」を意味する4月の景気DI(全国・全業種)は、前月比0.3ポイント減の44.1となった。
急速に円安が進行するなか、原材料価格の高止まりや2024年問題への対応といった負担増に加え、不十分な価格転嫁が下押し要因となった。
このうち、全国1750社を対象に調査した「建設業」の景気DIは前月比0.4ポイント減の46.6で、3カ月連続で悪化した。
景気のマイナス材料として、原材料価格の高騰をあげた企業が多かった。「施工案件はあるが、人手不足で対応できない」(土木工事)といった声もあり、職人不足が下押し要因となっているのが現状だ。加えて、新設住宅着工戸数の減少も悪材料となっている。
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2024年1~4月の倒産件数(全国・全業種)は3064件となり、前年同期(2530件)を2割以上上回っている。円安、物価高、賃上げ、コロナ支援策縮小、伸び悩む個人消費など、中小企業を取り巻く経営環境は依然として厳しい。
2024年の企業倒産は単純計算ながら、現状の「2割増」のペースで推移すれば、前年(8497件)を大きく上回る1万件突破も十分視野に入る。
(内藤修)
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