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空き家問題の解決に向け、法改正が進むことになりそうだ。

国土交通省は5月2日、800万円以下の「低廉な空き家等」の売買にかかる仲介手数料の上限を引き上げる、宅地建物取引業法の一部改正案を公表した。背景にあるのは、全国に900万戸あるとも言われる空き家の流通促進だ。

一方、不動産投資家にとってこの改正は、手数料の負担が増え痛手にもなりうる。

法改正が行われると、空き家の流通市場にどのような変化が生じるのだろうか。改正案の内容とともに、戸建て市場に詳しい関係者の見解を紹介していく。

2018年に続き2度目の改正

今回の改正案の背景には、近年増加する「放置空き家」の問題がある。空き家は価格が安く仲介手数料も安価なため、積極的に取り扱う不動産会社が少なかった。

例えば150万円の物件を仲介した場合、仲介手数料の上限は150万円×5%で7万5000円となる。

一方、これが仮に1億5000万円の物件だった場合、1億5000万円×3%+6万円で456万円の仲介手数料収入となる。

価格別の仲介手数料上限
200万円以下…価格×5%
200万円超から400万円以下…価格×4%+2万円
400万円超…価格×3%+6万円
※本記事では、仲介手数料はすべて税抜きで表記しています

同じ1件の仲介でこれだけ手数料収入に差があるのだから、安価な空き家の仲介には食指が動かない業者が多いのもうなずけるところだ。そして、この手数料の差が、空き家の流通を妨げる一因となっていた。

こうした状況を打破するため、国交省は2018年1月にも仲介手数料の一部引上げを実施していた。

当時の改正では、400万円以下の状態が悪い「低廉な空き家等」の売買に際して、売主から受け取る仲介手数料に限って上限を18万円にすると定められている。これが現行の手数料制度だ。

今回発表された改正案は「低廉な空き家等」の対象を800万円以下の物件にまで拡大し、仲介手数料の上限も30万円まで引き上げる。現行制度を大幅に強化したものと言えるだろう。

30万円の上限は、売主と買主双方に適用される。仮に物件の売買価格が10万円だとしても、片手仲介で30万円、両手仲介なら60万円を上限に手数料を受け取ることができるようになる。

当初の規定通りだと10万円×5%=5000円にしかならないので、手数料を受け取る側の仲介業者にとっても、支払う側の投資家にとっても、この違いは大きいだろう。

空き家の流通は促進されるのか

本改正案については、SNS上でも賛否が分かれる。今回は、築古戸建てを中心に所有する不動産投資家で、現在は宅建業者としても活躍する「大津社長」さんに、業者と投資家双方の立場からの意見と、今後の見通しを聞いた。

―安価な物件の仲介に消極的な風潮はあったのでしょうか

個人的な意見ですが、中小の仲介業者さんは意外と積極的に取り扱っていた印象があります。

ただ、一般の方が最初に依頼を持ち込みやすい大手の不動産会社は別です。広告費を多くかけているので、高単価の案件でないと採算が合わないため扱わないというスタンスのところが多いんです。

そこで事実上お断りに近い対応をされるので、消極的な印象を持たれているのかと思います。

逆に広告費をあまりかけていない中小の不動産会社は、あまり手がかからない案件であれば、安くても喜んでやるケースは多いと思います。

―改正によって空き家の流通は促進されると感じますか

されると思います。やはり実情として、大手不動産会社に売却を断られてしまったがために、市場に出ていない物件が多いと思います。

ただ、今回の改正によって両手取引で60万円もらえるとなると、大手の不動産会社でも動く可能性は高いのではないでしょうか。

そうなると、今まで大手不動産会社にブロックされて市場に出ていなかった物件が売りに出ることになるので、流通は促進されるんじゃないかと思います。

築古戸建て投資には逆風か

―投資家の立場からは、今回の改正案をどう見ますか

今までは数万円で済んでいた手数料が、一気に30万円に上がってしまうので、その点は向かい風であることは間違いないでしょう。

ただ需要と供給がともに増えていく状況であると考えれば、下火にはならないのではないでしょうか。投資家の数は年々増え続けていますし、先ほどお話ししたように、今まで市場に出ていなかった築古戸建ての流通も増えていきます。

―手数料を嫌い、投資家同士の直接売買が増えるのではという声もあります

大家の会や大家塾といったコミュニティ内や、セミナーを通じての直接売買は増えるかもしれません。

基本的に投資家はなるべく高く売ろうとするので、安く仕入れるのは難しい。ただ、仲介を通すよりも合計60万円安くなると考えれば、安価な物件であればあるほど直接売買のメリットが出てきます。

直接売買なら、買主を見つけるという一番難しい工程をスキップできますし、投資家同士ならコミュニケーションコストが低いというメリットもあります。私の周りではすでに直接売買の事例が増えています。

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投資家が一般の物件所有者に直接アプローチをする、「物上げ」のようなことはあまり想定していません。

仲介業者の場合、物上げした後に仲介するか自社で買い取るかを選ぶことができます。自社で買うのは微妙だなと思ったら、買い手を探して仲介すれば、これからは両手で60万円入りますから十分に回収できます。

投資家の場合は「安く買えたらラッキー」という回収の方法しかないので、謄本を取得したり物件所有者に営業をかけたりといったコストに見合った成果を上げるのは難しく、効率が悪いので流行らないのではないでしょうか。

総じて、今回の改正は業者の立場で考えると非常にありがたいと思います。投資家にとっては、手数料が上がると儲けにくくなるのは間違いないので、自分で宅建業の免許を取るのも1つの手だと思います。

特に、築古戸建てのような安価な物件を繰り返し売買するような方は、自分で業者になって手数料の支払いを抑えることが、より有利に働く時代が来るのではないかと思います。

改正法は7月1日に施行予定となっている。手数料の一部引上げが不動産投資市場にもたらす影響は未知数だが、引き続き今後の動向に注目していきたい。

>本改正に対する皆さまの意見を、ぜひお寄せください<

(楽待新聞編集部)