金融機関別の融資動向は?
続いて、どのような金融機関が不動産融資に積極的なのか、約370の融資事例から分析する。積極的に不動産融資に取り組む金融機関は、いったいどこなのだろうか。
金融機関種別を見ると、「地方銀行」の割合が40%、次いで「信用金庫・信用組合」が23%。過去2回とほとんど変わらない結果となった。
「信託銀行」は、6%から12%へと倍増。「政府系金融機関」は4%から2%に、「ネット銀行・その他」は12%から9%に減少した。
融資が下りた金融機関ランキング

※一棟アパート、一棟マンションへの融資件数で集計
最も多かったのは「オリックス銀行」。2022年下期ぶりに、融資件数第1位となった。オリックス銀行は「信託銀行」に分類される。信託銀行の融資件数割合が倍増していたのは、オリックス銀行の融資件数の変化が影響したものとみられる。
アンケートに寄せられた回答を見ると、オリックス銀行に対して「不動産融資への積極姿勢を感じた」というコメントが目立った。「出ると思わなかったフルローンが出て驚いた」「1棟目でも融資を受けやすいと思った」という投資家もいる。
オリックス銀行で融資を受けるにあたり、「融資が下りやすい金額」をヒアリングしたという投資家たちもいた。融資額によって審査内容が変わるケースがあるといい、より承認が下りやすい価格帯を意識して融資戦略を立てているようだ。
■事例1:「審査のハードル」変わるラインを見極めて
【融資情報】
金融機関名:オリックス銀行
物件種別:木造一棟アパート
物件価格:約1億円
融資条件:金利1.875%、返済期間35年、自己資金1割以下
【投資家の属性情報】
年収(家賃年収を除く):1000万~1500万円
金融資産:1億円~
不動産投資歴:5年~10年未満
年間家賃収入:500万~1000万円未満
昨年12月、オリックス銀行から融資を受けておよそ1億円の木造一棟アパートを購入したAさん。都内で実勢価格と積算価格の乖離がない物件を探しており、平米あたりの土地価格が100万円を超えていたのが購入の決め手になった。
融資が下りた理由については、「不動産会社がオリックス銀行と提携していたからだと思います」と語る。
「プロフィールシートは力を入れて作成しましたが、資産情報などもあまり気にされていなかったと感じます。提携ローンなので、こちらから何か特別なことをしなくてもスムーズに融資が引けました」
融資額は満額でも通りそうだったものの、1億円を超えると審査のハードルが高くなると聞いたため、1億円以内に抑え、自己資金を入れたそうだ。
■事例2:「融資が通りやすい価格」意識して打診
【融資情報】
金融機関名:オリックス銀行
物件種別:区分RCマンション
物件価格:約4000万円
融資条件:金利1.8%、返済期間33年、フルローン
【投資家の属性情報】
年収(家賃年収を除く):1000万~1500万円未満
金融資産:1000万~3000万円未満
不動産投資歴:3年~5年未満
年間家賃収入:300万~500万円未満
会社員のBさんは、資産組み換えのために築浅物件を探していたところ、今回の物件に出合った。
仲介会社経由で融資担当者に繋いでもらった。申込みから承認までは2カ月ほどで「審査には思いのほか手間と時間がかかった」と振り返る。
「本審査申し込み時、金消契約時、引き渡し時と3回も対面で面談しました。その場で預金口座や証券口座にログインさせられ、残高の提示を求められたこともあります。別件でお付き合いをしていたイオン銀行さんはオンラインで審査が進んだので、対照的だと思いました」
面談時には、物件内容や資産状況、リスクへの備え、将来的な物件運用の計画など、かなり細かい説明や質疑応答があったという。「借主の知識や状況を慎重に確認・評価している」と感じたと話す。
一般的には、返済期間には借主の年齢に応じて上限が設けられる。しかし今回、上限より5年長く融資を獲得できたという。その背景についてBさんは「担当部署の決済権限の関係で、融資が通りやすい価格帯があったようだ」と、物件の価格に理由があったのではないかと分析する。
「担当者の話しぶりから、融資対象の物件の幅を広げて、積極的に融資を出そうとしている印象を受けた」とBさん。一方で、「借主が無茶しないように、きちんとコントロールしようとしている様子だった」そうで、短期間での連続融資には慎重だと感じたという。
こうした積極姿勢を鑑み、出口戦略上のメリットを見込む投資家もいた。
■事例3:金融機関が「嫌がる物件」徹底的に避けて
【融資情報】
金融機関名:オリックス銀行
物件種別:木造一棟アパート
物件価格:8650万円
融資条件:金利1.8%、返済期間26年、自己資金約1割
【投資家の属性情報】
年収(家賃年収を除く):2000万円~
金融資産:5000万~1億円
不動産投資歴:5年~10年未満
年間家賃収入:100万~300万円未満
Cさんは、今回、新築の木造一棟アパートにオリックス銀行から融資を受けている。
「大家の会で勉強をしていた時、自分が借りられる金融機関はどこなのか、まず考えるべきだと教えられたんです。新築に融資がつきやすいことと、自分の属性も考えて、オリックス銀行に相談しようと決めてから、持ち込む物件を選びました」と話す。
大家仲間などから「オリックス銀行は洪水ハザードマップで危険とされているエリアの物件や、擁壁のある物件を嫌がる」と聞いていたCさん。持ち込む物件も、こうした「金融機関が嫌がる物件」を避けることを徹底した。
「金融機関が嫌がる物件を避けておけば、仮にこの物件を売りたくなったときに買主さんに融資が出ずになかなか売れない…という事態を避けられると思いました」
その上で、融資の相談にあたっては、自身の経歴書や所有する金融資産の情報、退職金の積立額なども細かくまとめて開示するなど、融資承認のための努力は欠かさなかったそうだ。
融資件数が「増えた」金融機関は?
融資事例が増えた金融機関は、ランキングの外にもある。「東京ベイ信用金庫」は、直近1年間では融資件数が0件だったが、今回3件の事例が寄せられた。
いずれも木造物件で、うち2件は築40年以上。セゾンファンデックス保証を活用することで、耐用年数を大きく超える期間の融資を受けたケースがあった。
■事例4:築50年超えの木造アパートに融資が下りた
【融資情報】
金融機関名:東京ベイ信用金庫
物件種別:木造一棟アパート
物件価格:1500万円
融資条件:金利2.8%、返済期間10年、自己資金約3割
【投資家の属性情報】
年収(家賃年収を除く):600万~800万円
金融資産:1000万~3000万円未満
不動産投資歴:3年~5年未満
年間家賃収入:300万~500万円未満
今回、1500万円の築古木造一棟アパートの購入に際し、東京ベイ信金で融資を引いたDさん。以前、別の物件で融資の相談をしたところ、融資自体は下りなかったものの担当者が非常に熱心だったことから、今回も相談してみようと思ったと話す。
ただ、実際相談を持ち掛けてみると「まずは話を聞いてみたい」という姿勢だったとDさん。以前から東京ベイ信金とはやり取りをしているが、最近になって特段積極姿勢を見せているとは考えていないそうだ。
「今回も、支店の営業ノルマはクリアしていると担当者から聞いていました。なので、ノルマのために積極的に融資しよう、という感じではなかったですが、一方で、消極的でもない…という印象です」
今回、結果的に物件価格1500万円に対して1000万円の融資承認が下りている。金利は2.8%、返済期間は10年。自己資金を約3割入れたことも、融資につながったのかもしれないと考えているという。
なお、今回の物件は築50年を超えている木造アパート。Dさんは今回、担当者から「セゾンファンデックスの保証付きでないと融資が下りないだろう」と言われ、その条件で申し込んでいる。
「金融機関によっては耐用年数オーバーということだけで門前払いされたり、審査の土台に乗らなかったりするケースもあるので、まず検討してもらえるだけでありがたいと思っています」(Dさん)
また、「東京スター銀行」も前回の2件から7件へと事例数を伸ばした。不動産会社と提携し、区分マンションへの融資を積極的に行っているという。
実際に東京スター銀行を使って区分マンションを購入した投資家は、「融資面談はあまり厳しい印象はなかった」と語る。年収の基準はあるようだったというが、「金利1.3%と、同時に検討していた金融機関と比べて低い金利で融資を受けられるのが魅力でした」と振り返った。
融資件数が「減少」した金融機関も
前回と比較し、融資件数が減少している金融機関もある。今回は、特に減少が目立った金融機関3行について、直近で融資を引いた投資家らにインタビューした。
【千葉銀行:前回11件→3件】
「金融機関ランキング」上位常連の千葉銀行だが、今回のアンケートでは融資件数が大幅に減少する結果となった。
継続取引で融資を引いた投資家からは、「前回より細かくなった」「審査に時間がかかった」という声が聞かれた。そんな中、新規取引で融資を受けた投資家もいる。
■事例5:「今後数年は運営に専念」求められるも新規融資獲得
【融資情報】
金融機関名:千葉銀行
物件種別:木造一棟アパート
物件価格:1億3000万円
融資条件:金利1.05%、返済期間30年、自己資金約1割
【投資家の属性情報】
年収(家賃年収を除く):1500万~2000万円
金融資産:5000万~1億円
不動産投資歴:3年~5年未満
年間家賃収入:500万~1000万円未満
3年ほど前から区分を対象に不動産投資に取り組み、今回初めて一棟ものに挑戦しようと考えたEさん。建築会社の紹介で千葉銀行から融資を受け、1億3000万円の新築アパートを購入した。
「融資が下りた理由としては、建築会社がコネクションを持っていたというのが一番大きいと思います。パッケージローンではなくプロパーローンだったので金利も低くできて、ありがたかったですね」
ただ、直前に別の金融機関から融資を受けていたため、審査の際には「ペースが早すぎるのではないか」と懸念を示される場面もあったという。
しかし担当者が本部にかけあってくれたため、結果的には金利1.05%、返済期間30年で融資を引くことができた。
「今後数年は他行を含め追加投資はせず、運営に力を入れる旨の確認はありましたが、好条件で融資を受けられたと思っています。紹介だったので門前払いもされませんでしたし、審査自体も比較的スムーズに進んだなと思います」
今回、Eさんは新築アパート購入にあたって、地元である千葉県内で複数の建築会社を検討していた。その際、どこの会社でも「融資は千葉銀行が良いと思う」と言われたそうだ。
「地元では、千葉銀行が融資に積極的だと見られているのかもしれません。支店によって温度差はあるかもしれませんが、実際に私が融資を受けた支店はかなり前のめりな印象を受けました」
地元の建築会社との結びつきの強さがうかがえる千葉銀行。紹介をきっかけに、新規案件の融資にも取り組んでいるようだ。
ただ近年は、UBMや暁建設の倒産があったように、厳しい経営状況に置かれる建築会社が増えている。こうした市況が、融資件数になんらかの影響を及ぼしている可能性も否定できない。
【日本政策金融公庫:前回14件→8件】
全国の物件に対応し、大家デビュー時に利用されることも多い日本政策金融公庫。前回から大きく融資件数が減る結果となったものの、「積極的に応対してくれた」「安心して貸し付けてくれたように感じた」という意見も寄せられている。
■事例6:融資に前向きな一方、シビアな側面も
【融資情報】
金融機関名:日本政策金融公庫
物件種別:木造戸建て
物件価格:約400万円
融資条件:金利2.05%、返済期間10年、フルローン
【投資家の属性情報】
年収(家賃年収を除く):400万~600万円未満
金融資産:500万~1000万円
不動産投資歴:10年~20未満
年間家賃収入:100万~300万円未満
10年ほど前、書籍を読んで賃貸併用住宅を建てるところから不動産投資を始めたFさん。その後はなかなか物件が買えずにいたが、今年1月、築古戸建てを購入したという。
「数年来のお付き合いがある大家仲間から紹介された物件です。その方の条件には合わなかったようで、『これどう?』と情報をもらいました」
紹介された戸建ては、価格が約400万円、利回りは約13%。オーナーチェンジ物件で、外観や写真を見てもそう大きな問題もなく、価格としても手が出しやすいと考え、購入を決めた。
購入に際しての融資は、日本政策金融公庫に相談。YouTubeやコラムなどから、公庫が初心者にとって一番融資を受けやすいと考えたという。また、法人で購入するため、創業融資を申し込みたいとの思いもあったと話す。
融資面談は1時間ほどだったが、かなり積極的な姿勢を感じたとFさんはいう。
「(融資を)出すか、出さないかの判断のためというより、出すことは前提で、あとは条件をどうするかの判断をするために質問しているような印象を受けました」
一方で、面談ではFさんの年収や資産、物件の基本的な情報のほか、Fさんに物件を紹介した大家がどのような人物なのか、実際に会ったことはあるか、なども確認されたという。
「詐欺案件じゃないか、本当に問題がないか、という点はかなり慎重に判断しているようでした。また、その場で収支も細かく計算されて、手残りがどの程度あるか確認していろいろとメモしていたのが印象的でした」
結果、物件価格と同じ約400万円、金利2%、期間10年の条件で融資承認が下りた。この結果に、Fさんは満足しているそうだ。
ただ、もともとは創業融資として申し込み、少しでも借り入れをしたいとの思いを持っていたというFさん。車両代や事務所代、運転資金なども見込んで物件価格より200万円ほど高い金額を希望していたが、「1戸目を買う規模ではいらないでしょう」と全て却下されたと話す。
「不動産賃貸業に詳しくないのかな、と思っていたのですが、担当者はすごく手慣れた方という感じで…。融資に前向きではありつつ、そこはシビアでしたね」
このほか、「希望額より大幅に減額された」と話す投資家もいるものの、全体を見ると「消極姿勢だった」との声はそこまで目立たない。投資家たちの意見を見る限り、現時点では明確な方針転換があったとはいえないかもしれない。
【りそな銀行:前回13件→5件】
都市銀行としては、比較的多くの投資家たちに活用されてきたりそな銀行。今回のアンケートでは、融資件数を半数以下に減らした。融資を受けた投資家らも、「以前よりかなり厳しい」「現金比率を上げないと融資が通らない」とコメントしている。
一方、最初は消極姿勢を見せられたものの、最終的に融資を獲得できたと話す投資家もいた。
■事例7:「不動産にはそこまで出していない」と伝えられ
【融資情報】
金融機関名:りそな銀行
物件種別:木造一棟アパート
物件価格:約1億円
融資条件:金利1%未満、返済期間20年以上、自己資金割合多め
【投資家の属性情報】
年収(家賃年収を除く):800万~1000万円
金融資産:5000万~1億円未満
不動産投資歴:35年
年間家賃収入:3000万~5000万円未満
昨年秋、木造アパートを新築する際に、Gさんはりそな銀行を利用。自己資金は入れつつも、金利1%未満、木造の耐用年数を超えた返済期間という条件で融資を引くことができた。
ただ、りそな銀行は現在、あまり不動産融資に積極的ではない印象が強いそうだ。案件を持ち込んだ当初、Gさんも担当者から「不動産にはそこまで融資を出していない」とも言われたと話す。
それでも、現在60代で、不動産投資歴も30年以上であり、土地からの新築案件を複数手掛けてきたGさん自身の実績や法人の経営状況、今回の物件の土地の評価を総合的に判断して、「融資承認が下りたのでは」と推測している。
今回の案件で融資を獲得するにあたり、これまで取引経験のある金融機関を含む複数行に相談していたGさん。中には「積算が出ない」と判断され、融資が下りなかったケースもあったという。
りそな銀行では、現地を訪れて問題ない旨を確認してくれたといい、「実際に見に行って確認するんだ、という点は驚きでしたね」と振り返る。
Gさんは、これまで楽待新聞で公開されてきた融資実績の情報を集めて、自身でリストを作成しているそうだ。
「そのリストをもとに、金融機関開拓をしているんですよ。実績が多い金融機関に上から問い合わせて、感触が良さそうなら持ち込んで交渉してみる。りそなもリスト上にあったので連絡し、『御行が融資を出しているという情報を見たんです』と交渉した結果、今回初めて取引することができました」
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(楽待新聞編集部)
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