
オープンハウス本社が入るJPタワー(PHOTO:ジャバ / PIXTA)
企業の決算から、不動産業界の現状について考える本連載。今回取り上げるのは「オープンハウス」です。低価格の戸建て住宅に強みを持った企業です。
都市部での「ドミナント戦略」(特定の地域に集中して事業を展開することで競争力を高める戦略)を取っており、都市部に強みを持っています。
また積極的な営業手法でも知られており、その営業力もあってシェアの拡大が続いています。
2013年9月期の上場から11期連続の増収増益で、売上の年間平均成長率は28.0%、営業利益の年間平均成長率は30.3%と急拡大を見せていました。
しかし直近の2024年9月期の2Qまでの業績を見ると、営業利益が前年同期比で2割減少しています。いったい何が起きているのでしょうか。
今回はオープンハウスの決算から、首都圏の戸建て住宅の状況を見ていきましょう。
積極的な企業買収で規模を拡大
それではまず、オープンハウスの事業内容を見ていきます。オープンハウスの事業セグメントは以下の通りです。
・戸建関連事業
・マンション事業
・収益不動産事業
・その他(アメリカ不動産等)
・プレサンスコーポレーション(マンション分譲を主力として関西圏を中心に事業を展開している子会社。特にワンルームマンションに強み)
・メルディア(旧三栄建築設計。住宅の建設販売を中心に事業を行っている子会社)
上記の通り、戸建ての分譲だけでなく、不動産関連のさまざまな事業を展開しています。
さらに2021年に買収した「プレサンスコーポレーション」や、2023年に買収した「メルディア(旧三栄建築設計)」も抱えていることから、企業買収にも積極的な姿勢がわかります。
ちなみに「戸建関連事業」でも、2015年に「アサカワホーム」、2018年に「ホーク・ワン」を買収した実績があります。上場から続いてきた大きな成長には、積極的な企業買収も関連しているということです。
続いて、2023年9月期のセグメント別の売上と利益の構成は以下の通りです。

利益で見た場合、戸建関連事業が44%、マンション事業が11%、収益不動産事業が14%、その他(アメリカ不動産等)が6%、プレサンスコーポレーションが18%。メルディアは2024年9月期から子会社となったためゼロとなっている(「2023年9月期 決算説明資料」より)
売上・利益ともに戸建関連事業が中心ですが、それ以外の事業も比較的大きな規模を持っていることがわかります。積極的にM&Aを行っていることも影響し、戸建だけではない多様な収益源を持った企業です。
とはいえ、都市部を中心に不動産事業を展開しているという点は変わりません。都市部の不動産市場に業績が左右されやすいと言えます。
11年連続の増収増益に転換点
ざっくりとですが事業内容が分かったところで、さっそく直近の業績を見ていきましょう。今回見ていくのは、2024年9月期の2Qまでの業績です。
売上高:6028億円(+11.3%)
営業利益:557億円(▲20.0%)
経常利益:583億円(▲13.6%)
純利益:519億円(+16.8%)
これまでは増収増益が続いてきたオープンハウスですが、直近では営業利益や経常利益は減益と、利益面が苦戦しています。
ちなみに純利益は増加していましたが、それには「負ののれん発生益」が127億円あった事が影響しています。
「負ののれん発生益」というのは、企業買収によって出てくる利益です。会計的な知識が必要な部分なので詳しくは説明しませんが、語弊を恐れずめちゃくちゃ単純に説明すると、「企業をそれだけ安く買えたよ」という利益です。
例えば100億円の現金だけを持っていて、他に負債も何も無い企業があるとしましょう(そんな企業はあり得ませんが)。それを80億円で買えたら20億円ほど得していますよね。
ごくごく単純化して説明すると、この20億円が「負ののれん発生益」です。
オープンハウスでこの「負ののれん発生益」があったのは今期から連結子会社となった「メルディア(旧三栄建築設計)」によるものです。
オープンハウス買収前の三栄建築設計は、創業者が暴力団員に金銭を供与したことで暴力団排除条例に基づく勧告を受けるなど、問題を抱えていたこともあり、株価が割安となっていました。

PHOTO: freeangle /PIXTA
株式の6割以上を保有していた創業者も、会社の資本関係見直しの必要性を迫られる中で、オープンハウスのTOBを受け入れています。
そういった状況でしたから、創業者からの株式の買い取りも含め安く買収することができました。その結果「負ののれん発生益」が計上されたのです。
つまり直近のオープンハウスでは、買収に伴う一時要因で利益は増えていたけれど、事業自体の収益性は悪化していたということですね。
さらに通期予想も、この負ののれん発生益で純利益は若干の増益を見込みますが、営業利益や経常利益では減益を見込んでいます。
これまでは上場来11年連続で増収増益でしたが、今期は転換点を迎えていることが分かります。
国内不動産関連事業の減益で苦戦
では、どうして利益面が苦戦していたのでしょうか。セグメント別の利益額と(前期比)は以下の通りです。
・戸建関連事業:314億円(▲37億円)
・マンション事業:▲19億円(▲60億円)
・収益不動産事業:46億円(▲62億円)
・その他(アメリカ不動産等):49億円(+4億円)
・プレサンスコーポレーション:157億円(+3億円)
・メルディア:24億円(+24億円)
メルディアの業績が加わったことによるプラスの影響や、堅調なプレサンスコーポレーションの好影響などはありました。
プレサンスコーポレーションは、関西圏でワンルームマンションを中心にマンション事業を行っています。
ワンルームマンションは投資用がメインですが、ワンルームマンション投資に関しては仕組み自体が失敗しやすいものとなっていますし、業界の体質としても問題は大きいです。
個人的には投資対象となる案件はあまりないように感じますが、社会全体で投資への機運は高まっています。そういった中である程度堅調に推移していると考えられ、今後も業績自体は堅調なものが予想されます。
一方で、戸建て、マンション、収益不動産と、国内の不動産関連事業の多くが減益となったことで利益面が苦戦しています。
戸建関連事業の利益面が苦戦した要因は在庫調整にあります。売上は増加した一方で、在庫調整による値下げ販売によって売上総利益率が低下し、減益に繋がりました。
市中在庫の状況を見ていくと、2020~2021年あたりは巣ごもり需要もあり住環境への見直しが進んだ一方で、コロナ禍で建設が思うように進まなかったこともあり、市中在庫は大きく減少していました。

株式会社オープンハウスグループ「2024年9月期第2四半期 決算説明資料」より
ですが、需給ひっ迫、建築コストの上昇、インフレも進む中で販売価格は急騰し、それ以降は販売が伸び悩み市中在庫は大きく増加しています。
そういった市場環境の中、オープンハウスでも在庫が増加しており、過剰在庫気味になっていました。
その対応を進めたことで、収益性が悪化していたということです。
ただ、同業他社に先んじて在庫調整に取り組んだとしているオープンハウスの在庫は、2023年9月期の3Q(2023年4~6月)をピークに減少傾向となり、直近では適正水準に改善したとしています。
他の多くの企業が今も在庫調整を続けていることを見れば、オープンハウスは在庫適正化の取り組みで収益性は悪化していたものの、企業の意思決定としては素早い対応で成果を見せていたことが分かります。
また、直近では首都圏の新築需要は堅調だとしており、成約件数は回復傾向にあるようです。
実際に2Q単体では、新しく子会社となったメルディアの影響を除いても販売数は+4.2%となっています。
やはり都市部では、転入超過が続いているため堅調な実需があります。
マンションは投資用としても人気の高まる中で高値圏にありますから、都市部の低価格帯の新築戸建には底堅い需要があります。

PHOTO: pixelcat /PIXTA
市場全体としても在庫調整による販売価格の下落はみられますが、資材価格の高止まりや人件費の増加も続く中、販売価格を下げるのは限度があります。
地方部、都市部ともに、以前と比べて販売価格を高く設定する必要があるということです。実需の増加が期待しにくい地方部は苦戦が続く可能性がありますが、都市部では底堅い需要が期待できそうです。
まとめると、オープンハウスの戸建て事業では、在庫調整の中で収益性が悪化しており、今後は他社も在庫調整に動く中で一定の収益性の悪化傾向が続く可能性があります。
ですが、他社に先んじて在庫適正化を進めた状況と都市部の市況の底堅さを考えると、大きな業績の悪化は考えにくく、今後はある程度堅調な業績が期待できそうです。
マンション事業の赤字は引き渡し時期が影響
続いて、赤字となっていたマンション事業も見ていきましょう。
業績悪化となったのは、今期は引き渡しが4Qに集中する影響が大きかったためで、販売契約は順調だとしています。
マンション事業は大型案件の引き渡し時期に業績が左右されます。業績は悪化しているものの、事業の進捗としては予定通り進んでいるということが分かります。
4Qで600億円超の引き渡しを予定しているようですから、通期では一定の業績の改善が期待されます。
とはいえ、前期の大型案件の影響もあり、通期でも大幅減収を見込んではいます。

株式会社オープンハウスグループ「2024年9月期第2四半期 決算説明資料」より
また、苦戦していた収益不動産では大型案件に対する保守的な評価損の影響があり、その影響を除くと前期並みの水準だとしています。
さらに円安の影響で海外投資家の投資意欲は旺盛だとしていますので、この事業でも一定の悪化は見られるものの、事業自体はそこまで大きく苦戦した状況ではないと考えられます。
◇
ということで、マンション事業では通期でも減収を予想していますし、収益不動産事業も評価損の影響で減益が見込まれます。
ですが事業自体はそこまで悪い状況ではないと考えられ、戸建関連事業でも在庫の適正化が進んでおり、都市部では底堅い需要があります。
苦戦が見込まれる事業は多いですが、事業の内容としては改善の余地が見えています。今後は一定の業績改善が期待できると考えられます。
(妄想する決算)
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