取引事例分析6(減額率)

ここでいう減額率とは「当初の販売価格からどのくらいの差し値(値引)ができたか」を示した数値です。

今回の取引事例の平均値を見ると、22.83%(12.67%~28.17%)となっています。言い換えれば、当初の販売価格の約8割(77.17%)で実際の取引が行われたことになります。

売主により、販売価格と仕切り価格(売主が想定している最低売却可能価格)に差はありますが、不動産市況が良い時期ではここまでの価格交渉は考えにくく、そもそも最初から受け付けませんでした。しかし現在では、買主にも「この不況だからこそ、大きな指値ができるのでは?」という期待が大きく、売主にとっては非常に厳しい価格交渉が行われています。

しかしここ最近、売主が資金繰りに困っている等、余程の事情が無い限りは、「簿価」を割った価格や残債務を下回る価格、つまり損失を覚悟した価格での売却は少なくなっています。それは、金融機関の融資姿勢が、売主へのリファイナンス(借換え)を容認するようになってきたためです。

なお、参考のために、今回の取引事例での売主の事情と成約経緯について記載いたします。

【表2】取引事例別売主事情と成約経緯

項目 売主事情 成約経緯



1 SPC会社保有物件の
最後の1物件
当時2億円は下らないと言われていたが、1.9億円で2008年7月に成約
2 2008年8月迄の
売却意向
当初、表面利回り10%程度(1.7億円)で買付が行われていたが、人気地区と駅近といった理由から500万円単位の買付上乗せ合戦の末、2.05億円で2008年8月に成約
3 2008年10月に
SPC会社清算
仕切価格3.5億円の情報を得てその金額にて2008年9月に成約
4 SPC会社保有物件の
最後の1物件
当時5億円は下らないと言われていたが、4.2億円で2008年10月に成約
5 2008年内引渡条件 売却約50物件の内、融資が一番先についた買主に売却という情報から、買主と金融機関と連携し、交渉の末簿価の2.62億円で2008年11月に成約
6 2009年3月に
SPC会社清算
プロの不動産投資家の動向を鑑み、少し高めの買付金額を提示
交渉の末、残債務を下回る2.55億円で2008年12月に成約
7 2009年3月に
SPC会社清算
プロの不動産投資家の動向を鑑み、少し高めの買付金額を提示
交渉の末、残債務を下回る2.18億円で2008年12月に成約

<ワンポイントアドバイス>
高利回りの物件を購入するには、必ず売主の事情があります。
ここ最近では、買付額が低い場合、当初から受け付けない売主と、とりあえず買付け額を提示させ、社内稟議をかける売主に分かれます。後者の場合は、積極的に買付を入れていくべきで、「希望売却時期」、「残債務」、「簿価」等を含めた売主の詳細な現況を得るためにも、日頃から不動産業者と充分なコミュニケーションをとるようと良いでしょう。

取引事例分析7(購入名義)

投資目的で購入する方の多くが「不動産管理法人」名義で購入しています。

個人名義で取得した場合、所有者個人に収入が集中し、結果的に所得税の負担が重くなることがあります。
そこで「不動産管理法人」を設立し、配偶者や子供を役員とし、役員報酬を支払う名目で所得を分散します。
これは、累進課税方式の所得税(個人最大50%・法人最大約41%※3)対策になりますし、また相続税対策としても効果的です。

さらに生命保険に加入し、保険料を経費として処理することで一層の節税が図れる、事業損失を長期(7年間)に渡って繰越することができる等、個人名義での購入より税制上のメリットを享受することができます。

※3 法人の最大実効税率は40.87%です。
平成21年度税制改正により、中小法人等の平成21年4月1日から平成23年3月31日までの間に終了する各事業年度の所得の金額のうち、年800万円以下の金額に対する法人税率は、22%から18%に軽減されます。(軽減時の実効税率は低くなります。)

但し、法人設立のデメリットもあります。以下に一例をあげます。

・設立費用(登記手数料、印紙等30万円程度)
・税理士費用等の維持費の発生
・利益がなくとも法人住民税7万円がかかる

(以下は個人事業と比較した場合)
・借入金利が高い
・税務調査が3~5年に1回(頻度が多い)
・社会保険加入義務が発生する

なお、簡単には会社を締められませんので、不動産管理法人を設立する場合には、税理士等の専門家にご相談して下さい。

<ワンポイントアドバイス>
新規不動産管理法人を設立して購入するメリットのひとつとして、消費税の還付を受けられる可能性があることです。 実際、今回の私の取引事例でも、税理士と連携し、法人設立日、売買の決済日、賃料清算日、売買契約書の内容等を調整し、還付を受けたケースがあります。不動産取引に伴う消費税額は非常に高額なため、還付を考えられている方は、特に消費税や不動産取引に強い税理士に相談してください。