みなさんこんにちは。MOLTAこと盛太志(もるた・しるす)です。この連載は、初心者の方のための不動産実践講座です。

前回の記事では、「ランニングコスト」をどう考えるべきか? というテーマでお話いたしました。今回は「物件資料の読み解き方」編の最後として、「修繕履歴」「登記簿謄本」などの書類の見方についてまとめて取り上げたいと思います。

ここまでの連載内容

【はじめての不動産投資】
第1回:まずは自己紹介 ~不動産って素晴らしい~!
第2回:自分に合った「ビジョン」の確立と、その実現計画の策定~MOLTA流不動産5W1H~

【金融機関について知ろう】
第3回:「金融機関」へのアプローチ法(前編) ~3ステップで分かる! 絶対に知っておくべき金融期間の基礎知識~
第4回:「金融機関」へのアプローチ法(後編) 紹介と飛び込みはどちらが有利? 訪問NGのタイミングは? 金融機関攻略のキホン

第5回:目利き力を養え!物件情報の収集と選定メソッド  金融機関への持ち込み物件はこうやって探す

【物件資料の読み解き方】
第6回:1枚でここまで分かる!「物件概要書」の見方を極めよう
第7回:数字を鵜呑みにしてはダメ!? 「レントロール」はここを見る!

第8回:不動産投資で「出て行くお金」はこれだ、ランニングコストを把握する

「修繕履歴」~あればベストだが、なくても気にしない~

1.修繕履歴の構成

修繕履歴はその名の通り、その物件で過去にどのような修繕が、どのぐらいの費用をかけて行われたかの履歴です。

なお修繕費は、主に専有部と共用部に分けられます。


専有部
エアコン、ガスコンロ(IHヒーター)、ガス給湯器、電気温水器(オール電化の場合)、ドアホンなどの機器や、クロス、床材など

共用部
屋上防水、外壁再塗装、オートロック、エレベーター、貯水槽、給水ポンプ、消防設備、ポスト、ゴミステーション、駐車場(ライン引き直し、再舗装)、駐輪場、外構、フェンス、門扉など


これら物件の修繕履歴を現在のオーナー(売主)に求めた際、それがすぐに出てくるのか、またその記載がしっかりされているかといった点から、売主さんがどこまできちんとこの物件に手をかけてきたかが類推できます。まめなオーナーであれば、きちんと記録を付けているはずです。 

PHOTO:ABC/PIXTA

また修繕履歴があれば、今後この物件にいつ、どれくらいの修繕費用がかかってくるか? について類推することができます。

ちなみに、修繕履歴がない、もらえない場合もあります。その場合は、一切修繕が行われていない、という前提で考えることになります。

とはいえ、「修繕履歴がない物件はダメ!」と決めつける必要はありません。そもそもすべての資料がキチンと揃っている売り物件なんて、そう多くはありません。ないのであれば、どれくらいの費用がかかりそうか? を判断して目利きしていくことも大切です。

2.サイクルから見た修繕費の違い

修繕費が発生するタイミングは、(1)不定期に発生、(2)計画的に発生の、2つのパターンに分けられます。以下、順番に見ていきます。

(1)不定期に発生するもの
例えば共用部照明の玉切れ交換(LEDの普及でだいぶと減りましたが)や、退去に伴う原状回復費用、台風などの被害を受けた修繕が該当します。こちらの記録まで提示していただける売主であれば、相当にしっかりとした管理をされている、と安心感を持つことができます。

また、浄化槽のブロアーや、貯水槽の給水ポンプ、オートロック、太陽光発電設備のパワコンといった電気設備が故障することもあります。

こちらは費用感が分かれば、どういったトラブルが起き、どんな修繕を行ったのかについても検討を付けることができます。もちろん、きちんとした修繕の見積や報告書をいただければ、それに越したことはありません。

(2)計画的に発生するもの
外壁の再塗装や屋上防水、エレベーターの更改といった、いわゆる「大規模修繕工事」が該当します。

こちらが実施済の場合にも、その修繕の見積や報告書、保証書(修繕対象と内容によっては、実施した業者さんによる保証期間が付保されます)なども提供していただければベストです。

ただ、これまで私が購入してきた物件においても、売主がそうした情報をきちんと保管されているケースは、決して多くはありません。あればベストですが、ないというだけで物件購入検討リストから外してしまうことも、早計といえます。

内容が分からない場合には金額や時期、そして現地で状態確認した情報をもとに、今後の修繕費用についても予測を立て、それが許容範囲であれば、購入を前向きに検討しても良いと思います。

「資料が100点満点に揃っている物件しか買わない」

こうしたポリシーも「アリ」だとは思いますが、当然、購入できる機会は極度に減少します。自分がどこまでリスクを見抜けるか? そこで見えてきたリスクを許容できるか? が、大きな判断ポイントとなります。

このあたり、まだ初心者の方には難しいと思います。ぜひ、まわりにいる先輩大家さんなどにも相談もしてみてください。

ただし、最後に決断するのは自分です。そこを違えると、「あの人が良いと言ったから購入したのに」といった他責思考に陥りがちです。

他責思考は、自身への反省が生じないために、成長にも繋がりません。収益不動産を購入し、オーナーになるということは、同時に経営者になるということです。経営者が、判断を常に周囲に頼るようでは、とても経営はおぼつきませんよね。そうした自覚をもって、判断するようにしてください。

「登記簿謄本」は物件の履歴書

土地や建物の物理的な現況や、権利関係を記録することを「登記」といい、その書類のことを「登記簿(謄本)」(登記事項証明書と呼びます。登記簿は不動産の売買を安全に行うためのものですので、誰でも見ることができるようになっています。

登記簿には不動産の所在地のほか、所有者がどのように移り変わったのか、この不動産を担保にお金を貸している金融機関などの情報が記録されています。

登記簿(履歴事項全部証明書)は土地と建物でそれぞれ作成されます。登記簿で確認すべきポイントは、「面積」「地目」「構造」「所有者」「借り入れ条件」です。以下、順番に見ていきましょう。

なお、土地建物それぞれの登記簿のサンプルPDFが法務省のサイトで閲覧できます。以降でも、そのサンプルを参照しながら各項目について見ていきます。

・「面積」~概要書と合っているか?~
面積については、第6回の記事のマイソクのところでも触れました。特に土地は、1つの建物の謄本に対して、複数の土地謄本(これを「分筆されている」と言います)に分かれていることもあります。これらを合算することで、どこまでが今回の取引の対象かをきちんと把握しておく必要があります。

登記簿謄本(土地)の表題部

これらは宅建業者である売買仲介会社さんが行ってくれる作業ですが、人任せにせず自分でも確認することで、不動産に対する理解度が高まることになります。

なお面積については、建物も同様です。こちらは、各階毎の面積が謄本に記載されているので、これらを合算した結果がちゃんと概要書の延べ面積と合致しているかを確認します。

登記簿謄本(建物)の表題部

なお、もし未登記の土地や建物があった場合には、売主側で登記を行ってもらってから購入することになります。

ただし未登記というルールを逸脱した状況にある物件については、通常は金融機関からも融資をしてもらえません。自己資金で購入後、自分で登記する手もありますが、初心者のうちはこうした物件には手を出されない方が良いと思います。

・「地目」~元々、どんな土地だったのか?~
元々「田」(田んぼ)だった土地を、地目変更して「宅地」としているようなケースもあります。その場合、地盤が柔らかく液状化などが起こりやすい土地である可能性もあります。地目が変更されていないか、登記簿の履歴を見ておきましょう。

・「構造」~概要書と合致しているか?~
建物の謄本には、建物の構造が記されています。ただ、これが必ずしも正しいとは限らないということは、以前の記事でもお伝えしました。

登記簿謄本(建物)の表題部

この真偽を確認するには、建築設計図面や、検査済証などを紐解く必要があります。

こうした書類は売主が紛失している場合もありますが、例えば設計図面を見れば設計会社や建築会社が分かり、その会社がまだ残っている場合には、そちらから入手できる可能性もあります。

・「所有者」 ~短期転売か?相続案件か?~
謄本には、歴代の所有者が記載されています。これを見れば、どういった経緯で土地や建物が売買されてきたのか?が、一目瞭然です。まさに、物件の履歴書と言ってもいいでしょう。

登記簿謄本(土地)の権利部甲区。所有者がどのように、どのような理由で移り変わっているのかが分かる

所有者については、法人か個人か、また個人の場合は単独か複数か、といった点について確認します。 

法人の場合、その法人名で検索すればどのような法人なのかが見えてくることもあります。法人と物件の所在地の関係や、本業の盛業具合などを見れば、なぜ今回売却しようとしているのか? について、ある程度推測もできてきます。また、検索することで簡易的な反社チェックにもなります。

個人の場合も同様です。ただし、所有者が複数となっている場合には注意が必要です。一般的には親が建てた物件を兄弟姉妹で相続したようなケースとなりますが、複数の所有者がいると、売却の際にうまく意思統一がされておらずトラブルとなることもあるため注意が必要です。

PHOTO:haku/PIXTA

なお、所有者が点々と変わっている場合や、直近の所有者が購入後間もない場合は、なぜ短期間で売却するのか? を推測していくことになります。物件になにかしら問題があって手離そうとしている場合もあります。ただし、そうした原因の究明は難しいでしょう。

先輩大家さんに相談したり、実際に現地に足を運んだりして、真相に近づくようにしてください(現地調査のポイントは、次回以降の章にてお伝えします)。 

・「融資条件」~指値の落としどころを知る貴重な情報!~
現在のオーナー(売主)が、どの銀行から、いつ、どういった融資条件で、いくらの融資を引いてこの物件を買ったのか?

これについても、謄本である程度確認できることがあります。これが分かれば、いま売主にはどれくらい残債があるかが類推でき、指値の見当をつけることも可能になります。また融資金額から、金融機関がこの物件をどのように評価しているのかという目線も判断できます。

登記簿謄本(建物)の権利部乙区。「権利者その他の事項」の欄を見ると、どの金融機関がどのぐらいの金額の融資を出したのかが分かることがある

もちろん、融資が実行された時期やその時の物件の築年数によって評価の目線は変わってきますし、抵当権か根抵当かによっても評価額は変わります。あくまで参考ということにはなりますが、これらはしっかりとチェックするようにしてください。 

なお、抵当権ではなく根抵当権だった場合、金融機関の物件評価金額は、融資金額を1.2で割り戻したラインと見てください。融資実行された金額よりも低い金額となりますので、さらに注意が必要となります(根抵当権そのものの説明については、長くなりますのでここでは割愛します)。

「固都税明細」、地方一棟RCは思ったより高額!

最後に、固定資産税・都市計画税(固都税)の明細です。こちらはシンプルです。直近の固定資産税・都市計画税(固都税)の支払い明細を、仲介会社さんを通じて入手し、自分がオーナーとなった後にどのぐらいの支払いが発生するのかを確認します。

固都税明細のサンプル(東京都の例

固都税は、運営費の中でも大きなインパクトを占めるものです。その数字を正確に把握することで、キャッシュフローシミュレーションの精度を高めることができます。

地方一棟RC物件の場合には、土地の価格が低いケースが多いこともあってか、広大な敷地に、これまた広大な建物が建っているケースもよくあります。

こうした地方物件の場合、土地の評価額は低いことも多いですが、建物の評価額は、地方でも都心でも変わりません。

固都税は、どういった構造の建物が、築何年経過しているのか? という観点から計算されます。そのため、建物に関する固都税が思いのほか高くなることもよくあります。

「いやいや。建物が広大なんだったら、家賃収入もたくさん戴けるんだから、バランス取れているよね?」

こう思われるかもしれません。しかしそこには、大きなトラップが2つあります。

それは、都会に比べて地方の家賃単価が低いということと、そしてその割に、お部屋のリフォームや、建物の維持管理に係る費用単価は変わらないというものです。

むしろ地方の方が、そうしたコストは都会よりも高くつくこともあり得ます。その結果、地方の大きなRC物件を買ったものの、経費率の高さから思ったほどのキャッシュフローが得られずに愕然とする大家さんも多いのです。

もちろんこれは、購入前にしっかりと精査し、経費率が許容範囲であることを確認してから購入することで回避することができます。

ただ、見かけの売上と利益は必ずしも相関しない、ということは覚えておいてください。そのギャップを生み出す1つの要因として、固都税もあるということです。

以上で、物件資料の読み方編は終わりです。

ここまで主要な資料の読み解き方を見てきましたが、物件に関する事件や事故など、何らかの告知事項があった場合には、それらも「特記」として伝えられます。

そうしたネガティブな話だけでなく、例えば管理会社やプロパンガス業者の承継義務などが売主から課せられている場合も、特記事項となり、最終的には売買契約時に特約事項として申し伝えられることになります。後から思わぬトラブルとならないように、こうした事項の有無は、売買仲介会社さんにしっかりと確認するようにしてください。

さあ、長らくお待たせしました。

次回は、いよいよ現地調査…と行きたいところですが、あとひと踏ん張り。机上調査をおこなっていただきます。それは、インターネットを活用した情報収集です。現地調査に赴く前に、事前にネットで情報を収集しておくことで、より効率的な調査が行えるようになります。

今は、ネットで本当に多くの情報を得られる時代です。ただ、多すぎて、どこをどう見ればいいのか? と迷われることもあると思います。そうしたポイントについて、解説していきますね。それではまた次回、お会いしましょう!

(盛太志=もるた(MOLTA)・しるす)