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鉄道の建設、廃止は国の許可が必要だ。ただし、東京圏の鉄道はその前にもうひとつ手順が必要となる。

それが国土交通大臣の諮問機関「交通政策審議会」の下にある「東京圏における今後の都市鉄道のあり方に関する小委員会」での議論だ。

東京圏の鉄道建設は土地収用や大深度地下トンネルなどでコストがかかり、東京都や国の補助金無しでは作れない。

「東京圏における今後の都市鉄道のあり方に関する小委員会」は鉄道計画の目標年度を定め、国土交通大臣に答申する。自治体や鉄道会社が新路線を建設するときは、まずここにリストアップされることを目指す。

最新の答申は2016年4月28日に提出された「第198号答申」だ。ここにリストアップされた路線について、現状も含め、改めて俯瞰してみよう。

答申に記載された路線一覧(著者作成)

都心直結線の新設(押上~新東京~泉岳寺)

京急電鉄と京成電鉄は都営地下鉄浅草線を介して相互直通運転を実施している。京急側は羽田空港、京成側は成田空港に乗り入れているため、羽田空港と成田空港を結ぶ列車を運行できる。

しかし都営浅草線内に列車の追い越し設備が無いため所要時間が長い。そこで東京駅を経由する急行線を作る計画だ。

当初は国内線空港と国際線空港を連絡する目的があったけれども、その後、羽田空港は国際化し、成田空港もLCC(格安航空会社)の国内線が就航したため、両空港を直接結ぶ意義が薄れた。現在は開業に向けた動きがない。

羽田空港アクセス線の新設

東海道線の田町付近から分岐し、旧貨物線を再利用して羽田空港に至る路線。

すでにJR東日本が建設に着手しており、2031年度開業予定だ。りんかい線を経由して新宿方面、新木場方面に直通する計画もある。

新空港線の新設(矢口渡~蒲田~京急蒲田~大鳥居)

JRと東急の蒲田駅と京急蒲田駅を結ぶ「蒲蒲線」構想から始まり、現在は東急多摩川線、東横線と京急空港線を直通する構想に進展。第1段階として、東急多摩川線矢口渡駅から蒲田駅(地下)を経由して京急蒲田駅を結ぶ。

現在は、整備会社の第三セクター「羽田エアポートライン」が設立され、着工に向けて関係機関と調整中。着工から開業までは10年程度を見込む。

(出典:大田区

常磐新線の延伸(秋葉原~東京(新東京))

常磐新線は「つくばエクスプレス」を指す。

もともと東京起点として構想された路線だが、建設費圧縮のため秋葉原起点で開業した。

東京延伸に向けた動きはない。

都心部・臨海地域地下鉄構想の新設及び同構想と常磐新線延伸の一体整備(臨海部~銀座~東京)

中央区が構想した銀座~晴海埠頭の地下鉄計画を東京都が格上げし、東京~東京ビッグサイトの地下鉄路線となった。

営業主体は東京臨海高速鉄道に決まり、2040年開業を目指す。

将来は前出のつくばエクスプレスとの直通も構想するけれど、ひとまず東京駅から東京ビッグサイトまでを着手する。

東京8号線(有楽町線)の延伸(豊洲~住吉)

東京メトロ有楽町線の豊洲駅から分岐し、東京メトロ半蔵門線の住吉駅と接続する。

江東区が切望していた路線で、環境影響評価手続きが終わり、2024年5月に都市計画も決定した。

1年以内に着工され、2030年代半ばの開業を目指している。

都心部・品川地下鉄構想の新設(白金高輪~品川)

東京メトロ南北線を白金高輪~高輪から分岐し、品川駅地下に至る。

リニア中央新幹線が本格的に起動し、JR東日本が高輪ゲートウェイ駅接地を発表したほぼ同時期に、東京都の「品川駅・田町駅周辺まちづくりガイドライン2014」で示された。構想発表から異例の早さで第198号答申に盛り込まれた。

上記の有楽町線と同時に2024年5月に都市計画も決定した。こちらも1年以内に着工され、2030年代半ばの開業を目指している。

東西交通大宮ルートの新設(大宮~さいたま新都心~浦和美園(中量軌道システム))

東京志向になりがちな埼玉高速鉄道沿線と県都大宮を結ぶ。

LRT導入を目指して2019年度より「さいたま市地域公共交通協議会 東西交通専門部会」で年に2度の検討会が開催されている。

現状では大宮~浦和美園間の需要が小さいため実現は未定。

埼玉高速鉄道線の延伸(浦和美園~岩槻~蓮田)

JR東北本線と東武伊勢崎線に挟まれた鉄道空白地帯を解消し、埼玉スタジアム2002の交通アクセス改善に期待されている。

事業主体は埼玉高速鉄道で、さいたま市も出資する第三セクター会社だ。

さいたま市は埼玉高速鉄道に事業化を要請する意向だった。しかし、建設費高騰などの理由で2024年度中の事業化要請を見送った。進展は未定。

東京12号線(大江戸線)の延伸(光が丘~大泉学園町~東所沢)

(出典:練馬区

大泉学園町までは練馬区の鉄道空白地帯を解消するため東京都が推進し、2023年度に東京都副知事をトップとする「大江戸線延伸にかかる庁内検討プロジェクトチーム」が発足した。

すでに駅予定地の用地取得や、地下鉄と一体的に整備する道路建設も進んでいる。大江戸線延伸促進期成同盟は50億円の基金を積み立て、要望活動を実施している。

大泉学園町~武蔵野線東所沢は構想段階で進捗がない。

多摩都市モノレールの延伸(上北台~箱根ヶ崎、多摩センター~八王子、多摩センター~町田)

立川駅を南北に縦断するモノレール路線。多摩都市モノレールは東京都が約8割を出資する第三セクターだ。

上北台~箱根ヶ崎間は東京都が事業化を決定し都市計画を準備中。2032年頃の開業を目指している。

八王子、多摩センターの延伸は導入空間となる道路の整備を進めている状況だ。

東京8号線の延伸(押上~四ツ木~野田市)、東京11号線の延伸(押上~四ツ木~松戸)

東京8号線(有楽町線)は、前出のように豊洲~住吉を延伸し東京メトロ半蔵門線に接続する。

したがって、実態としては東京メトロ半蔵門線を延伸するかたちで埼玉県東部を経由し千葉県野田市、松戸市に至る。

(出典:江東区

複数の自治体にまたがり、各自治体で要望活動が行われているけれども、進展はない。有楽町線の住吉延伸が開業した頃が建設検討本格化の契機になるだろう。

総武線・京葉線接続新線の新設(新木場~市川塩浜付近~津田沼)

京葉線の新木場~市川塩浜間に複線を追加し、さらに総武線津田沼へ延伸する計画だ。また、新木場側はりんかい線直通が期待されている。

1978年に鉄建公団(現・鉄道運輸機構)と千葉県が覚書を交わし、千葉県が用地を確保していたけれども、覚書は破棄され、用地は東京湾岸道路に転用されている。

その後千葉県とJR東日本が京葉線の強化を協議しているけれども、休眠した構想と言える。

京葉線の中央線方面延伸(東京~三鷹)

国鉄時代に構想された中央線の混雑解決策が残っている。

京葉線の東京駅は成田新幹線計画の跡地で、新宿延伸を見越して皇居を迂回する位置に作られた。

現在のところ進展はなく、JR東日本のグループ経営ビジョン「変革 2027」には記載されていない。

区部周辺部環状公共交通の新設(葛西臨海公園~赤羽~田園調布)

葛西臨海公園~赤羽は環状7号線地下、赤羽~田園調布は環状八号線地下を通る地下鉄路線だ。メトロセブン、エイトライナーとしても知られている。

需要はあるものの整備費用が巨大になると予想されるため具体化されていない。

メトロセブン、エイトライナーそれぞれに沿線の区が促進協議会を結成しているけれども、年に1度の要望活動と協議会総会を開催するに留まっている。

東海道貨物支線貨客併用化(品川・東京テレポート~浜川崎~桜木町)及び川崎アプローチ線の新設(浜川崎~川崎新町~川崎)

品川~桜木町間の東海道貨物線を旅客化する構想だ。川崎アプローチ線は浜川崎から分岐して川崎駅に至る。

1998年に「東海道貨物支線貨客併用化整備検討協議会」が設立され、神奈川県、東京都、横浜市、川崎市、大田区、品川区が参加している。

運行本数が少ない貨物線を活用する試みだが、モーダルシフトで貨物列車の需要が上向きであること、JR東日本が羽田アクセス線に着手するなどで実現性は低くなっている。

小田急多摩線の延伸(唐木田~相模原~上溝)

東京都町田市と神奈川県相模原市が要望している路線。鉄道空白地行きの解消を目的とする。

2008年に相模原駅北側の在日米軍相模総合補給廠の一部返還が決定したため、北口再開発と都心直結路線として期待されている。

2016年に小田急多摩線延伸に関する関係者会議」が発足し、実現に向けた検討が行われている。が、目立った動きはない。

横浜3号線の延伸(あざみ野~新百合ヶ丘)

横浜市営地下鉄ブルーラインの延伸計画。沿線にはマンモス団地など住宅開発が進んでいるけれども、東西方向の鉄道路線のみで路線住民の東京志向が強い。

横浜市としては市庁所在地の横浜へアクセス路線を作りたい。新百合ヶ丘は川崎市にある。横浜市と川崎市も建設に合意している。費用便益比も1.0を超えており経済波及効果は高い。

2019年に事業化を発表し、2020年にルート案も決定した。しかし建設費の高騰と市営交通の財政危機で足踏みしている。

(出典:横浜市交通局

横浜環状鉄道の新設(日吉~鶴見、中山~二俣川~東戸塚~上大岡~根岸~元町・中華街)

横浜市営地下鉄ブルーラインの延伸計画。完成すれば鶴見から元町・中華街までを結ぶ環状路線が完成し、横浜市内の鉄道路線のネットワークを形成する。

こちらは沿線に未開発地が多く、費用便益比も1.0を下回る。他社線との並行区間もあり、累積収支の黒字化も困難と考えられている。

実現にはもうひとつ材料が足りないという印象だ。

いずみ野線の延伸(湘南台~倉見)

相模鉄道のいずみ野線をJR相模線の倉見駅へ延伸する。途中で慶応大学藤沢キャンパスを経由する。

この構想はいずみ野線単体ではなく、東海道新幹線の倉見新駅の誘致とセットだ。

JR東海は「東海道新幹線の新駅設置は輸送力を落とすことに現状では難しい。しかしリニア中央新幹線の開業後、東海道新幹線のダイヤに余裕が出るなら検討したい」という見解を示しており、動き出すとすればリニア中央新幹線開業後だ。

「交通政策審議会」の答申にリストアップされた路線は、「東京圏に必要」というお墨付きを得たことになる。

このあと、財源の確保、都市計画決定、環境影響評価(環境アセスメント)、公聴会で利害関係者から意見を聴取するなどして事業許可、着工となる。

新路線計画を知りたい場合は、まずここにリストアップされた路線を確認し、関係自治体や鉄道事業者の公開情報で進捗を確認しよう。

第198号答申の目標年度は2030年となっている。つまり3年後にまた「東京圏における今後の都市鉄道のあり方に関する小委員会」が開催される。

上記路線のなかで、不要とされた路線が消えるかもしれないし、新たな路線が上がるかもしれない。

もし大きな動きがあったときは、あらためて詳しくご紹介させていただくつもりだ。

(杉山淳一)